海を撃つ――福島・広島・ベラルーシにて
安東量子(著)
/みすず書房
作品情報
1976年生まれの著者は、植木屋を営む夫と独立開業の地を求めて福島県いわき市の山間部に移り住む。震災と原発事故直後、分断と喪失の中で、現状把握と回復を模索する。放射線の勉強会や放射線量の測定を続けるうちに、国際放射線防護委員会(ICRP)の声明に出会う。著者はこう思う。「自分でも驚くくらいに感情を動かされた。そして、初めて気づいた。これが、私がいちばん欲しいと願っていた言葉なんだ、と。『我々の思いは、彼らと共にある』という簡潔な文言は、我々はあなたたちの存在を忘れていない、と明確に伝えているように思えた。」以後、地元の有志と活動を始め、SNSやメディア、国内外の場で発信し、対話集会の運営に参画してきた。「原子力災害後の人と土地の回復とは何か」を掴むために。事故に対する関心の退潮は著しい。復興・帰還は進んでいるが、「状況はコントロールされている」という宣言が覆い隠す、避難している人びと、被災地に住まう人びとの葛藤と苦境を、私たちは知らない。地震と津波、それに続いた原発事故は巨大であり、全体を語りうる人はどこにもいない。代弁もできない。ここにあるのは、いわき市の山間に暮らすひとりの女性の幻視的なまなざしがとらえた、事故後7年半の福島に走る亀裂と断層の記録である。
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商品情報
- シリーズ
- 海を撃つ――福島・広島・ベラルーシにて
- 著者
- 安東量子
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2019.02.08
- Reader Store発売日
- 2019.02.18
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 296ページ
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この作品のレビュー
平均 4.7 (6件のレビュー)
-
筆者の安東量子さんは、広島のご出身であるが、福島ご出身の方とご結婚され、開業のために福島県いわき市の山間部にお住まいになっていた時に、震災を経験される。
現在、「ETHOS in Fukushima」…という団体の代表を務められているが、その団体のHPには、団体の目的が下記の通り記されている。
【引用】
原子力災害の福島で暮らすということ。それでも、ここでの暮らしは素晴らしく、よりよい未来を手渡す事ができるということ。自分たち自身で、測り、知り、考え、私とあなたの共通の言葉を探すことを、いわきで小さく小さく続けています。
【引用終わり】
この文章の中に言及されており、また、本書「海を撃つ」の中でも記述があるが、安東さんや仲間たちは、いわき市の北側の末続地区という場所で放射線量を測る活動を長年続けてこられ、また、「共通の言葉を探す」ために、「ダイアログ」という名の、対話のための集会を続けてきておられる。
ETHOS(エートス)プロジェクトのHPには、その末続地区での活動(アトラスと呼ばれる)にかかるレポート「末続アトラス2011-2020」のPDF版が掲載されている。上記の末続地区での放射線量測定のPJは2020年で一区切りとなったが、その間の活動の内容等がこのレポートにまとめられている。2022年10月発行、140ページに及ぶ長いレポートである。
そのレポートのあとがきの最後に、安東さんは下記の通り書かれている。
【引用】
自分自身も被災地に住む人間の一人として、つらかった出来事が薄められていくことは希望に違いないと思う。
だが、そのことが、事故が起こった背景にある社会の欠陥をも同時に忘却されていくことになるのでは、事故後の苦労も骨折り損となってしまう危険性がある。平穏を取り戻すと同時に、教訓を深く刻み続けること、この相反するふたつの動きを両立させることは簡単ではないのは確かだ。この記録がその一助になってくれることを願っている。
【引用終わり】
「測る」こと、測り続けることが、末続地区の人にとっては、ある種の「平穏」を得るための一助になった。しかし、平穏を得たからといって、原発事故が起こり、そして、住んでいた土地を追われたり、あるいは、住んでいた地域が崩壊に近い危機を迎えたりしたことの、そもそもの原因や対応のまずさについては忘れてはならず、それを、このようなレポートの形で残しておきたい、という意味であろう。
本書のあとがきに安東さんは、震災の後、「誰かを助ける力が欲しい、痛切にそう願った」と書かれている。その願いは実現しているのではないか。続きを読む投稿日:2023.06.06
このレビューはネタバレを含みます
◆きっかけ◆
レビューの続きを読む
「結局、原発事故が起きた原因について、真剣に考えて、内省して、なにかを変える必要を心底感じた人なんて、ほとんどいなかったんだな、というのが11年目の結論でした。」というTwitter投稿…を見かけて。(大場さんがリツイートしていた)
廃棄物処理を含め、誘致、立地の問題に関心をもったきっかけが311だった。少しずつ関連書籍を読みだして、調べるほどわからない部分は増えていき、ポジションを取る事に恐れを感じるようになった。選挙のたびにエネルギー問題を自分の中の争点だととらえて投票してきた。それ以外には、情報を得る、知る、考える、学ぶ、家族と話すことくらいしかしていない。実務的な、実際の行動にはうつせていない。次の世代にとってより良い社会・エネルギーの姿とは何なのか。考えるばかりで行動に移せていない。どう行動していかばよい?
安東さんは、「なにかを変える必要」を感じたのだろう。彼女の考えや行動を知りたいと思った。読みたい。2022/3/17
◆感想◆
p20「なにが起きているのかわからない。いや、なにが起きたのかはわかっている。けれど、これをどう了解すればいいのかわからない。」(被災ほぼ直後に被災地の景色を見た際に綴られている言葉)
p96-97のICRP Publication11抄訳版の中の一文「(前略)大部分の人々が真に求めていることは自身の生活の営みを続けることであり、人々は(時に多少の助言を与えられることによって)それを実現しようとし、また実現できるのではないだろうか。」
p244-255「(前略)言葉にならない多くの思いが、「将来はなにが起こるかわからない」、この一語には込められている。(中略)その出来事の巨大さのゆえに、その全貌を私たちが把握できないがゆえに、共有のものとして語ることができない。(中略) 私たちが本当に語りたいことはなんなのだろうか。それを語る共通の言葉を得るまで、私たちは、唯一語り得ると信じる放射線の健康影響について、たどたどしく語り続けるのを止めないだろう。私たちの本当に語りたいことではないかもしれないのに。(中略)私たちは語り得る共通の言葉を探していかなくてはならない。」
p276「そうだね、元に戻っていく感じ、それを求めているのかもしれない……。」
図書館。
原発事故のことも、コロナのことも、専門家だとされる人の間でも意見が分かれている事項もあって、素人ながらに正しい情報が知りたいと思っていても、混乱することがある。科学だとされる範囲が曖昧になってわからない。科学の限界がわからない。科学と言っても白黒ではっきり分けられることばかりでもなく、確率の話になることも多い。グラデーション。そのグラデーションの中で、自分が取り得る行動を選択するときに、自分の基準や判断が必要で。その基準を自分の中に見出すためにも科学的にわかっていることはどこまでなのかが知りたくなるけれど、その情報収集の段階で混乱すること多々。
私は今、どう考えどう行動すれば良いか。同時に、次世代にどう引き継いでいけば良いか。
自分の中で結論は出ないまま、その宙ぶらりんの状態のまま、「今」の行動を選択し、でも「今後」どうして良いかは明確な結論は出せないから情報収集し続けるし家族とも話し続ける。選挙やパブコメ、アンケート回答などの機会に、意思表明したり、意見とも言えないような所感を述べる…。わずかな意思を、日常の行動に織り交ぜる…。そうこうしている間に時間は経過していく。…うまく言葉にできない。
筆者の言葉を自分に照らし合わせてお借りするのは気が引けるけれども、まさに日頃思っている「これをどう了解すればいいのかわからない。」そんな事柄が多い。
2023/2/16続きを読む投稿日:2022.03.18
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