この作品のレビュー
平均 3.7 (16件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
単行本は1941年。
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なんとなく小粒な小品集と思い川端マラソンの最後のほうにしてしまったが、意外にいい作品が多い。
とはいえ川端のヘキ(性癖!)や生涯が見渡せるようになったからこその味わいなので、初心者向けではなさそう。
川端を読む中で俄かに親近感を憶えてしまう小谷野敦がamazonレビューにて、
「決定的に川端が好きになった一冊
2012年4月4日に日本でレビュー済み
昭和戦時中とも言うべき時代に書かれたものだが、いくらかの通俗味を帯びつつ、川端の最もいい部分が出た短編集である。甘からず辛からず、川端文学の中核をなすともいえる作品集である。」
と。わかっとるやんけ同意っすよ、と背中をバシバシ叩きたい。
■「母の初恋」1940★
佐山、民子と恋愛。
民子、別の男と結婚。
佐山、11歳若い時枝と結婚。
6年前、ボロボロになった民子が訪ねてきて、自分にもしものことがあったら娘を頼むと。
佐山と時枝、民子の遺児、16歳の雪子を引き取る。
雪子、若杉と結婚。
雪子、失踪。
友人に聞いたら、初恋は結婚によっても滅びないと母が言っていた、と雪子が言っていた、と。
……すごい。すごすぎて笑ってしまった。
佐山=川端、民子=初代、時枝=秀子夫人、雪子=初代の娘。
実人生を題材にした小説ばっかり書いてきた川端だが、ここで究極のドリーム小説を書いた。
若き日に自分を捨てた初代が、作家として成功しつつあった8年前に会いに来た。
そのとき娘がいると言っていたが、その娘を引き取ったら……というドリーム。
その娘が「ほどよい年齢」に成長したときに自分を愛してくれたら……というドリーム。
初代への愛惜と、あるかもしれなった未来を仮構して、執筆現在時点の自分を満足させる……というドリーム。
あの女と同じ顔の、より若い娘が自分を愛してくれたなら……というドリーム。
最高にキショやばい。
■「女の夢」1940
久原健一は35歳で結婚。治子は27歳。
婚期を逃したのは、以前治子への恋のために死んだ従兄があった、その事件のためにその後婚約話のあった片桐から破談されたからだ。
と治子から告白される。
新婚旅行の夜、治子は従兄の夢を見た。
……女性の側からの、男性への批評的視点。
■「ほくろの手紙」1940
わたくしには子供のころから首のほくろを触る癖がありましたが、それがみじめに見えるからやめろとあなたは蹴ったり殴ったりしました。
いまは実家に帰って、母に訊きましたが、子供の頃、父母がいとおしそうに癖の話をするから、続いていたのではないかと思いました。愛する人達を思うために触っていたのではないでしょうか。
……「愛する人達」という総題につながる一文がある。
この小説を「いいお話」とする価値観が、80年前にはあったのだろうか。
■「夜のさいころ」1940★
旅興行。
水田は隣の部屋のさいころの音が気になる。
みち子が真夜中に、五つも転がし続けているのだった。
年かさの仙子という女優から、母親譲りのさいころだと聞く。
水田は海へ投げ捨てた。みち子は別段怒りもせず。
一か月後、化粧道具を買ってやろうとすると、さいころを買ってくれという。
占ってくれよ、一が出たら、恋愛しようか。
あるとき花岡という男優が、みち子は幼い頃にいたずらされてしやしませんか、と話してくる。
別の日、五つすべて一が出る。
……「伊豆の踊子」裏バージョンとして称揚したい作品。
視点人物である水田が、とにかくいけ好かない奴。
川端の自分モチーフ小説ってほぼ全部そうだが、でも本作では、見下しながらも恋着する相手が奇蹟を起こすシーンが、小説として素晴らしい。
脈絡のない連想だが、吉村萬壱「ハリガネムシ」の視点人物と思い出した。
■「燕の童女」1940★
牧田と章子が新婚旅行で乗った列車。
幼いアイノコの少女が気になる章子。
……さわやかな読後感。
倦怠期に突入した夫婦でも、こういう瞬間の思い出を共有しているからこそ、続く。
新婚旅行で「額縁に入れておきたいシーン」が得られたのは、幸せなことだ。
■「夫唱婦和」1940頃★
牧山の靴下は延子がはかせてやる。
延子がそうするのは父母の習慣を真似てのことだ。
記憶力がないという牧山が、僕のぶんも憶えてくれおいてくれよ、老後の楽しみになるから、と。
延子の母が死んだ。延子の母が、夫の妾の子の桂子を養っていたが、桂子を延子らが引き取ることになった。数歳しか違わない。
牧山の助手の佐川が桂子を愛しているように思われる、が、実は佐川が思いを寄せているのは延子で、桂子がかばっているのだとわかる。
はじめて姉妹のような気がした。
……これもまた女性側の批評、にして、川端が若い娘を引き取ったことを、秀子夫人視点からも「よきこと」と思える、というエグい一面もある。
wikipediaの脚注に「この年(1931)に大宅壮一の妻・愛子が死去したため、大宅の家にお手伝いに来ていた青森県八戸市出身の少女・嶋守よしえ(小学校5年生)を川端宅で引き取ることとなり、よしえのきちんとした身許保証人になるため夫婦の籍を入れたとされる[174]。のちに、嶋守よしえの娘・敏恵も、川端家のお手伝いとなる[175]。」と。
その後1943年に政子を引き取って「天授の子」の題材にしたりしているが、うーん……濁った眼の読者には、美談というより、やはり妻=抱く用の女と、清純な鑑賞用の女にして今後抱くかもしれない女を、並べて置いておきたい、という欲望に思えてならない。
■「子供一人」1940
元田は、卒業前の芳子が妊娠したので、結婚した。
年若いので出産も危ういかと思われたが、なんとか。
ところが当初の健気さはなくなり、図太くなる。
人格の変化に驚く。
出産。
……もしも if あのまま初代との関係が進んだにしてもつまらなかっただろう、と自分に言い聞かせている?
■「ゆくひと」1940★
少年の佐紀雄は、別荘にて、浅間山の爆発を喜ぶ。
父母から子供っぽいと言われている。
弘子(親戚のお姉さん?)と話す。
泣く。どうして知らない人のところへお嫁に行くの? と。
……いきなり現れた「濁りのない」少年期の話。
三島由紀夫が「きはめてささやかな、小さな水晶の耳飾りのやうな小品」と評しているらしいが、まさに。
これは好きな短編だ。
■「年の暮」1940
加島泉太は、妻の網子、娘の泰子と暮らしていた。
泰子は一度嫁入りしたが、離縁するかもしれず、嫁入り先から戻ってきている。
網子は、あなたは未練がましいと言われている。
正月に作家の色紙を売っているが、10年続けて毎年買ってくれるのが、読者の千代子。
文通し、陰鬱な戯曲ばかり書いているので、もう読まないでくれと言ったり、結婚すると報告されて悔いたり、している。
千代子の夫は戦死した。
……戦後、読者だった少女たちを思う、といった小説があったと思うが、アヤシイ……。
読者=ファンを喰っていたのでは。
弟子にして代筆させて食い物にして。
また読者の若い娘を千代子と名付けているからには、初恋の相手の初代を、作中で若返らせて、その若さを追体験することを、現夫人に強いている、かのような。
子のできない夫人へのハラスメントを込めているのかも。
なんでも川端を茶化したい僻目かもしれない。愛ゆえにである。
◆解説 高見順投稿日:2023.03.27
このレビューはネタバレを含みます
「母の初恋」母子二代の恋…というより母親の方捨てた男に頼るあたりわりと厚かましいな…?
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「女の夢」
「ほくろの手紙」
「夜のさいころ」
「燕の童女」
「夫唱婦和」
「子供一人」
「ゆくひと」
「年の暮…」続きを読む投稿日:2022.04.13
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