地獄めぐり
加須屋誠(著)
/講談社現代新書
作品情報
これでいつ堕ちても安心!?「地獄の沙汰も金次第」というのは本当!?よくわかる【地獄の歩き方】!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・著者によると、大学で美術史の講義をしていると、風景画についてよりも、肖像画についてよりも、地獄絵をテーマにしたとき、学生たちはなによりまじめに耳を傾けてくれるといい、これは市民講座等でも同様のことがいえるという。なぜ、人は地獄に惹かれるのか。死の山、三途の川、賽の河原、閻魔王との対面、善悪所行の記録文書、判決、数々の責め苦、……。地下8階建てビルのような構造の地獄を訪ね歩き、厳格な文書行政組織・閻魔王庁の実像に迫り、「怖いもの見たさ」の正体を探ってみると、じつは、地獄は「暴力」と「エロス」の欲動に満ちた世界だった!はたして、もともと除病延命をかなえてくれる柔和な「閻魔天」は、いったいいつ、地獄を統括する威嚇的な「閻魔王」へと変貌したのか。なぜ慈悲深いはずの仏たちが、地獄を征服するべく攻撃を開始したのか。敗戦国・地獄が、戦勝国・浄土から求められた多額の戦争賠償金をまかなうためにとられた、涙ぐましいまでの緊縮財政策とは!?そもそも、地獄はどこにあり、閻魔とはいったい誰なのか――。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ、まさか自分が地獄に堕ちる? そんなことはないハズ。いや待てよ。ウソ、不倫、暴飲……もしかしたら……。そんな「心当たり」のあるあなたに贈る、いざという時に役立つ(かもしれない)「地獄のガイドブック」。地獄から生還した人たちの“証言”も収録!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・【本書のおもな内容】第1章 地獄の誘惑「暴力」と「エロス」の世界/私たちは地獄に堕ちる ほか第2章 地獄へ旅立つ生から死へ/死の山/三途の川/賽の河原 ほか第3章 地獄をめぐる地獄の場所と構造/互いに敵対心を抱く亡者 ほか第4章 閻魔王の裁き閻魔とは誰か/閻魔天から閻魔王へ ほか第5章 地獄絵を観た人たち菅原道真/清少納言/西行/後白河法皇 ほか第6章 地獄からの生還者たち臨死体験と社寺縁起/狛行光/白杖童子 ほか第7章 地獄の衰退と復興地獄を征服する仏たち/地獄の沙汰も金次第 ほか
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商品情報
- シリーズ
- 地獄めぐり
- 著者
- 加須屋誠
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2019.06.19
- Reader Store発売日
- 2019.06.19
- ファイルサイズ
- 63.6MB
- ページ数
- 232ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (12件のレビュー)
-
ぱっと開くとまず目に飛び込んでくるのが、河鍋暁斎の「地獄太夫と一休」の絵である。
怪しげな魅力はその顔貌だけではなく、着物もそうなのだが…
10頁、「聞きしより見ておそろしき地獄かな」という句に対し、…「いきくる人もおちざらめやは」と返す。
さすが太夫だけあって、理知的で、機智にとんだ女性のようだ。
そんな彼女は、自らの死体を打ち捨てさせ、どんな美女でも死ねばこうなると、「無常」を男たちに見せることによって、性的欲望を収めようとした、と語り継がれるが、はて。
それはどうかな、と女の私は思うのだ。
そんな菩薩のような思いではなく、哀れみとも、嘲りとも言える思いがあったのではないか。
地獄には暴力とエロスに対する憧れの視点もある、と筆者は繰り返し言う。
確かに、誰しもが暴力を隠し持っているはずだ。
エロスについては、様々に言われているように(ない人もいるかもしれないが)ここでは、あるもの、として語りたい。
71頁にあるように、描かれる地獄では、男性鑑賞者の視点をとり、自らを獄卒、つまり暴力を振るう側としてサディスティックな嗜好を現示する。
逆に傷つけられる側にも、マゾヒスティックな昏い思いをきづかせる。
押し込められた思いだからこそ、目が離せない。
心に残る。
自分は、善人ではないと知る。
一方、脱衣婆が、奪うものだけではなく、与えるものでもあったという指摘には驚いた。(40~43頁)
悪が福の神となるのは、日本の昔話で時折見られるが、その転換点がなぜ起きるのか、それを研究してみるのも面白そうだ。
絶対行きたくないのになぜか引きつけられる地獄。
悪に対する憧れ、恐れ、性的情動の発現と隠蔽。
二面性があるからこそ、私たちは自らのうちに同じものを見、故に引きつけられるのだろう。続きを読む投稿日:2020.02.08
『地獄めぐり』
2023年4月14日読了
地獄めぐりというタイトルどおり、本作は地獄の様子が事細かに記される。
釜茹でにされたり、鉄線の上を渡ったり。わたしたちも知っている地獄の情景がありありと浮か…び上がるようだ。そこまで詳細に描かれた作品の数々からは、まさしく「怖いもの見たさ」というのだろうか、人々の熱狂的ともいえる地獄への好奇心を感じてしまう。
本作においては地獄の詳しい紹介や情景描写はもちろんだが、わたしには後半部分が特におもしろかった。
加須屋氏は他の著作でも「まなざし」を軸に論じているが、本作では「自身へのまなざし」を扱っている。
目を覆いたくなるような苦痛を前に、なぜだが少し見てみたくなってしまう…地獄にはそんな悪魔的な魅力がある。そのような心の動きに対し、加須屋氏は「自分自身の心の内に地獄の本質があらかじめ組み込まれているからにほかならない」とする。
「地獄」を通し自身の中にひそむ暴力性や欲求を顧みること。そして、我々は常にさまざまな欲求を抱えつつ、しかし日々の安寧のためそれらを上手くコントロールしているのだということ。
戦争の勃発やテロともいうべき襲撃事件の発生など、まさしく末法の世の真っ只中に生きる我々にとって、自身の本性と対峙し上手に付き合うことは、とても大切なのではないだろうか。
心の中に暴力とエロスの欲動を秘めた私たちは、皆平等に生まれながらにして、地獄に堕ちる素質を与えられている。(本書226ページより)
この言葉の意味を反芻し、日々努力して生きていきたい。続きを読む投稿日:2023.04.18
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