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沈黙の春
沈黙の春
レイチェル・カーソン、渡辺政隆/光文社
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総合評価

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    殺虫剤、除草剤の毒性、それによる健康被害、自然破壊の実態が突きつけられ、恐ろしいとしか言いようがありませんでした。 何とかして悲惨な現実を世に知らしめ、現状を打開しなければならないという、レイチェル・カーソンの強い信念が文章に溢れていました。かなり前に読んだ「センス・オブ・ワンダー」と共に、心に残りました。 がんに侵されている中での執筆であり、本書出版から1年7か月後に亡くなったことを、解説文を読んで知りました。執筆に心血を注いでいた著者のことを思うと、胸が熱くなり頭が下がります。 自然界の中で、人間は限りなく謙虚でなければならないと、思うことしきりです。

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    投稿日: 2025.06.15
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    「沈黙の春 (光文社古典新訳文庫)」要約(主要ポイント) 主題: 本書は、生物学者レイチェル・カーソンが1962年に発表し、世界に衝撃を与えた環境問題の古典。第二次世界大戦後に普及したDDTをはじめとする合成殺虫剤(農薬・除草剤含む)の無分別な大量使用が、生態系全体(土壌、水、植物、昆虫、鳥、魚、哺乳類)に及ぼす破壊的な影響と、食物連鎖を通じた生物濃縮によって、最終的に人間の健康をも深刻に脅かす危険性を、科学的データに基づきながらも文学的な筆致で告発し、警鐘を鳴らす。 殺虫剤の脅威: 戦後開発された新しい合成化学物質は、特定の害虫だけでなく、益虫や鳥類など標的以外の生物にも無差別に作用し、自然界に長く残留・拡散する。カーソンは、これらの化学物質を「生物殺滅剤(バイオサイド)」と呼ぶべきだと示唆する。 生態系の破壊と生物濃縮: 安易な殺虫剤散布は、天敵を殺し、自然のバランスを破壊することで、かえって特定の害虫の異常発生や、薬剤抵抗性を持つ害虫の出現を招く。さらに、DDTなどの安定した有機塩素系化合物は、食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積・濃縮され、連鎖の上位に位置する生物(猛禽類や人間など)ほど高濃度汚染のリスクに晒される(クリア湖のカイツブリ事例など)。 野生生物への壊滅的影響: 本書では、農薬散布による鳥類(コマドリ、ムクドリモドキ等)や魚類(マス、ホワイトフィッシュ等)の大量死、野生動物の中毒症状、猛禽類(ハクトウワシ等)の繁殖失敗(卵殻菲薄化)、ミツバチの死による受粉への影響など、全米各地で報告された具体的な事例を多数挙げ、殺虫剤が生態系に与える壊滅的な打撃を克明に描写。「沈黙」した春の情景を描き出す。 人間への健康リスク: 殺虫剤は水や土壌、食品(野菜、果物、牛乳、バター等)を通じて人間の体内にも侵入・蓄積する。急性中毒だけでなく、長期的な低レベル曝露による肝臓障害、神経系障害、そして発がん性(細胞呼吸阻害、突然変異誘発、白血病リスク等)の危険性を、動物実験や疫学調査、中毒事例に基づき詳細に論じる。特に、発達段階にある子どもへの影響を強く懸念する。 代替策の模索: 化学的防除一辺倒ではなく、生態系の力を利用した持続可能な害虫管理の必要性を訴える。天敵や病原微生物を利用する「生物的防除」、不妊化した雄を放つ方法(ラセンウジバエ根絶の成功例)、誘引剤や忌避音の利用、クモや小哺乳類の活用など、より選択的で環境負荷の少ない代替アプローチの可能性を探る。 カーソンのメッセージ: 本書は単なる科学的告発に留まらず、人間も自然の一部であるという認識に立ち、自然に対する畏敬の念と責任を問いかける。科学技術の恩恵を認めつつも、その無分別な使用が生態系と人類の未来に与えるリスクを直視し、自然との共生を目指す想像力と倫理観の必要性を強く訴える。文学的な筆致で読者の感情に訴えかけ、環境保護運動の大きな起点となった。

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    投稿日: 2025.04.22
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     レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、農薬の大量散布による自然や生態系の破壊と健康被害に警鐘を鳴らし、自然保護活動やエコロジー思想に大きな影響を与えたとして非常に有名であるが、新訳が出たことから実際に読んでみることとした。  本書刊行の時代の1950年代から60年代というと、科学/化学の力に魅了されていた時代であり、農薬による害虫駆除が大々的に行われたのもそうしたことからだったのだろう。本書では、鳥や魚その他の動植物に対する被害や、水や土壌の汚染に関する実相が次々と明らかにされていく。そして、農薬会社や行政、あるいは研究費の助成等で企業と利害関係のある研究者などが、農薬がそれらの被害の原因であることを容易に認めなかったことが被害の拡大を招いてしまった。  著者は、害虫駆除について、農薬による化学的防除に対して、天敵を利用した生物的防除の成功例を紹介し、その可能性を称揚している。確かに上手くいった例はあるのだろうが、現地にはいない新しい生物を招き入れるということは、当然ながらその場所の生態系に影響を及ぼすことになるので、思わぬ状況が生じる可能性もある。  いずれにしても、人間が自然を思うがままに管理できるとするのは、人間の傲慢なのであろう。失敗からきちんと学ぶ、本書は多くの例を通して、貴重な教訓を教えてくれる。

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    投稿日: 2024.09.18