君たちには分からない―「楯の會」で見た三島由紀夫―
村上建夫(著)
/新潮社
この作品のレビュー
平均 2.0 (1件のレビュー)
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楯の会というと三島を頂点とした完全無欠の準軍事組織という印象があったが、本書を読んでその印象が少し変わった。ただ、それは三島から一番遠くにいた会員という著者による書だからだろうか。
以下、●:引用、…→:感想
●三島は首相からの都知事選出馬依頼を断ったのですが、そのあとで楯の会という民間防衛隊育成に首相の全面的な協力を取り付けたはずです。楯の会設立は、日本国家最大組織の自衛隊が一般学生に銃を持たせて軍事技術を教え民兵軍団に仕立て上げる国家事業です。何の法的裏づけもないのに、マスコミの攻撃も受けず、国会で問題にもされず、是非の議論も起こりません。こんな事が出来るのは考えると不思議なことです。いくら、三島が振りまく漫画的なファッションの目くらましに日本人全員、訳が分からなくなっているとしても、うしろに周到な政府の軍事戦略がないと出来ないことでした。
●なにしろ、三島は個人で日本の民間防衛組織を構築しようとしているのです。大きすぎる構想です。本来、国が音頭を取って実行し、三島個人はその象徴的な看板役やアドバイザー程度が時間的にも金銭的にも限界のはずです。しかし、政府が表面に出て民兵を組織するとなると、野党などから間違いなく猛反発を受けます。そこで、まず三島にさせて、費用まで持たせて様子を見ているのでしょう。
●佐藤首相が三島の自決の際に、三島を狂人と評したのを多くの日本人は覚えていました。一方、三島の民間防衛隊構想とそれに基づく楯の会の構築が首相のお声掛かりで行われたに違いないことは表面に出ないままに過ぎていきました。軍の官僚が新しいことを進めるのに上司に、その上司はそのまた上司に伺いを立てずに行うはずもありません。三島がマスコミにばらまいた楯の会の漫画化や芸術化はその死後も楯の会の本質を覆い隠すのに力を発揮しました。
→暴力団の容認と同じ?間接革命に対する民兵構想が本当にあったのか?
●この夜の三島の話でそもそも体制についての定義が三島と私たちで完全に異なっているのが分かりました。三島の話を敷衍すると三島の考える日本の体制とは第二次世界大戦後に言論界などで主導権を取ってきた社会主義的な人々のことでした。大学ではマルキストの教官たちです。(略)ところが、私たちの頭にある体制とは自民党政権を中心とした自由主義、民主主義、資本主義の社会システム全体のことです。(略)三島のいう反体制は正統的なマルキスト、つまり共産党系に反抗する非共産党系の過激派学生であり自分自身になります。一方、私たちの言う反体制は自由、民主、資本主義に対抗する勢力つまり社会主義者たち全てになります。私たちから見ると共産系も過激派もその違いは小さく、大まかに言えば同じです。
●確かに三島が行ってきたことは、誰にも理解されたことはなかったのです。特に一般自衛官は、三島が臆病風に吹かれた私に言い放ったように「難しい話に初めから興味がな」かったのです。(略)一方、私を含めた楯の会会員たちも三島の行動原理を理解することはありませんでした。三島が決起を打ち明け同道させた数人の会員たち以外に三島事件を予想した者が一人もいないことがそれを証明しています。あれだけ三島のそばで行動を共にし、話を聞きながら、三島の決意が分からず、紫式部以来の天才文学者をむざむざ死なせてしまうなど部下として情けないことでした。古代中国で食客三千人を抱えた猛嘗君は鶏の鳴き声を得意とする食客の一人に命を救われたり、狗のごとく盗みを巧みにする者に手を貸してもらったりしました。翻って、二千三百年五、東方海上に浮かぶ我が扶桑国では、三島が養った食客、百人の会員の中で命を救う者も役に立つ人もいなかったようです。三島には精のないことでした。続きを読む投稿日:2012.07.07
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