ラストは初めから決まっていた
小手鞠るい(著)
/ポプラ社
作品情報
結末がなかったら、作品は「いつまでもつづく」になってしまうか、あるいは、単なる「書きかけ」のままで終わってしまう。書き上げられないまま、作者が死んだってこともあるかもな(言っておくけど、僕は死なないし、主人公も彼女も死なない。どっちかが死んで終わるラブストーリーほど、僕の嫌いなものはない! ラブストーリーで片方を死なせるのは、作者の怠慢である! 鼻息荒いぞ)。ーーーー本文より
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商品情報
- シリーズ
- ラストは初めから決まっていた
- 著者
- 小手鞠るい
- 出版社
- ポプラ社
- 書籍発売日
- 2021.01.08
- Reader Store発売日
- 2021.01.22
- ファイルサイズ
- 1.1MB
- ページ数
- 270ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (27件のレビュー)
-
あなたは、小説を書いたことがあるでしょうか?
文章を書く、それだけならば、義務教育時代に散々作文を書かされました!、大学時代には卒業論文を書きました!!、そしてブクログでレビューを書いています!!!…、と皆さん何かしら書くということはされていると思います。しかし、日記を書くこと含め、それらは何かの事象を元にそのことについて自らの気持ちを整理し、文章という形にまとめる行為だと思います。そういう意味では、作家さんが書かれているエッセイなども同じようなものだと思います。
一方で、書くことにこだわらなければ、誰でも多かれ少なかれ、空想世界の中でさまざまな物語をイメージするようなことはあるのではないかと思います。空想の中で自身がヒーロー、ヒロインになることは私たちに許された何よりもの自由だからです。しかし、それを文章として形あるものにしていくとなると、そう簡単なことではありませんし、私も空想だけは誰にも負けない自信があります(笑)。ただ、それをキーボードに打ち込んでいくなんて考えたこともありません。恐らくこのハードルの存在は多くの方に共通なのではないでしょうか?
この世に数多存在する小説は、そこに一つの世界を創造していくものであり、”小説家”という立派な肩書きを持つ職業の方のお仕事の成果物でもあります。そんな中で興味深い記述をある作品の中に見つけました。主人公が小説家で同名小説を書き上げていく様が描かれる桜木紫乃さん「砂上」という作品の中にこんなことが書かれています。
”日本には約五百人の文芸作家がおります。けれど、小説だけで生活できているのはそのうちの五十人です”
そう、小説だけで食べていくことが如何に難しいことか、この数字がそれを表してもいます。しかし、小説を書くことを職業にするかどうかは別として、自分の頭の中にある世界を紙の上に表現してみたい!そんな気持ちは抑える必要はないのだとも思います。小説は小説家だけのものではありません。誰だって小説を自由に書く権利を持っているのです!
さて、ここに『これから、みなさんといっしょに、小説を読んだり書いたりしていきます。小説の世界にどっぷり浸りましょう』と始まる大学の『夏季特別講座』で小説を書く一人の女子学生を主人公にした物語があります。『私の好きな作家は、司馬遼太郎』、『司馬遼太郎は私を、ここではない別の世界に連れていってくれる』というその女子学生。この作品は、そんな彼女が『テーマは恋愛です』と課された課題に、『私はまだ彼に、未練があるのだろうか?』と、自らの過去に対峙していく物語。『小説家がまず捨てるべきものは、恥です』という講義の内容に『ええい、こうなったらもう開き直るしかない』と、自らの内面に向き合ってそれを小説として書き上げていく物語。そしてそれは、『小説家というのは毎日、こんなしんどいことをやっているのか』と思うその先に、彼女が書き上げていく小説が”小説内小説”として、読者の心をキュンとさせていく”前代未聞の恋愛小説”です。
注) この作品の構成、半端なく凄いです! byさてさて
『ラブソングなんて、大嫌い。愛の歌なんて、この世から、消えてなくなってしまえばいい…』とキーボードを打つ手が『胸が苦しい。苦しくて、つづきを書くことができない』と止まってしまったのは主人公の堂島ことり。『どうして私の心は、こんなに傷ついているの?あれからもう、三ヶ月が過ぎようとしているのに』と思う ことりは、『まぶたを閉じて、授業中に聞いた、凜子先生の言葉を思い浮かべ』ます。『もしも失恋した経験があるのなら…その心の傷を書くの。言葉に置きかえていくの…書いていくうちに、わかってくる。自分の気持ちが、心の傷が…文章が先で、気持ちはあと。この逆転が小説のおもしろさでもあるの』。『凜子先生は、きょうから始まった文学部の夏季特別講座…小説創作』の講師で『この講座のために、地球の反対側』『から飛行機に乗って飛んできた現役の小説家』です。『今年、五十八歳になりました』という自己紹介から始まった凜子の授業では、一枚の用紙が配られ、そこには『好きな作家は?という質問もあ』りました。『私の好きな作家は、司馬遼太郎』という ことりは『司馬遼太郎は私を、ここではない別の世界に連れていってくれる』と感じています。そんな ことりは『私を入れると二十一人』というクラスを見渡し『彼女』がいないのを確認してホッとします。『私から彼を、私の好きな人を、奪い取っていった』『彼女』。『もう終わったこと。済んでしまったこと』と思うも『ことりのこと、嫌いになったわけじゃないんだ』と『いきなり「別れたい」と切り出された』五月のある日のことに気持ちが向かいます。『おまえよりももっと、好きな人ができた。ごめん』という彼の言葉に『凍りついて』しまった ことり。そんなことを思い出していると『教室のうしろのドアがあいて、ひとりの男子学生』が入ってきました。『あいつは、熊野涼介。なんであいつがここに?』と『別れた彼と同じ』『経済学部』で、『しかもふたりは友だち同士』という涼介。『経済学部所属だけど、ちょっとした事情があって、この講座を受ける』と凜子先生が説明し、席についた涼介。『いやな予感がする。私が彼に手痛くふられたことを知っている』涼介と『これから四日間もおんなじ教室で過ごすことになるなんて』と思う ことりは『これは、とんだ災難、かもしれない?』と感じます。そんな ことりが『自分の体験したことだけを書く』、『テーマは恋愛』という決まりごとの中に『小説創作』を行っていく四日間の物語が描かれていきます。
“読み終えたあとには「恋愛小説の書き方」がマスターできている!という前代未聞の恋愛小説”という担当編集者からの不思議な宣伝文句がとても気になるこの作品。”恋愛小説の名手”と称される小手鞠るいさんによる、まさしく”恋愛小説”な物語が展開します。そんな物語は、”「恋愛小説の書き方」がマスターできている”という通り、主人公で大学生の堂島ことりが、『夏季特別講座』で『小説創作』の授業を受ける場面が描かれていきます。そこには、『マサチューセッツ州の州都ボストンで暮らしながら、日本語で小説を書き』、『岡山』で暮らしたことがあり、『登山』が趣味で、『猫』好きと、どこか小手鞠るいさん自身がモデルではないのか?と思う『現役の小説家』である流山凜子という講師が授業を担当する想定です。物語は、そんな授業の初日から始まりますが、凜子先生による”恋愛小説の書き方”の講義がとにかく面白いです。まるで、小説の書き方を書いた参考書を読んでいるような気分に陥ります。しかもその説明は流山凜子=”恋愛小説の名手”と称される小手鞠るいさんによるものですから、この内容に興味が湧かないはずがありません。
では、この作品の最大の特徴とも言えるそんな講義の内容を見てみたいと思います。まず、この『夏季特別講義』では、『小説の決まりというか、制約というか、要は提出課題の必要条件みたいなもの』の制約下で全員が小説を書いていくことになります。その制約が次の五つです。
(1) 起・承・転・結の四つのパートで構成する。
(2) 自分の体験したことだけを書く。
(3) 自分の理解している言葉だけを使って書く。
(4) テーマは恋愛(失恋でもOK)、経験がなかったら、あこがれ。
(5) 主人公は自分。必ず一人称で書く。名前や地名は実名でも仮名でも可。
さて、あなたはこの条件を聞いてどう感じるでしょうか?やってやろうじゃないか!とメラメラとやる気に燃えてきた、そんな方もいらっしゃるかもしれません(笑)。そして、『最終的に完成させる作品の目標枚数は、四百字詰め原稿用紙に換算して三十枚以上、五十枚以下』という分量が指定されます。ご参考までですが、私、さてさてのレビューは、毎回おおよそ十五枚前後の分量で書いています。今までの最大が紫式部さん(角田光代さん訳)「源氏物語(中)」のレビューで、二十八枚も書きました(偉い!私…笑)。そして、私は「源氏物語(中)」のレビューを一日で仕上げています。しかもスマホ打ち込みで、PCは一切使っていません。なので、単純に分量だけであれば『四百字詰め原稿用紙に換算して三十枚以上、五十枚以下』という分量はとても書けないという量ではないように思います。問題は、その内容です。講師である凜子先生を通じて、小手鞠さんは小説を書くためのアドバイスをさまざまに記していきます。それを守れば、あなたにも小手鞠さんのような”恋愛小説”が書けるかも!と思うと、企業秘密を明かしていただいているような気分にもなってきます。そんな中から、へえーっ!と思ったものを二つご紹介しましょう。まずは、タイトルについてです。
・『タイトルは、書く前にまず決めてしまうの。あとで変更してもかまわない。でもちゃんと決めてから、書き始めるの。なぜなら、タイトルは小説の一行目だから』。
→ タイトルは『小説を引っ張っていくものなの。動かしていくものなの。車にたとえると、エンジンってことね。すべてはそこから始まるの。強い言葉がいい。強くてシンプルで美しい言葉。あんまり考え込まないで、ぱっと浮かんできたものがいい』。
※ タイトルっていつ決めるのだろうと思っていましたが、少なくとも小手鞠さんは、まずタイトルから入られるということのようです。『タイトルは小説の一行目だから』とは、とても印象的な言葉ですね!
次に、小説家には読書家が多いとよく言われる点についてです。
・『書くことは、読むことなんです…小説を書いているとき、あなたたちは、自分の書いた小説を読んでいるわけよね?ということは、書くことはイコール読むことである、と言えるよね?』
→ 『小説家になりたければ、とにかく小説をたくさん読むこと。読むことでしか、書く力は養えない…一時間、自分の原稿を書くために、ほかの作家の書いた作品を三時間、読むようにしているの』
※ なんと、他人の作品を読む時間を自分の作品にかける時間の三倍も費やすという記述です。読書は書くことに繋がっていく。なるほど、私も読書をするようになって仕事で文章を書きやすくなったと感じていますが、そういう効果もあるのかもしれません。
ごくごく一部、二点を抜き出しましたが、他にも『うまいか下手か、じゃなくて、個性があるかないか。それが何よりも重要』、『簡単なことを難しく書くのは下手な作家…難しいことを簡単に書くのがいちばん難しい。それをやらなくてはならないのが、やれるのが本物の作家』、そして『小説家がまず捨てるべきものは、恥です。恥ずかしがっていたら、人に読んでもらえるような作品は書けない』などなど、最初から最後まで盛りだくさんにこれでもか!というくらいに小説を書いていくためのヒントが散りばめられています。もちろん、この作品を読む読者の大半は、だからといって小説を執筆するわけでないと思いますが、目の前にある小説を読んでいくのに、その裏側にある作家さんのさまざまな努力を想像もでき、なかなかに参考になるものがあると思います。もう、この側面だけでもこの作品を読む価値は十分にあります。この作品凄いです!読後、なんだか物知りになった気分。こんな読後感の小説は初めてです!なんだ、これは!
そんな”前代未聞”の非常に個性満点な構成のこの作品ですが、内容紹介に”「エンキョリレンアイ」の著者が15年ぶりに放つ、せつない胸キュン小説”ともうたわれている通り、この作品は主人公の ことりの”恋愛小説”が描かれていきます。しかし、そこに特筆すべき構成がさらに隠されています。それこそが、上記した凜子先生の講義を受講した ことりが『自分の体験したことだけを書く』という制約に則って自らの恋愛を小説として執筆していく、その彼女の小説自体が、なんと”小説内小説”として記されていくという構成をとっているのです!そして、それと対になるのが、そんな ことりが『おまえよりももっと、好きな人ができた。ごめん』とふられてしまったことを知っている、元彼の友だちである熊野涼介です。『夏季特別講座』でまさかのクラスメイトとなってしまった涼介。授業は二人ペアでお互いの小説を添削し合う中に進んでいきますが、くじ引きで二人はペアとなります。そして、ことりが書くのが「歌う小鳥」、涼介が書くのが「たとえもう二度ときみに会えなくても」です。この両作の内容が交互に記されていく、そして添削されていく中に物語は進んでいきます。もちろん、物語はそんな物語を書いている舞台としての現実描写も合わせてなされていきますが、この組み合わせが実に絶妙!です。そして、描かれていく鮮やかなまでの”恋愛物語”。そんな物語の中で小手鞠さんは主人公・ことりの想いに託してこんなことを記します。
『もしかしたら、今までしてきたのは恋なんかじゃなくて、これが正真正銘の、初めての、本当の恋なのかもしれない?』
そして、
『恋というものは行きも帰りもない、迷い道なのかもしれない。「好き」という気持ちに迷いはないのに、ないはずなのに、これから先のことを思うと、何もかもが不安でならない』。
もう、これぞ、”ザ☆恋愛小説”、”直球ど真ん中”、キュンと切なくなるこの想い!そう、そんな言葉の先に描かれていく、なんとも美しい、なんとも切ない、そしてなんとも狂おしい”恋愛小説”が描かれていくこの作品。『小説創作』講座を小説内に織り込むという、極めて大胆な試みによって非常に高いハードルを自らに課された小手鞠さんだからこそ描ける、まさに”恋愛小説”の”お手本”となるような物語がそこにはありました。
『鏡に映った自分の顔を見て「私じゃないみたいだ」と思った。
私じゃない女が映っている。
あなたは誰?
自分で自分に問いかけたその瞬間、私、恋してる?と、私は思った』。
そんな言葉の先に主人公・ことりのまっすぐな一途なまでの想いを見るこの作品。そこには、”恋愛小説の名手”と称される小手鞠さんのまさに”お手本”となるような”恋愛小説”が描かれていました。『小説創作』講座を小説に融合させるという”前代未聞”の試みに圧倒的な読み味を感じさせるこの作品。そして出来上がっていく ことりと涼介の小説が、”小説内小説”として読者の胸の奥をキュンとさせていくこの作品。
今日マチ子さんが描かれた雰囲気感満載の表紙や、「空と海のであう場所」を読んだ読者が思わずニンマリする表現の挿入など、一冊の小説として隅々まで読者のことを考え、これでもかと練り上げられたことがよくわかる、極めて完成度の高い、素晴らしい作品だと思いました。続きを読む投稿日:2023.03.08
展開も先読みができたし恋に落ちるスピードも早いと思ったけど、大学生だった頃を思い出し、あの時は真っ只中で気づかなかったけど、自分も主人公達みたいにキラキラしてたのかなぁなんて振り返りながら読み進めまし…た。
主人公の元カレは酷い奴だなと思ったけど、自分が相手を想う気持ちと、相手が自分を思う気持ちの熱量は同じじゃない。思い出を大切にしている気持ちの深さも同じじゃない。20年経ってもそんなもんのままだったなと自分の経験を再認識して虚しい自己憐憫に浸ってしまった。
とはいえ、この本自体は若い二人のこれからの幸せが予想されるラストなので青春万歳!と純粋に思えました。続きを読む投稿日:2023.10.27
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