つみびと
山田詠美(著)
/中公文庫
作品情報
灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子二人をマンションに置き去り
にしたのか。
追い詰められた母親、死に行く子供たち。
無力な受難者の心の内は、フィクションでしか描けない。
圧巻の筆致で、虐げられる者の心理に分け入り、痛ましいネグレクト事件の深層を探る。
本当に罪深いのは、誰――。迫真の長編小説。
〈巻末対談〉春日武彦・山田詠美「子どもたちを救う道はどこに」収録
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商品情報
- シリーズ
- つみびと
- 著者
- 山田詠美
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公文庫
- 書籍発売日
- 2021.09.25
- Reader Store発売日
- 2021.11.30
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 432ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (49件のレビュー)
-
【大阪2児餓死事件】(Wikipedia)
大阪2児餓死事件とは、2010年7月30日に発生した大阪府・大阪市西区のマンションで2児(3歳女児と1歳9カ月男児)が母親の育児放棄によって餓死した事件。
…
本作品は、この事件を基に描かれたフィクションである。
タイトルは『つみびと』
表紙に大きくそう書かれたひらがなの隣に、英語で『sinners』と並ぶ。
日本語のタイトルだけでは伝わりきれないものが、英語に含まれている。
そう、複数形になっているのだ。
2児のいる部屋に粘着テープを張り、夏の暑い中50日子どもを放置し、餓死させた母親は、懲役30年という有期刑の中で最長の刑に処された。これだけ見ると、つみびとは2児の母親なのかもしれない。
しかし、本当にそうだろうか。本当に、彼女だけが悪いのだろうか。
そう思いながら、必死に読む、読む、読む、読む。
胸の奥のほうで流れている血液が、切り裂けた表面からずっと、とろとろと、まるで止め方を知らないように流れ続けていくような、そんな読書の時間を過ごした。
つみびとは誰か。誰と誰なのか。誰と誰と誰が、彼女だけをつみびとに仕立てあげたのか。なぜ彼女以外は、つみびととして裁かれないのか。なぜ彼女だけが、ぜんぶの罪を被ることになったのか。
事件の全容はたぶん、『ルポ 虐待:大阪二児置き去り死事件(杉山春)』に描かれているのだろう。あくまでこの作品は、実際の事件を基にした、フィクションである。
読みながら時々分からなくなる。これは、2児の母親である蓮音の章なのか、蓮音の母・琴音の章なのか。
しかし、それは入念に仕込まれていた。
二人が育った環境は、あまりに酷似していたのだ。
「虐待の連鎖」という言葉は、好きじゃない。
だけど、蓮音も琴音も、父親からの暴力というものに、親和性があった。
重なり合っていた二人の物語が、ページを重ねていくにつれ、気付かされること。
それぞれの見ていた景色が、異なってくる。
琴音から見た夫(隆史)の描写に、暴力はそれほどないものの、蓮音から見た父(隆史)の描写には、暴力が溢れている。
いったい、つみびととは誰なのか。
家の中で暴力を振るい、権力を行使し、その家族が病んでいくことは、何らかの罪に問われないのだろうか。
何がその人を、暴力に搔き立てるのか。
巻末の、著者である山田詠美さんと精神科医で作家の春日武彦さんの対談によると、人間が不幸になる理由として、以下の二つがあげられるそうだ。
①大間違いな工夫(本質的な問題を見ないようにして、日常を過ごすために気持ちを工夫する)
②痛々しい見当違い(なんでも自分のせいだと思い込む)
蓮音だけではない。彼女が生まれ育った家族、母である琴音が育った家族、そこで日々隠されてきた罪が雪だるま式に膨らんでいった結果が、この事件だ。
P93「困っているのは父じゃない。私たちなんだ。そう訴えたいのだが言葉にならない」
P123「一度で良いから、こう慰められたかったよ。お前だけが悪いんじゃない、と」
P322「結局、普通ではない自分自身に我慢がならず、罰を与えようと行動に移してしまう」
P345「ただ、なりふりかまわず叫べばよかったではないか。助けて!と。でも出来なかった。だって、幼いころから助けを求めたことがないのだもの。彼女のその声は、いつも封じられてきた」
子どもたちは、いつだって助けを求めてる。
その声に、耳を傾けることができるか否かだ。
その人が、子どもの声に耳を傾けきれなかったら、その人は、別の人に助けを求めてほしい。
この「助けを求める」を、適切な助けをしてくれる人のところまで、運ばなくちゃいけない。
直接的な援助をできない大人にできることは、これだけだ。
この作品は、一人で懲役30年という処罰を一身で背負うことになった蓮音の、罰に至るまでの物語であり、蓮音をとりまく、彼女のSOSに手を差し伸べなかった大人の、大きな罪の物語である。
最後にもう一度問いたい。
つみびととは、いったい誰なのか。
そして、わたしのような児童福祉に関わる専門家は、どうしたらこのような事件を防げるのか。
対談P422「援助者としては『どうしようもないから見守っていた』、しかし傍から見れば、『放置していただけ』」
児童福祉問わず、対人援助をしていると誰もが経験する、こういった「どうしようもない」ケース。支援者は自身の何もできなさに落ち込み、自分を責め、心を病むことだってある。
これに対する春日武彦さんの言葉は、全対人援助業務をしている人の救いになるだろう。
今月の残りの有給休暇:あと8日続きを読む投稿日:2023.04.06
辛い時、周りを見渡せば助けてくれる人はたくさんいるのに、
当の本人はそれに気付かない。気付けない。
何とか自分の心を保とうと、妄想や逃避してしまう。
とても身に覚えのある状況で苦しくなった。
投稿日:2024.01.21
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