朝日のようにさわやかに
恩田陸(著)
/新潮文庫
作品情報
葬式帰りの中年男女四人が、居酒屋で何やら話し込んでいる。彼らは高校時代、文芸部のメンバーだった。同じ文芸部員が亡くなり、四人宛てに彼の小説原稿が遺されたからだ。しかしなぜ……(「楽園を追われて」)。ある共通イメージが連鎖して、意識の底に眠る謎めいた記憶を呼び覚ます奇妙な味わいの表題作など全14編。ジャンルを超越した色とりどりの物語世界を堪能できる秀逸な短編集。
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商品情報
- シリーズ
- 朝日のようにさわやかに
- 著者
- 恩田陸
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2010.06.01
- Reader Store発売日
- 2015.05.22
- ファイルサイズ
- 1MB
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この作品のレビュー
平均 3.4 (155件のレビュー)
-
“世界で一番美しいのはだあれ?”という問いかけに、”それは王妃様です”と答えるのは魔法の鏡。
子供が7歳の誕生日を迎えた日に同じ問いかけをした王妃。今度は”それは白雪姫です”と答えた魔法の鏡。怒り狂…った王妃は白雪姫の殺害を命じます。命じられた猟師が不憫に思ったことで死を免れた白雪姫は七人の小人の家に辿り着きます。お腹が空いていた白雪姫はスープを飲み、パンを食べ、ぶどう酒にも口をつけた後、その家で眠ってしまいました…というのは童話の名作「白雪姫」。そんな名作に、
『それっていけないことなんじゃないの?』
『見ず知らずの人のうちに入って、飲み食いして、勝手に寝ちゃったんだものね。今だったら、そのうちの人に、おまわりさんを呼ばれても不思議じゃないよね』
といきなり天下の名作に突っ込みを入れる冒頭。う〜ん、物語の本編に入っていく前にそんな風に突っ込まれたらグリム兄弟も立つ瀬がありません。『正式に児童文学としての依頼を受けて書いた、初めての短編』とそんな突っ込みから始まる物語を書いてしまう恩田さん。実に恩田さんらしい内容に思わずニンマリしてしまう、そんな短編が14も詰まったとても贅沢なこの作品。「朝日のようにさわやかに」と恩田さんが名付ける作品が、その書名通りの内容じゃないのは、恩田さんを読んできた読者なら嫌でもピン!と来るところです。そうです。ホラーあり、ホラーあり、ほら、ホラーがたっぷりのこの作品。でも安心してくださいね。ホラーと言っても恩田さんの描くホラーは一味も二味も違います。ホラー映画は絶対見たくない、見たことないという私が全然平気というのがその証拠です。そう、これはそんな恩田さんとっておきの短編集です。
14もの短編がたっぷり詰まったこの作品。恩田さんらしい雰囲気、展開を存分に楽しめる、そんな作品ばかりです。では、ここでは三つほどご紹介します。
まずは、〈冷凍みかん〉。『あれはもう何十年も前のことになる。早春の頃だった』と過去を振り返るのは主人公の『私』。大学の助教授・Kと大手電機メーカーを退職したばかりのNと共に『東北の内陸部』に旅に出ました。『ローカル線の長い乗車時間を果てしのないお喋りに』費やしていた三人。『通過電車を待つので二十分停車』した電車。『白いペンキのはげた木造のこぢんまりした駅舎の中の小さな売店』が目に入りました。『お、売店があるぞ』、『酒、酒』、『男どうしの旅行で何がいいかって昼間から飲めるところだな』と売店に向かう三人。『褪せたカーキ色の布の帽子をかぶった老人』店主に『じいさん、酒とするめをくれ』、『饅頭も』と話しかけます。そんな時『私は店の隅に置いてある小さなアイスボックスに目を留め』ます。『ずいぶんと年季の入ったアイスボックス』が気になり『中をのぞくと、底の方にだいだい色のものがチラリと目に入った』という瞬間、『冷凍みかんだ』と気づいた『私』。『じいさん、この冷凍みかんも貰うよ』と言うと『老人はハッとしたようにこちらを見た』、そして『あ、そ、それは』と慌てる老人。『皺だらけの顔の中の小さな目が大きく見開かれたと思ったら、突然、ウッと胸を押さえてかがみこむ』という急展開。『あっ』、と『一番近くにいたKが慌てて老人の腕をつかんで支え』ます。『大丈夫か、じいさん』。連絡を受けた車掌が電話で助けを呼びます。『老人はもごもごと口を動かした。震える手を必死に持ち上げ』、『店の、奥、に。箱が。れい、とう、みかん。ここに入れて。あん、ぜん、な、場所に』そう言うと『老人は意識を失』います。『私は老人の耳元で叫んだが、もはや返事はない』という突然の事態。『箱の蓋を開けると、折り畳んだ手紙が入って』いました。『万ガ一の時のためニ、これヲかきます。…あのみかんガ…』。その驚愕の内容に戸惑う三人。でもこの時の主人公はまさかこの冷凍みかんが世界を震撼させる未来に繋がっていくとは思いもよりませんでした…というこの作品。短い中に起承転結がはっきりしていて、かつ、スケール感が絶妙な作品だと思いました。
二つ目は〈水晶の夜、翡翠の朝〉。『湿原に再び初夏が巡ってくる頃、ヨハンは退屈していた』という冒頭のたったこれだけの文章で読者は二つのグループに分けられます。その二つとは恩田さんの名作「麦の海に沈む果実」を既読か未読かの違いです。この作品を既読の方は、もうたったこれだけの文章で目がうっとりしてしまうこの世界の描写。そう、これは「麦の」のスピンオフ作品です。『彼の重要なパートナーである少女はこの早春、一足先に学校を去ってしまった』等々、あれからあの湿原の中に浮かぶ学園がどうなったかを思い起こさせる記述も多々登場し、この短編だけで元が取れたと感じる方も多数いると思います。「麦の」に含まれるひとつの章だったとしても全く違和感のないとてもよくできた短編でした。未読の方はまず「麦の」を先に読みましょう。読中・読後が全く別物になります。
そして三つ目、〈一千一秒殺人事件〉。この作品は、恩田さんの恩田さんたる所以というくらいに恩田さんの魅力が最高に詰まった作品だと思いました。はい、これ、ホラーです。『これからお話しするのは、星に殺された男の話である』という意味ありげな冒頭。『ある夕暮れ、T君はA君と連れ立って出かけた』という二人は『バケモノ屋敷に向かうところ』でした。その屋敷は『次々と起きる異変に皆真っ青になって逃げ出してしまい、一度この家で夜を過ごした者は二度とやってこない』という恐怖の館。そして、そして、そして〜『空に子供が浮かんでいた。よく見ると、それは古びた大きな市松人形である』、『襖がドンドンドンと叩かれ始めた』、『目の前に巨大な三日月が二つ、すうっと昇ってきた。三日月は瞬きをし、「にゃああ」としゃがれた声で鳴く。生温かい、巨大な舌が伸びてきて、二人の身体をぺたんと覆ってしまう』。思わず出てしまう『うわあ』という叫び!ホラーーーーーーー!怖いよ〜、私はホラーなんてまっぴらごめんだー!という方もいらっしゃると思いますが、これは恩田さんの描くホラーというのが味噌です。上手いな〜という感想で終わる恩田さんのホラー。短編集「私の家では何も起こらない」も絶品でしたが、これも悪くないです。
その他にも『かつて人間の身体に付いていたものって、身体を離れると、どうしてああもおぞましいのかしら』という身近な不思議。『髪の毛だって、恋人の頭についていればとても愛おしいのに、離れてしまうとあんなに嫌なものってないわよね』という、そうだ、そうだね、と納得してしまう〈深夜の食卓〉。『二十枚以内で』という条件の元『スプラッタ・ホラーをやってみた』という〈卒業〉。『どこからが作り話かは、ご想像にお任せする』というエッセイのような〈朝日のようにさわやかに〉などなど14編からなる恩田さんの短編の世界。恩田陸さんという作家さんの魅力をこれでもか!と満喫できる、そんな短編集の傑作でした。続きを読む投稿日:2020.07.27
「水晶の夜、翡翠の朝」
ヨハンの後日談?スピンオフ?を読み返しにきました。そしてまた『麦の海に沈む果実』読もっかなって。
「ご案内」高圧的注文の多い~
「あなたと夜と音楽と」ラジオパーソナリティ
「冷…凍みかん」グロい蜜柑、スーパーボールみたいなものを想像します
「赤い毬」これは…暗示されているものは…月経や妊娠??
「深夜の食欲」疑心暗鬼のホテルのボーイ、深夜のルームサービス
「いいわけ」
「一千一秒殺人事件」
さらっと“鈍色(にびいろ)”が登場して、このあと読むつもりの新作が思い浮かぶ。ずっと大好きな作者ですが、こういう言葉の選び方がとても好きです。
箱庭を眺める擬人化された星、、、最近アンデッドアンラックで似たような概念を感じた
「おはなしのつづき」
この物語はどこに向かっているのか、、、とぞくぞくする
⇒これ国語の時間に読んで状況を想像して書くっていう授業してみようかな
「邂逅について」この少女は作者自身?そして『麦の海に沈む果実』の構想を練っているように感じてドキドキしました
「淋しいお城」みどりおとこ、、、このあと本編を読みます
「楽園を追われて」
「卒業」スプラッタ!!『錆びた太陽』(2017刊なのでかなり後の作品ですが)を思い出す
「朝日のようにさわやかに」
デジャブの突き止める、自分の中にだけある連想ゲームのように浮かんでくる記憶を列挙する、とりとめもない心の内を明かしていく内容、好きです続きを読む投稿日:2024.03.17
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