谷崎潤一郎
谷崎潤一郎(著)
/河出書房新社
作品情報
室町時代の瀬戸内海、宝物をめぐって海賊や遊女、幻術使いたちが縦横無尽に躍動する幻の長篇エンタテインメント活劇「乱菊物語」。「妹背山婦女庭訓」「義経千本桜」「葛の葉」などの浄瑠璃や和歌と、母恋いを巧みに織り交ぜて綴る吉野探訪記「吉野葛」。女性への思慕を夢幻能の構図を用いて描く「蘆刈」。王朝文学に材を取った奇譚「小野篁妹に恋する事」、異国情緒に彩られる「西湖の月」、エッセイ「厠のいろいろ」を収録。巨人が紡いだ豊饒幻妖な物語たち。
解説=池澤夏樹
年譜=千葉俊二
月報=桐野夏生・皆川博子
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商品情報
- シリーズ
- 谷崎潤一郎
- 著者
- 谷崎潤一郎
- 出版社
- 河出書房新社
- 書籍発売日
- 2016.02.12
- Reader Store発売日
- 2017.10.06
- ファイルサイズ
- 1.1MB
- ページ数
- 498ページ
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この作品のレビュー
平均 4.4 (9件のレビュー)
-
・何かと物議を醸してゐるらしき池澤夏樹=個人編集「日本文学全集 15」(河出書房新社)は 谷崎潤一郎である。私が一瞬「残菊物語」かと思つてしまつた「乱菊物語」を中心に、「吉野葛」「蘆刈」等を収める。谷…崎を全集で読むなどとは考へたことも ないので、私は谷崎全集の全貌を知らない。従つて、「乱菊物語」などといふ作品も知らなかつた。これは「残菊物語」の姉妹編か何かかと思ふほどの無知である。だから、これを収めることを一種の英断ととらえる人がゐる一方で、こんな作品を中心に編むなといふ人がゐるのも、私には全く分からないことである。全集には編集者の個性が出てゐて良いと思ふものの、収める作品には一定の質は必要だよなとごく常識的なことを考へるのが関の山、ならば読んでみようと「乱菊 物語」を読むことにした。
・この作品は大衆小説ブームの昭和5年に新聞に連載されたが、上のみで未完。それでも本書の三分の二を占める。読後感はおもしろいの一言、見事なエンター テインメントであつた。難しい理屈はいらない。谷崎にもこんなのがあつたのだと思ふばかりである。物語は「二寸二部四方の筺の中へ収まる十六畳吊りの蚊帳」(11頁)と美女かげろうを中心に展開してゐるらしい。あちこち横筋に入つていき、いろいろな人物が登場するので、おもしろくはあつても本筋を忘れてしまひさうである。そこは新聞連載大衆小説といふことであらう、細かいことにはこだはらずに筆のおもむくままに書かれていく。そんな中に谷崎らしい語彙や語法が散りばめられてゐる。その反面、人物造形はいかにもそれらしい人物ばかりといふ気がする。机龍之介や早乙女主水之介のやうな特異なヒーローは現れてゐない。この先に出てきさうな気もするが、未完である、谷崎がさう展開するつもりであつたかどうか。こんなのが出てきた後に本書では「吉野葛」と「蘆刈」 が来る。昭和5年と7年の作、つまり「乱菊」とほぼ同じ頃の作品である。ところが雰囲気も文体も全く違ふ。その落差(と言つては失礼か)に驚く。片や所謂純文学、片や大衆小説、この差に尽きるのだらうが、それにしても谷崎はこの2種を実に手際よく書き分けてゐる。さすが谷崎、プロの物書きである。「吉野葛」「蘆刈」に初期作の雰囲気はない。「吉野葛」はエッセイかと思はれる雰囲気に終始する、ハッピーエンドの優れた作品である。「蘆刈」はその文体の息の 長さに改めて驚く。本当に久しぶりに読み直した。これも良い作品である。男のいつ終はるともしれない話しぶりは読んでゐて疲れる。しかし、あの内容にはああいふ話し言葉の息の長い文体が必要なのである。相手は世間離れしたお姫様である。お姫様のことを普通の男が普通に話したのでは普通のお話にしかならない。へたをすれば大衆小説にもならない。谷崎は「源氏」あたりを考へながらあんな文体であの物語を書いたのであらう。それでこそあの夢幻ともつかぬ物語が 可能になる。あの雰囲気に明晰さは不要である。これはつまり大衆文学の単純明快を求める雰囲気とは逆である。同じ頃にあんな全く違ふ内容と文体の作品を谷 崎は書いてゐたのである。本書の第一の利点はここにある。誰も見向きもしないやうな大衆文学の未完作を中心に一巻を編む。しかもほぼ同じ頃の有名作をそこ に入れる。この落差を確認するのは実におもしろい。作家の多様性を手つ取り早く知ることができる。かういふ文学全集の一巻は、時に個人全集に優るおもしろさをもつ。そんなわけで私は本書をおもしろく読んだ。惜しむらくは「乱菊物語」が未完であつたこと、事情があるらしいが残念であつた。どこかから完結編が出てこないか……。続きを読む投稿日:2016.04.10
230903*読了
谷崎潤一郎さんの小説ってこんな風だったのか。初めて読むので、すべてが新しく感じた。
あまりにも有名な人なんだけれど、なかなか手をつけられないでいた。
「乱菊物語」から始まる全集。…夢中で読んでいたのに、え、前編で終わり!?そんなことってある?ここからがおもしろいに決まってるやん。とがっかりしていたら、なんと本当に未完のままとは…。
「吉野葛」「西湖の月」はエッセイと間違うほどにリアルだったし、「蘆刈」も最後の方までは実話だと思っていた…。
本当のようでフィクションとは、してやられたり。
「厠のいろいろ」こそがエッセイなのだけれど、ここまでリアルにトイレのこと、しかも当時は水洗式じゃないトイレについて書くなんて…そこはリアルを追求しなくても…。
巻末の解説や年表を読むに、谷崎さんは多作な人であり、恋愛沙汰も多く、2回も離婚している。
恋愛を小説にし、小説のために恋愛するような。人生すべてが小説と結びついているような、そんな人生を歩んだ人なのだ。そして、引越ししすぎでは…。気が休まらないように思える。けれど、それもまた小説の糧になったはず。続きを読む投稿日:2023.09.03
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