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ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~
ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~
J・D・ヴァンス、関根光宏、山田文/光文社
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総合評価

52件)
4.2
19
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8
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  • yoshitaka4729のアイコン
    yoshitaka4729
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    数多くの小児期逆境体験を抱えた子どもはどんな地域で育ち、どんな文化的背景の中で育つのか?がよく分かる自伝。少し切なくなってしまう物語でもある

    0
    投稿日: 2025.06.15
  • nobu2kunのアイコン
    nobu2kun
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    『#ヒルビリー・エレジー』 ほぼ日書評 Day901 「2016年、無名の31歳の弁護士が書いた回 想録がアメリカでミリオンセラーとなった。」Amazonの書籍紹介文の冒頭だが、その弁護士こそ、現米副大統領L.D.ヴァンスである。 原題同じだが、副題に "A Memoir of a Family and Culture in Crisis"、クライシス(危機)にある家族と文化…とある通り、なかなかに壮絶な過去(執筆当時は、その延長上の現在)が語られる。 ケンタッキー州からオハイオ州のミドルタウン(著者が生まれ育った町)に移り住んだ人とそこの子供達は、みずからの町を自嘲的に「ミドルタッキー」と呼ぶ。少しでもマシな生活を求め、なんとかそこに移り住めはしたが、"半分(ミドル)" 程度しかケンタッキーを脱せていない…という意味だという。 著者の祖母が暮らしていたジャクソンは(その、より酷い方とされる)ケンタッキー州にある町。 著者にとっての心の故郷とでもいうべきところだが、実際のジャクソンは薬物中毒者で溢れていた。 大人だけではない、そこでは「マウンテンデューマウス」と呼ばれる(日常的に炭酸飲料を飲み続けることに由来すると推測される)虫歯に悩む人が多数いるのだが、著者の母親が生後9か月の赤ん坊(つまり著者)の哺乳瓶にペプシコーラを混ぜて飲ませていたという祖母の目撃談があるほどだ。 また、そうした土地の住人は自らの手でその暮らしを守る意識が極めて強く(そうせざるを得ず)、少女を強姦した者の死体が川に浮かんでいても「殺人の可能性あり」とされるだけで警察もまともな捜査はしない。また、優しかった祖母が、自分の数少ない財産である乳牛泥棒に出会した際には、ライフルで泥棒の脚を打ち抜き、さらに隣人が止めに入らなかったら、すんでのところでその者の命を奪う勢いだった。そんなエピソードがゴロゴロしている。 著者が生まれたのは1984年、共和党のレーガンが大統領に選ばれた年、この選挙は「米国史上最大の地滑り的勝利」と呼ばれたそうだが、祖父曰く「レーガンがそんなに好きだったわけではない、(北部出身の高学歴なリベラルである)モンデールの野郎が大嫌いだったんだ」と語ったという。 評者は、このモンデールという名前にも聞き覚えがあるが、確かにレーガンの大統領選出ニュースは、日本に対しても "まさかの出来事" として、今日のトランプ大統領選出にも劣らぬ大きな驚きとして伝えられたと記憶している。 白人の貧困加はデータにも表れている。1970年に貧困率10%以上の地区に住む白人の子供は4人に1人(25%)だったが、2000年にはこれが4割に増えた。さらに住環境の悪化は都市部のスラムにとどまらず、2008年頃には(一般には閑静な住宅街というイメージの)郊外地域にも及んでいる。 政府の持ち家促進政策の結果、いったん家の価値が下がり始めると、資産だったはずの家自体が重荷となり、もはや移動によってそこから抜け出すこともできないのだ。 「金を使って貧困へ向かっていく。巨大なテレビやiPadを買う。高利率のクレジットカードと、給料を担保にする高利貸し(ペイデイローン)で、子供に良い服を着させる。必要もないのに家を買い、それを担保にまた金を借りて使い、結局、破産を宣告される。後に残るのは、ゴミの山だけ。倹約はヒルビリーの本性に反しているのだ」 貧困と並んで俄かには信じ難いのが、薬物の蔓延だ。本書の主人公と言っても良い毒親である著者の母親は、看護職の勤め先で年に一度おこなわれる検査に際して、息子(つまり著者)に「クリーンな尿」をくれ…と懇願した。 そんな母親に対して、次から次へと入れ替わる「父親」の話もなかなかに刺激的だが、あわせて「父の教会」のエピソードも衝撃的。 すなわち、人々は「若い地球説」(せいぜい数千年前に神が地球を作りたもうたという説)を実際に信じ、進化論とビッグバン理論は敵対すべきイデオロギーで、そこでは、ブラックサバス(悪魔崇拝的な演出で知られる)はおろかエリッククラプトンを聴くことも許されないという。 これなども "先進国アメリカ" の "もうひとつの顔" として耳にすることがあったが、それが "本当にある" 世界であることに驚かされる。 そんな「敬虔なキリスト教信者」の教えを刷り込まれた著者が、一方で同性愛者の権利主張の高まりに対して、自分がゲイだったら…と恐れ慄いた際の祖母の対応がまた素晴らしい。 8歳か9歳だった著者に向かって「お前、チンコをしゃぶりたいって思うかい?」と尋ねたのだ。 誰がそんなことを思うはずがあろうかと返す著者に「だったらお前はゲイじゃないよ」と断言、その恐れからは解放されたという。 実際にそうした性的な傾向のある人たちを否定するものではないが、年端も行かぬ無防備な子供に、概念レベルからそうした知識を与えてしまうことの悪き側面をとらえたエピソードだろう。 その後、著者が "立ち直って" 今の地位にたどり着くには、冒頭にもエピソードのあった祖母の影響によるものが大きいが、そこは是非、本書で楽しんで欲しい。 https://amzn.to/4n0BVYr

    1
    投稿日: 2025.06.15
  • とじょのアイコン
    とじょ
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    This is America! の一側面!40歳くらいの著者なので同年代感と田舎の荒れた感じと少し共感したり、国の違いを感じたり、面白かった。

    0
    投稿日: 2025.06.06
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    samurai0517
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    SNSで話題となっていたので、読んでみた。 スケールは違うけど、アメリカだけにある問題ではないよなというのが肌感覚でわかるので、記載内容に対する共感はあった(彼の関与する政策に対する共感ではないことは申し添えておく。) 批判はやめ、まずは自分のできることから始めるべきというメッセージは、どんな時代にも普遍的なものであり、今こそ思い起こすべき概念であろうというのは心に留めておこうと思う。

    1
    投稿日: 2025.05.24
  • genpa3のアイコン
    genpa3
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    自分の無知が恥ずかしくなるが、アメリカ国内で白人労働者という貧富の差があると知らなかった。 アメリカの人種差別の歴史は映画であまりにも有名だが、ヒルビリー(田舎者)やレッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)ホワイトトラッシュ(白いゴミ)という呼び名があることを知り、見識を広げるのに役立った。 トランプ大統領になぜ熱狂的な支持者がいるのか、UKスチールを日本製鐵か買収することをなぜ拒むのか、繁栄から取り残された人たちの愛国心に共感するメッセージを発しているためかと少し理解出来たように思う。 筆者は、白人労働者が成功しないのは、育った環境や無知、周りの人間の考えの影響が強いとはいえ、自分自身のが変わろうとする努力をしないことが原因だと語る。 その後著者のネット記事等を読むと、トランプ氏に対して、自分たちの貧困を政治や生まれ等のせいにする他責思考を助長するだけだと批判した。しかし政治家として今はトランプ氏を支える副大統領。自分の立場のために、かつての考えは覆えざるを得なかったのか。 海兵隊ブートキャンプの厳しさと、貧しい家庭環境で育ったにも関わらず、自分を律することを学び、未来に失望せず努力することを実践した筆者は尊敬に値する。 また、生まれ育った貧しい階級から裕福な層へ以降していく中での彼の気づきは、社会を理解するのに役に立つ。読物としてはとても面白かった! P345 エリート層になるためには、社会的ネットワークが重要。というのは日本でも同じ事。

    0
    投稿日: 2025.05.17
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    cookingresearch
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    トランプが最初に大統領になった時、トランプの支持者はプアホワイトと呼ばれる社会の底辺ににいる白人たちという話を聞いた。それらの人々はこれまでアメリカの底辺と言われてきた黒人やヒスパニック系、あるいはアジア人とも違う集団に属する人々だった。そしてプアホワイトを理解するには、ラストベルトと呼ばれる地域で育ったバンスによる「ヒルビリー・エレジー」を読めば良いと言うことを知った。じつはトランプ第1期の時は時間がなく読了できなかったのだが、今回トランプ第2期を迎えるにあたってもう一度読んだら最後まで読み通すことができた。  まず第一にラストベルトの人たちの生活と言うのは、家庭内暴力、麻薬、貧困、暴力、若い年齢での妊娠などの問題に囲まれている。それ故、若い時にとりわけ勉強しなければいけない時期に勉強できないと言う環境にはいる。著者のバンスは何度も離婚と結婚を繰り返す母親に育てられていたのだが、高校卒業間近の時に母親から離され、教育熱心な祖母に育てられ、また海兵隊に入ることで自分を抑制する方法を学び、そしてオハイオ州立大学に卒業し、最後はイエールロースクールを卒業しベンチャーキャピタルで職を得ると言うアメリカンドリームを成し遂げた人物である。 本を読了後、バランスの人生は、まっさらに映画のような道筋をたどっていることを知った。今や副大統領として、世界中の人にその名を知らせる人物になったのである。トランプに対して意見を言う人間になっているのか、あるいはトランプのイエスマンに成り下がってしまったのかはこれからも見守っていきたい。

    5
    投稿日: 2025.05.12
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    いちご好き
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    このレビューはネタバレを含みます。

    話題になっていたので今更ながら読んだ アメリカにはこのような地域、生活もあるのだというのを知ることができ、なぜトランプが当選したか等を考察する上でもおもしろい本だと感じた 夢中になって一気読み

    0
    投稿日: 2025.05.09
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    むらさきりんご
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    この著者がエール大学に入学した後に感じたもの、レベル感は全く異なるののだが、私が地方の女子校から東大に入学した際に感じたものを思い出させて、著者の若き頃を抱きしめてあげたくなった。 社会関係資本の大切さ。 トランプ政権で著者が副大統領になっていることが、少しでも世界を照らしてくれるといいなあ。

    6
    投稿日: 2025.05.06
  • mahiroのアイコン
    mahiro
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    自慢話しを含む立身出世物語かと思っていたが、むしろ生々しく語られた貧困白人労働者たちの実情に衝撃を受けた。この国でトランプが大統領になれることに納得した。 作者は己の属する地域や階層の怠惰や狡さや愚かな面も赤裸々に正直に語っていて、冷静に公平に自分や他人や社会を見つめることができる人物な印象を持った。それだけにどうして彼の現状の姿と繋がるのか。疑問と残念感。。

    2
    投稿日: 2025.05.01
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    激辛カモミール
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    アパラチア地方の田舎町ミドルタウン。隣に住むドラッグ中毒のシングルマザーが夜中に発狂したり、友達の父親が暴力沙汰で逮捕されるようなことが日常的に起こる町。 この本は未来に希望を見出すことのできない環境で育つと人はどんな思考回路になるのかを克明に伝えてくれる。そしてそんな環境から這い上がり、遂にはアメリカ副大統領にまでなってしまった男の自叙伝的小説である。 ミドルタウン程ではないにしろ、労働者階層の田舎町から都会に出てきた私としては共感する所がたくさんあった。 例えば"テストで良い点を取ることは女々しいことだと思っていた"とか、"〇〇大学は最初から受験しなかった。なぜならそのような名の知れた大学に自分が行くことなどあり得ないと思っていたから"など、低階層のコミュニティで生まれ育つことでこういったネガティブな感覚が否応無く備わってしまうところは、正に私の地元で起きていたことと重なるように思えた。 この本の面白さの核心は、決して「劣悪な環境から這い上がったヒーローの礼賛」などでは全く無い。 むしろヒルビリーと呼ばれる白人労働者階層の人達の価値観や考え方がリアルに描かれており、彼らの決して合理的には見えない生き方をありのままに伝えているところだと思う。そしてその生き方は最悪に描かれているにも関わらず、妙な魅力を伴っているところだと私は思う。 私も地元が大好きだ。確かに周りを見渡しても大卒は私しかいない。非合理極まるような地元エピソードも多々ある。確かに酒、女、ギャンブルの話しがほとんどかもしれない。 しかし地元の友人とは家族同等あるいはそれ以上の強い繋がりがあり、それは何にも代え難い輝きを伴っている。 この本を読んだ今でもまだ上手く言語化できないが、ヒルビリー(≒田舎者)と都会の上流階級との間にある決定的な違いについて、自分なりに解像度を高めることができた。 読み物として大変面白かったです。

    1
    投稿日: 2025.04.20
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    あぱっち
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    アメリカ合衆国の副大統領に就任し、トランプの右腕として注目されている人物の反省を綴った自伝。トランプの支持基盤となった通称ヒルビリーは、多様性が尊重される近年のリベラルな思想からも見放された層である。現在のアメリカを理解するために手に取ったが、全く異なる他者を赤裸々に記しているという点で文学としても素晴らしい一冊だと感じた。

    1
    投稿日: 2025.04.20
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    kernel
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    翻訳の成果もあろうが、読みやすくベストセラーも頷ける。 全編通して「ヒルビリー」という文化への解像度を増すことには成功しているが、その中でヴァンス自身がどう振る舞い、副大統領として世界を変えていこうとするのかという点では、他者の書評にも触れられていたが、判然としないままでもある。

    1
    投稿日: 2025.04.05
  • はなのアイコン
    はな
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    アメリカのヴァンス副大統領の自叙伝 これを書いた本人ですらこの時 まさか副大統領になるとは思ってなかっただろうし トランプ大統領が再選されるとは… ウクライナとの会談を最後の最後に破談に持っていったヴァンス氏←そこで私はこの人物を知った トランプ大統領は所詮高齢なので今期のみだとすると 次の世代がヴァンス氏ともいえる 知らなかったアメリカ中西部の田舎の白人労働者達 トランプ大統領が支持され アメリカファーストに傾倒していくのも分からなくもないと思った 

    1
    投稿日: 2025.04.01
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    ヨッシィ
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    アメリカの現職副大統領J•D•ヴァンス氏が2016年に発表した回想録。私が先週の火曜日にこの本を手に取ったきかっけは整理していた古い新聞の書評欄を観て本書の存在を知って興味を持ったからです。何がトランプ政権を再び誕生させたのか?アメリカ社会の繁栄から取り残された白人たちというはわれわれ日本人にとって見えにくい存在で、多様性を尊重するリベラリストの民主党政権下ではないがしろにされてきた存在です。幸いだったのは私が鈍感で本書の著者があの副大統領J•D•ヴァンスだと認識したのは一気に読み終えて久しぶりに読書後の充実した高揚感に浸っていた時です。最初から現職副大統領の著書ということで本書を手に取ったらいわゆるアメリカンドリームを体現した人物のサクセスストーリーという色眼鏡で読んでしまい、アメリカ社会に対する学びも浅かったのしれません。本書は失われたかつてのアメリカ中流社会、取り残された白人たち社会の1人の少年が生きてきた回想録であり、彼の目を通してアメリカにあるもう一つの世界(本当のアメリカ社会の現実)を知ることができます。本書で彼が苦しくも自らの葛藤を乗り越えて別の世界に立身したことを知ったいまとなっては本書のあの少年、あの海兵隊に入隊してイラクから戻ってきてからオクラホマ州立大学に入り、難関イエール大学のロースクールに行ったあの青年が副大統領になったというのはアメリカ社会の大きな変革だと思います。本書の中で著者が海兵隊から戻ってきて大学に入ったら親の金で大学に来れたような汚い髭を伸ばした長髪の年下の同級生がイラクに派兵された米国人を蔑むような暴言を吐いて怒りを感じたというくだりがありましたが、私はそこにすごく共感しました。理想主義の多様性尊重重視のリベラリストに対する嫌悪感がアメリカ社会に確実にあるということが確認できてその点が本書を読んでほんとに学びがあったことです。

    0
    投稿日: 2025.03.30
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    みゃい
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    表面的でないアメリカを知ることができて良かった。トランプ大統領の発言は、日本ではトンデモ発言、どうしたアメリカと報道されるが、アメリカでは支持する層があるわけで。一瞬の流行ではないその根深い理由を知ることができた。 また、著者が成功してからも、何かあると内面から湧き上がる怒りの感情や子供の頃のトラウマを乗り越えようとしつつも、曽祖母の代から続く血の濃さを改めて実感するところが、白人労働者層にとっても、単なるアメリカンドリームを体現した人以上の作品になっているのではないか。 この本がベストセラーになって著者が有名になり、そこにトランプが目を付けて、陣営に引き込むことでまた支持を増やし、、、この後アメリカがどうなっていくのか分かりませんが、この本で得た知識を胸に見守っていきたいです。

    1
    投稿日: 2025.03.29
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    淳水堂
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    2025年1月に発足した第二次トランプ政権の副大統領であるJ. D. ヴァンスの自伝です。2024年の選挙期間にトランプがヴァンスを副大統領に指名したときは「トランプよりトランプ」とか言われてましたね(^_^;) 大統領戦況に関して日本の報道ではカマラ・ハリス民主党が有利だとか、史上稀に見る接戦だとかいう報道が多かったのですが、開票されたらあっという間に共和党のトランプ当選確実。ヴァンスが副大統領に指名された理由として「顧みられることの少なかった貧困白人労働者階級の声」ということだったので、アメリカ人は何故共和党を選んだのかが感じられるかなと思ってさっそ図書館で予約したのが届きました。しかし私が本を予約した2024年11月から、読み始めた2025年3月の間にも世界には多くの変化が起きている…(-_-;) そしてこの本画出版された2016年現在ではヴァンスは「愛する妻、子供たち、犬と暮らす幸せな生活」っていうんだけど、副大統領になった今ってそんな平穏な幸せはないだろうと考えてしまう…(-_-;) それにしても2024年大統領選挙において日本のマスコミの大接戦予測はなんだったの?マスコミが民主党贔屓で願望を公共の電波に流していたってこと?それとも情報収集力がなくて本当に見誤った?私も全くトランプ派ではないけど、マスコミとして報道するなら「自分は民主党応援しているけれど、冷静に報道すると共和党有利」みたいな冷静な報道眼はないのか(-_-;) J. D. ヴァンスの政治活動と『ヒルビリー・エレジー』に関する時系列 ・1984年 オハイオ州ミドルタウンに生まれる。 ・2003年 高校卒業後、アメリカ海兵隊に入隊。 ・2005年 イラクに派兵され、広報担当になる。 ・2009年 (オハイオ州立大学を2年で卒業した後)イェール大学ロースクール入学。 ・2016年 アメリカで『ヒルビリー・エレジー』出版。  2016年は結果的に第一次トランプ政権となった大統領選挙が行われた。トランプ政権誕生に驚いた人たちに対して「『ヒルビリー・エレジー』に書かれているような、本当に貧しい白人労働者の考えをみよ」ということで注目された。 ・2017年 ロン・ハワード監督により映画化。      日本でも『ヒルビリー・エレジー』単行本が刊行。 ・2020年 アメリカでドラマ化。 ・2023年 ヴァンス氏がオハイオ州選出の上院議員に就任する。  (こちらの文庫は2022年刊行のため、作者紹介では「上院議員選挙に出馬」となっている) ・2024年 共和党の大統領候補トランプ氏の副大統領に指名される。 ・2025年1月 第二次トランプ政権で副大統領に就任 ヴァンスはオハイオ州ミドルタウンに生まれた。曽祖父母の代まではケンタッキー州の村ジャクソンにいたが、祖父母が移住したのだ。このオハイオ州、ケンタッキー州に、ラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる地域がある。ヴァンスの生まれ育った階級は、この地域で代々労働者だった白人労働者で、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)、ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)などと呼ばれる。そして民族としてはスコッツ=アイリッシュだ(スコットランドからアイルランドに移住してきた人々がさらにアメリカに移民した)。 この白人労働者階級は、アメリカで貧困、薬物依存、暴力、早すぎる結婚、妊娠、離婚…の多くの問題を抱えている。 世論調査によると、ラテン系貧困移民より、黒人よりも悲観的な生活を送っているのが、このような白人労働者階級であり、アンケートをとってもこの白人労働者階級が一番将来に希望を持てないという調査があるのだそうだ。(アジア系が含まれていないんだが(-_-;) ではそんな労働者階級に支援すれば良いのかといえばそういう問題でもない。ヴァンスは「そもそも彼らには学ぶこと、働くことが定着していない」という。ヴァンスはヒルビリーの人々の問題として「自分にとって嫌なことを回避し、都合の良いことだけを使用する。不都合な事実に対処する。逆境には強くなるが真の自分は見られない」ことを挙げている。 ヴァンスはそんな曾祖母、祖父母をこよなく愛している。しかしヴァンスの子供時代はヒルビリーの問題そのものだった。 祖父母は罵り合い、祖父はアルコール中毒、子供のルール違反を注意されたら子供を守るためといって大暴れする。 母は、もともと頭が良く看護師として働くこともあるのだが、子供時代の環境の悪影響のためか、成長してからは夫や恋人を次々に変え、そのため住所も次々に変わり、精神不安定、薬物依存になり、家族へも暴言暴力が止まない。なにしろヴァンスが子供の頃は、母が車を運転しながら激怒してヴァンスに殴りかかるので、ヴァンスは後ろの席に移動してシートベルト二つでなんとか身を守ろうとする、もしその場に祖母がいたら母(自分の娘)に銃を向けて叱りつけるという状態だそうだ…。母のエピソードでは「尿検査を乗り越えないとクビになるからあんたの尿をよこせ」と当然のように言ったり、祖父母の死をヴァンスやその姉リンジーが悲しむと「私のお父さん(お母さん)であってあんたたちのお父さん(お母さん)ではないんだ!悲しむ権利は私にだけある!」と言って暴れ出すというんだから、子供たちは大好きなおじいちゃんおばあちゃんを悼むこともできない_| ̄|○ そんな幼少期を送ったヴァンスは自分でも気が付かないうちに「無気力・努力しても無駄」という無気力感を持っていた。これはヒルビリーの人たちには共通して言えることだろう。 ヴァンスは、海兵隊に入隊したために、自分自身を過小評価していたことに気が付き、世の中に対する恨みから、自分の意志で行動する、何事も戦略的に考えることを覚えたという。 そして一番大事なのは、海兵隊で救助した子供、プレゼントを買う甥や姪を通して「養われる立場から、養う立場になる」ことの大切さを自覚できた。それこそが大人になるということ、社会に参加するということ。 本書は貧困や暴言の環境から抜け出したヴァンスの自伝ですが、自伝であるために自分が見たこと、感じたこと、そんな環境から抜け出すにあたって気がついたことが語られるので、他の物語や取材したノンフィクションとは違った臨場感がある。 そして、政府や人並みの生活を送っている人々が「平等!」と唱えることを実際に困難な環境にある人たちが「今、自分たちのように、苦しんでいる人たちが目に入らず、綺麗事を言う政治家など信用できない」と考えていることは感じられる。…ですけどね、2025年に副大統領になった彼を見ると、この本に書かれていることで納得できる部分と、この本ではこんなこと言ってるけど副大統領として実際にはそれでよいのか…と感じる部分もあるんですけどね(^_^;) 以下、メモ。 ●知らない・出来ないことが、教わっていないので知らないだけか、能力がなくできないのかは別。 ●白人労働者階級がオバマを信頼しないのは、黒人だからでなく、学歴も階級も高過ぎ出来過ぎで、自分たちのような生活をしている国民の現実を見ていない。 ⇒これは、2024年の大統領選挙でトランプ共和党に期待した人たちの認識だろう。 ●ヒルビリーの人々のように、家庭や生活環境が安心できない子供生活を送ると、困難に直面した時に、逃げようとする、怒る、怒鳴る、他人のせいにする、という反応になり、成長してからも友人や恋人に対しても常に臨戦態勢で、安心したり信頼したりすることができなくなってしまう。 ●「自分の選択で何も変わらない」という気持ちから、「自分の選択肢で変わる」ということを気がつこう。 ⇒これは良い面でも悪い面でも。 良い面は、「やっても無駄」ではなく「やろう!」と思える。 悪い面は、親が子供に怒鳴ったりすると、子供は傷ついて育ち成長してからも人に喧嘩をふっかけるようになってしまう。 ●「裕福で力のある人」というのは、富と権力を持っている人ではない。風通とは違う規範と社会習慣に従う人。 ●「社会関係資本」というのは、自分が周囲の人や組織との間に持つネットワークに実際の経済的な価値があること。価値ある情報やチャンスを与えてくれる人がまわりにいるということ(単純にコネとかではなく)。給料やネームバリューが良いことだけでだけを探すのではなく、自分が自分でいられるかを考えて良い。「条件は良いが家族との時間は無くなる」ではなく、家族との時間も大切にえきる仕事につく情報を得られることも「社会関係資本」。 ⇒「自分が自分でいる」というと「何かを諦めるけれど自分らしく」というようなスピードを落とすような印象になりますが、「仕事も家庭も得るために情報力、人間関係を磨く」という努力が必要ですね。 ●リーダーシップは部下から尊敬されることによって身につく。威張り散らすことで身につくのではない。 ⇒ウクライナのゼレンスキーに高圧的だったよねーー。 ●オバマに対して陰謀説(いわゆる「陰謀論」)が飛び交っている。  ⇒この陰謀説が「人にマイクロチップを埋め込んで管理する」「オバマは戒厳令を出して大統領に三期就任する気だ!」とかなんだけど、マイクロチップってワクチンでも言ってる人いるし、三期就任に法律変えるってトランプがやるんじゃないかとか言われてるよねーーー(どうやらアメリカにおいて「三期就任に法律変える」は反対派が言うことらしい?) ●後書きで翻訳者・渡辺由佳里が「2015年選挙活動のトランプ支持者集会に行った」経験が書かれていた。白人ばっかりで、アジア人翻訳者は怖いくらいだったが、その白人支持者たちは実に楽しそうだった。そして「トランプのお陰で政治に興味を持った!投票初めて!」等と言っていた。日本の報道では2016年も今回の2024年選挙も「共和党と民主党は接戦!トランプ支持者は一部の過激派!」としか報道しませんが、このように実際に経験したことを書いてくれるのは実に参考になります。

    46
    投稿日: 2025.03.27
  • gawappa2のアイコン
    gawappa2
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ヒルビリー代表かどうかは疑義もある。 ある家族模様を語ったものというくらいではないか。 大学進学する前に、親戚から勧められて海兵隊で3年間過ごしたことが著者の人生を大きく動かすきっかけになったんだなと思う。それがなかったら右も左もわからぬままに大学生活に埋没していたのでは。そういう出会いやきっかけの重要性という部分が印象に残った。

    1
    投稿日: 2025.02.17
  • 前太ハハのアイコン
    前太ハハ
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    このレビューはネタバレを含みます。

    本書は2016年に話題となりましたがその時は読まずじまい。。 2025年1月に第二次トランプ政権の副大統領に就任とのことで今更ながら手に取りました。著者の自伝です。 ラストベルトと呼ばれる衰退した工業地帯に取り残された人々が住む地域で生まれた著者が、そこでの現状を世界に発信した意味は大きいと思いました。 私自身メディア等でなんとなくは知っていたけれど、とはいえ、なんとなく昔のアメリカの印象が抜け切れていなかったので、実際に読んで衝撃を受けました。 例えば、ケンタッキーの一部地域の平均寿命は67歳で、すぐ近くのバージニア州のある地域を15年も下回っています。食事と運動の習慣の違いや、ドラッグなどが原因と考えられます。さらに最近の研究では、アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階級の平均寿命だけが下がっていることも分かったそうです。 こんな現実知らなかった・・・ また、海兵隊入隊では規則正しい生活、食事や健康はお金のこと等、生きていく基礎をこんなに丁寧に学べる場だということにも感動したりして。彼がたまたまいい上官の下に就いただけかもしれませんが・・・ 著者自身は海兵隊入隊以外にも、祖父母や姉らまともな身内もいたこと、一流大学へ入学など、運と努力と才能が重なりあうことで現状に至っていますが、それは彼だからこそ出来たことでしょう。今後にも注目していきたいです。 それにしても本書を読んでハリスさんがこれらの人々に支持されないのは当然という気はしましたが、ではなぜトランプ氏に??それはそれで謎。。

    2
    投稿日: 2025.02.02
  • chansariのアイコン
    chansari
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     読んでよかった。一気読みだった。トランプに惹きつけられる人々の心がわかった。心でわかった。ヒルビリーのエレジー、白人労働者階級の切実な哀歌。「努力はしたくないけどバカにされたくない」怠け者だと切り捨てられてきた人々、アルコールや薬物や暴力やセックスや不健康や貧困や孤独や親や親族や居住地や生まれや遺伝や連綿とどうしようもない生育環境にぎちぎちに締め付けられて振り回されてきたヒルビリー。トランプは初めておれたちの声になってくれた。ありがとう。仕方ない。  著者ヴァンスのサバイブには祖父母の乱暴ながらも絶対的な愛情と、海兵隊での厳しい社会教育かあった。アメリカの海軍のバックアップすごいですね。  自分の仕事と繋げるなら、叱るだけじゃなくどうしたらいいかまで具体的に教えることがまじで大事だと思いました。いや感動まとまらないなー。

    2
    投稿日: 2025.01.27
  • すべての本読み読み委員会のアイコン
    すべての本読み読み委員会
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    このポストはおすすめできない、あなたはこの仕事に就きたいんじゃなくて「このポストについた自分」を誇りたいだけなのでは?それよりもガールフレンドを大事にしなさいと声をかけた教授がすごいしこのアドバイスをちゃんと呑んだヴァンスもまた冷静だ。 「苦労した人ほど出世する」って昔から言うけど、つまり地獄をどれだけ見てきたか/そこにいたかっていうことなのかなあ。戻りたくないから始まる忌避感情が、火事場の馬鹿力的にその人の能力を引き出すのかしら。

    1
    投稿日: 2025.01.26
  • マラカイのアイコン
    マラカイ
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    先日、第2次トランプ政権でアメリカ合衆国副大統領に就任したJ.D.ヴァンスの著書。 自身が育ったヒルビリー文化について、郷愁を含みながら問題提起している。 ヒルビリーの価値観がとても丁寧に描かれており、日本の地方にも共通点があると感じた。(生活環境はもちろん大きく違うが…) アパラチアの白人労働者階層の生活実態をYouTubeで見たことがあるけど、かなりそれに近くて生々しい描写だった。 現在のアメリカの地方と都市部の格差や社会問題を知るためにも、とても参考となる一冊。それでいて、しっかりと「家族のあり方」を読者に訴えるメッセージ性も持っている。 子どもに対して、「逆境的児童期体験(ACE)」(p.377)を体験させずに、しっかりと愛情と教育を与えて育てたいと感じた。 本書が第1次トランプ政権の時に共和党支持者の心理が描かれているとしてベストセラーになったのも納得。 トランプ大統領としては、ラストベルトや南部の白人労働者階級(いわゆるMAGA)の支持を強固にするためにも、今回J.D.ヴァンスを副大統領にしたことが想像できる。 アメリカでは、人種・宗教・所得格差・教育格差など、政治が様々な問題と複雑に絡んでいるため、地方と都市部の分断がますます進んでいる。 共和党政権が向こう4年間でどこまでその分断を解消していくことができるか、4年後に著者のJ.D.ヴァンスが大統領候補になっているのか、楽しみにしたい。

    1
    投稿日: 2025.01.22
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    9b65b5fb7322cdc7
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    非常に面白かった。自分が今までいかにアメリカのことを知らなかったのか、思い知らされた。 親のどちらかが薬物依存、逮捕歴あり、離婚再婚を繰り返す…日本でも有名人がそういう経歴を持つと取り立たせるが、ジャクソンではそれらが横行していて、しかもそれが大昔の話ではなく、比較的最近も起きていることに衝撃を受けた。 当事者のJDヴァンスも、本の出版にあたって嫌な過去を思い出さざるを得ず、また何度も苦しい思いをしただろうな、、 人間が、自分の現状を変えたいという反骨心はものすごい原動力になると思う。 多くの人が最後まで踏ん張れなかったり、理由をつけて中断することもある中、JDがここまで這い上がれたのはただただ尊敬する。 美談で終わらせられないほど辛い思いをしてきただろうから、これからがいい人生であってほしい。 副大統領として、これから注目するのが楽しみ。

    2
    投稿日: 2025.01.11
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    kantamrt
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    トランプ第二次政権の副大統領として任命される JD Vanceの自伝です。オハイオ州出身の彼が語る、アメリカ東部のアパラチア山脈地域に暮らす白人低所得者階級の生活様式、文化、そしてその苦難が社会システムによるものであることが、彼自身の家族の描写を通じて生き生きとあぶりだされていきます。 この地域に暮らす人々は、スコットランドやアイルランド出身が多い、とのことですが、その生活は素朴を通り越して、貧すれば鈍する、と例えられる状況です。貧しい食生活と健康問題、薬物依存。マウンテンデューのような炭酸飲料を飲みすぎて歯がボロボロになってしまう人など、身体的ケアもままならない人々の苦悩が伝わってきます。 Vance自身、イエール大学ロースクールに進学して、所謂上流階級の人たちと交流することに対する気後れ、特に食卓でのふるまいに戸惑うくだりは、同じアメリカの白人たちの間にも大きな社会的格差があることを知るきっかけになりました。 アメリカ社会における貧困は、ここ50年で更に深刻化し、2020年時点で、白人の子供の実に40%が貧困地域に暮らしている、とのことです。1970年には25%だったとのことです。アパラチア山脈地域のように、かつて石炭産業で繁栄した地域は、その斜陽化に伴い住宅価格が下落したため、住居を売って他地域へ転出することができず、その地域に囚われてしまう、とVanceは言います。 Vanceが後段で述べた以下の下りが印象に残りました。 "The central conservative truth is that it is culture, not politics, that determines the success of a society".

    1
    投稿日: 2024.12.29
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    yumo
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    オトラジシリーズ。 https://youtu.be/q8BkLd35Rnw?si=FV1rdG2zDimzBtDm アメリカの白人労働者階層のリアルな現状。 支えてくれる存在の重要性。 他者を慮るしなやかさ。 過去に苦しみながらも前へ進む姿勢。 ヴァンス氏の半生はドラマよりもドラマティックだった。 こんな人が大国の中枢に居てくれることに少し希望を見た。 願わくば、この本にあるような気持ちを忘れずに政権に関わっていってほしい。 それにしても3年前にこの本を取り上げている石田衣良さんの選書センスに脱帽。 https://youtu.be/d-rDddHRjPE?si=WsmM92j5UeLXshnK

    2
    投稿日: 2024.12.27
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    tanakanokouki
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    (2025.4.9追記)2024.12.26に、以下のコメントを書いたが、関税をめぐる中国の農民を蔑視するような発言や、トランプをヒトラー呼ばわりするなど、ちょっとどうかと思う発言が相次いでいる。 この本が歴史的書物になるかもと期待したが、アメリカ白人の全てではなく、実はごく一部の話であって、価値のない書かもしれないと不審に思うようになりました。 以下、2024.12.26のコメント 個人的に、今年読んだ本の中で、一番のオススメです。トランプの支持層である、白人労働者はどんな人達なんだろう?それを知ることによって、トランプが再当選した理由や、今のアメリカをより深く理解できるかと思って読みました。 テレビや新聞では報道していない(というか報道できないような)赤裸々で生々しい現実を窺い知ることができました。多くのアメリカ人も知らないようなアメリカがヒルビリーにはあるようです。 あとがきに書かれているように、50年後、この時代のアメリカがどうだったか?ということを知る、貴重な一冊と思います。

    9
    投稿日: 2024.12.26
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    あわい
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    トランプ政権の次期副大統領と目されているJ・D・ヴァンスの自伝本。 氏は、かつては鉄鋼業で栄え今や荒廃したラストベルトの出身である。 まさにトランプの主要な支持層と言われる人たちだ。 彼が語る故郷の話は壮絶だが、愛にもあふている。衰退し、経済的に厳しい状況に追い込まれているが故に団結が強まる様子は『最底辺のポートフォリオ』を思い出す。 ヴァンス氏自身はそんな故郷から脱出し、法律家としてのスキルを身につけ、大事務所に就職を果たすというアメリカンドリームを成し遂げた人物だが、そんな彼でも考え方や自身の根本に故郷やその人々と同じく刻まれたもの(まさにヒルビリーエレジーだ)があることを内省する。 苛烈なトランプ政権側の人物でありながら、結構ナイーブであり、貧困者へある種の下見を持った目線を持っているのが面白い。

    1
    投稿日: 2024.12.22
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    ユーキ
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    トランプを支持し、大統領として生み出した、ラストベルト・ヒルビリーの人々。 その生活と現実。 彼らを愚か者扱いし切り捨てることは簡単だけど、それでは問題は解決しない。

    1
    投稿日: 2024.12.15
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    ポール
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    アメリカの見えて居ない部分、白人貧困層が居ることがわかる。 家庭環境と教育によって、変える事が出来る。はず。

    1
    投稿日: 2024.12.11
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    takeut
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    1.この本を一言で表すと? アメリカの階層社会の底辺で育った著者の自叙伝。 2.よかった点を 3~5 つ ・祖父母に教育された事が精神的な落ち着きを得られたのだと思う。 ・労働者階級社会における貧困、薬物依存、偏った考え方、暴力、日常生活、などがなまなましく描かれていた。 ・海兵隊の経験がハードワークと最後までやり抜くことで得る自尊心を学んだ所が人生の節目ではないか。 ・アメリカンドリームの体現者と言える。彼の絶え間ない努力によるものだろう。 2.参考にならなかった所(つっこみ所) ・川崎製鉄が支援した大手鉄鋼会社アームコの存在を高く評価しているが、それならばなぜ日本製鉄による US スチ ール買収に反対するのか? ・真面目に仕事をしない人を批判する著者の考えと、周りの環境のせいにして努力をしない人たちが多いトランプ支 持者の考えは一致するのだろうか? ・薬物に依存する母親をに対して批判的でありながら今でも愛情を持てるのは何故だろう? 3.実践してみようとおもうこと ・ 5.全体の感想・その他 ・白人労働者階級の現実を垣間見ることができてよかった。 ・希望を持ち続け努力し続けることが重要だと再認識させられた。 ・著者の考え方に共感できる部分が多かったが、現在の副大統領候補として主張する内容と結びつかないところがある。

    1
    投稿日: 2024.12.01
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    シンドバッド
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    このレビューはネタバレを含みます。

    白人労働者貧困層の人々がどのように悲惨な人生を過ごしてきたのかがよくわかる。生活が苦しいと、トランプ氏のような大衆迎合的な候補者を選ぶ気持ちも理解できなくはない。 作者は最後に、貧困層へ向け、希望を持つべきであること、どのように希望が叶えられるか、提言していた。この提言は、生活の不満を大統領や社会のせいにするのではなく、自分に向け、自分の在り方を変えるべきだというものだが、貧困層だけでなく、全ての人が心に留めておくべきことだ。 またトランプ氏が作者のヴァンス氏を副大統領候補に指名した点について、トランプ氏の明晰さを感じた。この本が自伝的小説であるが故に、日本人の私でさえヴァンス氏に対する思い入れを強く抱く。アメリカの白人労働者階層の人々なら尚更だろう。 トランプ氏を非難することは簡単である。 しかし彼を支持する人がどのような人生を送り、何に対して悩んでいるのかについて、彼を非難する人こそ知っておくべきだと感じる。 そのとっかかりに最適なのは、この本だ。

    1
    投稿日: 2024.11.27
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    ぽんきち
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    2016年のベストセラー。 ヒルビリー(Hillbilly)とは「山に住む人たち」を意味し、元々はスコットランドの言葉である。アメリカでは狭義に、そしてスラング的に、アパラチア山脈周辺に多く住む、スコッツ・アイリッシュ系のいわゆるホワイト・トラッシュ(白いゴミ:貧困白人層)を指す。 アメリカで白人は特権階級である、優遇されていると見られがちだが、白人ならだれでも恵まれているわけではない。貧困に落ち込み、離婚や薬物の問題から逃れられず、暴力に走りがちな層はいる。そうした層の暮らしがどんなものであるか、そしてそこから抜け出すには何が必要なのかを述べた自伝である。 著者自身、ヒルビリー出身だが弁護士となり、困難な人生から抜け出した人物である。 今頃この本を読んでいるのは、彼が次期大統領に返り咲いたトランプにより、副大統領候補に指名されていたからである。 本書は2年続けてニューヨークタイムズのベストセラーリストに載り、アパラチア的価値観と社会経済的問題を描いたとして高い評価を得た。 全体としては、著者一族のサーガとしても読める。実際、本作は映画化もされているそうだが、若くして結婚した祖父母が人生を生き抜いていく様は見ようによってはなかなかドラマチックである。だが、当事者としてみればそんな呑気なものではなく、生きることで精いっぱいだったのだろう。 それはそれとして、祖父方も祖母方もなかなか荒々しい一家だったようで、身内には愛情深かったのかもしれないが、何かというと暴力に訴えがちなところは少々ついて行けない感じがする。何しろ子供(著者の叔父)がおもちゃ屋の品物を手に取って遊んでいて、店員がそれを注意したら、祖父母がそろって怒って店の商品を投げ散らかし、店員をこっぴどく脅した、というのだ。これは度を超えているだろう。 とまれ、彼らは3人の子供を育て上げる。 子供世代(著者の母たちの世代)も何かと困難を抱え、高校を中退したり、若くして結婚しても相手とうまくいかず離婚してしまったりする。 特に著者の母は、何度もボーイフレンドを作っては別れの繰り返し。その関係には往々にして暴力が伴う。怒りは交際男性にだけ向けられるわけではなく、子供の著者が発したちょっとした言葉でも激し、自動車事故を起こしてしまったりする。母はついには薬物中毒になる。 紆余曲折があって、著者は祖母のところで暮らすことになる。 で、著者は、いささか粗暴ではあるが愛情がある祖母に見守られ、落ち着いて勉強ができるようになり、ヒルビリーの貧困連鎖のくびきから逃れた、ということなのだが。 ある意味、祖母の手がなければ確かに抜けられなかったのかもしれないが、祖母のおかげだけでもないのではないかという印象は受ける。同じような環境の人がそれだけでこの暮らしから抜けられるわけではないだろう。 著者の場合、高校卒業後に海兵隊で4年間過ごしている。そこで厳しい規律を身に着けたことが後の大学生活にかなり役立っているように見える。元々、能力の高い人ではあったのだろう。勤勉に学べば課題をこなすことができるという自信がそこでついたのではないか。 彼は海兵隊除隊後、イェールのロースクールに進学するのだが、ここで門戸が開かれたのはかなり運がよかったのではないか。そしてひとたびトラックに乗れば、その後の人生がうまく回るというのは、(それがよいかどうかは別だが)往々にしてそんなものなのではないか。 つまり、全体として、貧困層から彼がなぜ這い上がれたのか、貧困層にある人々が這い上がるには「何」が必要なのかが、この本からだけでは少々、読み取りにくかったように思う。 こうした層がいることは事実として、そしてそれが構造的な問題なのだとして、では解決には何が必要なのか、政治に何ができるのか、そこまでは本書からは見通せない。 もちろん、個人の体験談からそこまで引き出せるものではないのだろうし、一事例としてはなかなか興味深く読んだ。 この先、ヴァンス副大統領はどんな形で政権に貢献していくのか、関心を持っておきたいと思う。

    7
    投稿日: 2024.11.18
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    Tomo
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    このレビューはネタバレを含みます。

     本書は、オハイオ州の小さな町で幼少期を過ごした著者であるJ・D・ヴァンスが、自身の20代前半までの人生を振り返りながら、「ラストベルト(錆びれた地帯)」に住む人々がどのような価値観を持ち、どのような人生を送るかについて克明に記した作品であり、かつ自身がどのようにその環境から抜け出し、成功を掴んだのかについて克明に記した作品である。 作品全体を通して非常にリアリティが高く、夢中になって読む事ができた。  筆者謂く、「ラストベルト」に住む人々の価値観の根底には、消費主義、孤立、怒り、不信感の4つがあるという。そしてさらに、保守主義者たちの言動は、「ラストベルト」に暮らす人々が抱いている負の感情を煽る事に終始していて、それがかえって彼らのやる気を奪っているという懸念を指摘している。この点については、私も筆者と同じ意見である。  筆者のJ・D・ヴァンスは、トランプ政権において副大統領を務めるわけだが、「ラストベルト」に出自を持つという面と、イエール大学ロースクール卒というエリートとしての面の両方を持つ稀有な人材として政権を支えてくれる事を期待しながら、これからも彼の言動に注目していきたい。

    10
    投稿日: 2024.11.09
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    bookwormy
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    米大統領選に向けて再読。J.D.ヴァンスは、愛と信念の人。この人は副大統領として信用できる。私にもし選挙権があったら、ヴァンスのためだけに、あの悪名高いトランプに票を入れるかもしれない。 回想録(Memoir)ということもあって時系列が前後したり同じエピソードが何回もでてきたりはするんだけど、圧倒的に話が面白い。無駄な文章がひとつもなく、情報の密度が濃い。 それは彼のスピーチやポッドキャストでのインタビューなども同じで、政治家特有の冗長な言い回しが全然ない。論点がしっかりしているし、無駄なたとえ話や自慢話、あるいはお涙頂戴の悲劇、嘘や誇張、他者への攻撃などもない(トランプはそんなんばっかりだけど)。 ヴァンスは当初トランプに否定的だったけれど、それも頷ける。トランプ支持者の多数を占めるヒルビリーの怠惰さを非難し、過剰な福祉や中途半端な地方創生はかえって逆効果だと主張しているから。でもそれが言えるのは、彼がヒルビリーの貧困から抜け出してトップ層に昇り詰めた努力の人であり、何も知らないアメリカのエリート層が政策に失敗しているのを当事者として見ているから。そんな経験してる人、なかなかいない。ヴァンスのような、ある意味自分の支持者を敵に回すかもしれない人を副大統領に指名したトランプもグッジョブという感じ。 そんな彼の政治感もだけど、本書の見どころは彼の家族への愛。ドラッグ依存症のめちゃくちゃな母親も見捨てないし、きょうだい愛も、祖父母への敬愛も深い。何より奥様への愛。奥様のことめちゃくちゃ好きなんだろうなあー!というのがページの端々から伝わってきてにこにこしちゃう。家族をここまで愛せる人は、政治家として国民のことも大切に思ってくれそうだ。

    1
    投稿日: 2024.11.01
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    taka naka
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    ヴァンス氏の回想を通して語られるアメリカの一面。 日本で得られる情報は西海岸や東海岸のものばかりで、中々触れることのできない世界。 日本も対岸の火事ではないだろう。 貧困の連鎖、社会階層の固定化が確実に進行している。

    1
    投稿日: 2024.10.18
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    jif0148
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    米大統領選が近いから通読。ヴァンス氏の過ごした生活環境には衝撃を受ける。彼はここから海兵隊の経験を経て大学に通い、弁護士になったわけだけれど、それはレアケース。この本で描かれている白人貧困層の生活実態には共感できないけど、このような環境だと教育機会に恵まれず脱却が困難という状況は心が痛む。

    2
    投稿日: 2024.10.13
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    yumiko
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    トランプ氏の最初の大統領立候補の頃知ったラストベルトへの興味がきっかけで読む。数年経つので底辺層の白人の人生は想像とちがわなかった。華々しさはないけど努力と人々の支えで彼のアメリカンドリームを手に入れた一青年の物語だ。アメリカの良い所は、本人の努力があれば人生をやり直す社会的な機会や援助が日本の窮屈な社会に比べて多いと思う。様々な人種がいる国だからかな。寛容さを感じて羨ましい。

    1
    投稿日: 2024.09.29
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    えり
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    ヴァンス氏の個人的な体験を通して、米国社会の格差や分断、トランプ支持、労働者階級・貧困層の考え方が分かりやすく描かれていた。個人の体験が語られているので、物語として読みやすい。 あと3ヶ月で米大統領選の結末が分かるが、果たして如何に。ヴァンス氏は何を考えてトランプの配下になったんだろう?

    1
    投稿日: 2024.09.23
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    板橋区民
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    副大統領候補が本を書いたのかと思って読んでみたたら、順序が逆だった。このベストセラーで名前が売れたからトランプの目に止まったのか。でもこういう思想の持ち主がトランプ支持者とマッチするのだろうか? 自分たちが貧しいのはリベラルと結託したメキシコ移民が仕事を奪ったからだと信じている人たちとは真逆の思考だ。彼らがこの本を読んでいるとは思えない。もうヒルビリーはまとまった分量の文章を読む力を失っているのかもしれない。扇情的なネット情報を鵜呑みにして人を敵か味方かに分類する、ただそれだけ。出自が似ているJDは自分たちの味方というわけだ。いかに考え方の隔たりが大きくても。 文章が巧みなこともあって、とても興味深く読めた。一つには日本でも同じ事態が進行中だからかも知れない。自分も中卒の両親の下で育ち、親戚にも大学に行った人間はいない。中学生まで大学なんておとぎ話の世界だった。でも中学の恩師に進学を勧められたこと、国立大の授業料がほとんど免除されたことなどのお陰で大学院まで出させてもらった。40年前ですらこんな状況だった。昨今の教育·福祉行政の動きを見ると、今後はもう社会階層を大きく上方移動することは起こらない気がする。

    7
    投稿日: 2024.09.22
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    アワヒニビブリオバトル
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    酷暑ビブリオバトル2024 第3試合 3ゲーム目で紹介された本です。ハイブリッド開催。 2024.8.12

    1
    投稿日: 2024.08.15
  • いちばやしのアイコン
    いちばやし
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    トランプの支持基盤となるアメリカ白人労働階級層。彼らの多くはアパラチア山脈付近のオハイオ州、ウェストバージニア、ケンタッキー、アラバマ、ジョージア、インディアナ、テネシーと言った地区や、ラストベルトの付近に居住しながら、退廃的で暴力的な文化慣習を維持しながら保守的で日和見的な生活を営んでいる。トランプ大統領に副大統領候補として指名されたJ.D.ヴァンズは、この地区で不安定な家庭環境のもとに育ち、努力を否定する街から、エリート街道へ突き進んできた。そこで伝えることは、華々しい出世ストーリーではなく、社会や家庭環境、周囲の人間の思想がいかに人間を規定するかである。筆者が恵まれた環境に成し上がってきたのは、ひとえに周囲の人間のサポートであり、アメリカ社会のリアルを伝える作品。こう言った社会分断、貧困などの問題は決してアメリカだけの話ではなく、日本でも明確にみられる現象である。あなたの周りの人で恵まれている人、上手くいっていない人、いつも不満を言いながら、低賃金で働く人、彼らがどうしてその状況に至ったかを周囲の環境、地域、政治などの観点から考えてみる良い機会だろう。

    1
    投稿日: 2024.08.12
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    ykikuchi
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    2024年7月に感想を書いています。今年はアメリカ大統領選挙の年です。現職大統領を擁する民主党は現職大統領であるバイデンさんを党の代表に決め、共和党は前大統領であったトランプさんを党の代表に決めました。民主党では、バイデンさんのテレビ討論での失敗や、公式の場での失言が重なり、選挙戦からの撤退を表明し、現副大統領のハリスさんを党代表に掲げるようです。 前置きが長くなりましたが、共和党党大会でトランプさんが副大統領候補として選んだのが、J.D.ヴァンスさんでした。どんな人物なのかを知りたくて、日本でもノンフィクションとして話題にもなっていた『ヒルビリー・エレジー』の著者だったので、本書を手にしました。アメリカの貧困層の生活を詳らかに活字にした回想録です。回想録と言うと、活躍した人物が引退後に出版するものというイメージがありますが、著者が31歳の時に書いたものです。子供時代、本当に悲惨な現実が毎日の繰り返しになっていることが語られます。毎年のように父親が変わり、その度に引越しを繰り返す。薬物依存症でもある母親との関係や、暴力が日常的な家庭で過ごすことがどんなものかがわかります。 家とは、帰ってくる場所であり、安心、安全な場所ではなく、学校が終わってもできるだけ家に戻りたくないと思うほど、親同士の喧嘩や母親からの暴力があったようです。姉のリンジーさんと祖母のボニーさんが彼の味方になってくれる人たちです。 そんな中であるタイミングで祖母とともに暮らすようになり、著者の環境が落ち着きだします。貧困が世代を超えて繰り返し生み出される社会の実態を日常生活の積み重ねで語りかけてくるのが本書です。 その後、海兵隊に入隊〜除隊、オハイオ州立大学を卒業後イエール大学ロースクールに入学・卒業します。映画も制作されています。NETFLIXで昨晩見ました。書籍は時系列に語られていますが、映画はまた違ったアプローチがされていて見応えもありました。どちらもお勧めです。

    6
    投稿日: 2024.07.28
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    bukurose
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    なにかと騒がしいアメリカ今期大統領選、共和党トランプ大統領候補が副大統領候補にJ.D.ヴァンス氏を指名した、とあり著書を読んでみた。 ヴァンス氏は1984.8.4生まれ。2016に発表で執筆時31才。自身の生い立ちと曾祖父母からの流れを記す。冒頭に「ヒルビリー生活に終止符を打ってくれた祖母と、祖父に本書を捧げる」とある。この賛辞が本書の内容を表し、ヴァンス氏の現在の心境を物語っている、と読み終えたあとは実感を持って感じる。 発表当時、ラストベルトの生活を綴った本としてベストセラーになったようだが、確かに親類縁者との絆と土地のかもしだす雰囲気、自身の生い立ちは、現在のヴァンス氏の背景を知る上でとても興味深い。 さらに前書きには、(2016の)自分は上院議員でもなければ、州知事でも、政府機関の元長官でもない。また大会社の創業者でもなければ、世の中を変える非営利団体を立ち上げたわけでもない。(自分は)やりがいのある仕事に就き、幸せな結婚をして、家と犬二匹を飼っている、それだけの人間だ、とある。・・それが副大統領候補である。 次々に代わる「父親候補」、次第に薬物に依存する母親、ついに高校2年(10年生)になり祖母のもとで暮らし、初めて安定した生活環境を得て、学業にも身が入るように。大学へは行くつもりだったが、従妹の勧めで海兵隊に4年いけば復員兵援護法で学費も払える、ということで、海兵隊ののち地元のオハイオ州立大学、そしてイェール大学のロースクールへ。そこで出会った同級生と結婚、とここまでが描かれる。 なぜがんばれたのか、それは高校でいい先生にも恵まれたが、なんといっても、祖母の家で「幸せだった」からだという。母親の色恋沙汰で翌月はどこに住んでいるかわからない、ということが無くなったからだという。 「ヒルビリー生活に終止符」とあるが、ヴァンス氏の曽祖父母はアパラチア山脈麓の丘陵地帯ケンタッキー州ジャクソンに住み、自らを「ヒルビリー」と呼んでいる。先祖はスコッツ=アイリッシュでアイルランド北東部のアルスター地方出身。祖父母は1947年、祖母が若すぎる妊娠をして隣のオハイオ州ミドルタウンに移り住み17才と14才で結婚。なので、ヴァンス氏にとってのケンタッキー州ジャクソンは年に1度か2度、祖父母と母と共に里帰りした、祖母の兄弟のたくさん住む心の故郷のようなものらしい。ジャクソンでは47年当時、多くの男は近くの炭鉱で働き、そこから出た祖父はミドルタウンに来てアーコムという大手鉄鋼会社に職を得た。そしてヴァンス氏のいうところでは、一族でケンタッキー州ジャクソンに留まった者より、そこから出て行った者の方が経済的にはいい暮らしをしているという。 高校まで暮らしたミドルタウンでも医者や弁護士など、町でもいい暮らしをしている人はいたが、自分の育った環境とはどうも違う環境の者がいる、というのはイェール大のロースクールに入ってからだったようだ。イェール大ロースクールでは州立大学出身はほとんどおらず、多くは名門私立大学出身だったといい、家に招かれても、そこには穏やかな雰囲気が流れていて、自身の育った喧嘩と暴力の絶えない家庭、というのは無かった、それがカルチャーショックだったようだ。 安定した父親不在で育ったヴァンス氏にとっては大叔父叔母たち、そして母の兄と妹、そして自身の姉と、親類縁者の存在と絆を強く感じているようだ。 「ラストベルト」という言葉が出てくるが、冒頭にその地図があり、五大湖の南3つの、ミシガン湖、エリー湖、オンタリオ湖、に臨む、ウィスコンシン州東部、イリノイ州東部、ミシガン州南部、インディアナ州北部、オハイオ州全部、ペンシルベニア州西部、ニューヨーク州西部があてはまる。・・ということが分かった。今までは言葉だけでよく分かっていなかった。 2016発表 2017.3.20初版第1刷 図書館

    13
    投稿日: 2024.07.20
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    ben1213
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    いい本でした。白人労働者階級と言う一定層がどんな生活をしてどんな問題があるのか自分の陥ってた状況を客観視していてあぶり出している。 このヒルビリーがトランプ支持者層のラストベルトと言われた地域の白人のパワーが票となってアメリカを動かして行くとしたら日本も真剣に色々と考えて行った方がいいと思った。

    1
    投稿日: 2024.03.20
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    unimarusakon
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    この人たちの思考、主張が矛盾に満ちていることが確認できた。 とても慎重に書いている感じ。 一方的な糾弾でなくてよかった。 「努力の不足を能力の不足のせいにしてはならない」 この人がトランプ派議員になったと知って驚いた。

    1
    投稿日: 2023.12.14
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    考えたい人
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    このレビューはネタバレを含みます。

    非常に興味深い内容だった アメリカという国も一括りにはできないし、どんなに救おうしても救えない人もいる 最後は自分でどうするかだけど、そう思えるかも環境による その環境もどれが正しいのかはわからない 日本でもそれは無理筋なんじゃないの?っていう政党もあるけど、あの人たちはあの人達の言葉が響く人たちに届けばいい 地方と都市、貧困層と富裕層 見えてるもの環境が違うし、入れ替わらないから分断が起きている アメリカも一枚岩じゃないし、社会福祉も無限じゃない中でどこまでの人を助けるべきかね 助けないことによる暴動もすごそうだしな 中々、衝撃的な内容でした。主人公の生活が生々しいので感情移入も出来るし、ドキュメンタリーとしても楽しめる 不思議な本だった ここからは 中身のメモと言うよりは、感じたことのメモに近い 4章からが面白かった スコッツ=アイリッシュの話 アメリカにいる白人の労働者階級 あとからの移民なのと血気盛んな人が多かったから警察、消防とかの危険な仕事や工場勤務とかが多い 街の荒廃の進み方、貧困者たちの生活を見る本 消費者(労働者)がいないところは、経済が回らないので荒れていく そこに大きな労働者が抱えられる製造業があると街が潤う。しかし、それがなくなれば、消費者(労働者)がいなくなる 家を持っているとそのコストが払える人が出ていく 残るのは、家という借金を持っている人になるし、その人たちは借金で首が回らない貧困の人たち 大きな製造業が衰退を迎えたときが街の終わり 特に今は、その場にいる人を雇う工場が人件費の安い海外に行ったりする そこでそこそこな暮らしをした子供たちは甘やかされて育った割にブルーカラーを軽視してるけど、家族が働いてるから大丈夫だろうと当てにする 製造業には寿命があり、雇用がないのに この辺の衰退していく街は日本でもこれから大きく始まると思っている そして、家から出れない人たちが、苦しんでいく 勉強することがホワイトカラーへの道だが、それへの道を知らないから教育に力を注がない 何もせず抜群に出来る人だけが、できると思っている →そういった経験がないからみたい 教会に行く人は幸福度が高いというデータがある 行けるような人が幸福なのかの解明は難しいけど、協会に行くからだという意見もある →教会に行くことで生活習慣が整うし、悩みも共有してコミュニティを教えてくれたり、そういう周りとの共感で良くなるのかも 所属は面倒だけど、心を安定させるもの 学校は狼を羊にする機関ではないし、無理 狼として、家庭で育てられた子どもたちを聞き分けよくするのは無理 だから、荒れた学校に行かない選択(金があること、家で教育されていること)がサイクルから抜け出すために重要になる 家族でもなんでも良いけど、自分のいるコミュニティが安定しているかは子供にとって重要というか全てかも 主人公は祖父母か姉が役割を握ってたのに、そこから離れて不安定になる でも、祖母の迷惑をかけたくないというジレンマ 貧乏もどこかに線引があって、その線の近くにいるけど政府の保護を受けない人たちが一番苦しい 政府の援助を受ければ生きられるなら、働かなくとも生きていける (コスパいいというやつ) 自ら薬物中毒とかになっても救われるならそっちがいいのかというリアルさを感じる 第9章の後半からまとめに入る 貧困が続くには合理的でない人達の生活がある 短期的な快楽に埋もれている。その中でも慎ましく生きている人もいるけど、割合は減っていく 学習性無気力や自分への過小評価を拭い去ることのできた海兵隊 努力不足を能力不足と考えない キツいものを乗り越えることで能力が向上し、お金の教育含め、生活の指導が入ったことで今まで知らなかった生活力が上がっていく 集団での共有された信念が一人ひとりの行動に大きな影響を与えている 白人労働者階級は国を、社会制度を信用できていない →アメリカンドリームで這い上がれないじゃないかという感覚 半分は自身が怠けていることもあるが、努力できる環境がないことと制度があることに気づくこともできないし、無駄だと思っている 現に周りは落ちぶれていて、客観的に見て厳しいと感じている だから、批判の目を自身に向けられない そして、助けてくれない政府が悪いと考える 敗者であることは自分の責任ではなく、政府のせいだと刷り込まれていくことで努力すら出来なくなってくる これはアメリカの中でも異常な状態でアフリカ系やラテン系の移民よりも圧倒的にそういう人達が多いというデータもある 13章 社会関係資本の違いに驚く、関係があることは幸運で、幸運は優秀さを上回る それ以外にも親に聞けばわかることを教えてくれる人がいるかは大きい この本ではないけど、児童相談所とか出身の人は就職するときの何気ないアドバイスを貰う人がいないのが大きな負担になるらしい たしかに、大人の社会と子どもの社会はルールが違うので、困ったときの相談相手って大事だよな

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    投稿日: 2023.11.05
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    海外おやじ
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    ヒルビリーという単語がそもそもわかっていませんでした。 よく使う英辞郎というウェッブ辞書を見ると、「山岳住民」「田舎者」とあります。私は後者の意味でぼんやり覚えていましたが、本作の内容からより正確には、アイルランド・スコットランド系のアパラチア山脈付近に定住する白人労働者階級、という階層の方々ということで理解しました。 では本作はそうした階層へのエレジー(哀歌)とは何かというと、この階層の悲惨さややるせなさ、貧困や無気力のスパイラルについて描いているものです。実際には本作は、筆者のサクセスストーリーといってもよいでしょう。ただし、それは厳しい環境から奇跡的に起きたものであり、何とか這い上がれた自分とほかの周囲との違いがほとんどないこと、そしてまた自己の周囲にある悲惨がまた繰り返されることも暗示しているようでもあります。 ・・・ 印象的だったのは、それまでに筆者が知らなかった『(海兵隊員としての、大学生としての、イエール在学生としての)あたりまえ』を教えてあげる人・コネクションがヒルビリーには圧倒的にかけているという事実です。 ちなみに『あたりまえ』は『面接のときは海兵隊のアーミーパンツでいかない』というごくごく初歩的なことも含みます。 繰り返される養父の変更(母親の結婚離婚)やそれに伴う引っ越し等、落ち着かない家庭環境にあり勉学などやる気もなかったところから、祖父母の絶えざる慈愛をうけて何とか高校を卒業し、その後海兵隊へ入隊、除隊後はオハイオ州立大学へ進学、その後イェールの法科大学院を卒業したという筆者。とりわけイェールでの学業・就職活動ではコネクションによる情報提供やメンタリングがあるものの、本人は全くそうした社会的資本を持っていなかった為に非常に苦労したと語っています。 この社会的資本やコネクションの欠落は、ヒルビリーである筆者や、ヤク中になったり貧困にあえいでいた友人たちにも同様のことが言えます。どのように這い上がればよいかを伝えるコネが圧倒的にかけているのだと思います。というのも、少しでも上層に上がれる余裕がある人は、まずは引っ越しをしてその地域を離れてしまうからです。 ・・・ では色々知っている人がいればそれで事足りるかというと、それもまた違います。過酷な環境にいる子供たちを鼓舞する・守る大人が必要なのです。 本作ではその役目は祖父母でありました。でもこれは政府のお金云々ではどうにもなりません。『愛をもって家庭を守ろう』などとたわごとを言っても個人主義の昨今、響くものでもありません。 ましてや成人年齢が精神年齢ではないことも問題をややこしくしています。 ヒルビリーではなくても、私だって結婚して子どもをもってもまだ自分が子どもだという気分が抜けませんでした。自分がやっと大人に近づいたなと感じたのはマジで最近です。つまり、子どもが子どもを育てているようなものです。だからこそいろいろな面で支えてあげる大人が必要になります。 筆者の祖父母はその点、移住・引っ越しした核家族であり、周囲の手助けのなさが家庭環境を冷たいものにし、スパイラル的にその子どもたる筆者の母に影響したと考えているようです。 ただそれだと日本はかなり核家族化していますよね。共働きが増加している昨今、日本の方親家庭は本作のようにスパイラルの入り口にいる可能性はあるかもしれません。心配です。 ・・・ ということで、米国下流社会の作品でした。家族の大切さを痛感しました。 本作はトランプ大統領当選時に話題なったそうで、彼のような単純だけど響くメッセージが『ヒルビリー』受けしたということのようです。 でももしそれ程にヒルビリーの影響が大きかったとすると、そのボリュームが大きくなったことにこそ驚きがありそうです。 改めてアメリカという国の不可思議さに驚きつつ、興味が湧いた次第です。 本作、米国のエスニシティに興味があるかた、格差社会に興味がある方、等々にはおすすめできると思います。

    1
    投稿日: 2023.05.27
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    としなが
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    最近、貧困や格差、そして分断が社会問題として語られることが増えてきた感じがするのですが、その根底にあるものが少し透けて見える一冊です。 この本は白人労働者階層出身のアメリカ人の著者が2016年に発表した回想録。離婚を繰り返すシングルマザーの母に悩まされ続けてきた著者が、祖母との生活の中で精神の安定を取り戻し、海兵隊から弁護士になるまでを、社会の問題点とともに綴ります。 社会問題云々は置いておいて、普通にエッセイや読み物として読んでも面白かった。いわゆるアメリカの白人労働者階層の人間観、家族間、そして文化。そうしたものも新鮮だし、著者の子ども時代はかなり波瀾万丈で、こう言ってはなんだけど読み応えがあった。 離婚と再婚を繰り返し、子どもに愛情を注ぐこともあれば時に突き放し、ついにはドラッグにも手を出してしまった母親。そうした母親に対しての愛情と憎しみが混ざった複雑な心情も読まされる。 一方で世話になった祖父母に対する感謝の念や思い出を語るシーンなんかは、国は違えど共感できるところも多く感情移入しやすいのではないかと思います。 まあ、ところどころでアメリカらしいといったらなんだけど、かなり過激なエピソードもあるのだけど…… でもそれも愛すべき(?)キャラクターとして受け入れられる。 著者自身が自分はなぜ、貧困から抜け出せたのか社会学や統計のデータから考察している章もあります。 産業構造の変化、あるいは高度化によってから繁栄から置いていかれた労働者たち。保守的で自分たちの家族や仲間しか信頼できない人々は、人種が多様化し様々な人の権利が保障されていく中で、自分たちが置いていかれていると感じてしまう。 そして生まれた諦めや閉塞感、政治不信。 トランプ大統領につながるアメリカの分断。その根っこにあるものの一部が、ここから読み取れるように思います。 産業構造の変化について行けなかった人たちは、寂れた地元で低賃金の職に就くことしかできない。すると教育の格差も生まれ、子どもたちがそこから脱出しようにも、周りにモデルケースになる大人もおらず、結局格差が固定化されていく。 著者自身は祖母のおかげで、勉強の大切さを忘れなかったことでチャンスをつかみ、その後、海兵隊やロースクールで自分と階層の違う人たちのつながることができ、貧困層から脱出できたと語っています。 こうやって見ると、単にお金の支援だけでなく、教育の機会、健全な人間関係や家庭環境、地域や地元の環境など、多くの複合的な問題が、今の格差や分断につながっていることが分かる。 書かれているのはアメリカの白人労働者層の話だけど、今の日本の問題につながる部分も多くあるようにも思いました。こうした下からの声が届く社会であってほしいものだとつくづく思います。

    3
    投稿日: 2023.01.19
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    タマセツ
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    増える貧困層への支援と現状 米国の貧困層で生きる人々は黒人のみならず白人も多く、仕事がなく薬物依存者となり、家族・育児放棄も増えている、と言う。日本でも親の育児放棄など「個人主義」が旺盛となり親のわがままがそのまま家庭を崩壊させている。そんな中で子供に必須なのが「教育」であり「家族の安定」であるということだ。貧困な子供への支援団体(クリスマスプレゼント=生活用品)を寄付するは中々良いアイデアだ。日本も今後こういった貧困生活者が増えることは間違いなく、一層「個人破綻」して国から援助(年金より良い生活ができる)を受けた方がいい人が増えるのは目に見えている。

    7
    投稿日: 2022.11.10
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    sekishipumen
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    アメリカの取り残された人々の実態。自分が悪い境遇にいるのは他人や政府のせいにする、仕事もせずに生活保護でくらす、正しいことがわかっていてもそれを行えない等々、とても衝撃的。日本もこうなるのか、あるいはもうなっているか?こういう人がアメリカにはたくさんいて、陰謀論とか信じてしまって、トランプとかに流されてしまう。

    1
    投稿日: 2022.07.17
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    madcow
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    なぜトランプ大統領のような人が大統領になれたのか、今でも人気があるのか不可解だったが、この本を読んで腹落ちした。プアホワイトが這い上がれないのは彼ら自身に問題があるというのが筆者の主張で、世界一の経済大国である米国で、仕事をサボって怒られるとキレてやめる、きちんと働くことが大事だということがわからない、という人々が一定数いるということに衝撃を受けた。そして、その結果貧困に陥ってもそれは他人のせい、外国人労働者が彼らの職を奪っていることや、政府の無策の結果、と考えるため、負のループから抜け出せない。かつては教会が勤労の大事さなどを教える役割を果たしていたがそれが少なくなったことや、周りにお手本になる大人がいないことで、貧困が再生産される。給付金をいくら渡してもこれでは問題は解決しないだろう。 日本でも、同じような貧困家庭が増えているのではないだろうか。こうした格差拡大は、社会の不安定化などの歪みとなる。貧困家庭に生まれても、教育や進学の機会が保証される仕組みが必要と考える。

    2
    投稿日: 2022.07.02
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    重度積読症
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     光文社から新たに創刊された文庫レーベルの第一弾ということもあり、購入、読んでみた。  タイトルの”ヒルビリー“とは、田舎者という意味だそうだが、作者は自らの出自を、スコッツ=アイリッシュの家系に属する労働者階層の一員として働く白人アメリカ人であり、また彼らが移住し住み着いたグレーター・アパラチアの地理的環境(著者の一族はケンタッキー州東部出身)が生活文化に及ぼす影響の重要性を強調する。  この地域はトランプ旋風の時期に、"ラストベルト“としてとみに有名になった。かつて炭鉱や鉄鋼業などで栄えた地域が荒廃し、明日への希望もなく、アルコールや薬物依存となる者も多い、そんな地域。  本書は、そのような地域に生を受けた著者が、厳しい家族環境の中で暮らした幼少期から社会的に成功するまでの人生を振り返った回想録であるが、自らが育った家族の歴史や家庭の様子が実にリアルに描かれている。  実の父親とは幼少のうちに別れてしまい、母親は付き合う男性を次々に変え、遂には薬物中毒になってしまう、いわゆるネグレクト状態。著者が何とか心身の安定を保てたのには祖母がいて、愛情を注いでくれたからだった。    そして、本書を魅力あるものにしているのは、一個人のサクセスストーリーに止まらず、現在のヒルビリーに典型的に見られる、地域の衰退や住民の生活の荒廃について、広くアメリカ社会全体の中での問題として捉え、人々がどうしたら向上心を持ち、幸せになり得るのかを、常に念頭に置き、考えているところにあると思う。  抽象的な問題としてではなく、かけがえのない一人ひとりの人生の問題として考えさせられる、読み応えのある一冊。

    9
    投稿日: 2022.05.12
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    ikawa.arise
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    1984年にアメリカの白人労働者階層として生まれた著者が半生を綴った回想記。著者のバックグラウンドとなる生前の家族史にも触れる。労働者階層を抜け出すことに成功し、アメリカ国内で分断された二つの世界を知るにいたった著者が、現代アメリカの白人貧困層の問題を考察する。「ヒルビリー(田舎者)」は白人労働者階層の謂いの一種で、類語として「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」がある。本文約420ページ。文庫版独自の要素はない。 全15章にわたって時間軸に沿って家族関係中心に著者の人生を振り返る。第1章は著者の祖父母のルーツであり著者にとっても思い入れのある土地である、ケンタッキー州南東部の炭田地域にあるジャクソンの紹介に始まる。そして、あまりにも早い妊娠のためにジャクソンを逃れた祖父母がたどりつき所帯をもったミドルタウンは著者とその母が住む町であり、本書の主要な舞台となる。 ラストベルト(さびついた工業地帯)に位置する著者が育ったミドルタウンは工業衰退の影響も大きく、荒んだ環境にある。著者がとくに振り回されたのは、次々と夫やボーイフレンドを取り替え、薬物依存におちいる母親であり、不安とともに成長期を過ごす。ただし著者にとって幸運だったのは、彼を愛して貧しいながらも労働者階層から抜け出すための手助けを惜しまない強烈なキャラクターの祖母や、優しくしっかり者の姉があったことだった。本書の三分の二ほどまでは、複雑な家庭環境に翻弄されて一時は学校生活からのリタイアの危機にもあった著者が、祖母の助力もあって高校を卒業するまでを振り返る。 その後、学費免除の目的も兼ね、思うところあって入隊した海兵隊での4年間によって自信をつけた著者が、大学生活を経て、さらにはほとんどの入学者が富裕層で占められる名門法科大学院に入学し、労働者階層からの脱却を果たして「アメリカンドリーム」を実現するまでを描く。第11章の大学入学以降は、白人労働者階層以外の世界を体験した著者が見た、同じアメリカ国内でも文化的にはっきりと分断された、貧困層と中流層以上の世界の格差や、政治について考察するエッセイとしての記述が増えていく。とくにエリートが集う法科大学院在学中に著者が受けるカルチャー・ショックの数々は印象的で、私自身のアメリカ人のイメージが富裕層や中流層寄りであることにも改めて気づかされる。 現代アメリカを舞台にした私小説的な面と、その背景となっている社会を分析する要素をあわせもつ著作として読むことができた。著者自身の人生経験や、所々で紹介される社会学的なデータから、環境が人に与える影響の大きさがありありと浮かぶ。ふたつの世界を経験したことで、著者による現代のアメリカ社会への思いも一面的ではなく複雑だ。そこには、貧困層の実情を知らずに政策を実行する権力者たちの無理解への批判と、怠惰に生活保護受給費で暮らすことに慣れきった一部の住民たちへの嘆きが混在する。そして、白人貧困層への画一的な解決策の存在については、もっとも明確に否定される。 「多くの生徒にとって本当の問題は家庭内で起こっている(あるいは起こっていない)ことにある、という事実を認識しなければならない」 白人労働者階層が抱くリベラル派への反感や、巻末の解説で補足されるトランプ元大統領への共感については、本書が啓発するポイントとして特徴的だ。弱者救済を掲げながらも、知らず知らずのうちに表れる上から目線で独善的な姿勢への密かな反発は、アメリカや政治といった枠に限らないとも思える。

    16
    投稿日: 2022.04.28