帽子蒐集狂事件
ディクスン・カー(著)
,宇野利泰(訳)
/グーテンベルク21
作品情報
「不可解な謎とその合理的な解決」を信条としたディクスン・カーの本格ミステリーの代表作のひとつ。舞台は陰惨な伝説にみちみちたロンドン塔、その中の、そのむかし反逆者が夜、テムズ川から船に乗せられてこの塔に収容されるときに使われた逆賊門(トレイターズ・ゲート)で、殺人は起こる。濃霧につつまれたなか、昼なお暗いその構内に、シルクハット!をかぶり、中世の鉄矢で背中を射られた死体が発見されるのだ。
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この作品のレビュー
平均 3.5 (2件のレビュー)
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帽子蒐集狂事件
前半はかなり退屈。後半からはフェル博士のキャラ全開。トリック的には普通の作品。
投稿日:2014.01.12
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玩具の価値がわかるかね?名探偵の人生教室
次々と盗まれる帽子、未発見の「世界最初の探偵小説」の草稿、そして霧のロンドン塔で発見された記者の死体(クロスボウの矢に貫かれて)。笑うべきか、怒るべきか、巻き込まれた者に同情すべきか。一筋縄ではいかな…い事件の数々。
関係者の人間性への洞察から真相を見抜き、夢想と現実のはざまで取り散らかった事態の収拾を図るのは、ディクスン・カーの創造した陽気な巨躯の名探偵、フェル博士です。
(1)ロンドンは今日も霧の中
舞台は、シャーロック・ホームズがモリアーティ教授と対決し、ジャック・ザ・リッパーが跳梁した魔都ロンドン。とはいえ、時代は第一次世界大戦後。大英帝国の威光は薄れ、妖気漂うロンドン塔も、観光客が見物に来る歴史の遺物となっています。
作者はアメリカ出身のためか、イギリス人自身よりも、英国らしいシンボルを見つけるのがうまいようですね。まずは、タイトルにもある帽子です。衛兵はカブト。法廷弁護士はカツラ。紳士たちは折り畳み式のトップハット(シルクハットの原型)。
さらに、序盤の舞台となるロンドン塔も素晴らしい。これは作家の筆力によるところが大きいですね。グーグルマップの写真で見ても、この雰囲気は伝わりません。日本の読者としては漱石の「倫敦塔」も思い起こされ、幻想的な英国観光が楽しめます。
この街に登場するのが、真面目なハドリー警部と、明朗快活なフェル博士です。警部が尋問術を駆使する傍らで、博士は犬の頭をなで、玩具のネズミを走らせ、真面目に推理する気があるのやら。
しかし、警部が見せ場を作れば、博士の深謀遠慮はその上を行く。見習い記者ドリスコルの人物像についての分析は見事です。博士は名探偵のお約束通り、最後の最後まで推理を明かさないため、あまり協力的とは言えないのですが、二人の間には、ライバルでも相棒でもない、不思議な信頼関係があるようです。バラバラなようでいて、最後は一致する。なんだか夫婦のようですね。
(2)幻のポオ第1作、鑑定やいかに?
探偵小説への愛着が、本作のサブテーマです。
本作では、エドガー・アラン・ポーによる「デュパンもの」の草稿が、事態を思わぬ方向へ導きます。なんと、「モルグ街の殺人」よりも前に書かれた、最初の探偵小説という設定。これは読んでみたいですね。
しかし世の中、誰もがその価値を認めるわけではありません。名探偵や密室トリックなど、まともな大人は相手にしません。子どもの空想力を備えた大人だけが、それらを楽しむことができます。ポオの草稿は、中身を読まない人にはただの紙切れ。金銭的評価を聞いて初めて、目の色を変えた争奪戦が始まるのです。
つまりこれは、ファン(愛好家)とコレクター(蒐集狂)についてのお話でもあります。やはり、書物は作家の夢。「所有物として能書きや交換価値を競うのではなく、中身を読んで、その世界を生きてほしい」というのが、作者の願いなのでしょう。
なお、物語の本筋には関係しませんが、フェル博士は探偵小説のファン。しかも、自身がその登場人物だという自覚もあります。後の作品では、有名な「密室講義」を展開しているほどです。
この、名探偵をよく知る名探偵は、謎解きゲームに正解し、真相を明らかにすることは目指しません。現実の世界は、人を好きでも嫌いでもない。動機なき偶然が、幸せな人生を悲劇に変えてしまうのです。しかし、人はそのバカバカしさや非情さに耐えられません。フェル博士は、罪を暴き立てるのではなく、犯人を説諭し、その弱さや人間性を自覚させます。そして、償いよりも生きることを願います。これはそう、教育ですね。事件簿というより、フェル先生の人生教室。
「プライアリー・スクール」におけるホームズや、「オリエント急行の殺人」におけるポアロの立場と比較しても面白いですね。
(3)紳士の秘めた激しい情熱
フェル博士を除けば、本作で最も印象的な人物は、地味なレスター・ビットンです。妻に裏切られてもなお、彼女が不当な扱いを受けたことに怒る男。最後まで愛を手放さなかった男。
彼が、その頑固な優しさを貫くことによって、ただでさえ複雑怪奇な事件は厄介さを増します。情け容赦のない現実は、些細な偶然により、彼の愛する世界を完全に破滅させてしまいます。しかし、罪びとたちの心を動かし、告白をさせたのも、また、彼のそうした行いによるのです。ある意味で、彼は最も英国紳士らしい人物といえるでしょう。
彼は立派な大人ですから、フェル博士も説教はしません。名誉ある選択を尊重し、静かに見送るのも、博士の流儀なのです。
ホームズが犯罪学の研究者ならば、フェル博士は愛情あふれる教師です。
密室は気にしなくてもよい本作で、その魅力をたっぷりと味わいましょう。続きを読む投稿日:2018.05.22
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