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十の輪をくぐる
十の輪をくぐる
辻堂ゆめ/小学館
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総合評価

28件)
4.1
10
11
7
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    あらすじからは想像できないストーリーだったので、途中まで主人公にイライラさせられっぱなしでした。話の筋がわかってくると今度は主人公の母親の気持ちを思うと辛くて辛くて、、でも読後感がよい、との評判を信じて読み進めて良かったです。

    0
    投稿日: 2025.09.21
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    皆さん高評価の中、星3つは低いと思うのですが。 作者さまの年代で、戦後の時代をこれだけ濃密に描かれていることに驚きました。 時代とはいえ、女性への扱いの酷さ、男性なら何をしても許されること、母でさえ、頼ってきた娘を庇いもせず突き放す。 読んでいて、苛立ち、胸が痛みました。 親子三代のバレーボール、オリンピックを絡めてのストーリー展開。 過去と今を行き来しながらの構成。 時代が時代だったからもありますし、発達障害について知られていないということは理解しているのですが…… 私には身近に発達障害を持った家族がいます。 そのせいか、なんだか引っかかる感じがあって、みなさんと同じように感動!とはならずに読み終わりました。 上手く言えないのですが、複雑。

    0
    投稿日: 2025.06.20
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    このレビューはネタバレを含みます。

    読み始めから泰介が酷い発言ばかりするので嫌な気持ちで読み進めた。東洋の魔女の時代、ADHDという言葉も認知もされていない中、田舎で親族からも見放されどんなに大変なことだっただろう。読者でこちらからみていても泰介にイライラ、とてもじゃないけど育てる自信がない。 子ども2人を連れ上京し育てる事で故郷にいるよりはいい人生を歩めたのだろう。 万津子が泰介にバレーボールを教えたのは選手にしたいためではなく落ち着かせるためだった。母親の深い愛情を感じる。そして泰介の妻の由佳子、こちらも愛情あふれる人で、素敵すぎる。泰介はふたりの愛情に支えられてきたのだ。もちろん本人にしかない魅力もあるだろう。 万津子と本当のところは語り合えなかったのも、現実はそうだろうな、と。 弟の徹平目線のパートがあってもよかったな。 素晴らしく読み応えがあり、いい本に会えてよかった。

    2
    投稿日: 2025.06.10
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    皆様の評価がとても良くて、読みたいなぁと思っていたところ、GWに購入することが出来ました (๑˃̵ᴗ˂̵)و 1964年と、2020年(実際はコロナで違うけど )のオリンピックの時代を生き抜く家族の物語。 二つの時間軸で物語は交互に紡がれます。 片方は泰介の母、万津子の時代。 片方は万津子の長男、泰介の時代。 物語前半戦。 まぁ、兎に角泰介が嫌い過ぎる。 最悪な亭主。最悪な従業員。 私の一番嫌いなタイプだったのです(-。-; 専業主婦の奥様に超絶上から目線。 会社でも、仕事出来ない癖に不満たらたら。 何だコイツ!? 人間のクズじゃん?? って思っていたのですが、娘ちゃんのおかげで泰介はどんどん変わっていくことが出来たのです。 あー、素晴らしい娘だ!! そして、素直に娘の意見を聞いた泰介も偉い!! 最初が底辺からのスタートだった為、後半はかなり救われます。 なのですが、すみませんm(_ _)m 何と無く後半が読めてしまい、こうなのだろうな?というところに、想像通りに落ち着いてしまいましたm(_ _)m 皆さんが大絶賛される作品を上手に読めなくてごめんなさいでしたm(_ _)m 時々やっちゃいます。 本当ごめんなさいm(_ _)m

    127
    投稿日: 2025.05.14
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    このレビューはネタバレを含みます。

    思ってもみない方向で感動させられた。 子供の頃から癇癪もちで社会人になってからも周囲の人とうまくやっていけない泰介。 あぁ、これは発達障害だな、昔は誰にも理解されないから大変な苦労だったろうな、、、。 と思って読んでいたら、その発達障害もこの小説のテーマの一つだった。 てっきり認知症の母の秘め事と、萌子のバレーボールの話だと思っていたので、泰介自身が発達障害と向き合っていく流れになったのには驚いた。 しかもそれを萌子が父親を傷つけないように、悩み抜いた末に、何度も頭の中でリハーサルした言葉を伝える場面はもう号泣だった。 当たり前がうまくできずに苦しんでいる人にとっても励まされる、刺さる内容だったと思う。 そして萌子の春高決勝戦は、ありがちな展開で予想通りだけど、緊迫感がありドキドキして、やはり感動して泣いた。 母は東洋の魔女ではなかったけど、苦しかった人生の中で救いになった息子をバレーボールの選手にするという願いが、孫の活躍へと続いてよかった。 何か自分が必死になって追い求めたものが、形にならなかったとしても、自分以外の誰かの血と肉になり、自分の預かり知らぬところでもしかしたら後世に身を結ぶこともあるのかもしれないなと知って、とても素敵なことを教わった気持ち。 泰介が伝えた感謝と、萌子の活躍と、ヨシタカ君を押して殺したわけではないことは、母に伝わっていて欲しい。 母の反応がよくわからず、リアリティはあるけど、個人的には理解して歓喜する描写を読みたかった。 前半は若干単調ではあるけど、読みやすく、後半一気に涙腺を壊しにくる一冊。

    26
    投稿日: 2025.04.18
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    現代パート(2020東京オリンピック頃)を息子視点、過去パート(1964東京オリンピック頃)を母視点で語る構成。二回の五輪で十の輪と言うタイトルなんですね。 前半は息子パートが不快でイライラさせられ、キラキラ青春の過去パートの方が読みやすかったのに途中から母パートが辛くなり、息子パートの方が明るく希望のもてる展開に。 救いのある温かいラストには感動しました。

    1
    投稿日: 2025.03.24
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    実家にも頼れず、結婚にも恵まれず、大変な思いをしつつ、それでも大きな愛で子供達を立派に育てた。 亡くなった自分の母に重ねながら読みました。 辛い部分もありますが、温かくなる読後感でした。 間違いなく傑作です。

    2
    投稿日: 2025.03.20
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    母の愛を強く感じれた! 序盤の若き頃の未来にワクワクしている感じから徐々に現実に突き落とされるなか最後まで子供を信じ強く生きた母の愛情に感動した。 本当に読めて良かった。おススメです。

    7
    投稿日: 2025.02.27
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    読書備忘録889号。 ★★★★★。 いやぁ~良い物語だったです。 作品紹介にもある通り、1964年と2020年(実際には2021年になりましたけど)の2つの東京オリンピックを通して親子三代の姿を描く感動小説です! 物語の舞台は佐藤家。 スミダスポーツで働く佐藤康介は58歳。 妻の由佳子、高2の娘萌子、そして康介の母、万津子と暮らす。 80歳の万津子はくも膜下出血の後遺症で脳血管性認知症を患い、症状の起伏が激しい。 康介は会社ではお荷物社員。いわゆる老害社員。 昔はああだった!とか、俺は企画部門で活躍した!とか。 今は顧客データの管理をするアドミニストレーター部門に身を置き、エクセルも使えない、使おうとしないダメ社員。スキルを身に着けようとする気もないから尚悪い。 若手社員からも年下の課長からも疎ましがられている。 家庭でも、妻に暴言を吐き、認知症を患っている母親にDV紛いの扱いをする。 という感じなので、読者はイライラしながら読み始めることに。 時は2019年10月。 万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は・・・・・・東洋の魔女」と呟いたことから、物語が動き出す・・・。 えっ?母親が前の東京オリンピックで活躍した女子バレーボールで金メダルを取った東洋の魔女の一員だった?そんなばかな! ただ、良く考えてみれば、母が自分たちを連れて九州から東京へ出てくる以前の過去を何も知らないことに気づく。 物語の構成は2019年10月からのパートと、1958年9月からのパートが交互に進む。 いやいやラストは目頭が潤みましたよ。目頭がっ! 久しぶりの目汁小説でした! それぞれのパートのディテールは一切割愛です!ディテールがこの作品の旨味成分なので! ①2019~2020年パート とにかく康介の描写がとことんイラつく! ダメ社員、ダメ息子、ダメ夫、ダメ父として描かれる。 すべて自己中、気まぐれ、すぐにイラつく、客観的視点の欠落。 これで58歳か?ホンマに!という感じです。 由佳子が気の毒で気の毒で!離婚しても良いよ、と言いたくなる。 そんな佐藤家の光!娘の萌子は超高校級のバレーボール選手で、全日本メンバーに選ばれるかもしれない逸材。 自分もバレーボールをやっていた康介は嫉妬している。おいっ!って感じ。 萌子の進路問題、春高バレー、などなど読みどころです! ②1958~1964年パート 九州出身の宮崎万津子は名古屋の一色紡績の工場に集団就職。 仕事とバレーボールの生活で貧しくも楽しい生活を送っていた。 そんな時に九州地元から縁談の話が舞い込む。 相手は高学歴で、三井鉱山で働くイケメン。 一も二もなく縁談を引き受けた万津子。 そして康介が生まれ、地獄が始まった・・・。 そして萌子。出来すぎちゃん! 父の抱えている問題に気づき寄り添う。そして問題は直せるんだよ、と。 だって、自分と似てる最愛のお父さんだもん! という感じなんですよ。 物語後半は、前半のイライラが全て払拭された台風一過のような展開になるのも良いです。繰り返しますが出来過ぎ!という感もありますが良いんですよ。これで! そして万津子の康介に対する無償の愛。 どんなことがあっても康介の味方だよ、と。 覚悟の東京へ!涙が出ます。 そしてエンディング。母の深い愛と、康介が自分が抱えてきたモノ(問題)の深さに気づいた時、病室で真の絆が生まれる。じゅる(T_T)。 最後に。 十の輪とは1964年の東京オリンピックと2021年の東京オリンピックの輪っかの合計。 誰でも気づきますよね。2020年1月春高は終わった。萌子はどうなる?逸材だけどまだ高校生やで。 そうです!2020年開催予定の東京オリンピックは2021年に延期! 間違いないね!十の輪をくぐったよ!家族全員で! というジジイの勝手な想像でした! 辻堂さんサイコ~でした。

    42
    投稿日: 2025.01.27
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    “輪”は五輪のこと。 十の輪=1964年と2020年(予定)東京オリンピックを指す。 現在Partの序盤、泰介の横柄さと家庭内モラハラがひどく、妻:由佳子に離婚を考えた方が良い、と助言したいほどだった。 が、読み進めていく内に、泰介アナタもしかしたら⁈ 過去Partは母:万津子の半生でこれは辛くてゞ…。 『東洋の魔女』と世界に名を轟かせた1964年女子バレー。オリンピックが人々に勇気と希望を与えたことを実証した物語は、胸に迫った!  万津子→泰介→萌子への愛♡ 泰介、できた妻と娘に恵まれた幸せを噛み締めて!

    14
    投稿日: 2025.01.17
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    2019年の泰介視点と1959年の万津子視点が交互に書かれている。 泰介視点では、家族に対する態度や職場での態度に腹立つし、万津子視点では、夫や実家家族からの扱いに読んでいて辛かった。 読み終えたら、万津子の泰介に対する母親としての愛情に感動した。

    2
    投稿日: 2024.11.17
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    2つの東京五輪を生きる親子の話。泰介の現状と泰介の母の過去が交錯するんやけど、各時代の価値観の違いにゾッとする。多様な世の中であれ。泰介も大変やったとは思うけど、母の大変さと強かさと強さ!泰介に対する認識もどんどん変わる、この数十年価値観激動やな。

    2
    投稿日: 2024.11.10
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    泰介は、認知症を患う八十歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校二年生の娘とともに暮らしている。 物語は現在2019年から2020年 そして母万津子が若かった頃の1958年からに分かれて書かれている。 初めはひどい男だと思った。自分の親を看てもらっているのに妻への思いやりがない。認知症の母に対しては声を荒げて詰る。 そんな父親を救ったのは娘だった。

    3
    投稿日: 2024.10.08
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     昭和、平成、令和。 それぞれの時代の″正解″を探すお話なのではないかと思った。  時代時代の″当たり前″に合わせることが難しい人は、少なくないと思う。 その人たちは苦しみだけでない、救いに導いてくれる存在がいるということを、この物語は示してくれた。 優しい人ばかりではないけれど、必ずいると思いたい。 ーーーーー パリオリンピック開催中に、東京オリンピックのお話を読み、バレー選手に感情移入してしまった。

    6
    投稿日: 2024.08.08
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    このレビューはネタバレを含みます。

     「私は……東洋の魔女」なんて帯だったから、てっきり元日本代表の話なのかと思っていた。まさか自分を奮い立たせるためのお守りのような言葉だったとは……。  全体としては読んでいてイライラの止まらない泰介パートと、爽やかで軽やかでキラキラしている万津子パートが交互に表れる構成で、最初は早く万津子パートにならないかなと思って読んでいたが、次第に万津子パートが読み進めるには辛すぎる展開になると、自分探し中の泰介パートに早く戻らないかなと思った。この逆転現象は単純にすごいと思う。辛くてしんどくて涙が止まらないけど、ページを捲る手が止まらない、そんな中毒性のある本だった。  奇しくも丁度パリ五輪開催中に読み始めて読み終わったのも、何かしらの相乗効果になったかもしれない。今このタイミングで読めて良かった。

    4
    投稿日: 2024.07.29
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    戦後10年目の世界に降り立ったような臨場感を感じていたら、作者さんが20代だという驚き。 最後の書評にて「作者は自分の劇団(作品)の中に子役から老人まで、優秀な役者が豊富に揃っている」が全くその通りで、とにかく器用で文章が上手。 作者・辻堂ゆめさんの名前を覚えておかないと、と思いながら一気に読み切った。 ラストはマツコの走馬灯の中に入り込んだような、暖かで力強い読後感が心地よかった。萌子がとってもいいこ。萌子…!

    5
    投稿日: 2024.07.07
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    1964年と2020年の東京オリンピックの時代を生きる、親子の姿を三代に渡って描かれる物語。 現代パートでは息子・泰介、過去パートでは母・万津子目線で描かれています。 息子・泰介のパートは正直、最初はイライラしながら読みました。会社や家庭での言動や行動があまりにひどく、なんて困ったおじさん…と思っていましたが、後半にある事実が明らかとなると泰介への思いに変化が訪れます。 母・万津子のパートは、結婚してからが波瀾万丈で、読み進めるのも辛く感じました。それでも、東京オリンピックで東洋の魔女を見たことで、生きる希望を見つけた万津子の母親としての思いがひしひしと伝わり、母の強さを感じました。 それぞれの思いが交錯し、2020年の東京オリンピックに向けて、泰介の娘・萌子に思いが託されるラストはとても良かったです。

    14
    投稿日: 2024.06.23
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    辻堂さん2冊目。1冊目の「山ぎは少し明かりて」でファンになって、この本でさらにファンになりました。読み終えて深い余韻に浸ります。  紡績工場で働く少女たちの会話のシーンはいきいきとしていてとても臨場感があります。それは「山ぎは…」の中であった少年たちの川遊びのシーンでも感じました。本当に画面を見ているような気がします。これは文筆力があればこそなせる業だと思います。  東京オリンピックの東洋の魔女たちの活躍のシーンも私はリアルタイムでテレビで観戦しましたが、本を読んでいて目頭が熱くなりました。そして最後の娘の萌の活躍も。  まだ若い方なのに、当時のシーンや出来事をリアルに再現できる文筆力に再度感服!素晴らしい本でした。

    5
    投稿日: 2024.06.08
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    昔の亭主関白そのものの泰介をひどく嫌悪しながら、徐々にその泰介の真っ直ぐさに惹かれていく。 それは、泰介の周りにいた家族、母の万津子や妻の由佳子、娘の萌子の支えがあったからだ バレーボールの試合は、文章なのにまさに目の前で広がるようにありありと浮かんできて手に汗握る。 昭和の時代を女で一つで生き抜く万津子の我慢強さと力強さには頭が上がらない。 十の輪とはそういうことだったのか

    4
    投稿日: 2024.05.20
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    このレビューはネタバレを含みます。

    吉川英治文学新人賞候補 ミステリー作家らしく、リーダビリティが高く、一気読み。 ADHDと診断された泰介が、こんなに素直に治療を受け入れて、好転するかは疑問だが、序盤からのモヤモヤが少し解消された。 今は認知症になっている万津子だが、DV夫と、それを容認する実家の母親にはいらいらさせられた。

    5
    投稿日: 2024.04.04
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    東京オリンピックといえば思い浮かぶのは小学生のころ。家に初めて来た白黒テレビで見た記憶がある。後で映画にもなったような。 それは田舎から町への集団就職、そして結婚が女の幸せだった時代。 令和の東京オリンピックの時、認知症を患う母と暮らす息子夫婦そして孫娘の家族としての思いや絆をそれぞれの時と環境の中で見せてくれる。

    4
    投稿日: 2024.03.31
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    1964年と2020年。それぞれの時代で東京オリンピックを迎えようとしていた華やかさが時代の陽だとしたら、その陰で生きる人の生きづらさと、そこからの解放を描いたのがこの小説だと思います。 話は二つの時代を並行して描きます。2020年のパートは高校生の娘と認知症の母を持つサラリーマンの泰介が語り手となります。 この泰介がまあ、好きになれない(笑)。認知症の母親に対する態度も、お義母さんを介護している妻に対する態度も横暴だし、仕事も60手前にして慣れない部署に異動させられたのは同情するけど、そこでの勤務態度も褒められたものじゃない。 今時の困ったおじさん、そのものというか、こんな語り手で読み進められるのか、と序盤は思いました。 一方の過去パートは泰介の母・万津子視点で話が進みます。九州の大家族の家から集団就職で東京に出てきて、紡績工場で働いていた万津子。そんな彼女のもとに地元から条件のいいお見合いの話が舞い込み…… 現代パートでは、認知症の母、ぎくしゃくした妻や娘との関係、上手くいかない仕事や職場といった、現代の生きづらさが、 そして過去パートでは、夫や家制度に縛られた特にこの時代の女性の生きづらさや苦難が焦点として当てられます。 万津子がつぶやいた「東洋の魔女」という言葉。そして、認知症を患いながらも決して息子に明かそうとしない過去。この謎が母と息子、それぞれの時代の生きづらさがほぐれていくとともに、明らかになっていきます。 現代パートの泰介の態度と、そして過去パートで万津子が夫や子育てに悩み、そして家族にすらも疎まれていく苦難が、なかなかしんどくて読み進めるペースが上がってこないところも多かったのですが、そこが鮮やかに転換していってからは、そこを耐えて読んだかいがあったな、と思いました。 泰介の態度や心理の意味も、後半の事実が明らかになってみると全然意味が違って見えてくるし、万津子パートの終盤で、子どもへの愛や希望を抱く描写も、キラキラと輝いているように思えてくる。 そして二つのパートが交差して迎えるエンディングも美しく、何より母の愛の大きさを強く感じました。

    10
    投稿日: 2024.03.07
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    小説自体が規範的な主張をすることはないのだが、(少なくとも私には)そのまま受け入れることが困難な台詞や考え方が登場している。例えば、男女の在り方や結婚観について、スポーツと部活動の存在意義について。小説内におけるこれらの記載と私が求める理想との差異が明らかになることで、小説が描いているであろう現実と私との距離が明らかになる。私はどうしてもこの差異を縮めるべきだと思ってしまうから、この小説が何か規範的な主張をしているのでないかと読んでしまう。しかし、筆者の真意は明らかでない。筆者はただ、淡々とある女性とその息子の成長過程を記述的に追っていく。特に、過去から現在の日本に温存されている女性蔑視を、肯定も否定もせずそのまま描いている。泰介の内語が放つジェンダーへの固定観念などに対し、万津子の故郷に抱いたものと同じ違和感を抱いた。読者それぞれがこの違和感を抱くことを、筆者は狙ってやっていると思われる。しかし、社会的な圧力を被ることで生じる女性の苦しみを改善すべきとは主張しない。あくまで記述にとどめている。 一方で、ADHDに関しては、薬物療法や認知社会行動療法などの「治療」によって、当事者が自ら苦しみの根源を断ち切ろうと行動する。また、そのような行動が可能となっている。日本における「女性」の苦しみは社会的構造に根本的な原因があるため、当事者が何とか乗り越えるという仕方でしか解消できないのだが、ADHDは「治療」によって解消が可能となることがあるのである。その対比が描かれているように思われた。だが筆者は、ADHDに関しても治療すべきとはしていない。あくまで脳の癖である。当事者が身を置く環境を変えれば当事者の苦しみは軽減するかもしれず、そのため、ADHDが絶対に治療すべき対象であるとか、当事者に治療を施さなければならないなどとは言わない。 「べき」は「できる」を含意するというが、万津子という女性のあり方を修正することは万津子にはできないため、「べき」を含んだ物語にはならない。さらに、ADHDは治療「できる」ものの、「べき」まで拡張される性質のあるものでもない。しかし、女性のあり方やいわゆる発達障害を抱えた人に対して、本来はどうあるべきだったのだろうかと思いを巡らせてしまうことはある。本来のあるべき姿、もしくは理想が実現するのはいつなのか、誰によってなのかは分からない。泰介は、少なからず理想に近づいたのかもしれない。しかし、万津子の人生は置き去りにされた。だから、未来に想いを馳せる、つまり萌子という女性を想ったのだろう。 ADHDの中年男性の内面がこの小説のようなものなのか気になった。

    2
    投稿日: 2024.03.02
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    「私が鳥のときは」のとなりにあった「山ぎは少し明かりて」を辻堂ゆめさんの作品で初めて読んで「サクラサク、サクラチル」「答えは市役所3階に」と読みました。重症の中毒になりました。最初は、読みすすめるのがやや苦痛でしたが、辻堂ゆめさんの作品と思って読みすすめたら逆に夜更かしコースへ。止まらない。止まらなかった。

    21
    投稿日: 2024.02.17
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    同じく三世代を描いた最新刊「山ぎは少し明かりて」とは好対照な親子関係。とんでもない逆境にある母の、息子を思う気持ちの強さに胸が熱くなった。現在と過去が交互に語られ、母親が隠していた「秘密」が少しずつ明らかになっていくのだが、万津子視点の過去パートの方が断然面白い。解説の荻原浩さんも褒めているように、平成生まれの20代で、昭和30年代という時代の空気をリアルに描けているのは驚き。非ミステリー系人間ドラマでも才能を発揮しつつある著者の今後がますます楽しみに。

    13
    投稿日: 2024.02.06
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     1964年と2020年、二つの東京五輪の時代を鮮やかに描く、三世代の親子の物語です。  2つの時間軸が交互に進み、親と子それぞれの視点で綴られ、心に響き、深く静かな余韻を残す作品でした! 執筆時20代だったという辻堂ゆめさん、あっぱれです! 素晴らしい話でした。  妻や職場の人間関係も仕事も上手くこなせず、常に苛立ち壁にぶつかっている、定年間近の息子・泰介(主人公)の現代パート。(80歳目前の母・万津子は認知症傾向)  九州から中卒で名古屋の紡績工場へ就職し、若くして炭鉱職員に嫁いだ万津子の半生の過去パート。  勝手な言動とその傍若無人ぶりに、全く共感できない泰介、息子が知らなかった母の「過去」にある違和感の設定と構成が見事です。  謎の真相が次第に明らかになるに連れ、あぁ全ては伏線だったのか、と思わされます。霧が晴れるように、感動が広がります。  過去パートの方がはるかに重いのですが、だからこそ「いかなる種類の差別も受けることなく〜」と謳うオリンピック憲章を背景に、万津子が唯一楽しみだったバレーボールに希望を託し、息子を守り通そうとした母の愛の深さに涙します。  過ごした時代や土地を超越し、変化の激しい時代の中で生きづらさを抱える全ての人に、五輪の聖火のように未来を照らす希望と勇気の灯になるに違いありません。

    75
    投稿日: 2024.01.07
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    1964年と2020年の東京オリンピックの話かな と思って読み進めたら、思わぬ展開に…! 戦後の時代、ひたむきに強く生きてきた女性の強さを感じ、今という時代は本当に恵まれているのだなということを実感。 物語の核となる泰介の真実に対する描写が、すごく温かく的確に書かれていた。こんなふうに一人ひとりの個性を捉えられたらいいな。 昭和の時代は歯を食いしばってでも頑張り、発展を目指すことが求められた時代で、令和の現代は多様性と寛容さが求められている時代だと感じる。どちらが良いとか悪いとかはないと思うけれど、過去があるから今があり、それはこれからの未来に繋がっていくんだなということを読後考えた。

    4
    投稿日: 2024.01.06
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    1964年と2020年のオリンピック、バレーボールを軸にして紡がれる親子三代の小説。泰介視点の現在と母視点の過去が交互に語られるけど、母の過去の主軸になる高度経済成長期時代の社会経済や家族の描かれ方が生々しかった。ADHDにも触れていてなるほどっとなる。どんな事があっても息子を最後まで守ろうとしたお母さんの強さが素敵だと思う。

    6
    投稿日: 2023.12.12