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乱れる海よ
乱れる海よ
小手鞠るい/平凡社
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総合評価

17件)
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    わたしの年代では「テルアビヴ」という語を聞くだけで「あ~、あの世界に恥ずべき最たる事件」という記憶が蘇る。 ネット検索すると「ロッド空港乱射事件」という言葉で説明されていた。 大学生になったばかりであること、東大入試が中止された記憶の中で 新垣宇した大学は喧騒の白い靄の中という印象だった。 目の前のすべきことしか考えられず。。。そんな身が続いて居た思い出の時間だ。 身内である数人の大学教授から「構内缶詰」の話をリアルに聞けたことも重なり、京大ブント、民青、革マル、そしてこの事件を起こした赤軍。。というより赤軍前派は「虐げられた人々を救う手段は革命を起こい 世界を変えねばならぬ」と叫ぶ姿は狂人にしか見えなかった。 小手鞠さんは自身が奥平の出身校の後輩という結構衝撃的な事実を重ねたからか、この作品を書くことを使命としているように思えた。 アメリカ在住のライターが帰国にあたって奥平をモデルとした事件の概要を書き、特に「乱れる海」を思想の大海原に例えた彼の絶筆の叫びに昇華したラストに持って行っている‥のは正直、吐き気すら覚えた。 浪漫などかけらも感じない、感じるのは薄っぺらな英雄感覚、自己誇大化の化け物の自死行為に罪もない26人の命と80人の重傷という義性を巻き込んだ事実が沈んでしまったこと。 作家としての行為は描くという形では正当化されたが、評価は種々あって当然か。

    2
    投稿日: 2025.04.19
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    心優しく正義感の強い青年はなぜ空港乱射事件を起こすに至ったのか。著者は主人公をライターに設定し、物語は綴られる。なんというか、体裁は整っているけれどもまったく深みを感じない。千尋という人間に興味はあるのだろうが、読んでいる限り、そこに共感があるのかどうか疑わしい。事件に至る千尋の変遷も今一つ得心することができなかった。 「革命ちゃん」に恋した青年が熱情のままに駆け落ちしたけれど日々の生活という現実に打ちのめされてそれでもそれを認めたくなくてまだかろうじて残っていた美しいままの「革命ちゃん」の写真を胸にビルから飛び降りた、みたいな話だったな。 いや、そこに正義は皆無だろ。 立松和平の「光の雨」とは天と地ほどの志の差を感じた。

    0
    投稿日: 2023.10.19
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    1972年にイスラエルのテルアビブ空港でテロ事件を起こした日本人3人、そのうちのひとり千尋に焦点を当てたノンフィクションのような小説。何とも言い難い複雑な気持ちで読了。自虐史観に囚われたような事実に反する歴史的事象が語られたり、千尋を優しく素晴らしい人物であるという一種のあこがれのようなものを持つ語り手の文章に強い違和感を感じた。題材はとても興味を持てるもので、彼らの事をもっと知りたいと思ったけど、美化させてはいけない。どんな理由があろうと罪もない人々を死に至らしめたことは決して許されることではないから。

    0
    投稿日: 2023.07.17
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    高校生だった著者が、ある朝の特別な朝礼で校長から聞かされた訓辞。同校出身の奥平さんが起こした事件から、この人のことを書きたいとふと芽生え、50年後に書き上げたというあとがきがある。 物語の主人公である不遇な女性ジャーナリストとともに奥平さんをモデルにした千尋とその人が手元におくヴェーユの思想をなぞっていく。駆け回り悩む主人公とともに世界の動きやこの人の思いをわかりたい、とは思えども、私には根本的な千尋の活動の転換点やヴェーユの記述が理解しがたかった。セツルや弱者への活動が闘争や正義のためと称する攻撃に向かう狂気、あたかも真面目に考え考え続けた若者が向かった先のようで、時代が違えば大学生としての自分の隣にあった思想なのか、というように物語られるけれど、やはりわからない。主人公の元恋人のようにすごい人というふうな気持ちに、全く共感できない。 それでいいのか、と感じながら本を閉じる。 少なくとも、書かねばならないという著者の気持ちが伝わり、この事件を知らねばならない忘れてはならないということを、自分の中に刻み込めたことに、読んだ価値があった。

    0
    投稿日: 2023.03.21
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    この本を読んで感じることが2つあります。 ・「事実」をなるべく正しく伝えるべきだったのではないか?  脚色を加えたフィクションではなく、「あの時起きた真実」が必要なのではないか? もうひとつ、 ・「事実を忘れない」ためにも「物語化」して後世に伝えるべきなのか? 現代においてなお続く悲惨なテロリズムや対立の連鎖は我々日本人にとって他人事ではなく、まさに当事者であったことを忘れないために、私たちが知るべきことは非常に重いと感じました。 本書を出版する決定をした出版社、著者の勇気に敬意を感じます。 大切に受け止める必要がある一冊だと思います。

    8
    投稿日: 2023.02.02
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     事件をリアルタイムで知らない世代からすると、混沌としすぎて正確に捉えることが難しい時代を、小説という方法で表現した作品なのだと思えた。  この時代に自分が同じ世代で生きていたら、この政治的思想にのめり込んでいたかもしれない。そう思うほど千尋の一途さに感銘を受ける書かれ方だった。  YA世代の極端な奉仕的思考。何かを成し遂げたいと大それた野望を抱く一方で、自分の存在価値を小さなものとして粗末に扱いがちな心理。すっかり忘れていたけど自分にそんな時代があったと思い出した。  世の中を良くするために活動をはじめた人物が、次第に極端になり、手段を選ばなくなり、危険思想と見なされ、実際に危険人物となり果てる惨劇。  他人事のようだが、その知能を活かせば、別の方法で社会貢献できていたはずだと残念でならない。そんな悲劇を繰り返さないために歴史をもっと深く学ばなければならないと思う。

    0
    投稿日: 2023.01.23
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    3寄りの4。奥平剛士をモデルにしているのは分かるのだけれど、ここまで書き込むのにフィクションにする必要があったのか、そして作家が作品を書く件は要るのか...フィクションにしてもいいけどもっとシンプルに奥平剛士の心の動きを見えるような書き方をした方が強い思いが伝わったのでは..というちょっと勿体無い気がする作品。

    0
    投稿日: 2023.01.10
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    1972年5月30日、イスラエルのテルアビブ空港で乱射テロ事件が起きた。私も著者と同年代の中学生だったけど、恐ろしいことが起きたとしか思わなかった。その前にリンチ事件などがあり理解のできない人々が起こした事件。そしてその人たちの名前は今なお脳裏に刻まれている。重信房子とおぼしき人物が可憐な女性のように描かれていて凄く違和感があり、小説なんだからと言われてしまえばそれまでだが、だったら下手になぞったようなストーリーはやめて練った虚構の上にくみたてればいい。こんなにストイックで理想を持った奥平剛士がなぜアラブに行き一般人の乗客を巻き込んだテロを起こしたのか?かけはなれて理解できない。この小説は、こんなにいい人がこんな残酷なことをしたと、乖離した内容をただ並べているだけだと思う。

    0
    投稿日: 2023.01.05
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    日本赤軍を重信房子と共に設立し、1972年5月にテルアビブ空港乱射事件を起こした奥平剛士をモデルとした作品。 アメリカ在住の日本人女性ライターが、作中作として本書を執筆するという、ややわかりにくい構造となっている。小手鞠さんが高校生の頃に事件が起き、奥平が同じ高校の卒業生だったことから、距離を取る必要があったのだろうか。特攻のようなテロ行為はこの事件が嚆矢らしく、9.11への影響まで言及されている。 テロリストを美化するような内容に眉をひそめながら読んだが、それも含めてのこの形式なのだなとあとがきまで読んで納得した。 NetGalleyにて読了。

    1
    投稿日: 2023.01.02
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    そこに至るまでの感情の醸造の過程を、人間関係を丁寧に描いていて、面白く読んだ。 (そこはフィクションだと思うけど、出版社の社長の気持ちも分からんでもない)

    0
    投稿日: 2022.12.09
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    小手毬るいという方は、その珍しい筆名は見かけたことがあっても、作品を読むのはこれが初めてです。 この小説は、1972年のテルアビブ空港乱射事件を素材として、主導メンバーであった奥平剛士を渡良瀬千尋という名にして、それを小説にする女性作家が描くという組み立てです。 しかしながら、妙に甘ったるい展開で、最終盤には乱射実行犯を主題にすることの言い訳めいた文章が続くのにはうんざりさせられました。 そこを敢えて最後に書くくらいなら、そもそも小説に仕立て上げなければいいのに。 奥平剛士が高校の先輩というだけでネタにしたとしか思えません。

    1
    投稿日: 2022.12.07
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    1972年5月30日イスラエルのテルアビブ近郊都市のロッド国際空港(当時)で発生したテロ事件を元に描かれた小説。この事件は、パレスチナ解放人民戦線から協力を要請されたアラブ赤軍が襲撃を実行して99人の死傷者を出した。その実行犯は3人の日本人。このような無差別乱射テロを日本人が遠く離れた海外で起こしたことを、お恥ずかしながらきちんと知らなかったため衝撃を受けながら読み終えた。 登場人物たちのその時々の感情は創作されたものだうが、歴史的事実が盛り込まれたフィクションであるため、穏やかな気持ちにはなれない。事件の首謀者である渡良瀬千尋は、献身が人を救い社会を救う力になると信じつつ白黒をはっきりさせたいわけじゃないと思っている一方、世界の貧しい人から搾取して迫害する勢力に対する闘争を革命として実行する。仮想敵とした中には該当しない民間人も犠牲になっており、とても賛同できるものではないが、革命を望む闘志は純粋なものなのかもしれないということは感じた。正義は否応なく排除してしまうのだな。

    6
    投稿日: 2022.12.03
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    美化したり、共感したり、そんな事をしてはいけない事なんだと思う。 けれど、こんな事があったんだと、その後に生まれてきた人達に伝える事は大切な事ですね。

    2
    投稿日: 2022.11.22
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    作者の小手鞠さんが50年の想いのがこもった作品。お話し悲しいな。あの時代に生きた人々の思いが伝わる。でもたくさんの人々が亡くなるテロは、悲しい。テロがテロを生むのはやりきれない思いでいっぱい。

    1
    投稿日: 2022.11.08
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    浅学だから知らなかったけど、実際にあった出来事を書いてる話だった 重くて暗くて、読んでいて気持ちがどんよりしてしまった

    0
    投稿日: 2022.10.31
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    私は作者と同じ年代です。 テルアビブ空港乱射事件は、TVでもセンセーショナルにとりあげられたので記憶に刻まれています。 50年経った今、ノンフィクションとフィクションの間だとする本文を読んで、やっと「なんであんな事をしたんだろう」という長い間の疑問に答えをもらった気がしています。 あとがきに作者の母校であり、奥平剛士の母校でもある高校の校長先生が全校生徒を前に「奥平さんの為した行為は間違っていたが、平等な社会、差別のない社会を作ろうとした彼の思想は、間違ってはいなかった」という趣旨の話をしたとあります。 凶悪犯罪とは違って、意志を持ってした行為には、しっかりした考えがあっての事だと思います。それを知ることができて、嬉しいです。 世の中に真摯に向き合った一人の青年。もっともっと違った道もあったのになぁと惜しまれます。

    0
    投稿日: 2022.10.27
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    このレビューはネタバレを含みます。

    2022/10/25リクエスト 1 1972年5月30日、イスラエルのテルアビブ空港で乱射テロ事件が起こる。 起こしたのは3人の日本の若者たちだった。 京都大学の渡良瀬千尋は、大学入学後、セツルメント活動、肉体労働に打ち込む。セツルメント活動とは、ボランティアの一種で、持てる者、富める者が持たざる者、貧しいものと共に行動、生活をすること。 学力、学歴がない親から生まれたこどもはやはり学力が致命的に低い。親が働き詰めで、それでも大した給料を得られないから、こどもどころではない。貧困、学力低下、就職差別、底辺の仕事にしかつけない、こどもも同じ道をたどる… 悪循環を断ち切るため、こどもたちが生まれたときから背負っている悪循環からの開放を目指す闘い。 デモに加わり混迷から抜け出すため、セツルメント活動と決別、日本民主青年連盟へ加入する。そこから日本赤軍の主要メンバーであり、最高幹部であり、軍事委員でもある 渡良瀬千尋となる… イスラエルのテルアビブ空港で世界初の空港事件は、日本人3名によるものだった。 初めて知った。ショックだった。 その後に続くテロの元凶は、ここにあった。 どうしてそこまで、まっしぐらなのか。 どうして異国でそんな事件を起こさなければならなかったのか。 書かれている、政治的思想や活動、シモーヌ・ヴェイユに対する憧れというか、崇める気持ちなどなど、とても理解できない。 【著者からのコメント】 恋愛小説ではありません。歴史小説でもありません。今から約50年前に、世界で初めて空港で乱射事件を起こして、その後の世界秩序を塗りかえてしまったのが日本人であった、という事実を今の日本で認識している人はどれくらいいるでしょうか。これは負の事実かもしれません。しかし、事件を起こした人物(私の高校の先輩)を、私はどうしても全面的に否定できないのです。なぜなのか? その理由を知りたくて、この作品を書きました。 著者を否定する訳では無いが、全面的に否定できない、という気持ちを理解したかったが、残念ながら私にはできなかった。 考えなければいけない問題なのだろう。 ただ、今、自分の人生には、その余裕がない。 時間をおいて読み返しても、この渡良瀬千尋のモデルである、奥平剛士の感情の揺れ動きは理解できないような気がする。 読み終えて、とてもショッキングな内容に茫然自失。

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    投稿日: 2022.10.25