でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―
福田ますみ(著)
/新潮文庫
作品情報
「早く死ね、自分で死ね。」2003年、全国で初めて「教師によるいじめ」と認定される体罰事件が福岡で起きた。地元の新聞報道をきっかけに、担当教諭は『史上最悪の殺人教師』と呼ばれ、停職処分になる。児童側はさらに民事裁判を起こし、舞台は法廷へ。正義の鉄槌が下るはずだったが、待ち受けていたのは予想だにしない展開と、驚愕の事実であった。第六回新潮ドキュメント賞受賞。
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商品情報
- シリーズ
- でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―
- 著者
- 福田ますみ
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2010.01.01
- Reader Store発売日
- 2016.11.04
- ファイルサイズ
- 0.7MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (142件のレビュー)
-
小学校の先生をしている知り合いに本書を読んでもらったところ、「自分も思い当たる節がありすぎて、読むのが辛かった」と漏らしていた。教師という仕事は、親に絶対逆らえず、身に覚えのないことであっても「私がや…りました」と言わざるをえない。自らの言葉によって追い込まれた川上と自分の立場を重ね合わせて、「他人事ではない」と感じたとのことだった。
本書は、全国で初めて「教師による児童へのいじめ」と認定された事件の裏を辿ったノンフィクションである。
主人公は、「史上最悪の殺人教師」として全国のワイドショーに報道された川上譲(仮名)。
教え子の裕二に対し、10秒以内に帰り支度をできなければ、「ピノキオ」(鼻をつまんで血が出るほど引っ張る)」やミッキーマウス(耳を割けるほど引っ張って持ち上げる)といった「刑」を執行。また、「お前のような穢れた血の人間は生きている価値がない。早く死ね、自分で死ね」と罵倒して自殺を強要させていた。
まさに全国の親子を震撼させた事件であったが、その真実は、被害者とされた浅川裕二(仮名)の親である和子と卓二によるでっちあげであった。
読んでいてゾッとすると共に怒りが沸いた。
どうして無実の人間が、ここまでへりくだらなければならないのか。何故やったこともない体罰を認め、親の一方的な言い分に頭を下げ続けないとならないのか。
その理由は、教師と親の間には王様と農民ほどの身分の違いがあるからだ。
いまやモンスターペアレントという言葉が有名になっているが、そもそも、相手が悪質なクレーマーでなくとも、教師は親の言うことに絶対服従を強いられる。保護者トラブルは言った言わないの水かけ論が常であり、また、最低でも1年間、最長では6年間も同じ人間を相手にし続けなければならない。そのような閉鎖的な環境では、例え身に覚えが無くとも「私が悪かったです」と言うことが、トラブルを避けるためのテクニックになる。
「保護者と教師は同等じゃないんですよ。教師の方がなにごとも一歩下がって対処しないとうまくいかないんですよ」
文中で川上が語るこの言葉こそが、教師という職業の厄介さを物語っているだろう。
またそれと同時に、校長や教頭など上の立場の人間は、現場の物事を理解しようとせずに謝罪を強要するきらいがある。彼らにも「保護者は絶対だ」という意識が刷り込まれているからだ。
本書では、校長が最初から「わたしに責任は無い」と決め込んだのが混乱の発端だった。生徒と教師を統べる人間として、自らの責任も追及されることがあれば、より正確な現状把握に努めるはずである。しかし、結局のところ管理者責任を被ることなく、川上という一教師を切って騒動を鎮静化しようとした。その結果が、全国のワイドショーを賑わせ裁判にまで発展する事態となった。
教師という弱い立場の人間を、保護者という立場を利用して痛めつけ、自分が望む行動を強いる。周囲の人間も、「大人と子ども」という力関係から、教師のほうが嘘をついており、体罰はあったに違いないと決めつける。こうした虚言と思い込みが暴走する恐怖は、川上の陳述書にはっきりと記されている。
「本件に関与している専門家の集団である弁護団も、裕二君の精神科の診療に関与した医師も、マスコミも、福岡市も……、まるで、裕二君自身の問題点や、ご両親自身の問題点などについては、それがまるで聖域であるかのように、一切検証することなく動いています」
この事件は、「自分に都合のいいように物事を進める」人間たちが生んだ惨劇である。
親である和子や卓二の虚言はもちろん、センセーショナルな記事を書いて国民の関心を焚きつける一方で、間違った報道に対しては反省もしないメディア。また、自己保身に走るあまり、教師を切って事を収めようとする校長と市教委。全ての人間が川上を「殺人教師」と決めつけ、事実とウソの境界が曖昧になっていく。もはや引くに引けなくなった結果、「茶番」としか言えない民事裁判が行われてしまった。
現職・前職が教師の方はぜひ読んでみて欲しい。気分が悪くなるかもしれないが、それほどこの事件は骨身に染みる。そう思える本だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
余談だが、この事件、「どうしてそうなるんだ」とツッコみたくなることがいっぱいある。
例えば和子が証言するミッキーマウスやピノキオ。「体が宙に浮くほど強く耳を引っ張って持ち上げる」だとか、「鼻をつまんで鼻血が出るほど強く振り回す」だとか、聞いただけで「そんな無茶苦茶なことしてればバレるわ」と言いたくなる。また、小学校に近づくだけでPTSDが発症する子が、友達と校庭で元気よくサッカーしていたり、川上が撮る写真に笑顔で映っていたりだとか、「少し考えればおかしいと分かるだろう」と言いたくなるほど嘘が粗い。550人の弁護団は途中で不審に思わなかったのか謎である。
極めつけは和子と卓二。嘘を嘘で塗り固めていた彼らだったが、相手に謝罪させるだけでは納得せず、裁判を起こすなど正気の沙汰ではない。裁判で真偽が問われれば、見せかけの嘘など平気で暴かれる。バレたらまずい、などとは考えていないのだろうか。
しかも、この嘘をさらに厚塗りするために、裕二に転校を強いて、インターナショナルスクールにまで通わせているのだ。どういう思考回路なのだろうか。
読んでいて、本当に恐怖を感じた。
1人の教師がいじめによって追い詰められていく様と、関係者たちが嘘によって狂気的な行動に駆られていく様の、2つの理由で。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
●浅川裕二:他の子どもに暴力をふるい、問題行動を起こす問題児。
●浅川和子と卓二:「川上先生は裕二に体罰をふるっている」とでっち上げ、民事裁判まで起こした筋金入りのモンスタークレーマー。
「血」の問題で生じた裕二への漠とした負い目と、他人に異を唱えられない生来の気の弱さ。そこへ執拗に、「体罰をやっただろう」「子供が見とった」と追及され、川上は困り果ててしまった。さらに、自分のことで校長や教頭に面倒をかけたという気兼ねもあいまって、彼らの望む方向へ迎合する心理が働いた。
そして、「自分が謝れば丸く収まるから」という理由で、消極的ながらも体罰の事実を認めてしまったのだ。
川上の謝罪を見た和子と卓二は、「体罰があった」という情報をマスコミにリーク。A小学校には全国からマスコミが押し寄せるようになった。
A小学校の校長は、このマスコミ対応で最悪の行動を取る。川上を軟禁状態にし、マスコミとの窓口を自身に一本化した校長は、川上に不利な証言をし、トカゲのしっぽ切りを図ったのだ。校長と市教育委員会のコメントを得たことで、ほとんどの記者たちは、体罰は事実なのだとほぼ断定してしまった。
川上は、全く身に覚えのない言いがかりをつけられ、何が何やらわけがわからないままにあれよあれよと大騒ぎになり、マスコミにまで叩かれた揚句、とうとうA小学校を放逐されてしまったのだ。
その後の市教委での事情聴取は、一転して「自分はやっていない」との立場に回るも、下された処分は「6か月の停職」。相当な重さであった。
朝日新聞、西日本新聞、週刊文春などが川上を「殺人教師」と報道し、全国に「福岡殺人教師」事件が知れ渡ることになった。
そして、浅川裕二とその両親は、裕二のPTSDを理由に、川上と福岡市を相手取って約1300万円の損害賠償を求める民事訴訟を福岡地裁に起こした。
驚くべきはこの偽の証言に加担した人間の数。校長、教頭、市教委、主治医、550名の原告人弁護団(福岡県弁護士会のほぼ1/3)、週刊誌、新聞記者、ワイドショーのコメンテーターなど、ありとあらゆる人間が川上を「殺人教師」と見なし、嘘の報告・報道を行っていたのである。
こうして口頭弁論が始まったが、和子の証言に疑わしい部分が見つかっていく。結局、いじめの原因とされていた「裕二にはアメリカ人の祖父がいる」は真っ赤な嘘であった。
また、裕二のPTSDは、和子の話の中でのみ存在している疑いが次第に強まっていった。
裁判の判決は、「福岡市は、原告裕二に対し、220万円を支払う。原告裕二と卓二と和子の請求は棄却」だった。川上がしたとされる行為は、「原告らの主張するいじめ行為に比べて相当軽微なものであり」、PTSDを引き起こすほどのものではなかったと判断されるも、体罰やいじめの一部が認定される結果となった。
どうしてこれほどの大騒ぎになったのか。マスコミは、校長が認めた、市教委が認めた、精神科医がPTSDだと診断したからだと言うが、真相を探る方法は他にもあった。にもかかわらず、誰もが思い込みと憶測で話をし、裏を取らなかった。バイアスのかかった一方的な情報が人々を思考停止に陥らせ、集団ヒステリーを煽った揚句、無辜の人間を血祭りに上げたのだ。
教師という弱い立場の人間を、保護者という立場を利用して痛めつけ、自分が望む行動を強いる。周囲の人間も、「大人と子ども」という力関係から、教師のほうが嘘をついており、体罰はあったに違いないと決めつける。こうした虚言と思い込みが暴走する恐怖は、川上の陳述書にはっきりと記されている。
「本件に関与している専門家の集団である弁護団も、裕二君の精神科の診療に関与した医師も、マスコミも、福岡市も……、まるで、裕二君自身の問題点や、ご両親自身の問題点などについては、それがまるで聖域であるかのように、一切検証することなく動いています」続きを読む投稿日:2021.08.05
すっごい さくっと読めました
アメリカかぶれで、目立ちたくて、人を言いなりにして、全部人のせいにしたい人ってこうなるんだな、怖いなって思いました投稿日:2024.03.16
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