
総合評価
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powered by ブクログ自由とは?と考えさせられる小説でした。 AIが発達し、人間の苦しみがなくなる楽園(ユートロニカ)が、拡大していく物語。 AIが人間の苦悩等がなくなるよう事前に行動を予防していく(またはそうさせる。)世界では人間は無意識的になる。それにたいて意義を唱える人たちを描いた物語。 作中でたびたび、自由とはなにかと問いかける部分があり、そもそも何を以って自由なのかと考えさせられる小説でした。
0投稿日: 2026.01.29
powered by ブクログ小川哲氏のデビュー作 相変わらず知的な論理展開 難しいなと思ったその後には、ちゃんと噛み砕いて分かりやすい表現で説明してくれるので、難解な内容も入ってくる が、やはりこの後書かれた小説の方がより、没入できる読み応えがある 小川哲氏が語る動画も好き
0投稿日: 2026.01.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「情報銀行」という言葉が出る度に、なんだか生温かい気持ちになるわけですが…面白かったです!一見するとユートピア系ディストピア小説なのですが、第二章などを読むと、単純なディストピア…でもないのかも?という気持ちになります(過去のデータを仔細に見る事で、かえって今に意識がフォーカスできる、というの良かった)。というわけで非常にニュートラルで新鮮でした。群像劇なのも良いです。第二章で出てきたリード刑事が第二章では随分と感傷的なのに、第三章では太々しい後輩刑事然としていて、これこそ群像劇の味わい!データをもとに排除されるのは、危険とレッテルを貼られた人物よりも、不確実性の高い人物…というのも今後あり得そうで、面白かったです! ひとつだけ気になる点を言えば、マイン社のビジネスモデルがずっと気になって気になって仕方がなかったことですかね(汗)。住民の生活費を支える原資はどこから…?民間が個人情報集める目的って、適切なレコメンド広告をして、稼いだお金を自分たちに使ってもらうことなのかと。それとも行政とタッグを組んで、ベーシックインカムついでに治安の良い国作りを目指しているんですかね?(個人情報は治安維持のためしか使わない?)でも危険人物はリゾートの外に排出しちゃうし…。マイン社のやりたい事がよくわからない…けど、そのあたりは気にせず、個人情報を提供し、AI(サーヴァント)の言う事を聞く代わりに、生活を保証される世界、というのを所与のものとして楽しむのが良いのかな? ちなみに最後の章の『アガスティア・レポート』のせいで酷い目にあう理由もよくわからなかった(汗)。リゾートに肯定的な書きっぷりなのだろうことは文脈からわかるのだけど…うーん、やっぱりよくわからない。 でも全体通して面白かったです!
4投稿日: 2026.01.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
これがデビュー作だなんて信じられないくらい良かった。 よい生活をするためにはよい思想を持つ必要がある。物騒なことやネガティブな考えを抱いては自分の価値が下がるなんて、ゆるやかな思想統制に違いなかった。 でも労働のない安心安全な暮らしは多くの人間が望むものだろうとも思えるので、それを求める気持ちも分からなくはない。思想の自由と犯罪を事前に取り除いた社会、比べることのできないこのふたつの狭間で悩まされる読書となった。 章ごとに視点が変わっていくところが特に良かった。さまざまな立場の人間のさまざまな選択と主張から、リゾートの何が問題なのかが見えてくる。人類全員が同じ考えを持つことはできないからこそ対話の重要性を説き、一言で表すことはできない「自由」というものを、一冊を通して言葉を尽くして語っていると思った。 第四章のドーフマン視点の話が一番印象深い。被害者と加害者の未来を救うシステムであるという思いが人々に届いておらず、もっとも絶望を感じた。 ユートロニカの意味、人間は次第に無意識状態に回帰して……という話が恐ろしかった。情報が溢れた現代ではこれがもう起きているようにも思えるし、生成AIが広く使われるようになった今、この小説のような未来はそう遠くないようにも思える。 全体を通して、海外の小説を読んでいるような気分にさせられた。ほかの作品も読んでみたい。
2投稿日: 2025.12.12
powered by ブクログ小川哲のデビュー作。 巨大情報企業による実験都市アガスティアリゾート。 その都市で暮らす為には自らの視覚や聴覚、 位置情報などプライバシーの全てを提供しなければならない。 ただし、その代わりに得られる報酬で平均以上の豊かな生活が保証される。 そんなアガスティアリゾートに纏わる人々の6つの物語。 デビュー作で日本ではなくアメリカ、しかもディストピアを描く、 まさに挑戦的とも言えるし、トチ狂ってるとも言える。 そんな規格外な発想を実現させた小川哲に賛辞を贈りたい。 ビックブラザーのいないオセアニアの様な世界。 すごく乱暴に言えばそういったところか。 不都合な真実は見向きもされない。 人間は次第に無識状態に回帰していき、そしてユートロニカが訪れる。 永遠の静寂。これほど恐ろしいことはないんではないだろうか。
0投稿日: 2025.12.03
powered by ブクログ近未来SFだが、もはや現実であろう。無料でYouTubeを見れて喜び、LLMに思考をアウトソースする私たちは、果たしていかに(あるとするならば)自由を、得られるのだろうか。
0投稿日: 2025.12.01
powered by ブクログ個人情報を提起することで、理想的な生活が 送られる実験都市「アガスティアリゾート」。 その情報に等級をつけて、住民たちの生活を管理しています。 監視されながら生きる生活に自由はあるのか。 ユートピアとディストピアの狭間で創り上げられた都市で生きる人々のお話です。 小川さんのデビュー作で、最初ユートロニカの 意味が分からなかったのですが、理想郷の意味が ある「ユートピア」と電子音楽や電子機器全般の 総称でもある「エレクトロニカ」を掛け合わせた 造語だったみたいで、「永遠の静寂」を意味するみたいです。
38投稿日: 2025.11.02
powered by ブクログ直木賞作家、小川哲氏のデビュー作ということで読書開始。 壮大な世界観と近未来の倫理が、美しい比喩表現で描かれていて、終始圧倒された。 ビックテックに個人情報が握られる監視資本主義や、防犯カメラだらけの現代が描かれていると感じる。 最後が読みにくいという意見もわかる。最終章は、哲学書のような文体になっている。 ただ、全体を通じて傑作としか思えない。
9投稿日: 2025.10.21
powered by ブクログタグにディストピアって入れたけど、 本来この小説の世界では、舞台となる近未来アメリカで開発された【アガスティアリゾート】という街はユートピアのイメージなんだと思う。 個人の情報を全て売り渡す見返りとして、何から何まで管理され安全で働かなくても生活できる街への移住ができる。 そんな一見夢のような街、だけどそこに住む人は全て幸せになれるのか? そのシステムに対してちょっと疑問を持った人たちの視点で各章ごとに、正解がなんなのかを考えさせられるお話。 解説にもあったんだけど、ドーフマンの笑える章がなかったら眠くなる小説だったって印象になりかねない。 SF小説ってあんまり読まないし、苦手な気持ちもあったけど、小川哲さんの小説ならばと思って読んでみた。 面白く読めた。 私はアガスティアリゾートには移住できるよって言われても拒否するわ。
17投稿日: 2025.07.31
powered by ブクログマイン社が管理するアガスティアリゾートそこは夢の街なのか⁉️個人が管理されることが自由なのか不自由なのか、犯罪を未然に防ぐ事のという名目で罪を犯すかもしれない人達の自由が奪われていいのか。色々な家族の物語からそれを考えさせられる。自分ならどうする?
3投稿日: 2025.06.25
powered by ブクログプライベートを犠牲に手に入れた理想郷で、高度に発達したAIにより人間の意識が喪失していくという設定がリアルで怖すぎる。それらに抗う人々を描く連作短編だが、救いはあるのか。表現に難解な部分が多く読了まで時間がかかった。再読必須
13投稿日: 2025.06.22
powered by ブクログその街ではお金はもらえる、仕事はしなくていい、犯罪は起きない、まさに楽園だというのに、はじめからディストピア感満載だ。 小川哲さんのデビュー作は、すでに彼独自の文体、世界観が確立されており、唯一無二を感じさせる。ここから『ゲームの王国』や『地図と拳』等へと連なっていくわけだが、この淡々と進む物語はなぜか叙情的な読み心地にさせる。 作品の根底に流れる哲学的な要素は、著者の岩波文庫を読破した下地があることは間違いなく、そこからの面倒くさい思考、さらに作品への落とし込みが、まさに魅力になっている。
0投稿日: 2025.05.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
とても素敵な一冊です。 各々の人々が立たされている現状に伴って、ユートロニカに対する考え方は大きく違ってくるのだろうと考えさせられ、現代、そして未来への風刺小説としても当てはまると思うことができました。 私ならば「こちら側」へ留まってしまう。 「あちら側」へ行くにはリスクが大きく、プライバシーなど皆無に等しい。 それでも「あちら側」へはいつか足を踏み入れてしまうだろうとも思えます。 そして後々激しく後悔するんだろう、と考えるのが楽しくとても面白いです。
1投稿日: 2025.05.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
個人情報を提供することによって、アガスティアリゾートというユートピアに住むことができる世界を描いたディストピア小説。 メインの舞台がアメリカであることや、登場人物の名前が海外ドラマのそれのようだったこともあり、翻訳ものの小説を読んでいるような感覚があった。 第五章で登場する、人間は不自由がなければ自由を感じることができないという考え方が、それまで読んできて感じていた、このリゾートのまわりに存在する様々な矛盾をよく言い表せていると思った。
0投稿日: 2025.05.05
powered by ブクログ読んだ後、レビューをすっかり忘れていた。 傑作『ゲームの王国』の小川哲のデビュー作。 『ゲームの王国』が傑作過ぎたのか、大して面白くなかった。 言いたいことというか、やりたいことは伝わるのだが、面白味はない。 印象に残らない。 星は3つ。3.3くらいか。
0投稿日: 2025.04.09
powered by ブクログ(2025/03/14 3h) 洋書を読んでるのか、ほかの書籍と並行して読んでると何度も著者名を確認してしまうほど。
1投稿日: 2025.03.14
powered by ブクログなんと、読了するまでにひと月近くを要しました。大好きな小川哲さんなんだけど。 アガスティア・リゾートというユートピアを軸にしたディストピア小説です。村上春樹作品の阿美寮的な。 デビュー作とはいえ受賞作品なのですから、出版するまえに、登場人物の弱さ、論理の捩れや飛躍、何よりもテーマ構成など、もうちょっと手を入れられなかったのかなー。 とはいえ、『ゲームの王国』や『嘘と正典』に続いていく、才能の予感に満ち満ちているんですよね、この作品。なので⭐️二つです。
0投稿日: 2025.03.05
powered by ブクログ著者のデビュー作。荒削り…みたいな書評を見かけたことがあるけど私は結構好きだと思った。最近彼の作品は難しい短編集が多かったが、この近未来都市のSFは、エンタメよりの楽しみ方をした。数年前の、情報銀行などか話題になっていた頃に書かれたのかなという内容。一応ディストピア小説というジャンルだと思う。 あらゆる個人データや生体データ、行動データをその会社に提供することに同意し、「あまり深く考えない質」であることで情報ランクが高いと評価された人間は、その会社が運営するカリフォルニアの実験都市の住人になれる。そこでは仕事をしなくても平均以上の生活が保障されるユートピア。トイレ以外の場所はカメラで監視されている。データ分析を元に平和を保つ都市。犯罪を「予防」するために犯罪者予備軍を特定してサナトリウムに入れる。データをかき集めてVR世界を作り上げれば、過去のどんな場面にも戻って追体験もできる。 そんな世界に対して、様々な要素を掛け合わせてどんな動きがありうるかシミュレーションするような連作短編集。例えば、その都市に外から移住した夫婦はどうなる?住み続けたら人間はどうなる?事件が起きたら警察はどうする?死んだ両親にバーチャルで会えたら?監視されていたことを知らずに育った子どもが真実に気づいたら?テロを起こそうとしたら?司法は?アルゴリズム開発者は?… 反抗してもがく少数派の人たちの姿と、違和感を持たずに溶け込む人たちの対比が良くて、自分はどっちの人間だろう…と思った。普段アルゴリズムによる情報レコメンド大歓迎の私は、後者かもしれない…
16投稿日: 2025.01.30
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
久しぶりに結構しっかり目のSFを読んだ。 内容としては、個人情報やプライバシーを切り売りすることで働かずして暮らせるようになるという実験都市、アガスティアリゾートにまつわる人物たちを描いた作品。 サーヴァントと呼ばれるAI?の指示通り動けば大きな間違いや苦悩にぶつかることなく過ごせるというところから人々は徐々に思考(作中でいう意識)を放棄していく様に妙にリアリティを感じる。久々に「言葉で感想を上手く言えないけどなんか面白い…」と感じる作品。 ユートピア×エレクトロニカという造語も納得できるような作品。 ただし、かなり小難しい。
1投稿日: 2024.12.12
powered by ブクログ設定の面白さ、 海外と日本がうまく掛け合わさっていく ただちょっと長くて後半垂れてしまった。 それは私がSF慣れしていないからだと思うけど壮大すぎるストーリーに結末を急ぐように読み飛ばしてしまった。 でもこれが新人賞なんてすごい。 あとがきも面白かったし勉強になった。
0投稿日: 2024.06.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
めっちゃ現実的な設定だった。 あと数十年後にはありえる世界。 なのに、怖さがなんかあんまりわからなかった自分が怖い。 この本を読んでる時に、日本の出生率が過去最低というニュースを見た。 専門家の人たちのコメントも見た。 だけど、なんだか現実感がなくて「どうしようもない」と思った。 同じようにアガスティアみたいなことが起きても、たぶんそんなに何も思わないだろうなと思った。 人類はすでに滅亡しかかってる気がするし、滅亡しはじめてからじゃないとどうすればいいかわからない気がする。
2投稿日: 2024.06.06
powered by ブクログあらゆる個人情報(視覚や聴覚などすべて)を提供することでそこそこ豊かな生活が保証される社会、ユートロニカ。そんな社会になじめず、零れ落ちた人たち、すなわち“ユートロニカのこちら側”の人たちを描く。 過激な暴力や搾取の描写は殆どなく、ディストピア小説ではないような感じ。 社会の革命的な変化は、想像力そのものを変質させてしまう。 以前は想像できていたことが、想像すら出来なくなってしまう。 不可逆的な変化の恐ろしさ。
9投稿日: 2024.06.02
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情報銀行に個人情報を預けることで収入と福祉や安全が得られるようになった社会を、主にそれに違和感や疑問を持つ人の視点で描いている。 登場人物が章ごとに変わる群像劇風。後半になるにつれて哲学的、思索的な内容が増えてくる。個人的には面白かったが読む人を選ぶと思う。 (少なくともメインの登場人物は)意識があること、考えることに価値を置いていて、その見方に立つとディストピア小説に見えるが、本当にそうなのか?意識があり自由である(と思っている)ことに、実際のところどれだけの価値があるのか?といったことについて考えてしまった。
0投稿日: 2024.04.02
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
登場人物たちのセリフには、欧米の翻訳風コミカルさとは異なる、独特な言い回しの癖を感じた。だが、小川先生の作品を2〜3冊読めば、その違和感も自然と馴染んでいく。本書は、小川先生の2作目の作品である「ゲームの王国」に比べると、やや表現が固い印象がある。 「アガスティアリゾート」。個人情報を全て都市に提供する代わりに衣食住・文化活動の保証を得られる完璧な管理都市。働くことも、悩むこともしなくて良い、一件ユートピアに見えるこの都市で、登場人物たちは疑問を持ち葛藤する。 「ユートロニカのこちら側」が出版されたのは2015年。管理都市のようなシステムをAIとして捉えると、Siriや検索予測のような技術が登場し始めた時期だった。いずれもまだ万全ではなく、思考の主導権はあくまで人間にあり、AIは補助的なツールに過ぎなかった。 では、10年経った現代ではどうだろうか、ChatGPTやGeminiなどの生成AIが登場し、文章・映像・音声などがAIの判断で作成されるようになった。また、AIカウンセリングが定着してきたことにより、私たちの感情にまでもAIは侵食してきている。私たちが試行錯誤する時間を省いてくれる良きパートナー又は自分の分身のような存在へと変貌してきた。 ⚠︎︎ここからは、個人の感想 情報管理都市をユートピアと呼ぶか、ディストピアと呼ぶか。校則でよくある「ルールは従うもの」という意見に対して、ここは集団生活の場だからそうなんだと、不満はあれど慣れ、順応していく。例え理不尽極まりない校則だったとしても、自己が鈍化され、違和感を持たず、自ら選択を放棄した集団行動の中で安全に暮らす。協調性はあるのかもしれないが、自我や個性が摘まれていく。情報管理都市も同様である。最適化された選択肢の中で、ルールに疑問を持てば強制され思考そのものが管理対象になる。あらかじめ引かれた線路の上を疑問も抱かず歩き続ける人間は、本当に自我を持っていると言えるのだろうか。ユートピアを存続するための予定調和に過ぎないのではないか。私は異端者となったとしても考え続ける存在でありたい。 「アガスティアリゾート」のアガスティアは、5000年以上前にインドの予言の言の葉を書き残した人物だそう。私は10年前にこの小説を読んでいたら、思考の喪失という考えをフィクションだと思いこんでいたんだろうか。小川先生は、着眼点が鋭く監視社会という現代にも入り込む問題を予言していたようにも思う。小川先生の作品はとても難しいが読み応えがあり面白い。しかもこれがデビュー作というのだから、凄いという感想しか出てこない。ただ、「ユートロニカのこちら側」は、登場人物に強く感情移入するというより、どこか定点カメラで観察するような視点で読み進めていった感覚があった。私はそれが少しだけより物語を難解にしてしまったように感じたため星を4つにさせていただいた。また、読み返そうと思う面白い小説だった。
0投稿日: 2024.02.14
powered by ブクログ監視社会の変遷と、その社会を生きる人々の内面を描写したSF作品。今や大人気作家となった小川哲さんですが、デビュー作のみ手に取っていなかったので今更ですが読了。デビュー作とは思ないほど濃厚な物語で、非常に楽しめました。 大きな事件が起きるわけでは無いので、どこか淡々としており、SF作品として読むと少し盛り上がりにかける印象がありましたが、文学作品として見ると、監視社会というあり方に抵抗する個人の内面を丁寧に描いており、「自分だったらどうするか」ということも考えながら楽しめる唯一無二の作品だと感じました。4章などは、のちの「ゲームの王国」などにも通じる印象もある濃厚なストーリーで、その点でも興味深ったです。
6投稿日: 2024.01.30
powered by ブクログユートロニカのこちら側 近未来、監視社会ディストピア。 複数の視点からの物語で構成されている。 各々の事情でアガスティアリゾートという居住特区に関わり、サーヴァントと呼ばれる個人情報を収集し情報を基にアルゴリズムされたAIと自己意識の葛藤を描く群像劇S F ストーリー。 人々は個人情報を提供することで労働から解放され、日々の選択もサーヴァントに依存する生活で、日々の様々な選択からも解放される。 果たして自らで考えることを図らずも放棄した人々は、自由といえるのろうか。そこに意識としての自己は存在するのかを考えさせてくれる。自由とは何か。不自由があるからこその自由。自由の定義。意識と無意識。やがて到来するであろう人類の在り方についての問題提起。テクノロジーが発展していく先に人類が直面する可能性のある世界軸。人間が人間としてあるための戦いでもあるように感じた。
4投稿日: 2023.12.12
powered by ブクログ最近、私の中で密かにブームになっている小川哲さんの小説です。 端的に言って大好きな作品でした。 文章の手触りも好きだし、話の展開、キャラクター造形やその背景にある哲学的な問いまで小さなことひとつひとつが個人的に刺さる。飽きることなく最後まで読み進め、読了して(終わってしまったということに)少し残念に思ったほどでした。 ディストピアものとカテゴライズされているものの、どちらかというと「生き延びるには?」というサバイバル的要素というよりは、監視社会(=アガスティア・リゾート)について書かれた物語で、その物語の中心は「自由とは何だ?」という問いです。 さらに、そのリゾートは我々の生きている社会と地続きなのだなと思わされます。 読んでいる途中、以前読了したネット監視社会についてまざまざと思い出しました。 こちらではその内容より、より深く「見えない監視」が進んでいて、コンタクトレンズで視界を盗視したり、手首の端末から心拍や体温を検知したりと、あらゆる手を尽くして監視されています。 きっと私の付けているスマートウォッチも、単にスマートなだけではなくて、ヘルスケアの域を超えてどこかへ情報を送っているんだろうな……などと思いながら読み進めました(それでもスマートウォッチは付けたまま)。 ガチガチの監視社会であるアガスティア・リゾートについて、居住を望む人、疑いを持つ人、制度そのものの社会的価値について考える人、内側から崩そうとする人など、多様な角度からひとつの監視社会を眺めるように物語が展開されています。 ビッグテックと監視社会に関する本を読んでから目にしたので、著者はそのことに関して警鐘を鳴らしたいという意図があるのかな? と思いましたし、「それでもリゾートはなくならない」というお話の展開的に、誰かが流れに掉さしても止められるようなものではない、といううっすらとした絶望感があって、個人的にはそれが「ディストピア要素」の中核ではないかと感じました。 ユートピアの真後ろ、背中合わせにディストピアがある。でも実は、ディストピアに住んでいる側はもう殆ど思考停止していて、ユートロニカ(永遠の静寂)に陥りかけている。だから自分がいるところをユートピアと思っているだけで、実際に「目を開いている」側から見ると完全にそこはディストピア。犯罪者予備軍だと(アルゴリズムのわからない)機械に判断されたら隔離され、矯正される都市。 ……ちょっとゾクゾクする設定だと思いませんか。 しかも、この世界は「今あなた方が生きている世界と地続きですよ」と著者は言っている気がします(あくまで推測ですが)。 何なら、ディストピアSFを通り超えて、ホラー小説の域じゃないかとすら思えます。 欲を言えば、ユートロニカに人々が陥って、社会が機能不全になっていく静かな死(のようなもの)を描写として読んでみたかったな。 コールドスリープとまではいかないものの、同じような反応しか返さない母親を見て息子は何を思うのか。そういう展開を見てみたかったですね。 現代の日本に住んでいる一読者として思ったことのひとつは、アガスティア・リゾートに住める人は(金銭的な面でも精神的な面でも、いろんな意味で)「おめでたい人」「恵まれた人」なんだろうな、ということと、精神病を疑われたら隔離される辺り、日本人の場合は居住区より療養施設の方が大きくなりそうだなー、ということ。 そのまま一生を療養施設に軟禁になったまま終えてしまうであろう老人の手記とか、そういう形の続編を読んでみたい気もしますね。 冤罪をなくすために予備犯罪者を裁く、という理論が出てくるところなんかはリアルすぎるし、明らかな悪手なのに賛同者が多勢になって押し切りそうなところ、とても日本っぽい(舞台はアメリカだが)なと感じました。 「正義だと思っているから暴力に訴える」というのは今のネット社会そのものだし、ただのSFとは思えないリアルさに心を鷲掴みにされた気分です。 派手なSF演出はないですが、今となっては派手過ぎるSF要素は「しらける」こともあるよな、と思ったり。サーヴァントを始めとするゴリゴリのIT近未来要素を出しつつも、そこに焦点を当てず、「考え方」「人間(そのもの)」にスポットライトを当てたところが、個人的には良かった点でした。 借りて読んだ本ですが、半分も読まないうちに「買って読もう!」と思えた本でした。 半年後とかにもう一度読み返したいですね。 本来の本の在り方ってこうだよな、と思い出させてくれた一冊でもありました。 オススメします。
3投稿日: 2023.12.05
powered by ブクログ情報企業が運用している実験都市・アガスティアリゾート。このリゾート内で暮らすことを選択した/認められた人々は、自らのバスルームとベッドルームを除くあらゆる場所・時間での個人情報を視覚・聴覚・位置情報等全て企業に提供することと引き換えに、働かずとも十分に生活できる報酬と、劇場・スタジアム・フィットネスクラブ・公園その他諸々の時間潰しを提供される。 一見ユートピアのようなこの実験都市にも、馴染めない人、反発を覚える人、そもそも入る資格を持てない人、様々な思いが交錯する。裕福さと個人情報を取引する、ここはユートピアなのか、ディストピアなのか? 今や直木賞作家の小川哲、ハヤカワSFコンテストで大賞を獲ったデビュー作です。 鴨は「ゲームの王国」から小川哲に入り、その後発表された作品を読んできたので、改めてこのデビュー作を読むと、「おとなしいな」と思ったのが、第一印象です。いかにも近未来SFらしい、価値観を天秤にかけて読者の問いを引き出す作風や、その後の小川哲作品名物と言ってもいい「変な人」が出てこないので(笑)、意外とあっさり終わったな、という読後感です。 ただ、小川哲らしくないかといえばそんなことはなく、多様な価値観を持った人々の群像劇、はっきりとした結末を明示せず読者の考えに委ねるラストシーン、そんなところはいかにも小川哲らしさが出ています。デビュー作ということもあって、控えめに書いたんだろうなー。これ以降の作品、とんでもないキャラクターがどんどん出てくるもんなー(笑)。 自分が持ちこの作品の登場人物だったら、アガスティアリゾートをユートピアと捉えるか、ディストピアと捉えるか? そんなことを考えながら読むと、面白いかもしれませんね。
1投稿日: 2023.12.03
powered by ブクログプライバシーと引き換えに労働から解放されるという世界があったとき、人はどう行動するのか?全ての行動を見張られている環境で、ヒトは人間らしく生きていけるのか?見張られているから犯罪も予防できる。起きない。全ての情報を持ち、膨大な情報から論理的に、客観的に正しい判断ができるサーバントに頼り切り、自分の頭で考えなくなる人間。本来人間の召使いであったはずの彼らに取り締まられ、奴隷化して行く。そんな世界を理想と考える人間と、間違っていると考える人間との対立。全てを見張られるという不自由を受け入れることで自由が得られるという矛盾。そんな状況で「自由って何なんだ」と悩んだときに、何千年も信仰され、人間の考えの拠り所となってきた宗教に何ができるのか? 作者の知識の広さ深さ、頭の回転の速さに感心してしまう作品。私の知性が作者のそれに追いつければもっと楽しめたと思うが、残念ながら… 近未来でありそうな世界の設定が素晴らしい上に、そこで起こるであろうことの予測も深い。登場人物の心理の読み、描写も秀逸。 アメリカの文化や政治、科学、宗教、すべての知識が深いのがよくわかる。ところどころに出てくるアメリカ人が本当に言いそうな皮肉やユーモア、本当にありそうな親子の会話、本当につきそうな嘘と、嘘を嘘でないという弁解のしかた、まるで洋画の字幕でも見ているかのよう。良くこんなセリフが出てくるな、と感心する。 ピーターがティモシーに話す、無意識と意識のこと、意識はストレスである、という話は刺さった。
0投稿日: 2023.10.22
powered by ブクログ・管理社会系のディストピアもの ・意識のない静寂な世界=ユートロニカ ・この都市に住みたいような住みたくないような、ユートピアとディストピアのさじ加減がうまい
0投稿日: 2023.10.09
powered by ブクログ日々の自分の生活の中では考えが及ばないような思考にさせてくれる一冊でした。 SF、ディストピア物であるけれど、哲学的と感じたし、読んだ後もなんだか思いを巡らせてる自分もいます。
3投稿日: 2023.07.15
powered by ブクログ見るもの、聞くもの、その行動のすべてをデータとして提供する代わりにほとんど働かなくても生きていける実験都市、アガスティアリゾートに住むことができる。 というとても単純な舞台設定をベースに、その実験都市の中の人や外の人の人生を描き出す群像劇。 この実験都市はある人にとってはユートピアで、ある人にとってはディストピアとなる。 登場人物それぞれの人生がリズム良く語られた後、最後に「そもそも意識とは何か」という命題を突きつけてくる。もし興味を持って読んでくれる人がいるかもしれないので多くは語らないけど、意識というのはストレスがあって初めて自覚されるのではないかという問いが投げかけられる。 ここはもうサイエンスの領域ではなく哲学の領域だと思うけど、作者の文章力の見事さもあり、この切り口でのこの問いがとても刺激的だった。 読後にあれこれ考えを巡らせるところまで含めて、とてもよい読書時間だった。
2投稿日: 2023.04.18
powered by ブクログ「地図と拳」から遡ること4冊目。究極の管理社会をテーマにした本作も、ただのSFではなかった。とても思索的で叙情的。ラスト近く「誰が勝つかは問題でなくて、何を求めて戦うかが大切」というメッセージが心に刺さった。デビュー作でこのクオリティー。小川哲さん、やっぱり只者じゃない。
10投稿日: 2023.03.31
powered by ブクログ自由と同価値に楽(ラク)があるのではなく、自由と同価値に安心があるわけでもない。楽で安心な世界は不自由で退屈な世界だ。 何を大切にして生きていくのが自分の人生を歩む事なのか、考えさせる物語。
1投稿日: 2023.02.21
powered by ブクログ進化する事によって捨てるものと得るものが あるけれど、捨てるものって案外見えてないから 難しいもんです。
0投稿日: 2023.01.29
powered by ブクログ設定はとても面白いが、章ごとに登場人物が変わるのと、周りくどい表現が目立ちいまいち入り込めなかった。 マイン社が運営するアガスティアリゾートという『楽園』では、あらゆる個人情報を提供する代わりに働かなくても暮らすことができる。 犯罪予備軍はシステムによって事前に検知されるため、治安も良い。楽園と思われたリゾートであったが、精神が壊れる人が出たり、犯罪に至っていなくても悪意を持つだけで取り締まれる法律ができたり、情報から導かれる答えをサーバント(AI)に従うだけで自ら考えることを放棄することが当たり前になったり、、、 このような環境で、人はどうなるのか?本作で語られるように意識は希薄化していくのか?
0投稿日: 2023.01.19
powered by ブクログ地図と拳→嘘と正典→ゲームの王国→君のクイズと読んでやっとこのデビュー作に辿り着きました。 すぐに読み終えるのが勿体無くて1日一章までと決めて読みました。 海外の作品の方が日本の作品より優れているというつもりはないのだけれど、この作品は舞台がアメリカなこともあり、アメリカSF小説の翻訳を読んでいるような感覚でした。逆に英訳版を出して世界の人々の評価を知りたいくらいです。 2015年の作品だけれども今まさに起きている、あるいは起きようとしている世界を見ているようでした。そして小川哲さんの論理的というか理詰めで理屈っぽい表現が自分の好みにぴったり合ってすごく面白かったです。 行為を裁くことと、危険性そのものを裁くことは大きく違います。いくら痛ましい事件があっても、罪を犯した人間と、罪を犯そうとしている人間は切り分けて考えるべきです。もし危険性そのものが自由に裁けるようになれば、人々は危険について想像することすら避けるようになるでしょう。人間の想像力に介入することは、思いもよらない変化を引き起こします。 世界が本当に変わるのは、何か非常に便利で革新的なものが開発されたり、新しい画期的な物理法則が発見されたりしたときではない。さらにいえば、与党が改まったり、新しい法律が成立したときでもない。そんなものは、政治家の人気投票結果に付随する塵芥にすぎない。本当の変化は、自分たちの変化に気づかないまま、人々の考え方やものの見方かそっと変わったときに訪れる。想像力そのものが変質するんだ。一度変わってしまえは、もう二度と元には戻れない。自分たちが元々何だったか、想像することすらできなくなる ちなみに自分はH2では古賀ちゃん派でした笑笑
5投稿日: 2023.01.15
powered by ブクログ感想 監視社会の停滞。人々が社会の要請する行動様式を受け入れた結果思考や行動の多様性は失われる。負のフィードバックが組み込まれた社会は崩壊する。
0投稿日: 2022.09.20
powered by ブクログいわゆる監視社会もの 色んな人の視点を切り替えつつテンポ良く話が進む が人物にあまり個性を感じられず、淡々とという感じ。 「行動や思考の予測が難しい人間はコストがかかる存在として排除される」と言った旨の一節が印象に残った。 機械学習による統計的な予測を用いた制度の下では、外れ値に当たる行動や思考は善悪以前にコストがかかるというのは確かにありそうだなと。
0投稿日: 2022.05.09
powered by ブクログ視覚聴覚情報を提供する代わりに治安が保障された地域が実験的に設置された。あらゆる個人情報からその人が犯罪を犯す危険度を測り事前に矯正することで犯罪をなくし、安心して住めるようにするもの。 またレコメンド機能を備えた情報端末を常時所持しているため、自分である考えることなく情報端末に従うことが当たり前となっていく。 そんな監視社会に疑問を感じた数人が、行動を起こす。 正直なところなかなか難しい話。 はっきりと言い切らず行間を読ませたり、想像に任せたり、もやっとするところが多々ある。 監視社会がテーマだとジョージ・オーウェルが有名だが、これもそれに似た感じかと。
0投稿日: 2022.03.12
powered by ブクログ個人情報を完全に管理された超管理社会において、人々が手に入れた自由=不自由の群像劇。技術が人間の全ての不自由さを解放するのではなく、技術と倫理の相互な変容の中で何かを手に入れ、何かを手放してゆく。本当に重要な変化は変化している事が認知できない。単なるディストピアを描くのではなく、ユートピアとディストピアの間にある問題の複雑さと、後戻りのできない世界の境界を描いている。
0投稿日: 2021.12.10
powered by ブクログ個人の情報や行動のデータを全て提供する代わりに、完璧に安全が保証され、調和の取れた理想の生活が手に入る街、「アガスティアリゾート」。 そこでの生活を志願して暮らす人々の話。 カメラに囲まれた街で視覚、聴覚などのあらゆるデータが分析され、犯罪や不穏な行為は未然に防止される。究極の監視社会とも取れるが、住む人によっては完全なるユートピアであり、なんとしてでも住みたい理想郷として描かれている。 程度の差はあれど、個人のインターネットを通したやりとりを企業に情報提供することに抵抗がなくなり、あらゆる情報が個人に最適化されて提供され、自分自身でものごとを選択する必要がどんどん無くなってきている今、この本で書かれている内容は遠い未来の夢物語ではなく私たちの社会の今後を表していると感じた。
1投稿日: 2021.11.29
powered by ブクログディストピア小説としてはちょっとあっさりめな感じがしました。 ディストピア小説を読み始めにはちょうど良いのかもしれないです。
0投稿日: 2021.07.24
powered by ブクログ注:内容に触れていますけど、本を読んでないと意味がわからないと思うので、あえてネタバレ設定にしていません というか、こんな長い感想、誰も読まないと思うw これに出てくる「アガスティアリゾート」を否定的に見て、ぶっちゃけて内容を書くならば、映画の「銀河鉄道999」みたいな話なのかなーと思う。 「999」は、“機械の体”を貰うために主人公が行きついた所は“機械の体”ではなく、その都市(星だっけ?)を構成する“部品”にされてしまう話だったと思うが、 この本の中に出てくる、アガスティアリゾートついて書かれた本にある説、“いくらかの割合の人間がほぼ完全に無意識になった時、永遠の静寂(ユートロニカ)が訪れる”は、「999」の最後で明かされる“機械の体の正体”を思わせる。 ただ、それはあくまで話の中でも一人の人が言っている「説」にすぎないし。 少なくとも、この小説の中でアガスティアリゾートに住んでいる人たちは幸せに暮らしている(ようだ)。 そこで描かれている生活は「999」のように、“格差によって生存が脅かされる”という、いわゆるディストピアではない。 にもかかわらず、そこに住んでいる、あるいはそこに関わる一部の人は、日々の暮らしで自分の行動や見たり感じたりしたこと全てが「情報」として取られてしまう、アガスティアリゾートでの生活に疑問を感じて、自分でも理由がわからないストレスを受けている。 そんな人たちを描く6つのエピソード、と聞いて何かピンとくるものがある人ならば読んでみてもいいと思う。 ただし、いわゆるSF小説的なエキサイティングな展開はないし。また、読んで面白いという小説でもない。 でも、読んでいると、ついいろいろ考えてしまう。それは、ある意味エキサイティングだった。 (ゆえに感想がやたら長いw) 読み始めて、最初に感じたのは、いい意味でも、よくない意味でも、やたらと頭のいい人が書いた小説だなーと。 自分の感想は大体茶化して書く傾向があるが、これは茶化しでもなんでもなく、本当に正直な感想。 読みやすい文章だし。また、自分は(他の人が言ってるほど)人間が描かれていないとは感じなかった。 むしろ、その人の人生を過去に遡って、キャラ設定していたり、さすが巧く書いているなーと感心した(←ホントに茶化しではないw)。 これが、いい意味の方の感想。 で、よくない方はというと、なんだか、話に出てくる、設定から会話、あらゆるものが著者が読者の先回りをして“正解”を用意しているようで。そこが、読んでいて、著者がやたらと頭がいいだけにカツンとくるんだと思うw あえて極端に書くと、『ユートロニカのこちら側』という小説自体が、著者の考え方が“正解”であるアガスティアリゾートで。『ユートロニカのこちら側』という小説を読み楽しむには、その著者の考え方が“正解”であるアガスティアリゾートに住まうことを押し付けられているような気がしてくるのだ。 で、もう一つ、これは、いい意味なのか、よくない意味なのか、自分でもよくわからないのだが。何人かの方が伊藤計劃の『ハーモニー』を思い出すと書いているのを見て、ふと思ったのが、その『ハーモニー』よりもこっちの方が小説としての出来がいいのに、物語としては、なぜか『ハーモニー』の方が面白いということ。 たぶん、いい意味で幼稚っぽいんだと思う、『ハーモニー』は(「ハーモニー」は管理社会としての未来を描いているのではなく、世間が管理し合っている今の日本の社会を著者が自分自身を賭して皮肉っているように感じる。そこに凄味があるんだと思う)。 それに対して、こっちは頭がよくて、社会的にも認められている大人が書いた小説という感じで。 書いていて、著者でなく、物語の方が動き出しちゃった、ハッチャケた感じがないっていうのかなー。 そういえば、読んでいると、時々唐突に「え、この著者も村上春樹のファンなの?」と思わせるような表現が出てくるのだが、そういったことも含めて、頭のいい人が巧みに書いている小説だなーって感じてしまって。 ゆえによくもわるくも、な~んか展開が煮え切らないんだよなぁ~(血沸き肉踊らないと言ってしまったら違うんだけど、そう、コーフンしないって言ったらいいのかな?)というのがあるんだと思う。 ただ。それは、この小説が、SF小説というよりは、著者の抱くIT社会の問題意識に沿った「寓話」だからかなーとも思う。 いや、その寓話というのは、著者がそう意図して書いたのか、それとも、たまたま寓話になってしまったのか、それはわからないのだが、著者は、いかにもSFファンが喜びそうな、類型的な「ディストピア小説」を書く気はなかった。ゆえにこういう「物語」になった。 たぶん、そういうことなんじゃないだろうか? つまり、なにも「ディストピア小説」の伝統に沿った、いかにもな定番な展開で盛り上げなきゃならないということはないわけで。そいう意味では、著者のその心意気(アティチュード)にはとてもシンパシーを感じる。 そう考えると、解説で、選考した東浩紀という人が“管理社会をディストピアとして描くのであれば、管理に衝突する抵抗者=犯罪者の造形が重要になってくる。本作の空気はバラードの著作を思い起こさせるが、バラードは変態を書くのが巧かった”と言ったとあるが、それは明らかに見当違いな指摘なのだろう。 ていうか、どこかの隣の国じゃあるまいし。いまさら、体制による暴力を伴う監視・管理社会=ディストピアって発想は、この日本ではさすがに古くないかい?w この本の面白さは、そんなカビが生えたディストピアではなくて。 独善的な便利・効率的・お得を押し付けることで、人々の営みに笑顔ですり寄ってくる今のIT企業・ITサービスが目論む社会をテーマに持ってきたところにあると思う。 それは、決して、暴力や圧政を伴う監視・管理社会=ディストピアではない。 そういう古典的なディストピアというのは、誰しもそれを不当な抑圧を感じて、「不正義」として打倒することも出来るだけ、もしかしたら、まだマシなのかもしれないという気がしてくるのだ。 だって、「あなたの生活を『便利・効率的・お得』にしますよ」と笑顔ですり寄ってくる存在を、「不正義」と逆らう人はまずいない。 だって、実際「不正義」ではないし。何より、『便利・効率的・お得』を得られるのは間違いないことだからだ。 つまり、それは誰が見ても「ユートピア」なのだ。 現に、この小説の第一章「リップ・ヴァン・ウィンクル」の登場人物ジェシカは、そのユートピアである「アガスティアリゾート」に住むために8回応募している。 でも、その「ユートピア」は、お金儲けを目的とする「企業」が運営しているのだ。 もちろん、お金儲けが悪いのではない。 でも、企業というのはお金儲けを第一義としている以上、お金儲けこそが正義で、お金が儲からないことは不正義だ。 それが一般市民の生活や幸せと必ずしも合致するものではないというのは誰もわかるだろう。 最近の事案を見ても、『便利・効率的・お得』を謳っているはずの企業が、こっそり学生の個人情報を企業に売っていたり、市場シェア拡大のためにアカウントを作るセキュリティの設定を甘くしたり(記者会見ではそれは否定していたが)等々枚挙にいとまがない。 ただ、それは、あくまで独善的な便利・効率的・お得を押し付けることで、人々の営みに笑顔ですり寄ってくる今のIT企業・ITサービスの目に見える悪しき面にすぎない。 目に見えない、一見、誰もそれを悪いことと感じない=誰もそれを「不正義」と逆らえないことによってもたらされる、“長い目で見た”悪しき面を描いてみせたところ。 その点こそが、この著者の描きたかった、“センス・オブ・ワンダー”なんじゃないだろうか? (とはいえ。最初からアガスティア・リゾートというものを否定的に描くのではなく、読者を肯定的に錯覚させるように描いた方が「小説」としては面白かったような気はする) AIというと、よく言われる“中立・公正なアルゴリズムで云々”という話があるが。 でも、それはあくまでAIを開発するの、お金儲けが第一義の企業にとっての“中立・公正なアルゴリズム”なのであって。 それを利用する/利用させられる一般市民にとっての“中立・公正なアルゴリズム”であるとは限らない(というか、ほぼ“企業に有利で不公正なアルゴリズム”だろう。 ただ、だからと言って、第六章で出てくる、“人間は次第に無意識状態に回帰していて、なおかつそれは進化論的に正常なこと”、“いくらかの割合の人間がほぼ完全に無意識になった時、永遠の静寂(ユートロニカ)が訪れる”がアガスティア・リゾートによってもたらされるかは、 自分は全くわからない。 というのは、この著者が頭がよすぎて、自分の頭ではとてもじゃないけどその論理についていけないということもあるが。でも、それより何より、この小説ではその「永遠の静寂(ユートロニカ)」に至るまでの過程が示されていないというのもある。 (そもそも、その“永遠の静寂――ユートロニカ”云々はこの本の登場人物が書いた本の中にある「説」にすぎない) ただ、その「永遠の静寂(ユートロニカ)」って、蜂や蟻のように巣全体で一つの意識や意思を持つみたいなことなのだとしたら、それは進化論的に正常なことなのかは知らないが、それはそれで人類の進化の方向性の一つなのかなーとも思う。 進化というものをディストピアと逆らう人はいない。というか、人の進化の行先がそうなら、それをディストピアと思う意識すら持たないだろうから、なら、それはそれでいいんじゃない?と思ってしまう、というのもある(ていうか、それしかないよね?w)。 そうなってくると、要は、それで幸せか/不幸せか。あるいは、ストレスを感じるか/感じないか、なんだろう。 アガスティア・リゾートに住むことで、運営するマイン社にトイレと寝室以外(だったか?)の全ての知覚情報をデータとして提供する代わりに、生活の一切の不安を取り除いてくれるサービスが受けられるということを、 “その人が損と感じるか/得と感じるか”。突き詰めてしまえばそういうことなのかなーと。 損と感じれば、それはストレスだろうから、第一章のジョンのように心を病んでしまうだろうし。 得と感じれば、その奥さんのジェシカのように楽しく生き生きと暮らせる。 でも、そう考えてしまえば、ちょっと元気が出てくるというものだ。 もしかしたら、人の生活に独善的な便利・効率的・お得を押し付けてくるだけの現在のIT企業・ITサービスではない、“人や人の生活におもねる(おもねるというと言葉は悪いが)ことが出来る”ITサービスというものが、これからのITサービスの差別化の方向性として出てくるのではないか?と思うからだ。 詳しくは知らないが、デンマーク(だったか?)では、取得された個人データは本人の承諾がない限り企業は使うことが出来ない仕組みが出来ているらしい。 そんな風に、あからさまに個人が丸裸にされるように感じてしまうデータの使い方でない、IT企業である前に人としての仁義をわきまえたITサービス、あるいは悪質なITから市民を守る仕組み(システム)みたいなものがあれば、今の独善的な便利・効率的・お得を押し付けることで、人々の営みに笑顔ですり寄ってくる今のIT企業・ITサービスは自然に排除されていくように思う。 ITに関しては日本/日本人は海外勢に負けっ放しだけど、そういう方向でなら、色々やりようがあるんじゃないのかな? こういう本を読むと。誰しも、アガスティアリゾートに住んでみたいか?って話になると思うのだが。 自分は、最初のエピソードに出てくる、アガスティアリゾートの情景描写を読んだ途端、あー、俺はここに住みたくない!って思った。 いや、働かなくてもいいとか、犯罪が抑止されているとか、心が動くところはいっぱいあるw でも、床がガラス張りで、その下にサメが泳いでるのが見えるレストランとか、そんなクソつまんない所、死んでも行きたくない!って思うのだ(爆) ま、自分はテーマパークとかが大嫌いなこともあって、余計そう思うのかもしれないがw そういえば、香港が中国に返還される前くらいに、香港に関する本を読んだ時。“香港は子供の自殺率が世界のトップクラスだが、大人になると自殺率は途端に低くなる。それは、香港人は仕事が嫌になるとすぐ辞めて、すぐに別の所に就職しちゃうからだ”みたいなことが書いてあった記憶があるが、実際にアガスティアリゾートが出来たとしたら、たぶんそんな風になるんじゃないのかな? 水清ければ魚棲まずじゃないけど、人間なんてものは下世話でくだらないものが、生きていく上で絶対必要なんじゃないのかなぁーw それこそ、いわゆる週刊誌ネタとかワイドショーネタみたいな空気感とか。だって、みんな大好きじゃん、あれ(爆) あと、「ステイホーム」の中、家にいることにストレスが溜まる人がいかに多かったかを見ても、アガスティアリゾートの外に出たら点数が下がる生活なんて耐えられないんじゃないのかな? というか、人間なんてもんは、アガスティア・リゾートのような最大公約数的な幸せの中では絶対満足出来ないんじゃないのかな? 人間の欲望や幸せ(満足)への欲求というものは、そのくらい際限がないもので。データの対価として支給されるお金に最初は納得できたとしても、だんだん「それでは安い。もっとよこせ」という風になっていくと思うのだ。 安全や娯楽・レクリェーションに関してもそれは同じで、「もっと」「もっと」と際限なく、さらにあらゆる方向にエスカレートしていくはずだ。 それらの欲求を満たせる存在なんてあるわけもなく。満たせられなければ、いつか爆発する。 人というのは、そういうものだと思う。 といっても、この『ユートロニカのこちら側』は、あくまで“寓話”だと思うので。 アガスティアリゾートのそういうところに現実味がないとか、あと、マイン社は得たデータでどうやって儲けているのだろう?なんて疑問を持つのはたぶん見当違いなんだろうし。 なにより、今すぐそこにある問題点を考えれば、そんな重箱の隅をつつくようなことを言っている場合じゃないということだろう。 素直であることは、幸せに生きる上で大事なことだと思う。 なぜなら、素直に長いものに巻かれていれば疲れないわけだから。疲れないということは、自分の人生をポジティブに考えられると思うのだ。 でも、長いものに巻かれ続けていると、ストレスが溜まってくるのも事実だろう。 アガスティア・リゾートでの暮らしのように、マイン社が望む暮らしをしないと個人の点数が下がり、それに応じてマイン社から支給される収入も下がるという仕組み(考えただけでストレスが溜まるw)がなかったとしてもストレスは溜まるはずだ。 なぜなら、アガスティア・リゾートでの暮らしが良ければ良いほど、その生活を無料で提供してくれるマイン社は自分たちの生活データを使って莫大な利益を得て、その社員たちはもっと良い暮らしをしているということを、住民は想像するようになるからだ。 アガスティア・リゾートの暮らしにストレスが少ない分(というより少ないからこそ)、それは住人にとって大きなストレスになっていく。 ストレスが溜まれば、やっぱり疲れてしまう。疲れてしまえば、自分の人生をネガティブに考えるようになってしまう。 そんな風に、便利で、効率的で、お得な長いものに巻かれて疲れて生きるのか、それとも、なるべく長いものに巻かれないように疲れて生きるのか。 各自がどちらを選ぶか、選択を強いられる時代、それが21世紀なのだろう。 というか、もはや誰もが既にいつの間にか選択させられているわけだが、つまり、これからは巻かれているそれの締め付けが強くなっていくということなのだろう。 ただ、その長いものの締め付けを、ジェシカのように良いものと感じる人もいれば、ジョンのようによくないものと感じる人もいるということなのだろう。 とはいうものの、アメリカの大統領選を見ていて思うのだが、アガスティア・リゾートのような街を造ることはアメリカ人は到底容認しないだろう。 アメリカ人が大好きな例の集団ヒステリーを巧く起こせば、もしかしたら出来るかもしれないが、でもすぐに逆の集団ヒステリーが起きて、「それは間違いだった」と無くしてしまう気がする。 また、今のIT企業ならこんな露骨なやり方ではなく、もっと隠れて巧妙なやり方をする(というか、している?)と思う。 こういう街が出来るとしたら、それはまずは中国や新興国。あるいは、東アジアの国々(日本も含む)だろう。 そういう意味では、「それは間違いだった」と認められない日本なんかはヤバイかもしれないw うろ覚えだけど、デヴィッド・ボウイが80年代の初め、(たしか)坂本龍一に「これからの抵抗は政治にではなく、情報に対してすることこそが抵抗なんだ」みたいなことを言っていたと何かで読んだことがある。 デヴィッド・ボウイとはいえ、いくらなんでも80年代の初めに今のネット社会を具体的にイメージしていたとは思えないし。 また、「情報」というよりはマスコミをイメージしていたんじゃないかって気もするのだが。 とはいえ、デヴィッド・ボウイというのは常に次は何?ということを考えなきゃなんなかった人だけに、不安というか、不穏というか、何かそんな嫌な空気を捉えていたんじゃないだろうか? つまり、『便利・効率的・お得』という、誰もが抗えない言葉に抵抗しなきゃならない世紀、それがこの21世紀でなのだろう。 『便利・効率的・お得』というのは、そんなにも疲れることなのだけれど。 ただ、そうは言いつつ、アガスティア・リゾートに住んでいる人は『O嬢の物語』をどう読むのだろうか?なんて思う(爆) 以下、個人的なメモ。 “住民を洗脳することで自らを正当化しているが、彼らの行いは…”(P159) そんなこと言ったって、検索した時、遥か先までスクロールしたものをわざわざ見ないよー。 面倒くさいし、検索エンジンが提示して出てきたものを素直に見ちゃうよw “なお、マイン社はランダムニュースの取材に対し「正式に訴状を受け取ってからコメントしたい」と述べている”(P160) 「正式に訴状を受け取ってからコメントしたい」って、よく聞く言葉だけど、 でも、考えてみたら、正式に訴状を受け取ってからなされたコメントって聞いたことないなーw “もしマイン社が頭からお尻まで間違っているのなら、リゾートがこれだけ繁栄するはずもなかった。彼らは大きな誤りの一部に、何か絶対的な正解を含んでいる” 第五章:ブリンカー(P222) ――日中戦争から太平洋戦争に突入することを選んだあの時代の日本人に、何なりかの絶対的な正解があったのだろうか? “それって何かおかしいような気がする。悪いことをするってわかりきっている人間は(アガスティア・リゾートに)入場できて、何をするかわからない人間は入場できないってさ” 第五章:ブリンカー(P228) ――法律に違反して犯罪者になってしまえば人権が守られるのに、TVを見ている人が不快だと感じたタレントが自殺に追い込まれるまで叩かれるのとどこか通じているような…… “「物事を深く考える」のが悪いことであると、「物事を深く考えず」に口にしている。寒気がした” 第五章:ブリンカー(P241) ――ここ数年、「思考停止」という言葉をよく耳にするが、「思考停止」と言った途端、その人も考えることを止めているような?w “「本当の変化は、自分たちの変化に気づかないまま、人の考え方やものの見方が変わった時にそっと訪れる」 (中略)だがドーフマンは、その変化が良いものなのか、悪いものなのか教えてはくれなかった。彼の興味はそこにはないようだった” 第五章:ブリンカー(P243) そう。確かに、それは、“そっと訪れる”ものなんだろうし。また、“彼(企業)の興味はそこにはない”ものなんだろう。 “良い、悪い”(ちょっと言葉が抽象的すぎると思う)以前に、その“興味がない(興味があるのは儲かるか儲からないかだけ)”というところが一番怖いんだと思う。
5投稿日: 2020.11.03
powered by ブクログ個人情報を全て提供するかわりにユートピアに移住できる。みたいな仕組みがある近未来が舞台の群像劇。 最初にロボット工学の三原則から始まったから勝手に人間VS社会を管理するAI〜みたいなのを期待して読んでしまったので三章あたりからちょっと飽きてしまった。
0投稿日: 2020.03.05
powered by ブクログ友人との待ち合わせの際に最終ページまで読み終わる。どうやら彼はもう少し遅れて来るらしい。幸いなことにそこは地元の駅前で、数年前にできた新しい店舗を含めて書店が二軒ある。少し逡巡してから行きなれた古い本屋に足を向け、見慣れた書棚から著者の次作「ゲームの王国」をレジに持っていった。 大衆、自由、作られた社会システム、そこに相容れぬ者たち。僕が読みたかった物語がここにあった。こんな衝撃は「虐殺器官」以来だ。自分の脳みそでは作り上げられなかった物語がそこにあった。これだから読書はやめられない。
0投稿日: 2019.11.02
powered by ブクログ『ゲームの王国』を購入してみようか迷っていた時に古書店で同作者のを見つけたのでポチッた。嫌いではないけど、別のも読んでみたいとまでは…
0投稿日: 2019.02.17
powered by ブクログ全個人情報の管理された近未来社会を描く.6つの事象を例に,そんな社会はディストピアかも,でもそうじゃない可能性だってあるよね,と囁かれるような筆致なのだが,登場人物達が人工知能のような表層的な存在に感じて,いまいちのめり込めない.
0投稿日: 2018.11.28
powered by ブクログ各章、少しずつ登場人物の重なる6つの物語。おもしろくて第四章まで一気読み。 「アガスティアリゾート」はまだまだ実現には程遠そうに思えて、しかしよく考えてみれば情報銀行のようなものはすでに原型が生まれつつあるなと思う。いま現在、スマホに入れたアプリに対して個別に許可・拒否しているような個人情報が、もっと大枠の存在に吸い取られて管理される未来は突拍子もないものじゃない。 その後、この物語では街づくりに進んでいるわけだけれど・・・現実では何が起こるんだろうなぁ。 「リップ・ヴァン・ウィンクル」での、監視に無頓着でいられる人とどうしても耐えられない人、というのはすごく想像できる状態だなと思う。 『鈍感さはこの街で最も尊い美徳のひとつなんです。時代は変わりました』 「死者の記念日」での、旧世代のスティーヴンソンと時代に順応したライルとのかみ合わないやり取りもどこかで交わされていそうだ。 『まるで差別が正当化されるような口ぶりだな』 『これは決して差別ではありません。契約です』 最後は宗教が出てくるところが、アメリカらしい。文体のせいもあって、翻訳ものを読んでいるような気分でおもしろかった。
0投稿日: 2018.07.25
powered by ブクログ超監視・プライバシー管理社会に身を委ねることのもたらす安寧と幸福。 そうできない人たち。 「君はものごとを深く考えすぎだよ」 「眼鏡をかけろ、自由を探せ」 並走する6つの物語は時折わずかに触れ合う。もっとカタルシスのあるような大団円が訪れるのかと期待もしたが、そういうのではなかった。 単にシステムに巻き込まれた人ばかりではなく、システムを作る側の人間、システムを批判する側の人間など、メタ認知をする人間がたくさん出てくるのも特徴か。
0投稿日: 2018.04.01
powered by ブクログ巨大情報企業が運営する実験都市アガスティア・リゾートでは、あらゆる個人情報を提供することで、仕事から解放され安全に平均以上の生活ができる。この都市に関わる人々の短編集。適応できる人間にとっては楽園だが、それが出来ない人間にとっては終始監視されて苦痛でしかないだろう。 情報社会が進んだ先に待つのはどんな社会なんだろうか。管理社会、監視社会…果たして自由とは。本著を読みながら、社会が徐々に変わっていく過程をシミュレーションしているように感じた。<管理社会>というとSFではディストピアを連想させるが、完全にはそうとは言い切れない。アガスティア・リゾートが善か悪か正直わからない。そういう風に二項対立でしか物事を考えられなくなるのは危険だと考えさせられた。 以下、本文から気になった部分をメモφ(..) ・もし危険性そのものが自由に裁けるようになれば、人々は危険について想像することすら避けるようになるでしょう。(中略)危険について考えることをやめた人間は、別種の、新しい次元の危険を生み出すでしょう。 ・賛成か反対か、それだけが意味もなく叫ばれています。(中略)単純な図式が強調され、その奥にある複雑な問題は一切考慮されていないように感じます。 ・「君はものごとを深く考えすぎだよ」恐ろしい言葉だった。「ものごとを深く考える」のが悪いことであると、「ものごとを、深く考えず」に口にしている。寒気がした。 ・本当の変化は、自分たちの変化に気がつかないまま、人々の考え方やものの見方がそっと変わったときに訪れる。想像力そのものが変質するんだ。一度変わってしまえば、もう二度と元には戻れない。自分たちが元々何だったか、想像することすらできなくなる ・『人間は次第に無意識状態に回帰していて、なおかつそれは進化論的に正常だ』(中略)『いくらかの割合の人間がほぼ完全に無意識になったとき、永遠の静寂(ユートロニカ)が訪れる』
1投稿日: 2018.02.28
powered by ブクログ2018年、第38回日本SF大賞に輝いた『ゲームの王国』の著者のデビュー作。大IT企業のマイン社がアメリカ政府と提携し、実験的に開始した超最先端都市「アガスティアリゾート」。住民は、視覚・聴覚・位置情報などありとあらゆる情報をリアルタイムで提供する引き換えに、誰もが羨む豊かな暮らしを手に入れる。しかし、理想的に思えた都市での生活にも闇はつきまといー。 広告代理店の元デジタル広告担当として、無料サービスの利用と引き換えにとっことん一般市民の顧客情報(ええ〜そこまで、と思う様な情報まで)が吸い上げられ利用される様を見てきたので、この本に書かれている世界に私達は既に片足どころか半身浸かっているのでは、と思わずにはいられない。 例えば米A社が最近試験的に導入し始めたレジなし無人スーパー。支払いの全自動化で顧客は利便性を手に入れるが、A社には、いつ・何時何分に・何を購入したかが筒抜けになる訳だ。そしてその情報が毎日の様に蓄積されていけば、彼らは顧客の生活習慣から趣味趣向まで、手に取るように分かる様になる。でも、便利な生活が手に入るのであれば、それも悪くないのでは?果たして本作の理想都市に自分も住む機会が与えられたとしたら、どうするだろう?色々夢想しながら読まずにはいられません。あなたはこちら側とあちら側、どちらを選びますか? 全体的に少々丸く収まっている印象は否めませんが、同じテーマを掘り下げているデイヴ・エガーズ著『ザ・サークル』よりは良く出来ていて好き。あと、ディストピアアニメ『PSYCHO-PASS』と一部似ている部分があるのでそちらが好きな人は本作も手に取ってみては。
3投稿日: 2018.02.28
powered by ブクログ個人の行動と身体状況が、ほぼ全てAIに監視され記録される実験都市に関わる人たちを描いていて、管理社会が行くところまで行っちゃったら、人間はどうなっちゃうのかな?っていうお話。 実験都市の住人は、自分の生活の記録を提供することで、生活が保証され、あくせく働かずに自由な暮らしをしていられるんだけど、その代わり、日常の行動をほぼ全て監視・記録されているから、常に誰かに観られているっていう感覚に耐えられない人は、頭がおかしくなって療養所に隔離されるか都市から強制退去させられちゃう。 逆に監視され管理されることが平気な人たちは、AIのレコメンドに従って健康的に楽しく都市生活をエンジョイできる。 なにせAIは、その人その人にとって最適な行動を教えてくれるから、それに従っていれば何事においても自分の頭で考えるより良い結果が得られちゃうんだよね。 で、そうなるとだんだん自分の頭で考えなくなるから、人間から意識というものがなくなってしまう!それはマズい!っていう考えを持つ人たちも現れてきて、反対運動も展開されていく。そして…… 人間がみんなAIのオススメどおりに動いちゃったら、AIの拠り所である大量のデータに多様性がなくなってきて、だんだんAIがバカになっていくんじゃないかなぁ、でも、やっぱり、そのあたりも優秀なAIは折り込み済みで、突拍子も無い行動を起こす人間のこともシミュレートしちゃうのかなぁ、なんて思いながら読んでたら、頭の中がぐるぐるしてきちゃった(汗)
0投稿日: 2018.02.14
powered by ブクログ第3回ハヤカワSFコンテスト受賞作の文庫化。 小川一水と一緒に何となく買ったのだが、面白かった。先頃、同じく早川書房で文庫化された、『ザ・サークル』と、読んだ後のざわざわした感じが共通しているような気がする。
0投稿日: 2018.01.12
powered by ブクログ文章が日本人ぽくない(まるで欧米人が書いたかのよう) 設定も面白く、自由や幸せが相対的な価値観であると捉えたところが、現代的な社会問題、意識の問題に共通している部分でもあり、作品にリアル感を与えていると思います。
0投稿日: 2017.12.25
powered by ブクログ先日『ゲームの王国』を読み終えた丁度良いタイミングでの文庫化。 巨大情報企業マイン社による実験都市アガスティアリゾート。 個人情報を解放することによって、その都市での暮らしと平均以上の収入を約束される。 人間の心理と行動パターンから犯罪予備軍をランク付けするBAPが登場する第三章は、『サイコパス』のシビュラシステムと同様の問題を浮かび上がらせる。 結局、アガスティアリゾートの理想はフリーライダー(ただ乗りする者)の駆逐?なのだろうか。 人に潜む悪意を浮かび上がらせ、深く考える思考を停止させ、理想郷として人々が盲目的に信仰できる社会を作ってゆく。 「Completeness(完全性)、Coherence(一貫性)、Continuity(継続性)、Closedness(閉鎖性)。マイン社が情報の価値を決める「4C」と呼んでいるものだ。」 「これに対して、ある哲学者は、Contingency(偶然性)、Curiosity(好奇心)、Complication(複雑さ)の三つが、人間が人間であるための「3C」であると反論した。」
2投稿日: 2017.12.18
