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文学入門
文学入門
桑原武夫/岩波書店
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総合評価

23件)
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    本書は文学研究者で京都大学名誉教授の著者が、「インタレスト」という観点から、優れた文学とはどういうものなのか、文学はなぜ必要なのか、という点について論じたものです。 インタレストとは「興味」「関心」「利害感」。行動そのものではありませんが、必然的に行動をはらんでいるものだとされています。 人生に対する激しい意欲に満ち、行動的情動を孕んだ作者が一定の情熱と質量をもってして作品を生み出したのであれば、読者もそれにより行動の直前と言うべき状態に置かれるのだと言います。 限りある現実体験の中で、そういった心的態度と知識を獲得できるのが他ならぬ文学の効用であり単なる娯楽とは異なるものなのであり、こういう感動を呼び起こすものが優れた文学であるとされています。 かつて石原慎太郎が、近年の小説には心身性が欠けていると評したことがありましたが、前述のような動的態度と心的態度を伴うような作品、彼もまたこういったものが良い作品であると言っていたのではないかと感じます。

    27
    投稿日: 2025.11.19
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    このレビューはネタバレを含みます。

    読み終わった。 古い本で、印刷というか少し文字がズレているのもなかなか良かった。 第一章のなぜ、文学は人生に必要か? から引き込まれた。 内容は古いことを考慮しても、 なるほどなぁって思うことが多かった。 私自身、読書は好きだけど、 名作というものや、ここで著者がいう 文学は触れたことがないと思う。 海外ではシェークスピアって誰もが知っていて、 シェークスピアを引用すると、 誰もがシェークスピアの文学の一節だと理解するらしい。そういうのってないよな、と思ったことがあって。 義務教育では、古典や近代文学をやるけれど どれも一部分。この本の言葉を使うならインタレストに触れるような出会いはしたことがないなと思う。 日本の文学は少し下げられていたように感じたが、 日本文学も読みつつ、巻末に載っていた作品も読み進めたいと思います。

    0
    投稿日: 2025.11.11
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    数年前に文学談議を書いたときになぜ読まなかったのか。存在に気付いていなかったわけではないと思うが。自分で買った本ではない。妻が学生時代、たぶん一般教養の課題図書か何かで買っていたのだと思う。それをたまたまふと手にして読んでみた。発行は1950年。他に桑原先生の本を読んだ覚えはない。翻訳はルソーの「告白」だけだろうか。人文研にいたわけだから、梅棹先生の本の中にも登場しているはずだ。また、現風研の初代会長だから、鶴見・多田両先生はもちろん、井上章一さんくらいなら直接接しているのか。とにかく大御所感が強くて、何か遠い存在に感じる。今西錦司と同じくらいの印象。先生の先生くらいか。文学に対するとらえ方もなんだかずいぶん重たい印象を受けた。その本を読むことで、人生観が大きく変わるような、そういうものがすぐれた文学であるという感じで受け取ったのだけれど、誤読でなければよいな。谷崎あたりはあまり認めていなかったのか?日本の俳句や短歌、それに源氏物語あたりに対する扱いもちょっと下に見ている感じがしたのだけれど、それは僕の読み間違いだろうか。その当時の状況を知らないと分からないということもあるかもしれない。ということで、ちょっとすっきりしないままに読んだ。ただ、最後の「アンナ・カレーニナ」読書会の模様は楽しかった。いま自分の書いたレビューを読み返してみた。ヴロンスキーについて恋愛の熱容量が小さいと書いている。熱しやすく冷めやすい。なかなかうまいこと書いてるな。それともどこかで読んだフレーズか。僕はどちらかと言うとレーヴィンの方に感情移入しながら読んだ。嫉妬心とかすごくよく分かるのだ。そして、善についての件。「もし善が原因をもったら、それはもはや善とはいえないのだ。もしそれが結果として、報酬をもてば、やっぱり善とはいえないのだ。したがって、善は原因結果の連鎖を超越したものなのだ。そう、因果関係を超越するのだ。」この善を愛に置き換えても良いだろうと自分では書いている。ちゃんと読んでいたのだなあと思う。コロナ突入のGW期間に読んだ。必読の50冊。読んだのは6冊かな。あと4,5冊は読みたいな。「赤と黒」「人間の絆」「高慢と偏見」「魔の山」「白鯨」くらいだろうか。日本文学もまだまだ読みたいし。

    0
    投稿日: 2025.03.12
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    文学の面白さである「インタレスト」を軸に展開する文芸批評。分量的にしょうがないかもしれないが自説の域を出ておらず。

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    投稿日: 2025.01.31
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    こういう本が読みたかった! 今まで文学がどういう物か分かっていなかった自分に最適でした。 文学がどうして書かれるか、文学がどんな効果をもたらすか、文学は何について書かれるか、という自分の疑問に答えてくれる本でした。もちろんどんな読み方をしようと個人の自由ではありますが、真に楽しむにはこういう事を知っておかなければならないなと実感しました。 巻末には読むべき本のリストがあるのでそれもおすすめです。まずはアンナカレーニナ読んできます。

    0
    投稿日: 2024.08.05
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    このレビューはネタバレを含みます。

    「大きな長もちのする独自性を養おうとするものは、まずその基盤として、共通なものを身につけることが、大切であろう。」 読み始めてびっくり。こんなに昔に書かれたものなのに胸を打つ言葉の連続 電子書籍で出てくるおすすめや本屋のpopに影響されて本を手に取る日々。 独自性は、普遍から。基本に立ち返る大切さを教えてくれた本です

    1
    投稿日: 2024.05.16
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    文学の面白さは、慰みもののそれとは異なり、人生的な面白さである。 作者の誠実ないとなみによって生まれた作品中の人生を、読者がひとごとならず思うこと、つまりこれにインタレストをもって能動的に協力することである。 作品とは完了された経験なのである。それでは読者は、その経験を再経験して、インタレストをもつことによって、何を得るか? それはすぐさま行動に爆発するようなものではないが、行動をはらんだ心的態度であり、それはわれわれの行動を規制する力をもっている。 読者が文学によって、人間についての知識を獲得することは、いうまでもないが、その知識は実感に即した、実質のある知識である。そして、そうした知識の裏づけがなければ、理論的知識は空理におわるおそれがある。 人生を充実した、よりよきものとするためには、理性と知識のみでは足りず、さらに人生に感動しうる心が不可欠である。ところで文学こそ、そうしたものを養成するのに最も力のあるものである。 すぐれた文学とは、われわれを感動させ、その感動を経験したあとでは、われわれが自分を何か変革されたものとして感ぜすにはおられないような文学作品だ、といってよい。 そうした作品の経験を再経験することによって、われわれは心の中においてではあるが、豊かで深い人生を新たに経験したことになる。それは一つの冒険といってよい。 つまりわれわれを変革するもの、それがすぐれた文学なのである。

    1
    投稿日: 2024.03.06
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    「文学とは何か」の一つの視点。 古典・必読書に学び、かつ現代の文学を冒険する楽しみ。 ときに遠慮会釈なく批判する明確な姿勢も爽快。 ◯インタレストとは「興味」であると同時に「関心」であり、さらに「利害感」でさえあって、それは行動そのものでは決してないが、何ものかに働きかけようとする心の動きであって、必然的に行動をはらんでいる。そしてインタレストのないところに行動はありえない。 ◯つまり作者の私的なインタレストが、客観世界のダイナモを通過することによって、公的なインタレストに変わる。 ◯われわれが文学にインタレストを抱くことによって得るものは、まず以上のような心的態度の蓄積だが、それと同時に、人間についての知識の獲得のあることはいうまでもない。 ・優れた文学の要素:新しさ、誠実さ、明快さ ◯真にすぐれた文学は題材の新しさのほかに、発見をもっている。つまり、その作品が現れるまでは何人にも、その作品によって示されたものの存在、むしろ価値が全く気づかれずにいたのが、一たびその作品に接した後では、いままでそれに気づかなかったことがむしろ不思議とさえ感じられる、そうした気持ちを読者に抱かせるものをもっている。 ◯健康な精神をもつ文学者ならば、小さな問題よりも大きな問題に対するときの方が、より多くのインタレストが発動するはずである。 ・既成倫理に従っているかではなく、いかに因習に批判的な態度をとっているか、新しい倫理経験を伴っているか ◯物語は、日常生活をはなれた何か異常な出来事を物語るものであって、そこでは事件にあやつられる人物よりも、事件そのものに興味の中心がおかれる。 ◯小説は、日常の生活を描くものであり、たとえ異常な事件があっても、それは日常生活と同じ原理をもって解しうるものとして現れている。そこでは事件そのものよりも、作中人物に重点がかかり、全体は特異な個性による世界発見という形をとる。

    0
    投稿日: 2023.11.23
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    ここまで徹頭徹尾正しいことが書かれていると感じる本も珍しい。だがそれは、一度知ったら誰にでもわかるような普遍的なこと、「地球には酸素があって我々はそれを吸いながら生きている」というレベルのことを、書いているからにすぎない。ここに書かれているのはそれくらい当たり前のことなのだが、自分の知らない分野のことになるとそれくらいのこともわからないものなのだから、入門書というのはそういうことを丁寧に書いてあるようなものであらなければならない。この本は本当に丁寧に「文学」を説明する親切さにおいて、良書である。文学を書く人も積極的に読む人もここがスタート地点となって、さまざまな場所へ行ってゆく。型を破ろうとここに書かれている「当たり前」を否定しようが革新しようが、まずその当たり前を知らなければ、単なる型なしでしかない。我々はこのスタート地点から文学について考え、そして書かなければならない。

    0
    投稿日: 2023.02.10
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    2022.2.18 読了 文学に対する厳密な論考を積み重ねる入門書であった。世俗的観点・歴史的観点から海外と日本文学の対比や、文学作品と大衆誌の差異が述べられているが、全体的に議論が遠回りな印象を受けた。

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    投稿日: 2022.02.18
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    安心安定の岩波新書。 私は常に「何故ライトノベルは低俗な小説」として扱われているのかを考えていた。それにあたり、文学とは?についての本を読んできたが、この新書が一番納得できる考えだった。 新たな道徳は大抵多くの人に嫌悪され、既存の枠組みに満足であることは、多くの若い人の理解を容易にさせる。 速い話が、同じ道徳の下で同じ枠組みを使い、読者の心を大きく変革させることは難しいことが挙げられるのだろう。 ただ、近代小説は評価が固まっていないことも評価されない理由であるともいい、近代小説は読むべきではないという内容ではない。 筆者は、過去にしか興味を持たず近代および現実に目を向けない人を「世捨て人」と定義する。 再読こそ必要な本だが、読みやすくかつ非常に面白い新書だった。

    2
    投稿日: 2021.07.09
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    主に大正から第二次大戦前にかけての文学・大衆文学批評。 入門というだけあって、この手の本にしては平易なことばで書かれており読みやすい。 ただ、自分の読み込みが甘いのだと思うが、「文学とは何ぞや?」から始まって、結局「小説」に落ち着いてしまった感。 こういう観念的なやつは著者と同じ視点にならないとなかなか理解できないと思われるので、とりあえず巻末の50選を読んでから出直してこい、ということかな。

    2
    投稿日: 2019.11.08
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    13年4月7日日経朝刊の「リーダーの本棚」のコーナーで、SMBC日興証券副会長の渡辺英二さんの座右の著として紹介されており読んでみた。 本自体はだいぶ昔の本なのだが、とても面白く読むことができた。 文学を読むということは、それを通して新しい経験をすることであり、本当の文学はハイキングではなく初登頂のようなもの、というような表現があったが、きっとその通りだと思う。ただ、それが書かれた時代では初登頂であっても、そこから歴史を経るとどうなるのか、文学はそれでも生き残ったものなのだろうが、その辺り疑問が残る。 日本には文学が育ちづらいというが、では海外文学を鑑賞するのに翻訳でいいのか、といった点にも触れられていて、好感が持てた。 私自身、文学というものはあまり読んだことがないが、これを読んで、『アンナ・カレーニナ』を読んでみたくなった。巻末の必読書リストも読んでいきたくなる。 [more] (目次) 第一章 なぜ文学は人生に必要か 第二章 すぐれた文学とはどういうものか 第三章 大衆文学について 第四章 文学は何を、どう読めばいいか 第五章 『アンナ・カレーニナ』読書会

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    投稿日: 2018.10.12
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    最終章「アンナ・カレーニナの読書会」以外を読み終えた。古い本だけど、中身は今でも通用するし、踏み込んでしっかり意見も言っている。開かれてはいるけど言うべきは言うと言った感じ。文学にわくわくしたものを感じさせてくれるので不運にもいい本に巡り会えない時なんかに読み返すといいかもしれない。そもそも文学とはという感じがあっていいように思う。

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    投稿日: 2017.12.18
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    このレビューはネタバレを含みます。

    要約 第1章 文学は、はたして人生に必要なものであろうか? 単純に、文学が面白いからこそ必要だと著者は考える。ここで言う面白さとは、amusing ではなく interesting 。両者の違いは能動性にある。つまり、作者の誠実ないとなみによって生まれた文学作品を能動的に堪能することが、文学の醍醐味と言える。 第2章 すぐれた文学とはどういうものか。 我々を感動させるもの。その感動を経験したあとでは自分が何か変革されたと感じられるものである。 このような文学の条件は、明快さ=再経験しうるもの、誠実さ=作者自身が切実なインタレストをもっていること、新しさ=新しい経験 だと著者は考える。 第3章 すぐれた文学に対し、大衆文学(通俗文学)が世に溢れている。すぐれた文学と通俗文学には大きな差異があり、価値について前者は生産的、後者は再生産的、精神について前者は変革的、後者は温存的、全般的性格について前者は現実的、後者は観念的などがあげられる。こうした通俗文学が人気を集めるのには、社会的な土壌が影響している。 第4章 文学は何を、どう読めばいいか、という問いに対して答えを出すためには、日本国民の文学教養における共通なものを持つ必要がある。それ自体楽しいのは言わずもがなだが、低俗な文学を遠ざける副作用を持つ。

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    投稿日: 2017.02.25
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    文学の持つ意味。本物の文学とは。 近代小説というジャンルのみを取り扱っていますが、現代人が必要とする文学の本質を突いているような気がします。60年以上前に書かれたものとは思えないほど、鋭さを持っています。 文学入門というタイトルから想起するほど難しく複雑ではないので是非一読してみることをお勧めします。

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    投稿日: 2017.01.30
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    フランス文学研究者の著者が、文学作品のおもしろさについて平易に語った本です。 著者は、「インタレスト」(興味・関心・利害観)を引き起こすところに文学のおもしろさがあると主張しています。文学作品の著者が個人的に抱いた「インタレスト」が、作品として客観化され、読者の「インタレスト」を引き起こすことになります。そしてこの「インタレスト」の広がりと深みが、文学作品に価値と意義を付与することになります。 「文学入門」と銘打たれた本書では、18世紀に起こった近代小説を重視する立場が取られています。その理由として、近代小説は市民階級の文学であり、特別な教養や約束を前提としていないこと、また、自由意志を持つ個人をベースにして日常生活が描かれていることがあげられています。 巻末には、トルストイの『アンナ・カレーニナ』をめぐる架空の読書会と、「世界近代小説五十選」というリストがあります。

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    投稿日: 2015.02.15
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    純文学と通俗文学の違いがわかるようになったような……少なくともその目指すところの違いはわかったような気がしないでもない。

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    投稿日: 2014.08.23
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    『文学入門』。直球のタイトルであります。今時かういふ書名は、気恥づかしくて付けられないでせう。 昭和25年といふ、まだ戦後の混乱が続く時代を感じさせます。 なぜか。当時の文化人と呼ばれる人たちは、敗戦の責任の一端に、日本の文化が欧米に比して大きく遅れを取つてゐたことがあると感じてゐたらしい。文化国家を目指す日本としては、如何なる文学が必要か、啓蒙活動が必要だ... 戦後日本の、アジア軽視・欧米追従の姿勢はかういふ点も関係してゐるのでせう。 友人のS氏は「俺のバイブルだ」と評し、先輩のN氏は「つまらん本だ」と切り捨てた本書。ちよつと見てみませう。 第一章「なぜ文学は人生に必要か」では、文学の面白さを広く指す言葉として、「インタレスト」なる用語を多用します。作者が読者に迎合する面白さは低俗で、断じてインタレストではないさうです。 人生は合理性一辺倒では生きられず、人生に充実と感動を与へるものが必要だと説き、それが正にインタレストなのでせう。 第二章「すぐれた文学とはどういうものか」では、トルストイが提唱した藝術に不可欠な三要素「新しさ・誠実さ・明快さ」を借用し、桑原流文学論を展開します。ここでもインタレストといふ概念が比重の重さを占めてゐます。 第三章「大衆文学について」では、すぐれた文学が生産的・変革的・現実的であるのに対し、通俗文学は再生産的・温存的・観念的であるといふ。日本ではこの通俗文学がはびこり、それは出版社・作家・読者・批評家の共同責任であると述べます。この人は要するに、通俗文学が好きぢやないのですね。 第四章「文学は何を、どう読めばいいか」この題に反感を抱いた人は(わたくしもさうですが)、従来の日本の文学観に引き摺られてゐるからださうです。ふうん。巻末の「世界近代小説五十篇」は、作者なりの回答なのでせう。俳句や短歌に対する評価の低さは気になります。 第五章「『アンナ・カレーニナ』読書会」は、まあ第四章の実践篇と申せませうか。恥づかしながら、わたくしは『アンナ・カレーニナ』を読んでませんので、発言内容についていけないところもありますが...K先生の自身たつぷりな語り口は絶品ですな。 文学入門といふよりも、日本の文学はかうあるべきだといふ提言を込めた、桑原武夫氏による文学評論ですかな。特に第一章・第二章には卓見が多く含まれ、現在も版を重ねる理由が分からうといふところです。 ぢや、ご無礼します。 http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-109.html

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    投稿日: 2013.07.29
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    いささか古いが、文学の中核的な意義は存分に語られていると思う。最後に読書会をもってくることも構成的に素晴らしい。その意義がしっかり伝わる。それにしても日本の私小説に対して本当に腹立たしいのだろうな。 ・理性の増強と知性の増加に、人生へのインタレスト、感動する心、常に新しい経験を作り出す構想力が必要。 ・現実の人間は哲学者の区分をこえて全的に生きることを具体的に示すのが文学。 ・文学者の偉大さとは、彼がその胸の中にいかに多くの人間を生かしうるかによって定まる。 ・すぐれた文学:生産的、変革的、現実的。通俗文学:再生産的、温存的、観念的。 ・新聞に小説を載せるのは日本だけではないか。 ・普遍的な客観性を通らない個性はない。

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    投稿日: 2013.07.28
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     文学という物は「インタレスト」によってその価値が決まるというのは、何となく分かったような分からないような感じだった。しかしその後にまるで大衆文学の存在を批判するような、記述がみられたが、その後には大衆文学が必要であるというような記述もみられて結局どういうことが言いたいのか分からないような本だった。その原因はこの著者がこういった主張の文章(論文)を書く能力が弱いからだと思う。そう考えると分かりよい文章を嫌う人なのかもしれない。  ところでこの本の最後にあげられている「世界近代小説五十選」は非常に役立つと思う。これから国際化の中で教養として世界で読まれている文学を読んでおきたいがなにを読めばいいのかは、なかなか見えてこない物だったから。

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    投稿日: 2011.08.20
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    このレビューはネタバレを含みます。

    [ 内容 ] 私たちの文化生活のなかで最も重要な地位を占めている文学、これを狭い文壇意識から解放して、正しく社会に結びつけることほど大切な問題はないであろう。 なぜ文学は人生に必要か。 すぐれた文学とはどういうものか。 何をどう読めばいいか。 清新な文学理論と鋭い社会的洞察力をもって、文学のあるべき姿と味わい方を平明に説く。 [ 目次 ] 第一章 なぜ文学は人生に必要か 第二章 すぐれた文学とはどういうことか 第三章 大衆文学について 第四章 文学は何を、どう読めばよいか 第五章 『アンナ・カレーニナ』読書会 [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]

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    投稿日: 2011.04.26
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     本棚を探っていると、  桑原武夫『文学入門』(岩波新書)が出てきます。    本に書きこまれたメモによると、高校生のときに1回、  予備校生のときに1回、大学に入って1回、読んでいます。  パラパラめくってみたら、  「ああ、この事柄は、この本で学んだのか」  ということが多いのに、改めて驚きます。  桑原先生の書いたことは、いつの間にか  わたくしの頭脳の中で、勝手に「わたくしの物」化していたのです。  巻末に、「世界近代小説五十選」が載っています。  イタリアのボッカチオ『デカメロン』から  中国の魯迅の『阿Q正伝』に至るまでの  名作50作品の“必読書リスト”です。  50作品の中で、実際に読んだ作品数を数えてみたら、  『アンナ・カレーニナ』や『ボヴァリー夫人』など  18作品に過ぎません。  自分では、「結構、読んでるつもり」でしたが、  実際は、まだ半分の25作品にも達していない。  まだまだ、これから、ですね。      *  いえ、まだまだ、楽しみは残っている、と解釈します。  ただし、『チボー家の人々』など、絶対に読まないであろうという本も入っているので、  すべて制覇することはできそうもありません。  新しいリストが必要ですね。

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    投稿日: 2009.02.23