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三の隣は五号室
三の隣は五号室
長嶋有/中央公論新社
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総合評価

21件)
3.5
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6
5
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    横浜北部にある第一藤岡荘。都内へのアクセスもよく、かと言って郊外だし家賃はお手頃。出来た当初の60年台は4人家族が住める、火災報知器も完備と謳った風変わりな間取り。 その角部屋でもない五号室に住んだ人々の暮らしを描いている。 60年台から10年台の50年間。 言わば五号室の生涯だ。 五号室の間取りは極めて詳細に描かれている。 日本が変化した時代。それぞれライフスタイル、年代、人数、性別、出身国も異なる人々を、五号室という額(フォーマット)に収めて鑑賞する形だ。 額である五号室は読者が思い浮かべられるほど鮮明に、壁のコゲ一つまで描写される。これにより人々の暮らしへの解像度が上がるという仕組みになっている。 他の読者様のレビューを見るといささか退屈と感じる方もいらっしゃるようだが、私としては、淡々とした日々を軽快な語り口で、人々の間の抜けたようで時に温かく、時には決意を秘めた心情を垣間見、五号室の空気を共に暮らすように楽しめた。 なぜか引き出しに代々残されていく外した蛇口、シンクには水不足ステッカー。 数十年の時を経て暴かれる、風呂場の水漏れの原因。 複数名が思いつくもの、打たれることのなかった玄関の柱の釘。(靴べら、バット!を掛けるため) 互いにその暮らしを知り得る由もなくも、その跡を共に刻んでいく。 入居するものがいるという事は、退去したものがいるのだ。 何か、人の繋がり、さらには優しさのようなものさえ感じる。 それらを俯瞰するような藤岡荘の住民たち。 少女ナナや隣の医師(実は…)、外国人移住者たちが、時の移ろいを見せる。 同じ部屋の中で変わってゆくもの、変わらないもの。 放っておいても変わるものは変わってゆく。 流れる刻の中、それぞれに生きればよい。 そんな赦しをもらった気がする。

    3
    投稿日: 2025.06.09
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    いやぁ面白かった。 こうやって人生は紡がれていき、見えないところでそっと繋がっていくんだな。 初めて一人暮らししたまるで5号室のような古くてボロい今は無いアパートを思い出し、妙に切ない気持ちになりながらも温かい世界観に引き込まれました。大切な一冊が増えました。

    2
    投稿日: 2025.01.19
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    時代の違う同じ部屋で過ごした住人たちの日常を魅力的に描いた作品でした。 私たちが日常生活で感じているけれど、取り立てて誰に話す機会もないような事柄が詰まっていて、それが作品になっっているのがすごいです。

    2
    投稿日: 2024.11.16
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    住民の名前が1から順番になっているので とてもわかりやすい  前に住んでいた人の事なんて気にもしないけど こうやって話として読んでみると感慨深い 最近の若いものは真新しいところが好みだけど 前の人の跡が残っているのもいいものだ

    1
    投稿日: 2024.10.09
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    無理だ。仕組みは出だしで理解したけど、章が変わってもしっくりこんのよ。多数出るしバトン渡す感覚もいいと思うけど入って来ん。猛スピードと佐渡の3人は気に入ったけどその後が感想見ると今回も含めて思ったのと違うってこと

    10
    投稿日: 2023.12.25
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     古いだけで一見なんの変哲もない2Kの木造アパート。だが住み始めると、その間取りが少し変わっていることに気づく。  そんなおかしなアパートの一室、5号室を舞台に、そこに暮らした代々の住人たちを描く群像劇。  第52回谷崎潤一郎賞受賞作品。          ◇  「変な間取りだ」 1982年、第1藤岡荘5号室に入居したばかりの三輪密人はそう思った。  内見することも間取り図を見ることもなく適当に決めた部屋である。6畳4畳半とキッチン3畳だが、ドアを入ったところに「玄関の間」とでも言うべきスペースもある。  けれど、玄関の間の先にはキッチンに入るドアと4畳半に入る障子が並んでいる。それらの奥に6畳間が控えていてキッチンからも4畳半からも障子1枚で仕切られていた。  煙草を吸いながらそんなことを考えているうちに、引っ越し業者が大量のダンボール箱を搬入していく。どんどん積み上げられる荷物で部屋のほとんどが埋まっていくのを、三輪はただ眺めていた。     ( 第1話「変な間取り」) ※全10話。      * * * * *  なんと風変わりな小説だろう。そう思いました。少し変わった間取りを持つ2Kのアパートの一室に入居した、歴代の住人の生活記録です。  ただし、50 年間に渡る 13 代の住人の全記録を順に述べるのではなく、第8話まではテーマごとに各住人の言動や思考を列挙していくという手法で書かれています。  そして、第9話は住人たちの退去のいきさつが紹介され、最終話で後日談が明かされます。  この観察日記とも言える記録集は、試みとしてはおもしろいしそれなりに楽しめたのだけれど、語られる人物が次々と入れ替わっていくため、プロフィールを思い出すのに苦労します。  また、誰にも、そして何にも主眼が置かれておらず、ひたすら淡々と書き綴られていっている印象で、読み通すためのモチベーションの維持も大変でした。  でも第9話「メドレー」から最終話「簡単に懐かしい」での三輪密人に絡む話はサスペンスミステリーのにおいがして、少しばかりドキドキします。  ここまで読んだ人へのご褒美のようなものかなと思って、ひとりでニンマリしました。  エンタメ性はまったくありませんが、一風変わった小説が好きな人にはオススメです。

    52
    投稿日: 2023.11.29
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    自分の今住んでいる家も、帰り道も、仕事も 誰かの過去で、誰かの未来なんだなと思うと 今の見え方が少し変わりました

    1
    投稿日: 2023.06.27
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    とある古アパートの一室の、歴代住人たちの日常を切り取った短編集。 って書くとめちゃくちゃありきたりなんだけど、同じ章の中でも時代が目まぐるしく前後して、歴代住人たちのエピソードが入り組みながら、パズルのピースのように少しずつ展開されていく。 読み味は軽いのに、全体像は緻密に組み立てられているというアンバランスさ。 実はめちゃくちゃテクニカルなことをしてるんじゃないだろうか。長嶋有恐るべし。 大きな謎や事件が起こるわけではないので、そのあたりに話の推進力を求める人には退屈に感じるのも分かる。 ふと他人の家の中が見えてしまった瞬間に、「こんな生活してんのかな〜」なんて、つい考えてしまう自分にはめちゃくちゃ面白く読めた。 たぶん今後も読み返すお気に入りの一冊になりました。

    5
    投稿日: 2023.01.23
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    定点観測な連作集。 こういうのって「ひとり1話」みたいな 構成になっているものが多いと思うのですが これは少し変わっている。 第一藤岡荘というアパートの一室に住んだ 歴代の住人たちの人生を書き留めるのに 「場所」や「もの」で章わけされているのです。 たとえば『雨と風邪』の章なら 部屋に響く雨音を風邪ひきの布団で聴く十畑保 乗り物の中にいるようだと感じる二瓶環太 天ぷらを揚げる音のように思う七瀬奈々。 『ザ・テレビジョン!』の章なら 白黒テレビだった藤岡一平から 父・野球、母・ワイドショー、子はアニメと 昭和そのものな視聴風景の二瓶一家。 1966年から2016年までの物語。 その時代、時代の暮らしぶりが 郷愁を誘う一冊でした。

    3
    投稿日: 2022.08.01
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    ある部屋の歴代の居住者たちのお話。それぞれが無関係なのに、同じことを思ったり、違うことを感じたり、知らぬ間に何かを引き継がされていたり、そんなことが時代背景の細かな描写とともに語られている。

    0
    投稿日: 2021.09.25
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    『三の隣は五号室』長嶋 有 こういう小説もアリなのか。純文学って本当に面白い。 ある人の何気ない暮らしが全く知らない別の人の暮らしに少しのドラマを与える。これを読んでいると、自分のマンションの『前の人』はここでどんなことを考えたんだろうとか、どこにベットを置いてどんなテレビを見てたんだろうとか分かるはずもないことを色々と想像してしまった。 解説で村田さやかさんが書いてたけど、自分もいつかはこの部屋において誰かの『前の人』になるだろうし、自分はその誰かのことなんてどうでもいいんだろうな。  何にもしていない時間でも人は思った以上に「生きて」いて、自分とは別の誰かに何かしらの影響を与えている。すごくドラマチックだなぁと思いました。

    1
    投稿日: 2021.08.01
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ★星4.4 初めての作家さん。 第一藤岡荘五号室に、1966年~2016年の間に入居した13人(世帯)の住人の、それぞれの物語。 物語は、時系列ではなくランダムにそれぞれの住人にスポットが当たるってのがテンポ良くて好き。 最終章は、何かあるんじゃないか!って思わせるようなフラグがありちょっとハラハラ…でも結局、日常に戻るのが、この物語の良さなのかなって思いました。 何気ない日常を描く、とっても好きなタイプのお話でした。

    0
    投稿日: 2021.05.07
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    傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―。今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい。驚きの手法で描かれる、小さな空間に流れた半世紀。優しく心を揺さぶる著者最高作。第五二回谷崎潤一郎賞受賞。

    0
    投稿日: 2021.01.31
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    珍しい小説、おもしろかった。 みんながこういうささいなことを思ったり考えたり、工夫をしてみたり、していると思うと、かわいらしく思える。 難しいだろうけど、映画とかでも観てみたい。

    2
    投稿日: 2021.01.11
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    第一藤岡荘の5号室を舞台に、同室に居住した合計13代の住人が織りなす物語。方法論としては「問いのない答え」と同様、多くの人々・出来事が連想ゲームのようにつながっていくというところなのだろうが、「問いのない答え」よりもさらに研ぎ澄まされているように感じる。何しろ、場所は同じ五号室でも、時間を前後していったり来たりしながらなんの違和感もなく、しかしなんでもないのにちょっとひっかかる言葉が、結構ページ数を離れてもしっかりと想起されるようにできている、というのは物凄いことではないだろうか。そこで描かれていることは他愛のないことかもしれないが、しかし時を超え人々が共有するものがある、ということが、何か意味があるような気がしてくる。それが大事なのではないか。なお本作は住人達の名前が第1代から13代までどこかにその代の数字を含んでいるということで、アパートものの傑作である「めぞん一刻」へのオマージュを捧げていると思われるが、アパートものの傑作としても数えられるであろう。 「人生にはしばしば、そういう時間がある。誰も自ら語らないし誰から語られることもないが、あるはずだ。側溝や、自動販売機の下に転がっていった小銭に手を伸ばしたり、瓶になにげなく差し込んだ指が抜け亡くなったり、タイルとタイルの間のもう落ちない黒ずみをこすったり、洗面台の排水溝に落としてしまった母親の指輪を拾い上げようとしたり。そういうときのあらゆる苦闘を『人生の時間』と誰も思っていない。だけど、仕事や恋愛や、なにか大事な時間を経たのと『同じ』人生の時間上にそれらのこともあるはずだ。」

    0
    投稿日: 2021.01.04
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    「文化住宅」というような、昔よくあった建物の1つの部屋の様々な移り変わりを、その部屋の中にある物や雰囲気をテーマにして優しく語り続けられていく。よくあるような手法に思えて、そういえば真新しい表現方法で楽しく読むことができました。 それにしても密人さんの部屋の中にあった箱の中身は何だったんだろうか…?

    0
    投稿日: 2020.09.28
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    このレビューはネタバレを含みます。

    *傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―。今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい。驚きの手法で描かれる、小さな空間に流れた半世紀。優しく心を揺さぶる著者最高作* うーむ。 表現的なセンスは好みなのですが・・・この、凝った手法が全く合わず。 時代や登場人物が入り乱れ過ぎ、感情移入する前にこんがらがってしまって、あえなく途中棄権。評価がいいのに、読み解けなかった己が残念。

    0
    投稿日: 2020.08.03
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    1966年から2016年の間に、とある木造モルタルアパートの一室に暮らした13代の住人達を描いた、変則的な連作風小説です。登場人物はそれぞれアパートの何代目の住人であるかに対応して名前に数字が含まれています(三輪、五十嵐のように)。登場順は時系列とは限らず、前後しながら複数回登場します。 小説としての構成の珍しさから、はじめは興味を持って読んでいたのですが、登場人物たちへの関心が深まらず、結局最後まで乗り切れないまま終わりました。半世紀ものあいだに存在した登場人物たちを描くことになるため個々の時代に合った不自然ではない描写をするだけでも困難であり、相当な力量が必要だろうとは思います。

    0
    投稿日: 2020.07.23
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    NHKの72時間というドキュメンタリーを思い出した。ある場所を3日間定点観測する番組だが、この小説の場合はあるアパートの一室を数十年にわたって観察している。 この部屋にやってきて、数年住み、去っていった、年齢も性別も経歴も異なる人たち。後から住む人たちは、前の住人たちとは全く関係はないのだけれど、なんとなくその痕跡を引き継いだり、同じようなことを思ったり、全然異なる生活を営んだりして暮らしていく。ある場所に積み重なる、様々な人生・時代の地層のような感じ。すごく面白い観点だなと思った。

    3
    投稿日: 2020.05.05
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    今はもういない者たちの日々がこんなにもいとしい。小さな空間の半世紀を驚きの手法で活写する、アパート小説の金字塔。谷崎潤一郎賞受賞。〈解説〉村田沙耶香

    0
    投稿日: 2020.01.15
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    谷崎賞受賞作ってことで。そこまで文学文学してなくて、マルチ目線形式ってのも自分好み。しかも、同時代的横の繋がりじゃなく、時代を超越した縦の繋がりで描かれるのも、ちょっと斬新で良い感じ。マンションの同居人を色んな目線で書いた物語とか、家族三代にわたる物語とか、そういうのはちょくちょく目にするけど、本作のようなのはなかなかない気がする。知らんだけかも、だけど。何の気なしに過ごしてきたけど、賃貸物件って、確かに色んな謎の痕跡があるかも。そんなことをボヤっと考えながら楽しませてもらいました。

    0
    投稿日: 2020.01.07