この作品のレビュー
平均 4.3 (14件のレビュー)
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「服従と不服従に論述の焦点を絞ることで、政治と関わることはまさに人生を生き抜くこと」を伝える若者向けの新書。
序盤は従順であること、服従することのメカニズムとそれがもたらす利益を説明すると同時に、抵…抗することの意義を唱える。第二章では儒教の「諫言」と『葉隠』の教えを対比することで同じ「忠誠心」でもその対象によって大きくあり方が変わることを指摘する。次に現代の「環境問題」「富裕層と貧困層の二極化」「自由の危機」といった社会問題を挙げたうえで、見て見ぬ振りをするという「消極的不正」が公共にとっていかに大きな害となりうるかを指摘する。後半は服従しない根拠(「良心」「共通善」)と抵抗するための術を示すとともに、「不服従の覚悟」が人としてのアイデンティティに繋がり、逆に「権威や多数派に従順であり服従することを貫」くことは"精神的奴隷状態"だと諭す。
全体に映画、文学、歴史的な哲学者や社会学者たちの言葉や心理学実験の例、そして歴史的な事件や現代の出来事などがふんだんに取り入れられており、理解への大きな手助けになる。個人的には『七人の侍』に登場する島田勘兵衛(志村喬)の「他人を守ってこそ、自分も守れる。己のことばかり考えるやつは、己をも滅ぼすやつだ」という言葉が、昨今の「自己責任」「自助」と効果的に対置されていて印象に残る。また、先述の儒教の教えと『葉隠』との重要な違いについても、主君との関係そのものを重視する日本人らしい思考の好例として興味深い。
本書が指摘する「不服従」の欠如は、主に現代の日本人に対して向けられていて「政治」に対して消極的な日本社会批判でもある。著者が「同調圧力」「空気」に囚われがだと日本人のありようを糾弾する姿勢は、『津波の霊たち』の著者である外国人記者が感じた従順な日本人への苛立ちと相通じる。また、村上春樹のエルサレム賞授賞式典スピーチ「卵と壁」にある「私は(壁=システムではなく)常に卵の側に立つ」という言葉も思い返される。ある批評家が「壁の側に立つなどと言う人間はいない」といった否定的な見解を述べていたが、例えば日本の現代のさまざまな事件についてネット上に溢れる意見を見る限りは、喜んで「壁=システム」の側に立つ人びとは後を絶たない。
"精神的奴隷状態"を拒んで「私自身」として生きる苦難を選べきだとする著者の言葉は一部の読み手には活力と誇りを与えるだろう。ただし、本書の5章で例示されるようにナチス・ドイツのような組織に対して抵抗を試みた人びとは、手段を選んでいても最終的には免職や場合によっては命を落とすなど、その多くは現実的に多大な不利益を被っている。著者がいう同調圧力の強い日本社会ならなおのこと、会社のような組織のなかで「不服従」を貫くことも様々な現実的な労苦を伴うことは想像に難くない。場合によっては組織に居づらくなったり、さらに最悪なケース(例えば公文書改ざん事件)も考えられる。それを措いても公共的な「共通善」のために必要な抵抗を行動に移す人びとが少しでも増えること以外、社会全体が変わることはありえないのだろう。若者向けの新書だが求めるところは重い。続きを読む投稿日:2021.09.19
「「みんな、そうしているよ」「ルールだから、しかたがない」「先生がいってるんだから」この発想がいかに危険なものなのか、政治、思想、歴史から解明します。
理不尽な出来事に見てみぬふりをしていませんか?誰…かのいうことに従っていても、世の中は解決しない問題だらけ。打開するには自分で声をあげるしかありません。そうしたあなたに勇気と思考を与えます。」
目次
第1章 人はなぜ服従しがちなのか
第2章 忠誠心は美徳か
第3章 本当に「しかたがない」のか
第4章 私たちは何に従うべきか
第5章 どうすれば服従しないでいられるか
第6章 不服従の覚悟とは何か
著者等紹介
将基面貴巳[ショウギメンタカシ]
1967年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。英国シェフィールド大学大学院歴史学博士課程修了(PhD)。ケンブリッジ大学クレア・ホールのリサーチフェロー、ブリティッシュ・アカデミー中世テキスト編集委員会研究員、ヘルシンキ大学歴史学部訪問教授などを経て、ニュージーランド・オタゴ大学教授。研究領域は政治思想史。英国王立歴史学会フェロー、欧州アカデミー(Academia Europaea)外国会員。著作に『ヨーロッパ政治思想の誕生』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)などがある続きを読む投稿日:2023.04.13
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