時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか
ヴォルフガング・シュトレーク(著)
,鈴木直(訳)
/みすず書房
作品情報
資本主義は自らの危機を「時間かせぎ」によって先送りしてきた。70年代、高度成長の終わりとともに、成長を前提とした完全雇用と賃上げは危機を迎えていた。そこで各国はインフレによる時間かせぎ、つまり名目成長が実質成長を肩代わりすることで当面の危機を先送りした。80年代、新自由主義が本格的に始動する。各国は規制緩和と民営化に乗り出した。国の負担は減り、資本の収益は上がる。双方にとって好都合だった。だがそれは巨額の債務となって戻ってきた。債務解消のために増税や緊縮を行えば、景気後退につながりかねない。危機はリーマン・ショックでひとつの頂点を迎えた。いま世界は、銀行危機、国家債務危機、実体経済危機という三重の危機の渦中にある。新たな時間かせぎの鍵を握るのは中央銀行だ。その影響をもっとも蒙ったのがユーロ圏である。ギリシャ危機で表面化したユーロ危機は、各国の格差を危険なまでに際立たせ、政治対立を呼び起こした。EUは、いま最大の危機を迎えている。資本主義は危機の先送りの過程で、民主主義を解体していった。危機はいつまで先送りできるのか。民主主義が資本主義をコントロールすることは可能か。ヨーロッパとアメリカで大きな反響を呼び起こした、現代資本主義論。
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商品情報
- 著者
- ヴォルフガング・シュトレーク, 鈴木直
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2016.02.19
- Reader Store発売日
- 2018.03.15
- ファイルサイズ
- 3.4MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 4.6 (5件のレビュー)
-
民主主義は、国家を借金漬けとし、資本主義は、その借金を元手にグローバリズムを進めているが、いずれ民主主義と資本主義の対立が先鋭化するだろう。
投稿日:2016.05.06
近年読んだ本のなかで一番面白かったです。星6つ、7つの評価です。本文もそうですが、文末の訳者の解説も改めて頭の整理が出来たので非常に重宝しました。本書で主に議論の対象としているのは欧州と米国といういわ…ゆる「西側」の民主主義的資本主義国家群です。そしてこれらの国々での資本主義が第二次世界大戦後どう変化してきたか、ということで、1970年頃を境に大転換が起こったと見ています。戦後から70年頃まではいわゆるケインズ的な介入主義的資本主義ですが、ブレトンウッズ体制の崩壊をきっかけに、新自由主義的転換を経て、ハイエク的な市場主義的資本主義へと転換してきたと分析しています。そこでは資本主義と民主主義という本来は相性が必ずしも良くない2つがどう折り合ってきたか、そして現在起こっているのは、(1)経済の脱民主主義化(2)民主主義の脱経済化、であって両者が分離しようとしているという分析をされています。そこでは国家に加えて「市場の民(資産からの利潤を要求するレントシーカー)」と「国家の民(労働賃金で生活する人々)」の対立があり、2つの民が国家に対して自身の権利を主張しているわけです(※現在のところ圧倒的に市場の民に軍配が上がっている)。これはあたかも経営が危うくなってきた企業に対して、従業員、債権者、株主が、「俺への支払をまず済ませろ!」と叫んでいるかのようです(※もちろん企業の場合は弁済順位が法律で決まっていますが、国の場合はそうではない)。
さらに著者は、ハイエク的な市場主義的資本主義が1970年代以降行ってきたことは単なる時間稼ぎであって根本的な解決になっていないと述べています。つまり「市場の民」と「国家の民」の両方を満足させるために、貨幣の増刷(インフレ)、国家債務、家計債務が行われてきたわけですが、これはまったく根本的な解決にはなっておらず、特に国家の民の大きな犠牲の上に成り立っているという意味で、どちらかと言えば市場の民を利する動きであるわけです。そのような天秤の大きなブレを是正すべく最終章では著者の提言も多少書かれていますが、提言箇所については著者自身も述べているように参考程度としたほうが良いでしょう。むしろ世界経済の現状認識という点で非常に勉強になりました。続きを読む投稿日:2023.04.28
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