この作品のレビュー
平均 3.5 (4件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
「日本書紀」「古事記」に登場する大王オオサザキ(仁徳天皇)と大后イワノヒメの夫婦の物語を中心に、大王の弟・隼別王子とその恋人・女鳥姫が謀反の悲劇に流されていくドラマが描かれる。
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舞台は大和朝廷。大王にのぞまれた美しい女鳥姫が、大王の求愛を退け、大王の弟・隼別王子と恋仲になったことから悲劇は始まる。大王は2人を引き裂こうとするが、嫉妬心の強い大后の計略も加わり、若い2人は「謀反」というかたちで愛を貫く。絶頂で摘み取られた若く輝かしい愛は、その後の大王と大后の関係に、深く深く影響を及ぼしていく。
前半の隼別王子たちの若く激しい愛に対して、大王と大后の愛憎は、まるで灰の中の炭のように静かに、不気味にくすぶり続ける。この鮮やかな対比が、男女の愛のたよりなさをあぶりだし、歳月というものの残酷さを思わずにはいられない。
30年前に読んだ私は、前半の隼別王子・女鳥の悲恋があまりに甘美なのに対し、後半は読後感が悪く、大后を好きになれなかったのを覚えている。しかし、今は、大王と大后の「悲劇」に涙が止まらなかった。求める「愛のかたち」が違えば、時にそれは、憎悪しか生まない。いつの時代にも、どんな関係性にも繰り返される永遠のテーマなのだろう。
だが、私がこの物語に最も強く惹かれたのは、大后の身を切るような「女のプライド」にある。大后は、大王が若い愛人を手に入れたことをきっかけに、自分の権威の衰えを自覚し、大王のもとを去る。大王は、弱った大后の姿に、ようやく何かしらの情を感じ得たのかもしれない。大后を迎えにいき、「我々には夫婦としての絆・歴史があるじゃないか」と説得を試みる。もしも、大后がその言葉を受け入れられるような女であれば、この物語は本当につまらないものになってしまっていただろう。もちろん、作中の大后は帰らない。謀略と嫉妬の象徴であった大后イワノヒメが、最も身近に、愛おしく感じられたシーンであった。
ところで、「古事記」では、大后は大王の説得を受け入れ、一緒に宮に帰っている。一方、「日本書紀」では「帰らなかった」と記録されている。いずれが事実かは知るよしもないが、本作の作者である田辺聖子さんは大后を帰さない選択をした。私も大いに賛同する。田辺さんは著書「田辺聖子の古事記」で、大后について「イワノヒメの自我とプライドは美しい」と述べている。古来、大后は嫉妬心の強い女性として、ネガティブなイメージで受け取られがちだったという。だが、それは主に男性からみた価値観ではなかったか。田辺さんは、そんな既成概念を軽やかに乗り越え、大后を「普遍的な一人の女」として見事に描ききったと感じる。
この作品は、「日本書紀」や「古事記」の場面場面がきりとられ、時系列も含めて、見事に再構成されている(古事記と日本書紀ではそもそも時系列や史実が微妙に食い違っている)。実はこれこそが真実歴史であったのでは、と錯覚するほどの説得力。田辺さんの力量と造詣の深さに、改めてため息がでる。名作。
さて、これをを20年後に読んだ時、果たして私はどんな感慨を抱くのか。楽しみだ。投稿日:2023.04.08
このレビューはネタバレを含みます
短いページで一人称の視点がコロコロ変わる。
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突然出てきたこともない付き人とかの視点になる。
読みにくさを感じてしまった。
読者にこびていない書き方だ。有名作家さんだから本にできたのだろう。
作者さんは…こういう書き方をしたい、と決めて、それをつらぬいたのだと思われる。
内容はすばらしいんだけど……うーん、やっぱりこの内容なら、ひっかかることなく三人称で全部を読みたかったなあ。
一人称で誰かの視点になって読まないといけないと疲れる。続きを読む投稿日:2020.12.19
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