いるべき場所
ECD(著)
/メディア総合研究所
この作品のレビュー
平均 4.0 (4件のレビュー)
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亡くなってしまったラッパーECDの音楽遍歴を通じた自伝。アル中体験を私小説にした「失点インザパーク」など他の本で読んで知っていたこともありつつ日本のヒップホップの第一人者として貴重な証言が残っていて…オモシロかった。
前半は幼少期から思春期までのあいだ、どのような音楽が好きだったのか?めちゃくちゃ丁寧に掘り下げられている。60〜70年代の日本におけるロックの在り方やそれを著者がどのようにアンテナを張りキャッチしていたか、本当に音楽が好きだったんだなと伝わってくる。また著者がラッパーとしてラップするトラックがオーセンティックなヒップホップのトラックではなく独自のサンプリングソースを使っていた理由も子どもの頃から思春期まで幅広い音楽の趣味を持っていたことに起因することに納得した。
日本のヒップホップ好きとしては88年以降、日本でどのようにヒップホップが根付いていき、さらにそこで著者がどのような役割を果たしていたのか、これまた細かく記録されていて一次資料として「こんなことがあったのか」という発見と驚きがあった。さんぴんCAMPを主催したことが著者の裏方的活動で一番フィーチャーされていることだと思うけどシーンがまだまだ小さかったこともあって他の色んなところでも貢献していたことも知れて良かった。(「証言」のレコーディング費用を負担するなど)シーンが小さかった一方でこの頃の音楽業界にはお金が潤沢だったんだなというエピソードも多い。結局ポップスで景気良ければ会社は新しい才能へ多く投資できる、この当たり前の事実にも気付かされた。また最後には著者が亡くなる直前までデモを中心としてコミットしていた社会運動への参加経緯も書かれていた。「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」に代表されるように自分がおかしいと思ったことに対して思った通り意見を発することは村社会日本だと敬遠される行動かもしれない。しかし著者を含むヒップホップが自分を駆動させてくれるときがある。だからこそECD forever.続きを読む投稿日:2020.09.22
ラッパーということ以外に殆ど知識のないまま、彼の『いるべき場所』を読む。
彼は1960年生。ということは3つ年上。
同世代と言っても構わないと思う。
嗜好はやや異なるものの、それでも音から感受しよう…とする態度、表現行為に対するモラル。
とても近く感じた。
友人の何人かはとても趣味がよい。
最先端の情報から、古き良きものまで、とても素晴らしいインデックスを持っている。
趣味判断の能力がとても高いのだ。
そんな中の一人から、僕はよく笑われる。
何が良くて、そんな駄作を好んでいるのか分からない、と。
残念なことに。或いは幸福なことに。
僕にとって音はただの空気の振動を指してはいない。
それは音を出すレベル、聴く位置の高低、倫理の問題でもある。
ある音を良いと感じる。ある音を良くないと判断する。
その判断の基準は趣味判断ではある。
けれど、その価値観を持つ者は、それを行使するだけの生き方をしているのだろうか。
例えば僕がカザルスの♪鳥の歌を聴くとき、カタロニアへの思いなしには聴けない。
行ったこともなければ、知己もいない、ただ紙の知識でしかないカタロニアの音に震える精神は何か。
それが♪アリランになると、もっと複雑な気持ちになる。
父の捨てた故国の唄は、国籍のないまま、呼び名だけ持つ男の何なのか。
そして更には、今此処という場所は僕にとって何か。
言葉遊びだ。
No-Where 何処でもない = Now-Here 今此処…・
そんな言葉遊びにすら強い酒でなければ消せない痼りを生む。
彼、ECDはいるべき場所に辿り着いたのか、僕は知らない。
彼は今そう思っているかも知れないけれど、未来に於いてもそうか僕の知る由もない。
ただ彼は求め続けていた。
そして、そこに出てきたインデックスに失笑する者もいるだろうことは確かだ。
でも僕のように「何処でもない」と「今此処」の往還だけで生きている者は笑えやしない。
彼は求め続け、そして、今いる場所をいるべき場所としたのだ。続きを読む投稿日:2010.11.19
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