英語教育幻想
久保田竜子(著)
/ちくま新書
作品情報
国際化の必要性が叫ばれ始めた1980年代以降、英語教育は常に議論され続けてきたが、特にここ数年「グローバル人材」育成に向けて様々な提言がされてきている。小学校からの早期英語教育、英語による教室指導、外部テストの導入、教員の英語力強化などだ。その裏側には、「英語は全世界の人々をつなぐ」「英語力は経済的成功をもたらす」という、ほとんど信仰のようなものが横たわっている。しかしそれは本当なのだろうか? 海外の大学で25年教鞭をとってきた言語教育学者が、日本人の中に深く根を張る「英語への信仰」と「幻想」を、10のポイントに分けてあぶりだす。
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商品情報
- シリーズ
- 英語教育幻想
- 著者
- 久保田竜子
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま新書
- 書籍発売日
- 2018.08.10
- Reader Store発売日
- 2018.08.24
- ファイルサイズ
- 1.6MB
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この作品のレビュー
平均 4.4 (5件のレビュー)
-
日本人の英語教育に対する「常識的な考え方」を「幻想」として10個取り上げ,「本来,外国語を学ぶというのはどういうことなのか」を解説してくれています。著者は,応用言語学という学問の立場から語ってくれて…いますが,わたしは,こんな学問があることは本書を読むまで知りませんでした。
さて,2020年度から小学校に導入された外国語。小学校現場では,この導入に際して数年前から,まさに「幻想」の下で右往左往してきました。英語教育に取り組もうとする人たちは,せめて,本書のような知見もあるのだということを知っていてほしいです。外国語専門の先生が配置されている学校もあるようですが,それで上手くいくのかどうか。しばらく様子を見ていたいと思います。小学校から英語嫌いが増えなければいいが…と心配しています。
日本人若手英語教員米国派遣事業(2011~13)の概要に書かれていたという次の文章には,ビックリします。ここまで赤裸々でいいのかと思いますが,これが本音なんでしょうね。英語=米国。まさに自ら進んで米国の属国になろうとしているような気がしてなりません。
若手英語教員を米国に派遣し,英語教育の教授法を学ぶとともに,米国での人的交流やホームステイを通じて米国の理解を深め,英語教員の英語指導力,英語によるコミュニケーション能力の充実を図る。これは,中長期的な視点に立てば,日米同盟の深化・発展のための国民の幅広い層における相互理解の促進にも視するものである。(p.84)
日米同盟と来たもんだ!
本書では,「英語を使っているのは米英だけではない。それこそ,子どもたちに教えるときには,いろんな国の英語があっていいし,いろんな国の文化とのふれあいがあっていい」(わたしのとらえ方)と主張しています。確かに,今までの小学校の外国語活動では,動画でいろんな国の人の英語を聞いたり,ほかの国の言葉に触れたりしてきました。しかし,今後,小学校で,外国語=英語となっていくのは,中高校を見れば目に見えてます。そうなると,この日米同盟が出てくるのでは…。
もう1カ所,引用しましょう。
今まで見てきたように,英語は米国人だけが使用するわけではありません。アジア隣国人も使用します。世界語としての英語教育のビジョンと,日米同盟を軸にした英語教育とは,本質的にかみ合わないのではないでしょうか。(p.92)
諸外国の文化理解について,著者は「4Dアプローチ」ということを提唱しています。なかなか面白い視点です。「日本人だから○○だ」みたいな決めつけはいけませんね。そうじゃない人いっぱいいるし…今回のコロナ騒ぎでも,「日本人は,行動を強制しなくてもちゃんと自主的に控えめにしてくれた」なんていうんじゃないかな。そうじゃない人もいることを棚に上げて。あるいは,忖度・村八分的な見方が強いとか…。
ステレオタイプレ見られるのはいやだな。
続きを読む投稿日:2020.04.08
<英語教育は早くから始めた方がいいという考え方の根拠として、最初に引用したように、「子どもであれば物怖じせず自己表現でき、スポンジのように音声を吸収する、発音もよくなる」といった発達段階による学習態度…と学習効果のアドバンテージがよくあげられます。また、外国の人と自然に接することができるようになる、異文化に触れて視野が広がる、なども異文化理解への期待があります。
ただ、ここで「発音がよくなる」を精査してみると、これまで論じてきたように、正統な英語のイデオロギーが潜んでいます。つまり英語には「よい発音」と「悪い発音」があり、「よい発音」はおそらく白人でアメリカあるいは他の中心円の標準英語のネイティブスピーカーの発音でしょう。そして「悪い発音」は日本英語であるという意識です。「発音がよくなるから小さいうちから英語を習わせる」という理屈は、ネイティブ崇拝を強めてしまいます>(181頁)
小学校での英語の科目化について、賛成する英語教育の研究者はほとんどいない。なぜなら、小学校での英語学習が、後の英語力の向上に貢献したことを示す研究は(評者の知る限り)無いからだ。筆者はそれをEFL (English as a Foreign Language) とESL (English as a Second Language) の環境の観点から説明する。
<なぜ外国語環境では幼少時から学び始めても学習効果がないのでしょうか。ひとつの大きな要素は、付加言語習得環境と比べて、圧倒的にインプットとアウトプットの量が少ないからです。フェニンガーとシングルトンはこんな計算に言及しています。生後、自然環境で五年間ことばを習得するのは、外国語学習九十年間に相当するというのです。あるいは、週五時間の外国語授業一年に二百時間受けても、自然習得環境の中での言語習得(一日中十時間とする)に換算すると三週間に匹敵するのです。>(189頁)
むろん、インプットの量だけで、幼少時の学習効果がないことが説明できるわけではないが(例えば、日本と韓国の英語力の差は別の理由から生じている)、これは重要な指摘である。たかが週五時間の英語学習を増やしたところで、劇的な改善が見込めるわけがない。「日本人の英語力を向上させるために、小学校での英語教育を導入する」という指摘はどう考えてもおかしい。
とはいえ、評者は小学校での英語教育を完全に否定するわけではない。早い段階から英語に「触れる」ことで、後の英語学習に全く効果がないとは言い切れないからだ。問題なのは、小学校の段階から英語を、数学や国語と同じように科目化することだ。科目化したからには評価をする必要があり、評価をするためにはテストをする必要がある。それがこれまでとの大きな違いだ。まだ認知的能力が未熟な小学生に、英語のテスト勉強をさせることは非効率的であるし、英語嫌いを助長する恐れがある。また、筆者が指摘するように、早くから英語学習を始めた方が容易に「良い発音」を習得できるから、早期英語教育を実施すべきだ、という発想はネイティブ崇拝主義をさらに強めてしまう。目的と現実を精査したうえで、教育政策を考えることが重要だ。続きを読む投稿日:2020.02.02
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