ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記
常岡浩介(著)
/アスキー新書
作品情報
プーチンという強力な独裁者により、未曾有の経済発展を遂げたロシア。だがその影で何が行なわれていたのか……。世界紛争地帯の取材を続ける著者が、1年半ものあいだ行動を共にしたチェチェン独立派ゲリラ部隊での体験を綴る、渾身のルポ。野営の日々、地雷原突破、ロシア軍戦闘ヘリからのミサイル攻撃。加えて、元諜報機関員リトビネンコ暗殺事件に象徴されるロシア秘密警察の活動の実態--著者自身がロシア秘密警察に16日間拘束された--や、欧州へ流出しているチェチェン難民の逃避行に同行した体験を記す。
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この作品のレビュー
平均 4.1 (18件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
2008年刊。著者は元NBC長崎放送報道局記者。
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チェチェン(独立派)ゲリラ従軍記の副題は伊達ではないが、その点の叙述はさほど多くはない。むしろ、チェチェン独立派との知遇から、ロシア(プーチン政権)の秘密警察体質、チェチェン紛争に関する、露諜報組織(FSB。KGB後継)の偽装テロ事件工作や要人暗殺。或いはゲリラ組織潜入による情報収集、宣伝工作や情報操作(対外的マスコミ向け)の実態情報を赤裸々に暴く書だ。
確かに、著者自身が偏っていると自認するように、反露・反プーチン・反FSB、反グルジアの観点で叙述する。
が、そもそもゲリラと行動を共にするジャーナリストが皆無な中、余りにも貴重すぎるレポートを送る著者の価値は揺るぎないだろう。
この点、FSBの取調経験者の逸話というだけでも価値があるが、殊に、アレクサンドル・リコビネント元ロシア連邦保安局(FSB)元中佐への直接インタビュー記事は、彼が暗殺?された今となっては、他の追随を許さない、極めて重要な記録であるはず。
また、マスコミの情報取得源が、ロシア公式発表一辺倒という危険性に加え、このチェチェン問題に限られず、日本を含む各国のマスコミ取材の一般的な問題点であり、その取材力の限界、反対側からの情報収集の重要性の高まりに光を当てた書とも評価できそう。投稿日:2016.12.06
「甦る怪物」として豊富な天然資源を背景に未曾有の経済発展の陰で、「闇の戦争」が行われているロシア。本書はフリージャーナリストである筆者が一身を賭して綴った貴重な記録であるいえます。今だからこそ是非。
…
僕がこの問題に興味を持ったのは映画「コーカサスの虜」を見てからで、これが現在でも続くチェチェン紛争というものを知るきっかけになりました。筆者はフリージャーナリストとして世界各国の紛争地帯を渡り歩き、ここでは1年半ものあいだ行動を共にしたチェチェン独立派ゲリラ部隊への従軍取材や、取材中のイングーシ共和国でのロシア秘密警察(通称「FSB」)による拘束などの経験を通して、われわれが知ることのないロシアの持つ「暗部」を白日の下にさらしていきます。
おそらく、彼がもしロシアを拠点としたジャーナリストであるならば、確実に「不審死」を遂げていたであろうな、ということが全編にわたって描かれており、文字通り体を張って従軍した経験からつづられるチェチェン紛争の内幕は壮絶の一言で、知らないところでここまでのまさに「血で血を洗う」ような恐ろしいことが行われていることには戦慄を隠せませんでした。
さらに筆者は特務機関であり秘密警察のFSBに長期間拘束されるという経験を持っているわけですが、おそらく彼自身も彼らの監視下に置かれているだろうな、という予想はつきますし、取調べの最中に日本語を話す連中がいたことに筆者は驚いておりますが、佐藤優氏の著作によると、彼らの中には現在の日本語のみならず、沖縄の方言である「ウチナー口」を完璧に操り、日本の古典文学を原文で読み込んでいる方がいるそうなので、さもありなんという思いがありました。
本書もロシア語に翻訳され、その内容は本国に「資料」として保管されているであろうということは容易に察しがつくのです。本書の巻末には、「不審な死」を遂げたアレクサンドル・リトビネンコ氏と友人であった著者が2004年に2回に渡って行った彼へのインタビューの全文を掲載しています。その内容がまさに「おそロシア」を地でいくもので、FSBの恐るべき諜報活動の実態にはじまって ロシアの今の繁栄がどのような犠牲の上に成り立っているのか、さらにはプーチンから大統領職をバトンタッチされた当時のメドベージェフはどのような宿題を渡されたのか。などが語られ、本当に貴重な話で、まさに「いのちの言葉」と呼ぶのにふさわしいものでした。
2012年時点で再度、プーチンへの大統領返り咲きが果たされたからこそ、本書の「価値」というものがあるのではないのでしょうか?続きを読む投稿日:2013.07.05
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