パウロ・フレイレ「被抑圧者の教育学」を読む
里見実(著)
/太郎次郎社エディタス
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「現代の古典」ともいわれ、世界中で読み継がれている教育思想と実践の書『被抑圧者の教育学』。ブラジルの教育思想家パウロ・フレイレの思想と方法は、死後、ますますその重要性が明瞭になってきている。人間を「非人間化」していく被抑圧状況の下で、人間が人間になっていく可能性を追求したフレイレの主著を、10のテーマから読み解く。オリジナル・テキストからの訳とともに。
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この作品のレビュー
平均 2.5 (3件のレビュー)
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国際識字年のころ、大阪でフレイレの講演を聞きにいったことがある。たしか大学の2年のときだ。これでフレイレの言葉や姿を鮮明におぼえていればスバラシイのだが、あいにく私がその講演でおぼえているのは、通訳を…していたHさんの声ばかりなのだった。私はフレイレが語るところではウトウトして、Hさんの声で覚醒し、Hさんの講演を聞いたような気分で帰った。なんだか大層な会場だったなあという雰囲気はぼんやり記憶にあるものの、肝心のフレイレの姿も声もおぼえてないのが今思うとモッタイナイというか、残念。
フレイレといえば「識字」と思うが、フレイレのいう識字は字が書けるとか読めるというだけのことではなかった。フレイレは、世界を読むこと、世界と自分の関係を変えていくことだというのだった。
巻末の座談のなかで、里見さんが「世界を読む」ことについてこう語っている。
▼われわれは世界のなかで、世界の一部として生きているのですが、読むというのは、読まれる対象である世界と、それを読む自分とを意識的に分離する行為なのです。世界のなかに生きている自分が、その世界を(もちろん自分を含めての世界ですが)あえて読む対象としてとらえ返すのですね。それはいわば指向的に世界と向きあう行為で、自分が生きている世界を距離をおいてado-mirarする(つまり意識的に「注視する」)行為、現実を異化し問題化する行為なのです。このフレイレの洞察は読み書き行為の本質を深くついたものだと思います。世界と向きあうという身のおき方がなければ、真の意味でのliteracy(リテラシー)はうまれてこないのです。(p.255)
この本は、里見さんが2008年におこなった公開講座をまとめたものに、座談と大沢敏郎さんへの追悼文があわせておさめられている。
大学生だった私がよく読んだフレイレの本は亜紀書房から出ていたオレンジの表紙の『自由のための文化行動』で、大学の図書館で何度も借りた。近所の図書館にはなくて、ヨソからの相貸でこないだ久しぶりにこの本を借りてみたら、巻末には先日読んだ『生きなおす、ことば』の大沢敏郎さんによる「補論」が収められていた。
同じ亜紀書房から出ていた緑の表紙の『被抑圧者の教育学』は、難しかった、よくわからんかったという印象が強い。
里見さんは公開講座の際には、ポルトガル語版からの試訳を配られていたそうだ(この本にはフレイレの論を考えていくうえで最低限必要な部分が収録されている)。いまポルトガル語版からの翻訳が準備されているというが、ポルトガル語版と英訳版はかなり相違しているらしい。亜紀書房から出ていたのは英訳版からの訳だから、そんなに違うんやったら、新訳を読んでみたいなあと思う。
でも、この里見さんの手引きと一緒に、とりあえず亜紀書房の緑の本をまた借りてきて読んでみようかと思う。続きを読む投稿日:2010.05.12
人文知というのは、ことばによって、目の前の世界を意識化すること。意識化すると、状況に埋め込まれ絶対的であったものが、相対化される、そこに抑圧からの解放への道筋が出てくるのだと思う。
以下引用
人は…対話する、世界を言葉でとらえるために
★普及の場合は、伝達する側の人間と、伝達される側の人間の立場が固定していて、つねに主体であるだれかが客体であるだれかにたいして普及を行っている。
コミュニケーションの場合は、語り手と利き手、伝える側と伝えられる側が絶えず、入れ替わる。話すものが聞く者となり、聴く者が話すものとなる。そうした相互的な伝えあいを通じて、新しい何かがそこで創造されていく。あらかじめ用意されたものが伝えられるだけでなく、情報の交換と共同の思考をとおして、その場所で新しい内容が生成する。
→あわ居はこれがしたいんだろうな。「世界を直視することばを探究する」ことによる、抑圧からの解放と、新たな世界の創造。そこに重要な働きをするのが「(こおとばを探究することを通した)意識化」ということなんだろうな。
伝達や普及は結局、抑圧の行為。
抑圧の行為としての教育を、解放の行為としての教育に変えていくのが、対話
★★フレイルが対話やコミュニケーションというとき、それは現実を媒介にした対話。自分たちが投げ込まれた世界についての対話。間合いをおいて、世界を見つめ、それに向かって問いを発し、さまざまな考えをおたがいに出し合いながら、考察を不可え、問題解決の行動を模索する「意識化」の実践。
解放の実践としての教育。それをおこなう主体は人々自身であり、すべての主体の行為がそうであるように、それはみずからの経験、世界認識から出発し、それを踏まえつつ、しかしそれを乗り越えていく「学び」の過程として、組織されるものでなければなりません。
厚く閉ざされた現実のとばりの向こうに、ありうべき未然の可能性を探る、知的な長征でなければならない。沈黙の文化に閉ざされた民衆にとって、それは容易なことではない。しかし、自分たちの現実を見つめ、相互の対話を通してその省察を深めるとき、人々はみずからの言葉を発言する。
→つまり、言葉の抑圧や、感覚の隠蔽(意識下からの逃避)が、支配や従属的な生を助力することに働いてしまっているということかな。
真の言葉をいうこと、それはすなわち世界を変える労働であり、実践であるのだが、しかし言葉を発するというそのことは、だれか特定の人間の特権ではなく、すべての人の権利。
対話とは、世界を媒介にして、世界を言葉でとらえるためのもの。
言葉を発し、世界を言葉で表現することによってそれを変えていくのが人間である。
言葉で世界をとらえ、心理を探究するという共同作業。世界を変革し、人間化するための活動と省察続きを読む投稿日:2021.12.26
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