この作品のレビュー
平均 3.2 (8件のレビュー)
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「犬と鴉」の感想。「非現実的なもの」が作中頻繁に登場します。これの目的の一つは、読者に「非現実的なもの」を現実的に解釈させて、読み手に「現実世界」を、違った視点、深い視点で観させるためだと思います。作…中に登場する「鯨のようなヘリコプター」、ヘリコプターから出てきた「黒い犬」、他人の会話を聴ける「水道管」などが、この作品の「非現実的なもの」です。他作品ではたとえば、カフカの『変身』が、上の手法で書かれた作品だと思います。この手法はSFで、何回も用いられています。
主人公は序盤、医者に頭部を診察されています。また、死んだ祖母と会話をしているので、主人公はおそらく、「脳の病気」だと思います。これを前提として、主人公は「悲しみ(=現実)」(解説を参照した)と向き合わず、「水道管」から聞こえる「他人の会話」を聴いているだけです(社会・世間とコミットしていない)。「鯨のようなヘリコプター」から出てきた「黒い犬」が、作中で重要な役割を果たします。黒い犬たちは、人びとを襲い、噛み殺しますが、主人公や彼と同じ病気の人は襲いません。
僕は、作者(ここでの「作者」は、田中慎弥さんだけを指してないです)は、黒い犬たちは、主人公や彼と同じ病気の人が善良だから襲わなかった、ようなことを表現したいのではないと思います。物語の最後、主人公も黒い犬たちに襲われます。重要なのは、なぜ主人公が黒い犬たちに襲われるようになったのか、ということだと思います。発端は、「水道管」から聞こえる「他人の会話」を聴いたり、死んだ祖母と会話をしていた主人公が、父とコミットするために、行動し始めたことです。
それまで、自分と「他者」との間にガラスのようなものを張っていた主人公が、「父」(ここでの「父」が何を指しているのか、まだよく分かっていません)とコミット(社会・世間とコミット?)します。作者の上手い表現は、主人公が「父」と図書館での「硝子越しの対面」をした時は、黒い犬に襲われず、心境の変化もありませんでした。けれどその後、「父」と図書館のなかで「生身の対面」をしたら、黒い犬が主人公に襲い掛かるようになります。それと同時に、死んだ祖母の「声」が聴こえなくなります。最後の「鴉」は、うまく解釈できませんでした。続きを読む投稿日:2019.02.19
空から落とされた無数の黒い犬が戦争を終わらせた。悲しみによって空腹を満たすため、私は図書館に籠る父親の元へ通い続ける。歪んだ家族の呪われた絆を描く力作(「犬と鴉」)。家業を継がず一冊の本に拘泥するのは…なぜか。父と息子が抱く譲れない思い(「血脈」)。定職を持たず母と二人で暮らす三十男、古びた聖書が無為な日々を狂わせる(「聖書の煙草」)。
犬は玉から犬に変わった時点でどれも成犬の大きさだった。
逞しく詰った胴から生えた脚は、
特別に長く伸びた毛の束がしなやかに動いているかのようだ。
尖った耳は黒い炎の先端だった。
P25より続きを読む投稿日:2018.02.14
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