
総合評価
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- ayako0466"powered by"
知らなかった。こんな女の人が日本にいたなんて。 朝井まかての本によく抱く感慨ではあるけれど、これは群を抜いていた。 前半は痛快だ。 ご一新直後の明治、「わたくしも開化致したく候」と書き置きを残して笠間から江戸まで歩き通す。連れ戻されても絵が描きたいという熱は冷めない。 東京ではできたばかりの芸術大学を試験だけでもと受けて合格し、ついには通うことになる。 やがて師を失い、友に誘われ教会に入り、ついにはそこからロシアへ留学する。 ロシアでの日々は読むこちらも苦しかった。冬の暗さや寒さ、押し込められたような空気がりんをますます追い詰める。彼女の姿は青ざめ彷徨う宗教画の登場人物そのものだ。 「聖像画は芸術であってはなりません」というオリガ姉の言葉は、りんだけでなく私にもショックだった。美術館でいわゆる宗教画を観てもなにも響いてこないと感じるのは、このあたりに理由があるような、と思い当たったからだ。 しかし一方で、知人の芸術家が言っていた言葉がよみがえる。「東南アジアとかインドの石窟寺院や遺跡のレリーフや仏像・神像の無名性に惹かれる。個性が没した先の個性に興味がある」という主旨だった。 若き頃のりんは、ロシアで学べると思った西欧画(ルネサンスのイタリア画)から遠ざけられて憤慨する。まずは型があってこそ、万人が見てその時々に彼・彼女らの心持ちを映すものであるべきで、そこに個人の思い入れや考えは邪魔である、という教えに気付けない。 いや、彼女には夢と希望があったのだ。華やかで生き生きした、美しい絵画を描きたかった。その技術をモノにしたかった。それを言葉もわからず押さえつけられては、誰だって反発するだろう。 この点ーーーなぜりんにじゅうぶんなロシア語教育を施してから発たせなかったのか、行きの船での仕打ちーーーについてはニコライ師の判断を疑う。 最近世界史の教科書的なものを読んでいるので、プロテスタント、カトリック、正教会の考え方の違いやそれらが引き起こした国同士のあれこれに深く納得がいった。ニコライ師の考え方が正教の考え方だとするなら、正教は日本人向きだ。「沈黙」の宣教師たちとの考え方・感じ方の違いの大きさに驚く。かねてから「人は生まれながらに罪を背負っている」という考え方がどうにも腑に落ちなかったのだが、正教はそうはとらえておらず、性善説だというのも視界が明るくなるようだった。落語の人間感に通ずるところがある。 歳を重ね、一度は放擲した聖像画に戻ってからのりんが、じわじわと信仰について、描くということについて腹落ちしていく過程が生々しい。 芸術とはなんだろう、と考え込まされる。 長生きしたりんが次々人を見送って、でも穏やかに郷里で暮らす姿にホッとする。ロシアという国の越し方にも思いを馳せた。地政的にも難しい国だ。 大河か朝ドラになってもおかしくない、波瀾万丈な山下りんの人生であった。 直後に読み始めた「猫の刻参り〜三島屋変調百物語」の冒頭、冨次郎がりんと同じようなことを言われるのでぶんぶん頷いてしまった。洋の東西を問わず、絵の習得の肝は同じらしい。
0投稿日: 2025.02.20 - ゆみー"powered by"
山下りんという聖像画師の一生を描き切った、読み応えのある本でした。 りんが壁にぶつかりながらも、次第に画師として1本の道をしっかりと形作っていく様子に胸打たれました。 人の人生を小説という形で味わえる、最高の作品だと思います。読めて良かったです。
1投稿日: 2025.02.13 - 天下泰平"powered by"
画家山下りんの波瀾万丈の人生。 ブレずに生きるとは、なんと窮屈なものなのか。頑ななほど縛りはキツくなり、他人から見れば常識に外れる。「絵師になる」という思いを遂げるため、なりふり構わぬ行動のその先で彼女が得たものはなんだったのか。 死の間際、多くの人が自分に正直に生きれば良かったと思うらしい。彼女は81年の生涯を閉じる時、人生をどう振り返っただろうか。
0投稿日: 2024.12.27 - 1462148番目の読書家"powered by"
幕末に生まれ、絵を描くことに大いなる情熱を燃やし、単身故郷を飛び出した山下りん。 維新により回天成ったとは言え先例のない女性洋画家を目指し、あらゆる可能性に挑み険しい道を切り開いて行った先にあったのは、自らが求めた光溢れる西洋画とは似ても似つかない陰鬱な宗教画。 後に日本正教会でただひたすらにイコン画を描き続けた彼女が果たして本当に望んでいたものが何だったのか、想像すると何だかとても切なくなった。
0投稿日: 2024.11.06 - uya"powered by"
大河ドラマ、というよりは連続テレビ小説。 なんと激動の世の中を生きた画師であることよ。 生きるとはままならないなあ。 しゃあんめえ。 祈ることの尊さと描くことへの業がないまぜになって明治から大正、昭和という時代の荒波に揉まれている。こういう時代が有ったのだと、一口に語ることは簡単だけれど、社会の有り様というのはこうまでも変化してしまうものであるのだと驚愕する。 いま私が見ている景色、社会はほんの少し先にはまったく違ったものになっているかもしれない。 それでも生きていく。 醜かろうが、過去の己の無知に恥の念を覚えようが、圧倒的劣勢だろうが、誰かに嫌われようが。 しゃあんめえ、と唱えて、それでも歩いていく。 生きるとはそういうことかもしれない。
1投稿日: 2024.08.18 - hazel8483"powered by"
実はラグーザお玉の話と間違えて手を出した。 明治時代・女性画家・渡欧… 経歴もちょっとかすってるっぽいですが こちらはロシアに留学して イコン制作で多くの作品を残した人でした。 山下りんさん、なかなかの気丈夫さんで 留学先の修道院でも 言葉もわからないのに納得するまで激論。 西洋絵画を学べると思って行ったはずが 模写させられるのはロシア正教のイコンばかり。 (教科書に載ってた、あの平面的なモザイク画?) そりゃ腹も立ちますわ。 宗教画に美は不要、という修道女たちの考えもわかる。 逆に信仰心のない人間でも 心を込めて描かれた宗教画を見て グッとくることもあるのが難しいところ。 帰国してからは、ロシアの政変と 日本の軍国化に巻き込まれ 彼女自身も絵で名をなすことへの渇望と 信仰心との間で悩んだり。 波乱の人生を追体験する物語でした。
0投稿日: 2024.06.28 - kitarouchan"powered by"
序章 紅茶と酒とタマ―トゥ/開化いたしたく候/ 工部美術学校/絵筆を持つ尼僧たち/分かれ道/ 名も無き者は/ニコライ堂の鐘の音/終章 復活祭 絵師になりたい りんの眼鏡に適う師匠はなかなかいない 西洋画を極めようとするも 留学先ではイコンしか学べない 彼女のじりじりと焦りに似た気持ちが伝わってくる。 絵を学ぶための手段に見えた信仰が少しずつ心になっていくようにも見える。 そんな事をしてもいいの?と思う時もあったけれど、絵画への望みを見つめ続ける彼女がまぶしい
5投稿日: 2024.06.25 - pma1048"powered by"
イコン画というものをこの本を読んで初めて知った。 たまたまだけど、今見てる朝ドラの主人公と重なる部分もありました。(本書の感想では無いですが) 読むのに時間がかかった1冊。
0投稿日: 2024.06.10 - yorutukinohi"powered by"
日本初のイコン画家、それも女性画家の物語。 ただひたすらに絵を描くことを愛し、求めて求めて求めて、突き進んで、ロシア留学までして、帰国してからも、という物語。物事を突き進むすさまじさに息をのむ。 正直、「これは主人公・りんが悪いのでは?」と思うシーンも多々ある。それくらいでなければ、己を突き進めないのだとも思わされる。そしてりんはロシアである疑問を抱くのだが、その謎が後半になって紐解かれていくにつれ、絵画と時代と宗教と、それらの意味深さに胸が熱くなるのだ。 骨太の物語を求めておられるかたへ、胸を張ってオススメできる1冊である。
0投稿日: 2024.05.31 - yumi"powered by"
明治時代に茨城県笠間で生まれて一人の女性が15歳で故郷を飛び出し、 日本初の宗教画家になった山下りんの生涯を描いた小説。 明治維新になる前の江戸時代の終わり頃という古き時代に 女性で絵を描くことが好きで、絵師になりたいという志を 一心に背負い上京をし、その後美術学校に入学してから西洋画を 極めようとロシア正教へと導かれ、自分のしたいことに 迷うことなく進んでいく姿は感嘆するばかりでした。 近年になってやっと男女平等の社会になりつつある現代であっても、 ここまで自分の意思と熱意で成し遂げるにしても相当の努力が あると思いますが、この時代では想像をつかない程の努力と忍耐力が あってここまで出来たのかと思わされました。 それだけでなく、時代の流れが明治維新から大正という 近代歴史に沿って生きてきた方なので、その歴史の流れにも 翻弄されながら自分の絵師に対する情熱も冷めることなく 続いていったのが素晴らしいと思いました。 恥ずかしながらこんな芯が強く素晴らしい方が いたというのを知らなかったので、この作品で知ることが出来て良かったです。 好きな絵師になるという所から西洋画を学ぶにあたって ふとした所からロシア正教を触れることになり、 それから今まで未知の世界だった宗教を学ぶことになり、 そしてロシア語まで学ぶこととなりどんどんと世界が広がり、 その一方で様々葛藤しながらも涙ぐましい壁を乗り越えながら 生きていく姿は本当に立派としか思えませんでした。 歳を重ねて見えない眼になってしまっても、 絵具を使わずに宙に向かって指を動かし続ける。 描くことは祈りそのものだ。そして祈りは自らのためではなく、 他者に捧げるものだろう。 という節では心震えるものがあり、心の底から絵師になった喜びや信じる心や宗教の教えなどが降り注いだものだと思いました。 山下さんは沢山の聖像画を描いてきましたが、 残念ながら歴史の狭間で焼失してしまったものが 多くなってしまいましたが、それでも日本の各地の教会や 信徒の家の隅でまだ掲げられて嘆きや祈りなどが されていると思うと心が満たされるというのも素晴らしい心の持ち主だと思いました。 時代背景や社会情勢、ニコライ堂、ロシア正教などと日本とロシアとの 当時の関係なども細かく描かれているので、今まであまり知らなかったことが 学べることができとても興味深く読むことが出来ました。 これだけ素晴らしい方だったので 山下りんさんの描いたイコン画が何処かで見れることが あったら一枚でも良いので見てみたいと思いました。
0投稿日: 2024.04.27 - まいつき"powered by"
選んだ読みたい本が、思わぬところでシンクロしていたという興奮をくれた「白光」。ロシア正教のイコン画家・山下りんの生涯を描きます。 自分の心が求めるものに人生を捧げる覚悟を持ち、そのためならばまず行動という人間の山下りん。彼女の心にたぎる熱意が走りすぎて、多くの軋轢を生み出してしまう。そのことに気づくのは、失ってしまってから。 熱意があればこそ、りんを支えてくれる存在や手助けしてくれる存在もあるのですが、大きすぎる故に持て余されてしまうことも事実。安易ではあるけども、時代が違えば、彼女と周囲の人間の関係性も違ったものになっていたはず。 互いに尊敬し、互いの長所短所を慮り、終生の友人となれたはずではないでしょうか 。 りん自身が終生の道であると思い定めた画業。それが覚束なくなってから、これまでを振り返り、多くの人々との関わりに感謝することができたのは、我執からの解放のように思えて美しさもあるけども、悲しみもあるように思いました。 いつも今いる場所から離れた時に、そこにいることの意義を知る。それを手遅れと諦めずに、手遅れであろうとも、失敗であろうとも、経験から何かを得てきた得ることを諦めなかったから、物語終盤の透徹さにつながっていったのだろうと思います。 『グッドバイ』に続いての朝井まかて。 困難と不屈の女丈夫でした『白光』も。
0投稿日: 2024.04.26 - yunilla"powered by"
面白かったんだけど、ずーっと重い、苦しい話だった。あまり好きになれない主人公だったな。 「道を知るというは、重荷を背負うことにございます」
0投稿日: 2024.03.26 - 文藝春秋公式"powered by"
【日本初のイコン画家・山下りん その情熱と波瀾の生涯!】明治13年にロシアに留学しイコンを学ぶ。一途さゆえ周囲と衝突し芸術と信仰のはざまでもがきながら生きた女性を描く感動長編。
0投稿日: 2024.02.15