ヒトでなし 金剛界の章
京極夏彦(著)
/講談社
作品情報
俺は、ヒトでなしなんだそうだ。娘を亡くし、職も失い、妻にも捨てられた。家も財産もなくし、無一文になった男のもとへ一人また一人と破綻者たちが吸い寄せられる。借金まみれの旧友、自殺を図る女、殺人犯──。求めているものは、赦しなのか?施しなのか?救いなのか?それとも―。「人が人を救うなんて、とんだ傲りだ。救ってくれるのは人じゃあない。だから神だの仏だのが要るのじゃないか。仏に救われようと思ったら仏の道をてめえで歩くしかねえのさ」心の澱が取り払われる説法エンタテインメント!
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商品情報
- シリーズ
- ヒトでなし 金剛界の章
- 著者
- 京極夏彦
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 講談社
- 書籍発売日
- 2019.03.01
- Reader Store発売日
- 2019.04.18
- ファイルサイズ
- 2.6MB
- ページ数
- 576ページ
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この作品のレビュー
平均 4.4 (18件のレビュー)
-
「死にたいなら死ねよ」
「殺したいなら殺せよ」
と悪辣な言葉を放つこの男、人でなしである。
いやー、期待を裏切らない面白さ!さすが京極夏彦。
尾田慎吾は幼い娘を事故で亡くしてしまい妻とも離婚、職…も追われ、財産も失い、何もかもなくしてしまう。妻には「人でなし」と言われ、自分が人でなしと気づいてしまう。もう人生詰んでるようにしか見えないのだがここからの超展開ときたら...。
なんとこの男、人を救っていくのである。遺産問題で人を信用できなくなった女、多額の借金を抱え回らなくなった旧友、キレるに任せて恩人を刺殺したチンピラ、生きるのが辛くてリストカットを繰り返す少女...。なぜか尾田の周りには救いを求める人が集まってくるのだ。言っておくが上記のように尾田はそれぞれにただただ悪辣な言葉をぶちまけるだけなのだが何故かみんな救われた気持ちになるのだ。
人ならば人を救うことはできず、人ならば仏道を歩むことはできず...しかし人ではない人でなしなら...?と人でなしロジックがどんどん展開されていく。これが超面白い。人でなしって悪いイメージしかないのに、尾田は誰も救う気もなく、誰にも興味を持ってないのに...。救われる方は勝手に救われる。人でなしロジックは人でなしマジックになっていく。
京極さんの操る言葉は魔術だ...。続きを読む投稿日:2022.04.30
自らを「ヒトでなし」と自称する投げやりに見える男と関わって救われた(と思っている)人たちのお話
以下、公式のあらすじ
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「死にたいん──です」「な…ら死ねよ」。娘を亡くし、妻だった人に去られ、十五年勤めた会社を解雇された。全てを失い彷徨していた尾田慎吾は、雨の夜、自殺を図る見知らぬ女にそう告げた。同日、旧友荻野と再会する。彼は、情、欲望、執着を持たぬ慎吾を見込んで、宗教を仕事にしないかと持ちかける。謎めいた荒れ寺に集いし破綻者たち。仏も神も人間ではない。超・宗教エンタテインメント。
--------------------------
800ページ近くある厚さで、最初に出会った女性が再び現れて物語が動き出すまで200ページ
物語の進まなさがやはり京極だよなーw
同じ内容の表現を少しずつ変えて繰り返されるのもそう
尾田慎吾が自らをヒトでなしと自覚したのは、元妻にそう罵られたから
だとすると、それまでは普通に暮らしていたのか?
まぁ、普通に会社勤めしてたし、上の娘共々家族に支障をきたすことなく生活してたのであればそうなのかもしれない
同じく京極夏彦の「死ねばいいのに」に近しいものを感じる
あっちも聞き手はあくまで変わることなく同じスタンスで、話す方が勝手に変貌していく物語だからね
まぁ、その変わり方がこっちとは方向が違うわけで
「人でなし」という言葉は、通常であればネガティブな意味でで使われる
でも、人を救うという観点で言えば、神も仏も「ヒト」ではない
「人を救えるのは人ではないものだけだ」
「仏様だって神様だって人じゃねぇだろうが。人でなしだよ。大体な。ヒトの言葉なんかじゃ人は救われた気にならねぇよ」
「人が人を救うなんて、とんだ傲りだ。救ってくれるのは人じゃあない。だから神だの仏だのが要るのじゃないか。仏に救われようと思ったら仏の道をてめえで歩くしかねえのさ」
人間らしさを捨てたヒトでなしが、本人の意図しないところで人々を救っていく
というか、救われたと人々が思っていくという表現の方が近いか
遺産問題で人を信じられなくなって自殺しようとした女、お金を増やすことに囚われ挙げ句に借金で首が回らなくなった旧友、キレて兄貴分を刺殺してしまったチンピラの若者、リストカットを繰り返す少女、人殺しの欲求から逃れられない坊主、そして……
彼ら彼女らが、何故救われたと思ったのかがよくわからない
読んでいるときな納得しながら読み進めていたはずなのに、読み終わってしまえば薄らぼんやりとした「あたりまえ」の常識がゆらぐ
尾田は冷淡であるし、言っている内容の倫理的な是非はともかく、一定の筋が通っている
それを繰り返す事で、悩める者たちの常識をぶっ壊すダイアローグとなっているのはわかる
死にたいやつは死ねばいいし、人を殺したやつはどうあっても人殺しで違いはない
そこに人としての倫理があるかどうかの違いか?
俗世間の柵を切り捨て、あらゆるものに執着しないのが悟りであるのならば
尾田は悟っているのでしょうね
離婚をきっかけとした投げやりな態度がそこに至った道筋であるならば、頓悟であって漸悟ではない
生老病死愛別離苦 というし
愛という執着を捨てた(?)失ったからこその悟りなのかね?
そもそもの名前からして、「慎吾」というのは真の悟りを意識したネーミングなのか?
途中まではともかく、愛娘を殺した犯人かもしれない相手にもそれまでと同じ態度を貫けるのは普通ではないわなぁ……
色々とありつつも、読み終わってしまえばいつもの京極
何も残らない
続編というか、新選組の土方を主人公とした続編「ヒトごろし」があるようなので、そのうち読むかな続きを読む投稿日:2023.09.26
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