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黒馬物語
黒馬物語
アンナ・シューウェル、三辺律子/光文社
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総合評価

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    原題はBrack Beauty ,1877 名作。 読む手が止まらない一冊だった。 現時点で今年のNo. 1かもしれない。 児童文学のガイドブックで見て気になっていた作品。 訳もいろんなバージョンがあるようだが、この光文社古典新訳シリーズの本作り思想が私には合っていることが多いので、今回はこれのバージョンを選んだ。 結果、大正解だったと思う。 訳者さんの日本語が素晴らしくて、ストレス低くガンガン読めた。 今後も翻訳で三辺律子さんのお名前を見かけたら読んでみたいと思います。 馬が語る、繁栄の陰にあるロンドンの物語。 馬の視点の自伝ものなんて、(マキバオー以外では)はじめて読んだので新鮮だった。 ロンドンの都市文化の円熟期に、馬車や乗馬に使われた馬たちの、教育や愛され方、しつけ、世話全てにおいてリアリティのある細かな話が続く。 馬同士の交流や、愛のある主人馬丁とそうでないときの差など。 当時の馬は悲しき使役動物・奴隷ではあるが、時には家族同様に愛の注がれる存在でもある。 解説にもあるとおり、乗合馬車の御者たちのブラックな職場環境に対する筆がなかなか読み応えがある。 日曜日返上で働かないと子沢山の家では家族を支えられない、または顧客が離れてしまう一方で、そんな働き方では寿命を縮める、という話は現代と全く同じだ。 解説に言うように、物を届けるにも馬(と人)を酷使するしかなく、早く早く、という社会の要求に生身で応えることに様々な問題をはらむ、現代の流通業(当然ながら、馬は運輸も流通も支えていた涙)も思わせる。 解説はさらに言う。 人間から見た、見た目の美しさを追求され、尻尾を短く刈り込まれる、心身に悪影響をもたらす馬具をつけられてきた馬たちが、ケガなどで見た目を損なうと価値が暴落する、というあたりには現代では若い女性にかけられる視線にも通じるものがある、と。 なるほど、それは気づかなかった。 作者は足を痛めてからは生涯を馬と共に生きてきた人で、馬の扱いに心を痛めて本書を書いた。 実際にこの本が社会に大きく影響を及ぼして、働く馬の環境改善をもたらしたそうだ。 作中、間接的に語られる、軍馬のエピソードも読み応えがあった。 本作は動物モノだからこそ、ここまで読者を獲得したのは間違いない。 翻って、本作がもし労働者や女性差別を正面から扱っていたら、これほどの読者を得られただろうか。 (現実にプロレタリア文学が苦手な私には胸の痛い事実である) 作者はクエーカー教徒だったそうで、酒は駄目なものの代表として描かれているし、キリスト教の匂いはなかなか強い。 でもまあ、良き人としての目指すところは、それなりに世界共通のようにも思う。 ちょうど、ときの首相候補が「馬車馬のように働く」と宣言したことが、様々な意見を喚んだところだ。 なにを言っても、馬もヒトもしょせん生き物である。 愛情のある環境での適度な生活、すなわちワークライフバランスの整った人生が、適切な心身を作り、良い仕事を生み、生き物としての根っことなるのは間違いないと思いますよ。 もとは大人向けの小説として作られるも、長らく動物ジャンルの児童文学として愛されてきた黒馬物語。 何度も映画化されてきたのも、その人気の高さを示す。 (その映画撮影で使われた馬さんたちの環境はホワイトだったんでしょうな?) 波乱万丈の人生(馬生)は、まるで大河ドラマか朝ドラのよう。 この光文社古典新訳文庫の一冊としても、振り仮名多め+細密な挿絵もふんだん+章立ても細かいので、子供にも飽きずに楽しめる作品に仕上がっている。 今後も、子供にも大人にも愛されてほしい一冊である。

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    投稿日: 2025.10.17
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    かつて岩波少年文庫で出ていたので、児童文学かと思いきや作者の意図としては児童文学ではないそう。作者はこの1冊しか残していないという。終盤の展開はすごく良かった。

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    投稿日: 2025.01.31
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    約150年前に書かれた本なので、今のウェルメイドな小説に慣れている人にとっては、小説の作りとしては古い感じもするが、読む価値はある。 これが社会に与えた影響はとてつもなく大きいものだったろうし、この本があって本当に良かったと思う。 動物福祉なんて言葉がない時代、人間ですら労働者階級はボロボロになるまで働いて死んでいた時代(この本に出てくる「おんぼろサム」のように)、動物の苦しみに思いを馳せるなんてことは、ほとんどなかっただろう。そこに、馬が語り手となって、いかに苦しんでいるかをわかりやすく語った本書がでた。馬も苦しむことに初めて気づいた人がたくさんいただろうし、本の力が今よりずっとあった時代には今のSNSでバズる以上の衝撃をもたらしただろうと思う。 馬は今の自動車、バイク、自転車であり、なくてはならない交通や流通の手段であり、上流階級にとってはキツネ狩りやウサギ狩りなどの娯楽にも欠かせないものだった。 ドリトル先生にマシュー・マグという「猫肉屋」(猫が食べる肉を売る商売)が出てきたが、ロンドンのような大都市にはたくさんの馬がいて、当然たくさん死ぬわけだから、死んだ馬をどう処理するかという問題の解決策の一つとして猫肉屋もあったわけである。ロンドンにいかにたくさんの馬がいたかはこれを読むとリアルに感じることができる。 この本にある通り、人間の言うことをよくきき、能力も高く、見た目が美しい馬も、怪我をしたり、年を取ったりすると、転売されてどんどん安くなり、(また安い馬のニーズもあった)ろくでもない持ち主に鞭打たれて死ぬまで働かされるというのがごく普通だったわけだ。ジンジャーの死が一番哀れだった。 これを読んで、自動車の発明は本当に良かったと思った。環境破壊の原因にはなってるだろうけど、動物を苦しめずに済んだんだから。 児童文学として読まれたのは、最後にハッピーエンドだということも大きい。しかし実際には、こんな幸せな老境を送れた馬はほとんどいなかったのではないか。 ハミや蹄鉄、目隠しなどをつける苦痛についても語られており、馬にはもう乗らず、野に放して保護してあげたらいいんじゃないかとさえ思った。乗る必要も今はないんだし。 19世紀イギリスの作品なので、語り手は馬でもキリスト教徒だし、苦しむ動物は銃で撃って殺してあげるのが一番だという表現も何度か出てくる。あと、(血統書がつかないような)犬猫の仔は目が開く前に溺死させた方がいいという表現もあり、人間でさえ避妊ができなかった時代、仕方なかったのだろうが、読むと辛い。 黒馬は黒人の暗喩であるとか、たくさんの馬具をつけられて自由を奪われている馬は当時の女性の象徴であるといった読み方もあるらしいが、シューウェル自身がそれを意識して書いたとは思えない。馬がこんなにひどい扱いを受けていた時代があったということを知り、人間が動物を苦しめないようにする方法を考えるのに良い本だと思う。 しかし、今時の子どもはエピソードの連続に退屈するかもなあ。それを考えるとモーパーゴの『戦火の馬』はよくできていた。もちろんこの作品があったから『戦火の馬』ができたことは言うまでもないが。

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    投稿日: 2024.10.20
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    「人間たちはなんのために戦うんです?」 「わしは知らんよ。馬にはわからないことさ。だが、敵というのはよほど悪い連中なんだろうな。わざわざ海を渡ってはるばる殺しにいくくらいなんだから」 はい、ヴィクトリア朝時代の動物文学の名作『黒馬物語』です なんと、黒馬ブラックビューティーの視点で書かれた馬の自叙伝です すげーなヴィクトリア朝! なんでもあるやんヴィクトリア朝! 人間のために働いてくれているお馬さんたちをもっと大切に扱わないといかん!と思いました 人間のために働いてくれているお馬さんたちをもっと大切に扱わないといかん!と思って書かれた小説ということなので100点の感想です 100点しかとらんな いやでもね大切なことは馬にも感情があるってことなのよ!辛い!苦しい!痛い!疲れた!嫌い!嫁怖い!とか思うってことよ! そりゃあそうよ!人間だろうと馬だろうと嫁は怖いのよ!って逸れたー!話逸れたー!ブラックビューティー生涯独身ー! いや話元に戻しますけどね 動物にも感情があってさ、好きな人のためだったら一生懸命働きもするんじゃね?って話よ そして本作は当時大ベストセラーとなり、馬の扱いを見直すきっかけになったというんだから、やっぱ本の持つ力ってすごわよね 本好きにはたまらない逸話よね (なぜ最後おネエ)

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    投稿日: 2024.06.27