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いずれすべては海の中に
いずれすべては海の中に
サラ・ピンスカー、市田泉/竹書房
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総合評価

41件)
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    サラ・ピンスカーの短編・中編、全13編。これはジャケ買いしました〜 寝る前に少しずつ読んでいたのですが、起きると「…はて?…」となってほぼ毎回読み返してました。 全体的に淡々としていて、すごく突飛な事もあるんだけどそれも含めてやっぱり静かに進んでいくというか。どれもゆっくり旅をしてるみたいな…その世界がどんなふうなのかを探り探り読んだのが、寝る前にピッタリだったかも。 …と思いきや、最後に「そして(nマイナス1)人しかいなくなった」は、ここへきて急に目がバッチリ覚めるようなミステリ。すごいこと思いつくなぁ、この状況だからこその犯人の動機には妙に納得。 著者がミュージシャンでもあるそうで、音楽がからんでいる物語が多かったのもいいですね。 お気に入りは「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」「いずれすべては海の中に」「風はさまよう」「イッカク」(コレ大好き)そしてなんといっても「そして(nマイナス1)人しかいなくなった」です。

    14
    投稿日: 2025.10.22
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    フィリップ・K・ディック賞受賞作。SFは作者によって設定や世界観が似かよってくるように思うのだけれど、サラ・ピンスカーはとにかく引き出しが多い!一篇一篇の設定がフレッシュで、また一篇の世界観が浮かび上がってくるのに時間をかけるのがすごい。 表題作は「いずれすべては海の中に沈むことについて、けれどいくつかのものがまた這い上がってきて、新しいものに変わることについて。」という一文で終わる。多彩な世界を展開しながらも、この短篇集全体には、この一文が通底しているように感じられるのがすばらしかった。あと、作者が絶対に音楽を愛する人だとわかるのもとても好ましい。

    2
    投稿日: 2025.10.06
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    思うに短編小説というものは、何を語るか、と同じくらい、何を語らないのか、が大事なのだ。背理法を用いた美しい証明のように、不在の薄闇を重ねて輪郭を描く、その技術が。 この作者はその何を語らないのか、を熟知している。

    2
    投稿日: 2025.08.26
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    フィリップ・K・ディック賞受賞の短篇集。 おもしろかったぁ。まず、物語の設定からして惹き込まれる。 最新の義手が道路と繫がった男の話や、パラレルワールドの自分たちが集まるイベントで起きた殺人事件の謎を解くSFミステリなど。どれも発想がおもしろく、幻想的で未知の世界が広がっている。まったく展開が想像できず、まっさらな気持ちで楽しめた。 特に好きなのは表題作「いずれすべては海の中に」。文明が危機に瀕した世界で、ロックスターのギャビーは、ゴミを漁りながら生活するベイに助けられる。なんだかツンデレなベイとの交流が温かくてよかった。 こんな経験したことない。でも、不思議と気持ちはわかる。 それは、喪失と温もりかな。人間の感情の部分が繊細に描かれており、とてもリアルに感じた。

    68
    投稿日: 2025.07.17
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    気に入った話(特に☆) 一筋に伸びる二車線のハイウェイ 彼女の低いハム音 ☆風はさまよう ☆ オープン・ロードの聖母様 最後の話は、好評のコメントが多かったので期待してたが全くハマらなかった。読まなくても良かったレベル…

    0
    投稿日: 2025.06.29
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    ★3.8 主に女性が主人公 やさしい雰囲気のSF短編集 というか SFなんだけどもSF的な要素はあくまでもギミックというかスパイスというかエッセンスというかでそれをベースにした物語なんだけども書きたいのはやはり「人」なんだなと 池澤春菜の紹介で知ったけれど 彼女の初短編集を先に読んでたせいか かなり影響受けてるんじゃないかな? と思った 文章のあちこちに、女性性や母性のようなものを感じるのだが、それは俺が男性だからだろうか?また翻訳で読んでいるので訳者がそういうところを意識した言葉を使っているのかもしれない。英語で読むとどういう風に感じられるんだろう。

    7
    投稿日: 2025.05.19
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    店頭で見てジャケ買い。 しみじみ良い。 こういうSFの書き方もあるんだなと思う。 ちょっと極端な世界に踏み込んだ人たちの悩みと選択。でも、前向きなトーン。

    0
    投稿日: 2025.05.07
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    独特な世界観に独特な哲学だな〜と感じましたが 独特に感じるのは翻訳されてるせいか、生活文化の違いなのかもしれません。特異な状況環境の人々がそこで何を思うのか、不思議なお話でした。

    0
    投稿日: 2025.04.25
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    繊細で不思議な物語。 本屋で表紙の美しさに目を惹かれて購入。13編の中短編が収めらています。 ひとつひとつの話はおもしろいですが、新たな話に移るたびに、時代背景や状況を理解するのにちょっと苦労します。 SF的なギミックやアイデアよりも、登場人物たちの心の機微の描き方がとても良くてそこに感動します。 説明が難しいですが、どの短編も共通して物哀しいトーンをまとってはいるけれど、ラストは希望を感じさせる作りになっています。 統一感のあるアルバムを聴いたような読後感。 翻訳文も、登場人物の口調など違和感なく表現していて読みやすいと感じました。 装丁が非常に綺麗なんで、ぜひ紙の本で手に入れてほしいですね。

    2
    投稿日: 2025.03.22
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    パケ買いしました。 普段SFを読まないので、頭の中の使っていない部分を刺激されるような感じがして面白かったです。 短編集なので星新一を想定していましたが、美しいどんでん返しを食らうというより、ここではないどこかへと誘われて暮らすような感覚になりました。

    2
    投稿日: 2025.01.24
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    2025/01/02 変なお話てんこ盛り。奇想SFとはまたちょっと違う。間違いないのは、ああやっぱりミュージシャンだなあという感覚。スッキリはしないがじんわりする読後感。

    2
    投稿日: 2025.01.02
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    綺麗な装丁に惹かれて購入。 ひとつひとつのお話が短編とは思えないほど濃く、深く入り込んでしまうがゆえに読み終わったときには海面から顔を出すように「ぷはっ」と息継ぎが必要だった。読後感は、その広大な海の冒険から帰還したような気分で清々しくもちょっと寂しくなるくらいどの作品も印象深い。 個人的に好きなのは 「死者との対話」 「そして(n-1)人しかいなくなった」 作者がミュージシャンでもあるから音楽に関わる話が多かった。 難解なものもあり、ちょこちょこ別日に分けて読むと全く着いていけなくて最初から読み直すこともしばしば。これは一気読みしたほうがよいと思った。ただ作者の豊かな想像力を味わえて楽しかった。

    0
    投稿日: 2024.11.30
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    美しい表紙に惹かれた。 すでに読まれた方々の感想を覗き見ると、これは自分好みの本である気がする。 早速、図書館で予約。本書の到着を待つ間、同じ著者の「新しい時代への歌」を借りることができたので、そちらから読むことにする。結果、それがとても良かった。 本書は短編集だ。 タイトルを読む。まっさらな紙の上に、一筆一筆、鮮やかな色が載せられていき、物語の世界が少しずつ見えてくる。情景描写は多くないのに、気付けば確固たる映像が浮かんでいて、まるで映画を観ているようだ。次へ次へと夢中で読み進めているうちに、最終ページがやってくる。その繰り返し。 最後に本を閉じた時、良質で毛色の異なる短編映画を観た心地がした。すごい満足感。 読後感は各話で違うが、どれも心に残り、わたしはとても好きだった。 「新しい時代への歌」も含め、サラ・ピンスカー氏の描く世界と離れがたく、結局本屋で購入することにした。

    0
    投稿日: 2024.11.10
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    なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。 13篇収録。 話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想像の海が押し固められていて、その寒天状の海を分け入って分け入って、どうにかようやく理解が追いついた時にパァッと視界が開けるような、繰り返してばっかりですが、とにかく密度が高い一冊でありました。 以下、13篇全部の感想を書きたいのですが私の不徳の致すところ、ピックアップして記載致します。 《一筋に伸びる二車線のハイウェイ》…農場で働く21歳の〈アンディ〉は不慮の事故で右腕を喪ってしまう。目が覚めたときには、彼の腕は「ロボットアームで、頭にはインプラントが埋め込まれていた。」(p8)。痛みと発熱に耐えた後に彼が視たのは「自分の腕がハイウェイだという夢」(p13)だった。「アンディは道路になりたがっていた、というか、彼の右腕がなりたがっていた。」(同)のだ。どうです、訳わからんでしょう。そんな「道の手」(p16)と同居することになったアンディが過ごした青春のひととき。 これが出会い頭の一篇目ですよ。 《そしてわれらは暗闇の中》…捉えどころが少ない話。「夢のベビー」(p28ほか)、ひいては「わたしたちのベビー」(p36)を追い求めて海岸へ集まって来て「岩の上の子供たち」(p33)を見つめる人々。マスコミなどの好奇の目に晒されても飢えても屈せず、ただただ海の向こうに目をやる人々。〈わたし〉を含めたこれらの人々は、おそらく同性愛者のカップルであったり不妊に悩む夫婦であったり、何らかの事情で子宝と縁が結べないでいる人達であろうと推察できる。子どもを持ちたくても叶わない、そんな遣り場のない懊悩はまさしく闇の向こうを睨むかのよう。他者からすれば「集団幻覚」(p36)と映るかもしれないが、当事者からすればとにかく必死で懸命で、雑音に耳を傾けているゆとりなどない。 《深淵をあとに歓喜して》…老夫婦のあゆみと、増築だらけのツリーハウスが垣間見せる家族の断景。建築家として大成する事を志した夫が若かりし頃に子ども達の為にこさえた「蛍のようにちらちらと光る」(p148)ツリーハウスはまさに老いと共に薄れゆく記憶の象徴、そして諦めざるを得なかった夢を標する灯台のよう。夫が軍に属していた頃に設計した建物は人々が生き生きと暮らす街並みではなく、人を押し込めて望みを奪い去る「刑務所みたいなもの」(p145)だった。以来、固まってしまった夫の心をほぐしたのは妻が重ねた手だった。 《イッカク》…個人的に一番好きな話。疾走感と不思議。「クジラのシルバーブルーのボディはファイバーグラスのようだった。ステーションワゴンのシャーシに載っているらしく、幅広な後部から尾が弧を描いてはね上がっている。」(p331)とある通り、例えとかでなく本当にクジラの見た目の車に乗った、ヨガインストラクター風の女〈ダリア〉に助手として雇われたわたし〈リネット〉。女ふたりの奇妙な旅は目的もよくわからないまま、寂れた小さな町へ辿り着く。その町の博物館に展示されているジオラマにはなんとあのクジラの車が…!全体的に気怠い感じが漂いつつもどこかコミカルな一篇。ボタンを押したら車からツノが生えてきてイッカクになるシーンは笑っちゃった。読み返せどよくわからん、妙ちきりんな話。「事件」とはなんなのか。 拡がるイマジネーションの中へ。 これ以上難解だといよいよもって疲労と不完全燃焼感しか残らない気がするので、心地よい塩梅の作品集でしたね。 3刷 2024.10.24

    16
    投稿日: 2024.10.24
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    個人的に好きなのは「記憶が戻る日」「死者との対話」 読み終わってから改めてそれぞれの作品を見ると風景がブワッと浮かび上がってきてくれるような感覚がして どれも自分にとって面白い作品だったとはっきり言える本 普段本を読まなかったりこういう不思議な世界観っぽいのを説明もされずに飛び込めるタイプじゃないとちょっと読むのは難航しそうかな

    0
    投稿日: 2024.08.14
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    完全にジャケ買いで中身をなんも気にせずに買ったら、異色短編集で、めんくらった。こういうことがあるからジャケ買いも面白い。13編の短編の方向性はてんでバラバラでTHEなSFもあれば、ミステリやサスペンスっぽさもあるし、近未来もあればがガチ未来もあるし、ロボット的な何かもあれば、ディストピアっぽい世界もある。ただ、こう明るい未来という感じではなく、影やアンダーグランド方向な印象が残る。

    2
    投稿日: 2024.07.22
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    このレビューはネタバレを含みます。

    好きなYouTuberさんが「海外SF」として紹介していて、表紙も素敵だったので読んでみた。 作者がまさかのシンガーソングライター。音楽の話が多数あって嬉しかった。ラッキー。 1話目はなんだか気持ち悪かったけど、2話目からは大体ずっと好きな世界観だった。 そしてわれらは暗闇の中 記憶が戻る日 いずれすべては海の中に 深淵をあとに歓喜して 孤独な船乗りはだれ一人 風はさまよう オープン・ロードの聖母様 イッカク そして(Nマイナス1)人しかいなくなった が良かった。(ね、本当に大体全部でしょ。) すごく引き込まれて「で、どうなるの?どうなるの?」と思いながら最後まで読むと、これといって明確なオチがなくて、「…それで?」みたいな作品が多い印象。しかしそういう余白のあるラストは好みだし、そもそもラストまで引き込んでる時点で面白い。  最後の「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」も犯人わからずじまいで終わるのかと思いきや、判明したのでスッキリした。 昔、奥田民生がインタビューで 「人生に分岐点がとか言うじゃないですか、あのときああしてればとか、いまこっちとこっちがあってどうしようかなとか。絶対どっちでもいいと思うんですよ、その人はどっちいっても同じだったと思うんですよ。」 「『どっちの料理ショー』ぐらいのもんなのよ、人生も。あれこれ考えてるけど、なんかおもしろいことがあったときは、そのことを忘れて楽しいわけじゃないですか。だからたいしたことない、そんなことで忘れるぐらいだからたいしたことない料理ショーなわけですよ。」 と言っていて、励まされたのを覚えている。 が、この話はこの発言を覆すものではないだろうか笑 でも、この話の馬の件みたいに、あの時自分がしなかった選択をした別の自分がちゃんといるのなら、それはそれでまぁいいか、と考えることもできる。 考えもしなかったことを考えるきっかけになるよね、SFって。 そして本当、よく思いつくよね、設定。尊敬だわ。 根っからの音楽ファンなので音楽系の話は特に好き。「オープン・ロードの聖母様」はライブ行きたくなった。 「イッカク」誰か映像化してくんないかな。いいロードムービーになりそう。

    0
    投稿日: 2024.06.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    13編の短編が収められている。うち3編はやや長め。 ほとんどがSF的な設定となっているが、SFを全面に押し出すのではなく、SF的世界の中における人間の感情や生き方が描かれているという感じ。 丁寧に静かな文体で書かれていてじっくりと浸りながら読める。 特に後半の4編はそれなりの長さがあることもありテーマに深みのある力作でとてもよかった。 1. 一筋に伸びる二車線のハイウェイ 事故で腕を失い機械義手をつけるが内部のチップに使われているソフトウェアがコロラドのハイウェイで使われていたもののリサイクルだったため、自分の腕がハイウェイと一体化したように感じる。手術でチップを交換するが、ハイウェイの記憶は残っている。(19ページ) 2. そしてわれらは暗闇の中 自分には子供がいて育てたことがあるという夢をみる。夢の中の子供はいなくなるが現実に海から現れる。同じような夢を多くの人が共有している。子供たちは海で泳ぎ回っている。(現実に現れたこの子供たちは何だ?)(14ページ) 3. 記憶が戻る日(リメンバリー・デイ) 退役軍人たちは〈ベール〉によって強制的に戦争の記憶を隠されている。世界中の退役軍人なのでよほど大きい戦争だったのだろう。(もしかしたら地球外からの襲来かもしれない)年に一日だけ〈ベール〉が外され、退役軍人たちはパレードの後、〈ベール〉を継続するかどうかの投票をする。そして毎年大差で〈ベール〉を残すことになる。戦争に参加していない人々は戦争のことや軍人だった家族のことがよく分からないまま。(13ページ) 4. いずへすべては海の中に 何かわからないがおそらく地球規模の大災害が起きて、陸地は海に沈みつつあり、人が住めるエリアが減りつつあるらしい。大型船に避難してクルージングしながら生活している人々もいる。そんな船にエンターテイナーとして乗り込むことができたロックスターが、船上の人々に嫌気がさして小型ボートで逃げ出し、遭難したところを、ある女性に救助される。女性は行方不明になった妻を探しながら世捨て人のような生活をしていた。話の筋には関係なさそうだが、ジェンダーの問題が自然に含まれている。(34ページ) 5. 彼女の低いハム音 The Low Hum of Her ナチスの迫害から逃げるユダヤ人を思わせる家族。祖母はすでに亡くなっているが父がアンドロイドのような祖母をこしらえ、主人公は当初拒否反応を示すが、次第に心を通い合わせていく。未来にも人種差別や迫害はなくならないという暗示だろうか。(12ページ) 6. 死者との対話 Talking with Dead People 殺人事件が起こった家の模型を作り、被害者やその周辺のネット情報を学習させたAIとそれを接続することで、家に話しかけることで被害者自身が事件の真相を語り始める装置ができた。解決する事件もあり、ビジネスは大成功した。しかし、何でも暴きたがる経営者と暴かれるべきではないものとの線引きを弁えている製作者の間に亀裂が生じた。模型は必要なのかという疑問は残る。AIとプライバシーの倫理に関する問題。(21ページ) 7. 時間流民のためのシュウェル・ホーム The Sewell Home for the Temporally Displaced 最初はリモートビデオ通話をしているのかと思った。次に過去や未来が見えるヘッドセットか何かをしているのかと思った。実は時間の感覚を失うような病のようなものらしい。今が過去か未来か今か分からないし、過去が見えたりする。今起こってることがこれから起こるような気がする。ちょっと想像できない感覚。(5ページ) 8. 深淵をあとに歓喜して In Joy, Knowing the Abyss Behind 脳梗塞の発作を起こして反応できなくなってからも手だけは無意識に動いて図面を描こうとする。それは誰かを閉じ込める目的で夫がかつて書かされた建物の図面。「軍」「国家の安全」などのキーワードから地球外からの訪問者がいるのではないかと想像されるが詳しくは書かれない。もちろん夫が明かさなかったからである。SF的な世界設定の中で、それに直接触れることのない人々の普通の営みが描かれている。 この話にもこそっとジェンダーが盛り込まれている。(35ページ) 9. 孤独な船乗りは誰一人 No Lonely Seafarer SFではないがファンタージ要素を含む作品。入江から外海に船を出そうとする船乗りは皆セイレーンの歌を聴いて海に飛び込むかして死んでしまう。子どもなら大丈夫だろうと船長に連れられて船に乗った少年は実は両性具有であった。少年はセイレーンの歌に自らの歌を返しセイレーンに勝利する。んー、よくわからなかった。(27ページ) 10. 風はさまよう Wind Will Rove 文化の継承と断絶の話。地球を離れた宇宙船の中ですでに4世代目を迎えている。1世代目もまだ残っている。初期にブラックアウトという事故(事件)が起きて、地球から持ってきた音楽、文学、芸術、歴史など文化に関するデータがすべて消えてしまった。覚えている人が物語を再現し、音楽は毎週演奏会を開くことで演奏者のタッチを継承しようとしている。しかし、新たな惑星で新しい人生を切り開くことを目指す若い世代たちは、過去の地球の歴史には価値を見出していない。断絶が起きようとしている。(62ページ) 11. オープン・ロードの聖母様 Our Lady of the Open Road 自動運転車やモビル通信網は発達している一方で公共交通や産業が破綻している社会。人々は自宅で過ごすか自動運転車で点から点へ移動することがほとんどになっている感じ。当然リアルなコンサートはあまり開催されず、自宅や酒場でホログラムコンサートを鑑賞することが主流になっている。そんな中、手動運転によるバンでツアーをしながら各地で小さなライブを行うことにこだわるバンドの話。少数だがちゃんと観客もついている。トラブルだらけだが意地でもリアルなライブにこだわる。(59ページ) 12. イッカク The Narwhal なぜかクジラの形をしたトラックに乗って旅をすることになる。田舎町を走るただのロードノベルか?と思って読んでいると後半に意外なSF的展開が待ち受けている。ある田舎町の映画館が何らかのモンスターに襲われたときにこのクジラ型トラックが空を飛んでモンスターを撃退したらしい。改めて読み直すと序盤で有人が読んでいる新聞の一面にはヒーローがニューヨークを救ったような見出しが書かれている。そう、これはスーパーヒーローとモンスターがいる世界の話し。そしてこの物語は、映画化されたような事件の裏で起こっていた、スポットライトが当たらなかった事件の物語。(33ページ) 13. そして(Nマイナス1)人しかいなくなった And Then There Were (N - One) 並行世界にいる自分の一人が並行世界を行き来するドアを発見し、たくさんの自分を呼び寄せてパーティを開催する。しかし発見者の世界では大きな災害が起こっていて、災害が起こっていない別の世界の自分を殺して入れ替わろうとする。パーティに招待された主人公はすべてを知る立場となり、発見者を告発するか見逃すか悩む。(79ページ)

    1
    投稿日: 2024.03.10
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    SFだけど登場人物の心情が丁寧に描かれているので、自分と関係のない世界の話という感じがしないのがよかったかな。

    0
    投稿日: 2024.02.16
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     本作は短編集だが、まずは収録作全般から受けた印象について述べる。  総じて、特殊な状況が前提として存在し、語り手は自明のこととして多くを語らないために、ぼんやりとして、歪んだレンズを通じて、その特殊性を掴み取ろうとするような読み方になる作品が多かった。すっと状況が飲み込める作品は少なく、読者の側から歩み寄る必要がある。  また、百合(女性の女性に対する感情を扱った作品)として読めるものも、少なくない。  そこと絡めて、描きたい感情が主題としてあって、それを描いた後の、ストーリー的な帰結にはあまり興味がないように思われた。いわゆる、エピローグに当たる部分まで描くことなく、幕を引く作品の多い印象を受けた。  特に冒頭に収録された作品は、小洒落た言葉遊びが多く、それを翻訳でもどうにか残そうとしているように思われた。そうでない部分でも、言葉選びのセンスの良さは随所で感じることができた。  「深淵をあとに歓喜して」が最も好みだった。  コメントにて、それぞれの作品の感想を、簡単に記したいと思う。

    0
    投稿日: 2024.01.17
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    宇宙に旅立ち、持っていった人類の文明のデータが消えた後の世界、船内で音楽を演奏するグループに参加している女性の話が特に良かった。 過去の名曲を再現しようとしても過去の作品全ては拾えない。 今同じ時間に存在しているものにも思いを馳せたり、これから新たに作り出すことに勇気をもらえる話だった。 「風はさまよう」の他 クジラを運転して旅する「イッカク」 多元宇宙のサラ・ピンスカーが集うサラコンで起きた殺人事件「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」 夫婦間の謎を妻が理解し進む「新縁をあとに歓喜して」などが良かった。 寝る前に少しずつ細切れに読むと、数日後に話の内容が追えなくなり、何度も止まった…理解力の無さです…いくつか、また読みかえします。

    30
    投稿日: 2023.06.17
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    原題 SOONER OR LATER EVERYTHING FALLS INYO THE SEA 13の物語 静かな世界たちが入れ替わって浮かび上がってくる。 読み終えた世界は心の奥にしまうと同時に海の中へ戻っていく。 またね

    3
    投稿日: 2023.06.12
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    朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのか、淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来- 辿り着くことのない、いつかどこか ーがゆらゆらと立ちのぼってくる。 それは旅先で目にした知らないはずの風景に感じる懐かしさと、それと同時に決してその風景に含まれることはない哀しみにも似て、心をさざなみが通り過ぎていく。 失われたものへの哀惜と失ったものを語るときの優しさが、“今”を生きる真っ直ぐな力強さと溶け合って余韻を残す、美しい作品が集められた短編集だった。 『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』 オートメーション化された大規模農場の傍らでオールドスタイルな農園を営むアンディは農機具の事故で片腕を失う。義手として最新鋭のロボットアームが取り付けられたのち、腕は、自分は遥か遠くコロラドに伸びる全長九十七キロのアスファルト道だと訴えてくる。 テクノロジーとアイデンティティの危機という古くからのモチーフを用いながら、ここでは生物/機械という断絶を超えて、アンディが夢見る腕に共感していく様子が描かれている。 道はー腕はー目的地を目指して移動する車を見送りながら、同じ場所に留まり続けている。山までずっと見通せるが辿り着かないハイウェイであることに満足している。 アンディもまた、恋人が大学へ行くのを見送り、故郷の小さな町の農場で暮らすことを選択する人間だ。結局のところアンディと道は、存在こそ違え似た魂を持っているのだ。 アンディが恋人のために入れたタトゥーの文字を書き換えるシーンが好きだ。 『オープン・ロードの聖母様』 オンボロバンでツアーを回る中年の女性パンクロッカー。時代が変わっても気骨と信念で吠える。ライブシーンの熱さ! “私たちは音楽だ。進みつづける“ 最高。

    8
    投稿日: 2023.06.11
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    このレビューはネタバレを含みます。

    普段あんまりSFは読まないんだけど、これはかなり好き。最初の「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」から、突然の事故で付けることになったハイテク義手が「自分は道路だ」と脳内で主張してくる…という突拍子もない調子で始まり面白いし、オチが秀逸。 「深淵をあとに歓喜して」の老夫婦の看取りの話も良かったし、「風はさまよう」の、人間と地球が何のかかわりもなくなったら、歴史とは、音楽とはいったいどういうもので、何の意味を持つのか、という重い問いかけに突っ込んでいくのもすごかった。それぞれの短編で設定は全部違うし今の現実とは乖離しているけど、出てくる人間の感情や行動に手でさわれるようなリアリティがあるから面白くなるんだろうな、と思う。この人の作品をもっと読みたくなる。

    2
    投稿日: 2023.06.08
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    どちらかというとジャケ買い。 私の気づかぬうちに竹書房がSFを出すようになっており、またシリーズの装丁がどれもキャッチーで。 とりわけ目を引いた当該作。帯を見れば「SFが読みたい」の海外編ランクイン作ということもあり、ジャケ買いでもそんなに外さないだろうと購入。 スペースオペラや一部のジュブナイル小説を除けば、「あれ、ちょっと待って考えさせて」って読み手に理解に対する一定の努力を強要するのがSF小説なのだけれども(そしてそれがSFのいいところだと思う)、奇想は我々の想像力に対する努力を強要する。「あれ、全然イメージできないからちょっと待って」って。あるいはイメージできないのを明らかにわかっていて、読者を置いてけぼりにして物語を勝手に語っていく。 この短編集もそう。 「は?」で始まって、読み進めて、読み終わった後に「は???」ってなってる。 なんだろう、試されているんだと思うんだけど、そして繰り返し読むことで出てくる味があるんだろうけど、想像力に欠ける私にはなかなかしんどい。 読み返す前にくたびれて「まあ、いいかな」ってなってしまうことも多い。 ただ、この作品、難解なんだけど文章がとてもキレイだから、とりあえずなんとなくは楽しめてしまった。 全編奇想小説なんだけど、奇想の程度が低いものは容易に想像できて、たとえば「平行世界から100人近い自分を集めてカンファレンスを開いたら殺人事件が起きて、捜査する羽目になった」とかは「馬鹿馬鹿しい」と笑える程度の奇想なので普通に楽しめる。 でも大半がそのレベルを超える設定なので、楽しめたのは楽しめたけど、疲労感もそれなり。時間のある若いときにはいいかもしれないなあ。

    2
    投稿日: 2023.04.18
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    終末や破滅の予感がする近未来で、道の義手やら、鳥籠の心臓のおばあちゃんやら、イッカク姿の車やら、加害者被害者探偵兼務の殺人事件やら。。荒唐無稽でぶっ飛んだシチュエーションなのに、読み進めて徐々に全体像が見えてくると、その世界に無理なく馴染んでしまう。摩訶不思議で可笑しくて哀しい物語にワクワクゾクゾクした。 その中では比較的フツーな設定だけれど、3人のバンドマンの廃食用油車の道中記の破天荒さが一番好き。「進む。進み続ける」パンク姐さんがとにかくカッコいい。

    5
    投稿日: 2023.02.11
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    不思議な技術があったりポストアポカリプスっぽい世界観だったり、そんな奇想溢れる世界で生きる「ひと」を丁寧に描いた短編集。 作中で起こる出来事のスケールが「すごくドラマチックではないけど、起こったら確実に一生忘れられない」くらいなのがまた良い。 SF的ギミックや事件よりも人の心の動きに焦点を当てた、せつない余韻の残るお話が揃ってます。

    3
    投稿日: 2023.01.31
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    良質なSF! 流れる空気感や、話ごとに徐々に明らかになる世界観への気付きが面白くてたまらない。 収録されている話の順番も絶妙だと思う。 「どういうこと?」「こういうこと?」「なるほど!」とどんどんサラ・スピンカーの世界観に引き摺り込まれていった。 最後に"そして(Nマイナス)人しかいなくなった" 小説だけでなく、音楽や海、自然や環境を愛する人にも刺さるサイエンスフィクション。

    2
    投稿日: 2023.01.27
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    このレビューはネタバレを含みます。

    表題作の『いずれすべては海の中に』が特によかった。すべて沈んだ後に這い上がって生まれてくるもの。 あと『イッカク』の「助けが来ないときは自分が助けに回る番」は本当にそれだと思う。

    1
    投稿日: 2023.01.20
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    装丁がおしゃれなSF短編集。作者はミュージシャンとしても活動しており、そのせいか作品全体の雰囲気は詩的で抒情性のあるものになっている。奇想的なアイデアと私小説っぽさが絶妙に同居しており、海をたゆたうような心地で読み終えた。 全部で13編収録されているが、お気に入りは「そして(Nマイナス1)しかいなくなった」。作者であるピンスカーが並行世界から大量に集まり、殺人事件が起こるというトリッキーな内容。日々の選択による喪失感がテーマになっており、ユーモラスでありながら強く心に残る短編だった。

    5
    投稿日: 2022.12.01
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    翻訳の順番は後先になったが傑作『新しい時代への歌』の元になった「後日談」である中編が収録されている、というだけでも価値ある一冊。伝説の歌姫の後年を描きながら、同時に長編のダイジェストともいえる全てのエッセンスが詰まった作品を始めとした珠玉の短編集。

    1
    投稿日: 2022.11.20
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    このレビューはネタバレを含みます。

    装丁が可愛いのと、よく読んでいる冬木糸一さんのブログで高評価だったので手に取りました!なんとも不思議な短編集で、SFといえばSFなんだけど、あまりSFぽくなかった。 サラ・ピンスカーの作品はもちろん初めてで(『新しい時代への歌』はこの後読もうかなと思っている)、起承転結がはっきりしているというより、ある一部分を切り取る作家さんなのだなあと淡々と思いました。たしかに人生は基本は何かの一部分で、その後話が繋がっていっているのだから、明確なオチとかないよねえというのと、特に前半はなんともいえない寂寥感があって読んでて悲しくなったりしておりました。 あと好感が持てたのは「よくわからないアイディア」「よくわかからない時代」で、すべてが説明されるわけではないので、よくわからないまま話が進んでいく感じは、実際の未来ってそうなのだろうと感じられて私は結構楽しめました。 また同性カップルが多発というほど多かったのもアメリカっぽいなあと思いました。 特に好きだったのは、 「記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)」 「彼女の低いハム音」 「深淵をあとに歓喜して」 「孤独な船乗りはだれ一人」 「風はさまよう」 「イッカク」 あたりかな… 「記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)」はちょうど11/11のリメンバランス・デーのすぐ後に読んだこともあって、ヴェールと呼ばれる技術がリフトされ、選挙によってまたかけられてしまう一日がかなしくて、ありそうで、SFという感じで好きだった。 「深淵をあとに歓喜して」彼が何を見たかは分からない、だけれど老夫婦のロマンチックな話 「孤独な船乗りはだれ一人」は両性具有とセイレーンの話 「風はさまよう」実際にこうやって文化は変化してきたのだろう 「イッカク」もう乗り物が可愛いっていう時点で100点ですよね。そして実はボスのお母さんが…!?というのは面白かった笑

    0
    投稿日: 2022.11.18
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    本を閉じたとき、この本に出合えて良かった、そう思える幸せ。 SFの濃淡はありつつ、短編たちを繋ぐ”喪失”や”音楽”といったテーマの描かれ方が見入るほど聞き入るほどに美しく胸の内に響いてくる。 掌編くらいの短さもあれば、比較的長い物語もあるのでその点も読みやすく、自分だけの一遍と出会えるのでは。私のお気に入りは「記憶が戻る日」「風はさまよう」「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」。 SFだからこそ浮き彫りになる人間としての普遍的な願いやシチュエーションとしての幻想性など、私の大好きなものがきらりとつめこまれた宝石箱みたいな一冊でした。

    3
    投稿日: 2022.09.25
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    どのお話も最後は読者の想像にお任せします、的な感じで余白があるところがとても好み。それぞれかなり特殊で面白い世界観のお話にも関わらず、説明的な文章がなく、唐突に始まってちょっとずつ輪郭がはっきりしていくところも良かった。

    1
    投稿日: 2022.08.27
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    このレビューはネタバレを含みます。

    地に足のついた日々に存在する幻想 多彩。2010年代~に書かれたSFなのになぜか懐かしさも感じさせる。SF関係なく分からなさがフランス映画っぽくもある。「奇妙な味」のカテゴリに入るかな? 個人的お気に入り 「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」 自分の体の右手と左手が考える所在が違うために混乱する男。引き裂かれそうなヒリヒリ感がいい。 「いずれすべては海の中に」 表題作。不安の中ではぐくまれる一対一の人間関係。ノアの箱舟に乗っているときってこういう気持ちかな。 「風はさまよう」 これは、実際に起こりそうな。記録が記憶になる怖さ。震えた。 「イッカク」 映像にしたら可愛いだろうなぁ。クジラカー。 「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」 並行世界。ロビーにいっぱい集まったサラ・ピンスカー。面白すぎる。 幻想的な作品たちの印象を写し取ったような表紙のイラストレーターさんはカチナツミさん https://twitter.com/natsumi_kachi 乗代雄介さんの『本物の読書家』の文庫本表紙も描かれています。

    6
    投稿日: 2022.08.16
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    「いずれすべては海の中に」 13話からなる人間臭い不思議で静かなSF短編集。短編だけど、どの話もその世界観にするりと馴染めたので、読みやすかったなぁ。 「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」「死者との対話」「そしてわれらは暗闇の中」が特に好きかな。

    1
    投稿日: 2022.07.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」★★ 「そしてわれらは暗闇の中」★★★ 「記憶が戻る日」★★★★ 「いずれすべては海の中に」★★★ 「彼女の低いハム音」★★★ 「死者との対話」★★★★★ 「時間流民のためのシュウェル・ホーム」★★★ 「深淵をあとに歓喜して」★★★ 「孤独な船乗りはだれ一人」★★★ 「風はさまよう」★★★ 「オープン・ロードの聖母様」★★ 「イッカク」★★★ 「そして〈Nマイナス1〉人しかいなくなった」★★★

    2
    投稿日: 2022.07.20
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    ジャケ買いした一冊。表紙からは想像もつかない奇想天外な内容の短編集です。1番目で度肝を抜かれ(笑)2番目でうーむと唸り、3番目から(何か面白いかも…?)となって後は引き込まれるように夢中で読みました。「彼女の低いハム音」「孤独な船乗りは誰一人」「風はさまよう」が好きです(選べなくて3つになりました)

    8
    投稿日: 2022.07.03
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    作風としては、メインストリームより。というか、頭の硬いコアSFマニアになら「これはSF的ガジェットを使った普通小説で、SFじゃない」ぐらいは言われるかも知れない。読者によっては、どこがSFなのか、理解できないかも知れない「深淵をあとに歓喜して」あたりではなく、むしろSF的奇想が炸裂する作(たとえば「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」)でも、話のコアが奇想にはなく、普遍的な人間への興味がよりも重要なテーマとしてあることを言ってるんだけどね。そんな中にあって例外的な、奇想が物語を最後のところで吹き飛ばしてしまうような「イッカク」が個人的ベスト。

    2
    投稿日: 2022.06.14
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    謎の新技術、理由のわからないディストピア、シンギュラリティのように見えるけどそこまでいかない何か……そんなもろもろと対峙しながら、カタストロフに至るでもなく、でも何かがあらわになる物語たち。すき。 一筋に伸びる二車線のハイウェイ コンバインの事故で腕を失い、義手とマイクロチップを装着した青年。マイクロチップのせいなのか、義手が自分をコロラドの道路だと思っていることに気づく。移植したものがなにかの記憶を宿している話はけっこうある。でも義手で、コロラドの道路ってなんでやねん(笑) 奇想ここにきわまれりだけど追いつめられないのがいい。 そして我らは暗闇の中 夢で見たベビーが実体化し、南カリフォルニア沖合いの岩の上に現れる。 記憶が戻る日 むごい戦争のあと兵士たちの記憶が消され、年に一度だけ思い出すことができる。パパは戦争で亡くなり、ママは顔に火傷を負って車椅子に乗るようになった。でもふだんはその理由を思い出すこともできない。 いずれすべては海の中に 表題作。タイトルが詩ですわ。瀕死の状態で浜に流れ着いた女と助けた女。流れ着いた女は歌手で、助けた女は漂着物を漁って生活しているらしい。助けたと言っても積極的に介抱するでもなくむしろ邪魔にしているような……。そして世界はどうやら何かが起きたようで、つまりディストピアなんだけど、この場所はあまりにも切り離されていて状況もよくわからない。そんななか、ゆるーく何かが芽生えていく感じがよい。 彼女の低いハム音 これも状況のわからないディストピア。おばあちゃんが亡くなり、父親が代わりにロボットを作る。娘は受け入れない。そんなおり、突然親子は家を捨てて逃げなくてはならなくなり、ロボットのおばあちゃんを連れて逃避行へ。 難民になるとき、人はこうしてわけもわからぬまま逃げる羽目になるんじゃないのか。そしてここでもまたゆるく何かが芽生えていく。 死者との対話 惨劇の館に惹かれつづける友人と組んで、その家の精巧なモデルを作り、なかにあらゆる情報を集めたAIを組みこんで売りだすという商売をはじめた「わたし」。友人のイライザは成功者になるけれど……。 時間流民のためのシュウェル・ホーム temporary displaced を「時間流民」と訳してるんだ。temporary には「一時的に」という意味もあるし、「時間の上で、時間がらみで」という意味もあってなかなかやっかいだけど「流民」に「一時的」の意味も含ませていて高等技術。誰もがその場でタイムスリップしてるふしぎな人たちのホーム。やたらと"we"を使いたがるケースワーカーみたいな人よく小説に出てくるよね。多くの人をイラッとさせるしゃべり方なんだろうな。 深淵をあとに歓喜して これはすごく涙腺に来る物語。ひとつの過酷な仕事がもとで夢を捨ててしまい心も閉ざした夫。生涯寄り添ってはきたけれどずっともどかしさをかかえてきた妻。人生の最終盤に来て夫が抱えてきた苦悩の謎を少しでも解きたいとねがう……。何と重ね合わせるかは人それぞれだと思うけれど、なんかすごく刺さった。 孤独な船乗りはだれ一人 「坊主」と呼ばれ旅籠ではたらきながら生活する両性具有のアレックス。自分がどの範疇からもはずれていることを知っているが、おかみさんはそんなアレックスをつかずはなれず見まもっている。この村は港町だが少し前からセイレーンが岬に住みつき、だれも船を出せなくなっていた。そんなとき老船乗りがやってきて……。 なんの範疇にもはまらないこと。その孤独とその利点。それをつかずはなれず見まもる愛みたいなものが描かれていて胸を打つ。 風はさまよう 地球をはなれ何世代ものあいだ宇宙を旅している巨大宇宙船。その住民たちにとって、地球はもはや遠い記憶ですらなく、風も森も海もだれも見たことがない。そんな彼ら、彼女らにとって「歴史」とはなんの意味を持つのか? それを受けついでいくことに意味なんかあるのか。音楽はいったい何をもとにして作られ、うけつがれ、人の心を打つのか。根源的な問いかけがなされる短編。 オープン・ロードの聖母様 著者はミュージシャンでもあるのですね。ホログラムのライブが広まった世界のなかで、貧乏暮らしをしながら生身のライブにこだわるバンドを描く。熱い思いが伝わってくる作品。 イッカク 表紙にもなっている1編。クジラの形をした謎の車を運転してクライエントの目的地まで行くロードノベル。とある町で意外な事実が判明し……いや〜、これ最後の最後に謎の世界が広がってくる1編で楽しかった。 そして(Nマイナス1)人しかいなくなった マルチバースのサラ・ピンスカーが大集合するイベントで殺人事件が起こる話。ドクター・ストレンジも真っ青なくらいすごいカオス(笑) アイディアがすごかった。

    3
    投稿日: 2022.06.08
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    このレビューはネタバレを含みます。

    13の短編が収められている。戦争・殺人事件・セイレーン・宇宙船・音楽・ジェンダーなど題材は多岐に渡りながら、そのどれもが人の心の深い部分に語りかけてくる。琴線に触れ、誰かにこの素敵な本のことを話したくてたまらなくなる。 様々な人生を読んでみて、人の数だけある未来が希望そのものに見えた。どう生きてきたか、これからどう生きるのか、悩み受け入れて進んでいく、人々のありのままの姿がそこにあったのが印象的だった。 特に好きなのは『いずれすべては海の中に』『彼女の低いハム音』『死者との対話』『深淵をあとに歓喜して』『風はさまよう』『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』の6話。約半数だ。 いつも最後に余地を残してあるのが想像を掻き立て、可能性を感じさせてくれるのが良かった。

    7
    投稿日: 2022.05.20