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日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか
日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか
小谷賢/講談社
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総合評価

34件)
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    加藤陽子著『それでも、日本人は戦争を選んだ』で紹介されていた書籍。 政策サイドから情報の要求を出し、情報サイドに情報を収集、分析させる情報運用"インテリジェンス・サイクル"。 陸海軍情報部はアメリカやイギリスに謙遜ない情報収集・分析活動を行っていながらも、政策サイドがその情報を合理的且つ適切に運用することができず、インテリジェンス・サイクルの停滞を招いた。 その結果がガダルカナルやインパール作戦、ミッドウェーやレイテ沖海戦への失敗へと繋がっていく。 情報部の地位の低さや組織のセクショナリズム、防諜の不徹底など、インテリジェンス・サイクルにおける構造上の問題を今も解決できないでいる日本に危うさを覚える。 過去の戦争をインテリジェンスの観点から見たことがなかったため、興味深い内容だった。

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    投稿日: 2025.11.06
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    本書で指摘している日本インテリジェンスの問題の本質は2つあると感じる。一つは成功体験に溺れる。日露戦争やシベリア出兵で日本のインテリジェンスを支えたのは石光真清であり明石元二郎。つまり個の力。個人の力量で成功したがために組織として強化という概念がなかった。もう一つは価値判断の誤り。組織内で過小評価されていたということは、インテリジェンスのモチベーション激落ちではないか。どうだろう。これらってまさに現代日本企業の凋落構造と瓜二つでは?

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    投稿日: 2025.08.28
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    この書籍『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』は、日本軍が豊富な情報収集能力を持ちながらも、なぜそれを有効な「インテリジェンス」として戦略的意思決定に活用できなかったのかという根本的問題を解明しています。著者は「情報」と「インテリジェンス」を明確に区別し、単なる事実の集合である情報が、分析・評価を経て意思決定に役立つインテリジェンスへと転換されるプロセスの重要性を強調しています。日本軍の場合、インテリジェンス・サイクルの冒頭段階である「リクワイアメント(情報要求)」が不明確であったため、収集された大量の情報が最終的な利用段階で活かされないという構造的問題が存在していました。 日本軍の情報収集活動自体は極めて多様で高度なものでした。陸海軍は新聞・刊行物、無線傍受、暗号解読、人的情報収集など多角的な情報源を活用し、特に海軍は米海軍の主要暗号「レッド」や「パープル」の解読に成功するなど、通信情報(シギント)分野で世界水準の能力を有していました。陸軍も中国軍やソ連軍の暗号解読で成果を上げ、リヒャルト・ゾルゲ事件に象徴されるような大規模な人的情報収集活動を世界各地で展開していました。海軍の「M-I先」作戦や「ラットランド」作戦のように、米国での産業・軍事情報収集に多額の予算を投じた活動も行われていました。 しかし、収集された膨大な情報を「インテリジェンス」へと変換する分析・評価プロセスには深刻な欠陥がありました。日本軍の情報分析は中央集約的な体制ではなく各部署が個別に行う分散的なものであり、分析官の専門性も不十分でした。情報の信頼性や確度を評価する統一された基準が存在せず、主観的判断に頼ることが多く、収集から分析、配布までのタイムラグによって情報の鮮度が失われる問題もありました。さらに、情報部は作戦部門に比べて組織内の地位が低く、その分析結果が意思決定に与える影響力は極めて限定的でした。 実際の戦略決定における情報利用では、「主観と偏見」という致命的な問題が顕在化しました。意思決定者は自身の信念や既定の作戦計画に反する情報を無視・過小評価する傾向が強く、三国同盟締結時のドイツ軍事力過大評価、独ソ開戦におけるソ連継戦能力の過小評価、真珠湾攻撃決定時の米国国力軽視など、客観的な情報があっても「短期決戦」への固執や希望的観測に基づく政策決定が繰り返されました。政策立案者からの明確な情報要求(リクワイアメント)も不足しており、インテリジェンス部門は何を優先して収集・分析すべきか不明確な状況に置かれていました。 日本軍インテリジェンスの根本的問題は、六つの構造的欠陥に集約されます。第一に、陸軍・海軍・外務省などが独自に情報活動を行い、全体を統括する中央情報機関が存在しない「情報部の場の弱さ」、第二に情報部門の「地位の低さ」、第三に外国諜報活動への対策が不十分な「防諜の不徹底」、第四に客観的情報分析を行うインセンティブが欠如した「戦略的インセンティブの機能不全」、第五に多角的情報源を統合する「情報集約機構の不在とコミットメントの欠如」、第六に政策決定側からの「リクワイアメントの不在」です。これらの問題は相互に関連し合い、情報のサイロ化と戦略的盲点を生み出していました。 本書は、日本軍が優れた情報収集能力を持ちながらも、これらの組織的・構造的・文化的問題により、収集した膨大な情報を効果的なインテリジェンスへと転換し、戦略的意思決定に活用することができなかったと結論付けています。この失敗は第二次世界大戦における日本の敗戦の重要な一因であり、現代の組織においても情報収集と意思決定の間に横たわる構造的課題を考える上で貴重な歴史的教訓を提供しています。インテリジェンスは単なる情報収集活動ではなく、明確な目的意識と組織的コミットメントに支えられた統合的なシステムとして機能しなければならないという本質的な教訓が示されています。

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    投稿日: 2025.06.15
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    「日本軍のインテリジェンス」 https://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51292820.html

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    投稿日: 2025.03.30
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    加藤陽子の本に紹介があり、図書館より借り出して読んでおります。帝国海軍、陸軍、の英国、中国等へのインテリジェンスは、一定のレベルにあったことが良く判ります。英国の暗号、米国の暗号も解読しているとは、吃驚、問題は、現場が集めた情報が、国家の運営に生かす体制にはなっていないという指摘もあり、何やら、現在の会社運営(国家運営でも同じですが)における問題点の指摘のようにも読めました、情報(インテリジェンス)、古くて新しい課題であります、☆四つです。

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    投稿日: 2024.08.13
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    「日本軍の」という枕詞が付いているが、日本軍の情報機関の詳細という枝葉末節で終わらない。 情報政策における日本軍の組織的欠陥を踏まえつつ、インフォメーション(=無加工情報)とインテリジェンス(=加工済み情報)の違い・戦略立案者と情報提供者の間の適切な距離感・中長期的戦略と短期的目標の峻別といった組織運営や仕事の遂行における重要な事項を示してくれる。 要は、旧日本軍は組織マネジメントにおける失敗例の宝庫なのだ。

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    投稿日: 2023.10.29
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    少し歴史を知っている人であれば、ミッドウェー海戦の際に日本海軍の暗号が解読されていたことは知っているだろう。もう少し詳しい人であれば、山本五十六長官機が撃墜された海軍甲事件でも暗号が解読されていたことを知っているかもしれない。さらに詳しい人であれば、機密文書が流出した海軍乙事件についても知っているかもしれない。海軍乙事件については吉村昭の記録文学が有名であるため、興味のある人は一読してみても良いだろう。 これらの事件から得られる印象は、「日本海軍は情報の取り扱いに問題があった」という漠然とした印象であった。しかし、本書の説くところによれば、事情はもう少し複雑である。 本書の内容を語る前に、用語の解説をしておこう。日本語では「情報」と一括りにされるが、英語では Information と Intelligence の2種類が存在する。Information とは文書情報、通信情報をはじめとした生の情報、Intelligence とは Information を多角的に集めて分析を行ったものである。本書では Information を天気図、 Intelligence を気象予報にたとえて説明しているが、言いえて妙である。Information は、読み解くスキルがなければ価値がないのだ。 日本軍の話に戻ろう。日本海軍、日本陸軍ともに、現場では人数の少なさのわりに情報機関は多くの成果を上げていた。陸軍では有名な中野学校があったのみならず杉田一次や堀栄三といった有能な情報士官を擁していたし、海軍は米英の暗号解読をかなりの精度で実施できていた。しかし、組織全体としては情報をうまく利用できていなかった。 日本軍における情報利用が進まなかった理由は多岐にわたるが、そのうち3つをピックアップしたい。1つは、情報部の地位の低さである。堀栄三が著書『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』で述べている通り、日本軍においては作戦部がエリートコースであり、情報部は生情報を右から左に流すだけの簡単な仕事とみられていた。事実、堀も作戦部を志望していたものの、陸大の成績が作戦部配属に足らなかったため情報部配属となっている。 ところが問題はそう単純ではない。日本軍は組織として Information と Intelligence を区別しておらず、そのため情報部の地位が低かった、というだけが問題ではない。2つ目の問題は、「優秀な」作戦部が目先の戦術目標達成のために Information をうまく利用できていたことである。 日本軍の南方進出において、陸軍はマレー半島のことをよく調査してから作戦に臨んでいる。調査は主に作戦部が主導し、結果は知られている通り大成功に終わった。戦術的な情報利用では、目的が明確でタイムスパンも短いため、優秀な人材を集めた作戦部が Information を扱っても問題がなかった。 しかし、中長期的な情報利用となると話が異なる。これが3つ目の問題で、そもそも日本軍においては中長期的なビジョンを合理的思考に基づいて作ろうとする動きが存在していなかった。このことが情報機関を利用するインセンティブを欠き、情報機関の発言力が弱まり……という悪循環を招いた。 その他にもセクショナリズムによる情報共有の不作為など、問題点は枚挙にいとまが無い。そして、数々の問題点を眺めて思うことは、現代の日本も形を変えて似たような問題を抱えているということだ。 堀は日本を「情報なき国家」と評したが、本当のところは「ビジョンなき国家」なのではないか。そう思わざるをえなかった。

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    投稿日: 2020.01.12
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    インフォメーションという断片的な情報を集めてそれをインテリジェンスという、最終判断にする。 それが情報機関の役割なのだが、戦前の陸軍や海軍ではこの一連の流れが上手くいっていなかった。 情報収集や防諜面では海軍よりも陸軍が徹底していたが、その陸軍にしても作戦部門を重視しすぎてせっかく集めた情報が無駄になった上に、海軍に関しては初歩的な防諜や情報収集でしくじったりとろくなことをやっていない。 この一連を纏めると、情報機関というのは銀行で例えると審査部門であり、作戦を担う部署が営業部門とする。 審査部門は営業から上がってきた融資案件や独自に調査した融資先の情報を調べ 「あの会社は粉飾している」「多くの負債を抱えている」「そもそも主力商品が全然売れていない」「無茶苦茶な設備投資をしている」と判断して「あの会社に融資してもダメです」「あの融資先、貸し倒れますから引き上げますよ」と判断しても、営業部門が「俺達が必死に集めてきた融資をパーにする気か」と反対する。 その図式が戦前の日本軍のインテリジェンスであったのだが、それが正直な話、今も変わっているとは言いがたい。 まずはそこを変えていかなくてはならないと思う。

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    投稿日: 2019.08.22
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    ○情報・データをインテリジェンスに加工する専門組織が必要 ○インテリジェンスがあっても、計画に活かされない。  インテリジェンスに基づかない計画は失敗する。 ✖️情報畑以外の人間が情報分析・評価を行うと間違う ・三国同盟、外務省・陸軍・海軍の全てが雰囲気だけで調印 ・ドイツの軍事力と工業力を過大評価 ・下調べもせずに突き進む ・イタリアの国力も。 ・独ソが険悪な状況にあるという情報も無視 ・チャーチルの傾向も無視 ✖️主観的情勢判断 ・既定路線に合う生情報を入手しては都合の良い情勢判断 ・作戦部門や政策決定者の分析判断は間違う ・過去の成功体験に基づく判断 ◯情報部 情報の断片から有効なインテリジェンスを抽出する地味な作業 ◯政策決定者がリクワイアメントを発する ◯冷徹なリアリズムと客観的な視野 ◯大局観 △日本の政策決定過程では、最重要の対外情報よりも、組織内の意見調整に莫大な労力。対外情報よりも組織間の合意形成が優先された。、

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    投稿日: 2019.07.24
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    日本軍の暗号読解能力とかは言われるほどヘボではなかったが、情報を共有、分析、活用する仕組みが弱かったと。 ・海軍の情報データ(ある一時期のサンプル)のうち、通信傍受などの非公開情報が3分の1を占めていた。現代の情報活動では非公開情報は1割以下と言われる(誰が言っている?)。 ・英米とも戦後の東西対立を見越して日本軍に暗号を見破られていた事実を明かさなかったので、日本軍の暗号読解能力が過小評価されたのでは。 ・通信傍受は内容が分からなくても頻度や方位測定だけでも有効。 ・人的情報(ヒューミント)は通信情報(シギント)などの技術情報だけで足りない部分を補うもの。 ・ソ連相手の諜報活動はは防諜が徹底していたので大変だった。しかし、陸軍はソ連重視だったのでそれなりの成果を上げており、参謀本部もソ連情報は情報部を重視していた。 ・陸軍の特務機関がイギリスのSISのような対外インテリジェンス組織で、憲兵隊がMI5のようなカウンター・インテリジェンス組織と言える。 ・札幌の英領事館で、日本人タイピストが隙を見て窓から暗号書を放り出すという荒業で暗号を盗んだりした。ここまで乱暴でなくても、暗号書を盗む行為はよくあった。 ・グレアム・グリーンの弟、ハーバートは日本軍のスパイとして活動していた。他にも、元英軍人のスパイを雇っていたが金を食うばかりで使えないやつだったよう。 ・海軍の問題は、暗号書が敵に渡った兆候があってもなにも手を打たなかったこと。ミッドウェイ海戦や山本五十六撃墜事件いつながる。諜報活動への資源投入不足とあわせて著者の海軍への点は辛い。 ・陸海軍とも作戦部が重視されて人材も集まり、情報の分析(インフォメーションをインテリジェンスへ加工する)を自前でやっていた。しかし作戦計画者が情報の分析をすると、都合のよい情報を重視する方向へバイアスがかかる恐れがある。ただし、お手本とされる英国でも政策・作戦と情報との距離は永遠の課題であった。 ・通信情報も暗号を解読できただけでは生データに過ぎず、他の情報と照合してはじめてインテリジェンスになる。その意識が日本軍には弱かった。 ・戦術面では必要な情報が何か明確な場合が多いので、日本軍の情報活動も機能した。より戦略的な場面では、情報利用者からの要求が明確でなかったため機能しなかった。 ・英情報部は、1920年代には日本軍の能力を肯定的に評価するレポートが多かったが、30年代後半になると人種的偏見により歪曲されたレポートばかりになった。「最も洗練されていた」とされる英国でもこの程度。 ・結局、日本では正確な情報よりも内部の政治的調整が重視されていたと、おなじみの憂鬱な結論。陸海軍でぜんぜん情報が共有されていなかったのは英国とは対照的。 意見・主著にわたる部分(とくに将来へ向けて)には首肯しかねる部分が多かったが、事実の諸々はまあまあ面白い。

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    投稿日: 2018.11.05
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    ◆第二次世界大戦での戦略・政略面に加え、戦術面での日本軍・日本政府のインテリジェンスの愚を知ることで、今まさに露呈した官僚の情報管理の問題が、日本の国民益と国益の阻害要因であることに気付かせてくれる◆ 2007年刊行。 著者は防衛省防衛研究所戦史部教官(英政治外交・インテリジェンス研究)。 ◆十五年戦争(特に日中戦争・アジア太平洋戦争)における日本軍のインテリジェンス検討の特徴と問題点を、具体的実例を通じて広範に炙り出すと共に、現代における問題点とその改善のための示唆を齎さんとする書である。  日本軍は戦闘・作戦重視、情報軽視とは、これまでよく言われてきたことであるが、著者はその森の中に分け入り、戦術と戦略・政略、あるいは陸軍・海軍・外務などに区分けし、その内実を解き明かそうとしている。  この戦前昭和時代のインテリジェンスに関して、これを否定する方向では、例えば「総力戦研究所」に関わる著作がある一方、これを肯定する方向での例、例えば、小野寺信の挿話などが存在する。  しかしながら、これらは前提としての個別事象に過ぎず、本書はそれらを統合した観点で日本軍のインテリジェンスを検討していくものである。  本書から見えてくるのは、 ① 日本海軍の戦術レベルにおいてすら妥当する低い防諜意識と稚拙な内実(特に対米戦)。 ② ソ連に費用・人材を特化しすぎた日本陸軍。 ③ 陸海とも、戦闘・作戦重視、情報軽視は明らか。 ④ 暗号解読には、日本軍とて一定の力はあったが、人材の豊穣さ、予算の潤沢さにおいて、英米独ソの比ではない。 ⑤ インテリジェンス部門と各情報のクロスリファレンスのための組織・機関の欠如。 ⑥ 情報利用者=政・軍の上層部による客観的情勢への配慮不足、自制心・自省心欠如と共に、結論・行為ありきの情報取捨選択という愚昧。 ⑦ 長期的政策実現目標のための情報利用のノウハウ欠如、実行欠如 というものだ。  実際、民主主義・国民主権という現代の制度の下で、国家情報への国民のアクセス権の否定・制限は問題が多く、容易でもない。それは政権担当者の暴走防止の面もあるが、これが現代の民主制と国民一人一人の利益を考慮したシステムのために必要不可欠な、権力の抑制作用の一というべきである。  しかも、今般の自衛隊日報隠蔽とモリカケ改竄で、公文書やそれに類する官僚の情報管理のいい加減さが露呈してしまった。  そもそも情報公開が制度としても、機能面でも不十分な中、彼らの国民のアクセス権への感度の鈍さとともに、ルールすら守らないとなれば、官僚による保秘の強調などは、到底納得できるものではないし、危険性は大きすぎるし、大体説得力を欠く。  一方で、昨今の問題は、文書保全の重要性の理由が、長期的視野で過去情報との比較・検討をする高度の必要性にあり、この点について、今もなお政策担当者が気付いていないことを露呈したといえる。  それが、特定政権中枢への忖度か、自己組織保全目的かの理由の如何を問うものでないことは当然である。  本書において著者は力説する。いくら情報集中のための組織を作っても、また戦前日本のように厳格な機密保護法が存在したとしても、真の意味のインテリジェンスを実現することにはならず、とりわけ長期的観点からの国益を阻害する、と。  その意味からみても、本書を読むと、昨今の官僚の情報管理の出鱈目さと、そこから生まれる危険性を感じ取ることが出来るのだ。  以上、今現在の長期的政策目標実現のための情報管理とその活用法を感得するためには、本書を読破することで、旧軍と戦前政府が行った情報活用の失敗と、それを生じさせた組織面、ルール面の問題を知り、かような機能不全の実を知って、それを他山の石となす必要がある。  本書を一読すべき所以である。

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    投稿日: 2018.05.12
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    このレビューはネタバレを含みます。

    【219冊目】インテリジェンスに関する学術研究は、他の分野に比べるとあまり進んでおらず、中でも日本ではあまり研究者がいないイメージ。本書筆者、北岡元、中西輝政、小林良樹…ぐらいがパッと思いつくところか。  主に第二次世界大戦中の日本陸海軍のインテリジェンス活動について描写。巷間言われるのは、日本軍は連合国に情報戦で負けたということだが、筆者はこれに反論する。日本軍は英米や露中の暗号の一部を解読することに成功していたし、満州、中国、東南アジアではヒューミントにも長けていた。戦場において入手した情報を、その最前線の戦線において活かすという戦術的なインテリジェンスについても戦争の初期では上手くいっていた、というのが筆者の主張である。  筆者は、日本(軍)に足りなかったものは、戦略的なインテリジェンスの活用・収集であるとする。それは、インテリジェンス部門に投入される資源が小さかったこともさることながら、政策(作戦)サイドが情報部門を軽視してそのプロダクトを無視し、また、適切なリクワイアメントを出さなかったことが原因である。そして、インテリジェンスを根拠に自らの政策(作戦)を決定するのではなく、組織間の力関係や調整によってこれを決定していたのである。  特に、独ソが対立しているという駐独武官からの同一の情報を、一方の日本はこれを無視して三国同盟に突き進み、一方のチャーチルは自らの好悪を曲げて英米ソの連携につなげる方向につなげたというエピソードは印象深い。  そして、筆者は、こうした日本(軍)の問題は、今日の日本にも重要な教訓を示唆しているというのである。ここに、本書の項目だけ示して終わろう。 ・組織化されないインテリジェンス ・情報部の地位の低さ ・防諜の不徹底 ・近視眼的な情報運用 ・情報集約機関の不在とセクショナリズム ・戦略の欠如によるリクワイアメントの不在

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    投稿日: 2017.12.11
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    オフィス樋口Booksの記事と重複しています。記事のアドレスは次の通りです。 http://books-officehiguchi.com/archives/4164135.html 「この本の著者である小谷氏について、NHKオンデマンドの番組で「作戦重視で、情報軽視」という言葉を何回か耳にしたことがあり、印象に残っている。戦前だけでなく、戦後も情報収集に対する考え方が軽視されていると思われる。具体的には、情報収集を担当している組織と連携が取れていないこと、今年になってやっと特定機密保護法が制定されたことがあげられる。今年特定機密保護法が制定されたことから、情報収集に対して何らかの問題意識を持つ人が増えるのではないかと期待される。この本は研究者だけでなく、NHKの戦争の番組を見て、情報収集に関心を持った人に薦めたい。 」

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    投稿日: 2015.04.26
  • インテリジェンスなのだ

    日本軍の暗号読解能力は言われるほどヘボではなかったが、英米に比べて情報を共有、分析、活用する仕組みが弱かったそうです。結局、正確な情報よりも内部の政治的調整が重視されていたとの指摘、他人事とおもえないのはなぜでしょう。防諜の意識がぜんぜんなかったのでミッドウェーの敗北や山本五十六撃墜事件につながったとして、著者の評価は特に海軍にたいして辛いです。 個人的には、「インテリジェンス」という用語をもったいぶって使うところが鼻につき、意見・主張にわたる部分(とくに将来へ向けて)には首肯しかねる部分もありました。

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    投稿日: 2014.07.05
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    明治政府誕生から太平洋戦争にかけての日本の情報機関や情報収集に関してが書かれた本。外交に欠かせない情報収集がどのように行われ、分析されたのかが書かれています。よく日本は情報収集に負けたと書かれていましたがその詳細が詳しく書かれており、負けるべくして負けたのがわかります。そして現在の日本。まったくその敗戦の原因を見つめていないのがわかります。過去の日本の敗因を書きながら、現代にも通じる危機的状況も危惧しているそんな本ではないでしょうか。

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    投稿日: 2014.07.01
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    このレビューはネタバレを含みます。

    【メモ】 日本帝国軍のインテリジェンス活動を陸軍海軍、太平洋戦争以前から網羅的に紹介。 インテリジェンス活動をブレークダウン(オシント・ヒューミント・シギントなど) これまでの印象だと日本軍は情報戦に負けたイメージだったが必ずしもそうではない 英米が民間知識層をインテリジェンスに活用していたのに比べ、日本は自らの将校を教育して活動に当たらせていた。学徒出陣などはその例。 作戦部の情報軽視:ただ並べただけの情報に価値を見出さない。作戦に合致しそうな生情報を仕入れては都合の良い形成判断を行った。 短期的、戦術的インテリジェンスの場合、情報の入手と利用の時間差が縮小すれば、そこに介在するイマジネーションの量も減少する。 戦略、政策レベルのものは、戦略や政策への必要性から情報ニーズがうまれ、それを受けて収集されたインテリジェンスがフィードバックされる。時間差が開くため、過程が複雑になるため、一元的に集約する組織がいる。主観や憶測が混じる、組織間軋轢によって鮮度が失われ、貴重な情報が途中で霧散する。 情報部によると、1941年の分析で、日米兵力比は1944年に圧倒的になってしまうので、それまでになんとかしないといけない。 海軍の真珠湾攻撃は短期的には合理的だった。石油枯渇以前に戦いを仕掛け、短期決戦でものにする。しかし長期的に見ると、攻撃のインパクトは小さく明らかに間違っていた。ドイツの欧州制覇や米国の厭戦気分など、楽観的ないしは希望的観測のもとに判断された。中長期に状況を判断するセクションがなかった。 取得から利用までのタイムラグを克服するために二つ。頻繁に更新する、ラグを最小限にする(目的ありきのリサーチ ここでも言及されている 当時の政策決定過程で重視されたのは、組織間のコンセンサスであり、情報ではなかったので、迅速で柔軟な意思決定が苦手だった。 まず課長級が中心となり部内の意見をとりまとめ、そこから上層部へエスカレーションおよび決済を経て試案が生み出される。また同時に関係各所との調整が入る。その結果、政策決定過程で必要とされるのは、情報に基づいた合理的な餡ではなく、各組織の合意を形成できるような玉虫色の案とネマワシとなり、そこに多大な時間と労力が割かれる。このシステムではどのような決定的情報が入手できても、そのタイミングが情勢判断時でないと有効に利用できない。 主観的判断が助長され、合理的思考が組織内で埋没した例:総力戦研究所→日露戦争でも勝てると思って始めたわけではない、机上の論理の軽視と意外裡の重視、という東條陸相の答え。 →過去の成功体験が合理的思考を停止させ、精神論への偏重。 組織的な問題:意思決定の中枢にまとまったインテリジェンスが定期的に集まらないと、主観的判断が助長させるのは当然。 情報部の立場の弱さ 行動の前に情報がなければならない。行動ありきだと、情報はその行動を説明するために利用され、判断が主観的になる。 情報集約機関の不在 情報同士を付き合わせることにより精度の高いインテリジェンスを産み出すという相乗効果を得ることができない。情報が分散すると各所で都合良く評価され、組織間の共有も進まない。 近視眼的な情報運用 作戦のために使う短期決戦のための情報となり、大局的情報が軽視される。 リクワイアメントの不在 リクワイアメントを発することのできない政策サイドは、政策や国益に対する感覚が鈍ってるとしか言いようがない。リクワイアメントなしでは情報部は自らの存在意義を認識できず徐々に機能不全に陥る。

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    投稿日: 2014.03.10
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    本書は多くの参考文献や一次資料を参照して書かれており、為になる本だった インテリジェンスを学ぶ教材として日本軍はのそれは適している。我々日本人にとって身近に感じられるし、敗戦によって全容が明らかになっているからだ。ところが日本は情報戦いに負けたというイメージから日本軍のインテリジェンスが劣ったものであっかのようにおもわれている。たしかに米英ののうに莫大な予算と機材を投じることはできなかった、いや職員たちは安い予算で活動に従事していたといえる。しかしなかなかどうして日本軍のインテリジェンス組織は健闘し数々の成果を挙げていたのだ。 しかしながら陸海軍全体からみればインテリジェンス部門は軽視されており(それを保管できるような日本政府の情報機関も存在しない)道を誤るべくして誤ったことことが後半に示されている ・戦前には米の暗号をほぼ解読していた。戦争中にも米英の暗号をかなり解読できていたが米英も対策した ・中国は防諜意識が特に低かった。中国軍の暗号は完全に解読できており、日本軍は常に機先を制することができた。重慶政府に渡った連合国の情報は日本に筒抜けだった36p ・ソ連国境警備隊の暗号を破るために、彼らの官僚主義的なところを利用し、わざと報告電文を打たせるようしむけた。それを傍受をしては比較することをくりかえしてついにこれをね破ったp38 ・対ソ連情報活動はその閉鎖性と防諜意識のたかさに困難をきわめたp50 ・相手が流す欺瞞情報も偽とわかってさえいれば、流す意図を読むという点でそれなりに有効であるp50 ・クーリエを利用した活動で作成したソ連鉄道の運用情報は、ポーランドとの情報交換材料としてもとても役に立ったp55 ・大戦前夜の陸軍はソ連や中国、南方の欧米植民地(現東南アジア)の諜報で成果を挙げたが、対米諜報は海軍や外務省の仕事と見ておりほとんど関わらなかったp66 ・日諜報はソ連側のスパイを二重スパイに仕立てようとしたが、NKDVの調査尋問が念入りであるため、対策を教育しておかないとまず成功しなかった。p71 ・226事件の戒厳令で、戦艦長門についての機密情報漏洩が明らかになった。海軍は独自の防諜組織をもっていなかったため憲兵に依頼し四年後に解決したp73 ・海軍は米のストリップ暗号を終戦まで解読できず、陸軍が解読に成功していたことも知らなかったp84 ・第三章では海軍の諜報活動と防諜が取り上げられている。通説通りお粗末なものだったようだ。 ・陸海軍とも情報分析のポストは軽視されており、一時的なポストとして将校にあてがわれていた。それゆえ情報分析の専門家はそだちにくかったp116 ・中原会戦は情報戦の顕著な勝利であった。日本軍は特情(傍受)で中国軍の手の内 を把握していたにとどまらず、偽情報でを流して中国軍を混乱させた。

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    投稿日: 2014.02.10
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    「日本はインテリジェンスが弱い」中国とせめぎ合うことが増えた昨今、それこそ情報を吟味することなく語られるこの言葉。ではインテリジェンスとは何か、吟味するとは何か、弱いとはどういうことか、を旧日本軍を題材に解明していく本書。読み応えがある。 旧日本軍のインテリジェンス能力は決して低かった訳ではない。暗号解読力があり、情報機関も中国大陸では機能していて、対ソ情報戦には長年の蓄積があった。太平洋戦争緒戦の快勝も、マレー半島やハワイに対する情報収集があればこそ。ゾルゲ事件だって、国内の防諜機能が働いていた証左とみることもできるだろう。 それでは何が不味かったのか。筆者の指摘で目を引くのは、インテリジェンスの国家戦略レベルの統合のなさと、作戦立案における情報の恣意的な活用、そして海軍において致命的だった防諜意識の低さだろうか。 「逆に言えばこのような情勢判断の曲解(台湾沖航空戦で敵空母を壊走させたと判断したこと)は、米海軍との決戦である捷一号作戦発動の必要性から生じたと言うことができる。極端に言えば、何隻か撃沈されてないと作戦が発動できない、という心理が働いたのではないか。」 エリートが集う作戦部は情報部を軽視し、情報部に作戦情報を与えず、自ら情報を判断して作戦を立案していた。情報の恣意的な活用は現在の企業社会でも良く目にする光景だけに、それが戦争の行方を決めたかと思うとうすら寒くなってくる。 また情報の国家戦略的な活用というテーマも現代の我々に重くのしかかってくる。満州事変は現場の洞察が正しく、上手く行ったから良かった。しかしその後、日中戦争、三国同盟、対米交渉、太平洋戦争と続く歴史の中で、日本政府は常に受け身の対応を迫られている。情報は軍部にはあったが、情報が国家的なインテリジェンスとして主体的な戦略立案に活かされることはなかった。現在でも新聞辞令にきりきり舞いさせられる政府の姿を見るに、昭和10年代の歴史を苦い記憶として刻まないといけないのだと思う。

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    投稿日: 2013.06.16
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    このレビューはネタバレを含みます。

     戦前日本のインテリジェンスを知ることは、今後の教訓を得るためにも、重要だ。この本は、「戦前日本のインテリジェンスに関してその具体像を描き、日本のインテリジェンスの特色について考察してい」(P.6)る。  日本のインテリジェンスは、決してそれぞれの技術や能力が低かったのではない(「戦前日本の通信情報能力の高さが部分的にうかがえる。」P.23)。「インテリジェンスを扱う上で特有の問題が存在していた。それらは主に、組織における情報機関の立場の低さ、情報集約の問題、近視眼的な情報運用、そして政治家や政策決定者の情報に対する無関心など、であった。」(P.194)  具体的には、 (1)組織化されないインテリジェンス (2)情報部の地位の低さ (3)防諜の不徹底 (4)近視眼的な情報運用 (5)情報集約機関の不在とセクショナリズム (6)戦略の欠如によるリクワイアメントの不在 があったという。 「この時期の日本のインテリジェンスは比較的うまく機能していた。その要因は、①対外危機が顕在化しており情報収集に余念がなかったこと、②情報の重要性を認識していた元勲世代の存在、③当時の超大国であったイギリスからの情報提供、などが挙げられる。」(P.10)  「ヨーロッパの動きに比べると、日本は明治期からほとんど何も変わらないままの組織運用であった。[…]昭和に入ると日本のインテリジェンス機構は停滞してしまい、一九三〇年代後半まではほとんど大規模な組織改編は行われなくなる。基本的な陣容は、陸軍参謀本部第二部、海軍軍令部第三部がそれぞれ中央軍事情報部としての機能を有した。そして陸軍は外国の通信を傍受する通信情報部、中国大陸から満州にかけて派遣された特務機関、海外の在外武官などを海外での情報収集組織として利用し、国内においては憲兵隊に膨張機能を持たせたのであった。他方、海軍も通信情報部や特務部、在外武官から対外情報を収集するような仕組みになっていた。」(P.12) 「公開情報から情報の断片を集め、それらを熟練の情報分析者が組み立てていくと、有効なインテリジェンスとなる」(P.19) 「[陸軍、海軍、外務省の]三社を併せれば、全体としては相当な情報が蓄積されていた」(P.21) 「太平洋戦争中から英米の情報組織は、日本の暗号解読能力を適切に把握しており、むしろその能力を脅威と捉えていた」(P.22) 「(一九二一年)」段階で陸軍は暗号解読に対する認識に遅れがあり、ターゲットがソ連であったことから、米英暗号の解読に関しては当初海軍の方が秀でていたようである。[…]陸軍が本格的に暗号解読の重要性を感じたのは、一九一八~二二年のシベリア出兵が契機であった。」(P.26) 「陸軍は、米国務省の[…]外交暗号を解読していたのである。当時最高の解読能力を有していたイギリスの暗号解読組織やドイツの暗号解読組織ですら[…]解読していなかったので、この解読能力は相当なものであった」(P.30) 「暗号通信の保全に関しては、[…]一九四三年個半の時期まで対策が施されることがなかった」(P.31) 「軍部は首相周辺や外務省の動静を通信傍受によって把握していた」(P.34) 「偽情報とわかっていれば、相手が偽情報を流して真意を隠す意図を探ることができるため、偽情報の入手もそれなりに重要である。」(P.53) 「地味な定点観測こそ情報収集の原点である。」(P.54) 「決定的情報を入手できない状況にあっては、公開情報の中に埋もれている断片情報に頼るしかなく、まずは入手したピースの断片を根気よく組み上げていくしかない」(P.59) 「東南アジアにおける陸軍の情報活動を概観してみると、シンガポールにおける英軍の敗北は必然であった[…]。陸軍は事前にマレー半島の軍事情勢や地誌情報を調べ上げ、的となる英軍に対しては内部分裂が起こるように工作していた」(P.65) 「戦前、防諜活動に力を注いでいたのは陸軍であった。[…]秘密裏に防諜活動を行っていた。」(P.67) 「海軍の情報組織は一九〇九年以来、一貫してアメリカを情報収集のターゲットとしてきたため、通信情報や人的情報の資源はほとんどそこに投入されていた。」(P.80) 「当時日本はメキシコから情報を運び出すために、メキシコでの情報網や輸送手段の確立に腐心しており、メキシコの太平洋岸の都市や中南米諸国が拠点として選ばれていた。」(P.99) 「当時の日本海軍の膨張意識の甘さ、そして自浄作用のなさは、さまざまな問題を生じさせており、その後の海軍の戦略に与えた影響を考えると、どれも深刻なものであった。」(P.106) 「当時の日本軍における情報分析部門は、不十分ながらも「インテリジェンスを生産」する意識を有しており、価値判断を加えた情報を査かく資料と称していた」 「問題は、すぐれた情報分析官、もしくは民間専門家の慢性的な不足であった。」(P.114) 「日本の場合、情報畑でずっとやっていくというスタッフは少なく、専門性を身につける前に他の部局へ異動させられることが多かった。」(P.115) 「陸海軍の指導層は、情報分析の重要性に関してはあまり理解を示さなかった。」(P.117) 「日本軍の場合、元来軍部が情報部を有することの構造的な問題点に加え、「作戦重視、情報軽視」の考えが根強かったので、作戦部と情報部の立場を平等にした上で情報を共有することは極めて困難であった。」(P.121) 「陸海軍の情報部同士が連携してインテリジェンス活動を行うのも難しい状態であった。」(P.137) 「インテリジェンスが有効に機能するためには、組織間の水平的協力関係と情報の共有が不可欠である。」(P.139) 「(情報の利用の)問題に対する鍵は、情報更新の頻度にあろう。」(P.168)

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    投稿日: 2013.04.21
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    まず,単なるデータである「インフォメーション」から有益な情報「インテリジェンス」を生み出すこと,この重要性を理解しなければならない.この過程をいかに行うか,日本軍の組織の問題が多数の文献から紹介されている. 現代日本においても同様の問題が存在している. 戦略や政策以外にもいろいろと応用の効く内容と思う.

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    投稿日: 2012.09.09
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    日本軍は、太平洋戦争で情報戦において、英米に大きく負けていた、とする定説とは、ちょっとことなる事実を提示してくれる一冊です。 確かに、日本軍という組織としてみれば諜報を軽んじていたようですが、情報を扱う部署では、職人技ともいえる暗号解読や情報収集を行っていたようで、陸軍などはアメリカの暗号もおよそ解読していたのではないか、とのことです。 ただ、軍部エリートの集う作戦立案の部署からは軽んじられ、実際的にはあまり役に立てられなかったそうで、ここにも日本に今昔問わず見受けられるセクショナリズムの弊害が健在だなあ、と感じました。 それにしても、驚くべきは、日本軍が育てた情報戦エリート達は、1941年の開戦前の段階で、日本が4年ほど戦って国力が尽きて、ソ連が攻めてきてジ・エンド、というシナリオを正確に読んでいた、という点です。そこまでわかっていたなら・・・

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    投稿日: 2012.08.21
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    旧日本軍の情報、諜報戦について書かれた本。情報収集、インテリジェンス能力は高かったものの、それを活かす組織体系がなかったことが、負けると分かってた戦争に、それを無視して突き進ませた原因があった。 これは今でも政治、身近な例ではビジネスにも通じるものがあると思う。中長期的な視点の欠如、営業主体でどうしても進んでしまうビジネス等等。

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    投稿日: 2012.08.05
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    日本はなぜ負けたのか。作戦重視、情報軽視の宿痾を抉る。 暗号解読など優れたインフォメーション解読能力を持ちながら、なぜ日本軍は情報戦に敗れたか。「作戦重視、情報軽視」「長期的視野の欠如」「セクショナリズム」。日本軍最大の弱点はインテリジェンス意識の欠如にあった。インテリジェンスをキーワードに日本的風土の宿痾に迫る。  第一章 日本軍による情報収集活動  第二章 陸軍の情報収集  第三章 海軍の情報収集  第四章 情報の分析・評価はいかになされたか  第五章 情報の利用 成功と失敗の実例  第六章 戦略における情報利用  第七章 日本軍のインテリジェンスの問題点  終 章 歴史の教訓 インテリジェンスとは、分析済みの情報のこと。 「戦争中、日本は情報線に負けた」と言われているが、それは暗号を解読されていたという単純なレベルのものではないと著者はいう。本書を読むと、暗号解読に関して言えば、日本軍も連合国の暗号をある程度解読していたという事がわかる。深刻な問題は、日本がインテリジェンスを組織的、戦略的に利用することができなかったという組織構造や、対外インテリジェンスを軽視するというメンタリティーにあるという。 戦前日本は、情報を軽視した訳ではない。むしろ、陸軍は人員や資金不足の割には相当な暗号解読能力を有していた。なぜ、情報を生かすことが出来なかったのか。本書では、セクショナリズムをあげている。陸軍と海軍のみならず、軍の中でも作戦部が情報部を軽視していた弊害があげられている。 エリート意識に凝り固まった作戦部は、独自にインフォメーションを集め、それを基に作戦を練れば良いということから情報部を軽視する事となる。日本の命運を決めることになる政策決定に参謀本部の情報部長が関与していなかったという事実には驚かされる。しかも、作戦部が情報を扱いだすとどうしても戦略や作戦目的のために情報を取捨選択してしまい、作戦ありきで情報は目的を正当化するために使用される弊害がある。 政策サイドが意思決定を行う際に、情報サイドにインテリジェンスを求めると言う思考が欠如しており、政策決定者は自らのイメージや観念に沿って政策を進めていた(情報の政治化という)。このことにより、政策決定者が望む情報しか望まれず、望まない情報は雑音として排除されることとなった。 独軍の英本土攻略作戦や、独ソ戦について、情報部が冷静な判断をしていたが、生かされることはなかった。 個人的には、インテリジェンスが生かされない理由として、日本の組織が、トップダウンではなく、ボトムアップであるということもあげられると思う。有力な政治家が組閣すれば政治が主導するが、弱体な内閣の場合、官僚が主導することとなる。アメリカ型ともイギリス型とも異なる日本の問題があるのではないか。 本書は、丁寧に日本軍の失敗の本質に迫っており、丁寧な仕事に好感が持てる。内容も面白くおススメである。

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    投稿日: 2012.04.15
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    日本軍のインテリジェンスは一般的に認識されているように決して低くなかった。特に陸軍に関しては難解と言われるストリップ暗号をほぼ完璧に解読していたことなどから極めて優秀だった。 しかし日本軍の場合その優秀なインテリジェンスを有効に活用するだけの組織体系が全く整っていなかった。 日本軍の作戦組織は情報組織の役割を軽視し、情報そのものを自分たちの主観的判断によって解釈した。 例えば三国同盟などはドイツの対イギリス戦の見通しの悪さなどから情報部の見解は同盟そのものに否定的だったが、作戦部はそういった情報を無視し「アメリカへの牽制」と称して同盟に踏み切った。 海軍は対アメリカ戦が長期化した場合、状況はどんどん苦しくなるだろうということは予め予想していた。しかし攻撃を仕掛ければ相手を萎縮させられるだろうという希望的観測を元に攻撃に踏み切った。 作戦組織と情報組織を明確に分離し情報そのものを「インフォメーション」から「インテリジェンス」に加工しそれを作戦組織に提供する専門の組織が必要である。 作戦組織は常に戦略を思考し続け、その為の情報を得るために情報組織に対して「リクワイアメント(情報要求)」することが重要である。

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    投稿日: 2012.04.09
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    新たな視点を得られた良書。 日本軍の情報戦略的な失敗は常識化しているが、それはインテリジェンスとしての情報を全く持っていなかったという事では決して無かったのだ。感心の低さからくる人員等の配分こそ他国に明確に劣っていたが、インテリジェンスを獲得する能力自体は、特に陸軍においては決して引けを取らなかったようだ。 結局、組織的な構造、関心の低さ、戦略の欠如等がインテリジェンスを無駄にしてしまうという事になった。作戦部の優越性などからも、いかに情報部が軽視され、無意味な組織構造をもたらしてしまったかが窺い知れる。 現状の日本においても、ここから学ぶべき事が多いように感じる。むしろ、その体質は基本的に変わっていない。

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    投稿日: 2012.03.25
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    【要約】 太平洋戦争当時の日本軍の情報能力は欠如していた、という欧米の定説が間違っていることを、史料を通して明らかにした。しかしそれでも見劣りがすることは否めないが。海軍より陸軍のほうが進んでいたが、情報収集と解析を別の組織が行い、しかも情報そのものを軽視する風潮が強かったため、情報部の調査が活かされなかった。陸軍は対ソ連、海軍は対英米が強かった。防諜に関しては陸軍は憲兵隊を持っていたので陸軍のほうが強かった。英米では大学出の頭脳は重宝されたが、日本では学徒出陣で最前線へ送られる始末。 【興味深い事例】 ・ワシントン海軍軍縮会議で日本の暗号は英米に解読されていた。 ・ツィンメルマン事件 ・ウルトラ情報 ・盧溝橋事件を受けて近衛首相は特使を派遣しようとしたが、その暗号をなんと日本陸海軍が解いて特使たちを逮捕してしまう、という事態が発生。 ・米空母「サラトガ」は四度撃沈されたことになる作戦部のずさんな状況把握により、昭和天皇は「サラトガが沈んだのは今度でたしか四回目だったと思うが」と苦言を呈するまでに。 ・アメリカがハル・ノートで強行主張に出たのは、アメリカと日本が妥協してほしくない中国が妥協案をリークしてしまったためで、本当は妥協案を提示したかったハルは苦虫をつぶした顔をした。

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    投稿日: 2012.02.25
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    旧軍のインテリジェンス能力は巷間で言われているほど低くなく、むしろ高かった。問題なのは情報を有効に使えなかった作戦部門にある。情報を有効に使えないのは今も昔も日本のデフォなのか…?

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    投稿日: 2011.05.31
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    太平洋戦争時の日本国内におけるインテリジェンスの扱いについて、他国との比較や軍部の傾向から、冷静に分析した本。

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    投稿日: 2011.04.05
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    太平洋戦争前から太平洋戦争に至るまでの陸軍・空軍のインテリジェンスについて。日本軍の失敗に学ぶ、情報の扱い方や情報を活用できる組織の形態の話。米・英・ソ・中などの話もあり。

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    投稿日: 2011.04.02
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    作戦部が自部署内に諜報部を抱えており、インフォメーションをインテリジェンスに加工する専門の情報部を軽視していたため、必要な情報のリクワイアメント(要求)をしなかったり、作戦部に上がってきた情報を無視していた 作戦部は多忙な業務を抱えているためインテリジェンスとインフォメーションの区別をする余裕が無く、主観的な判断で自分たちの立案した作戦に都合のいい情報を選んでしまう 短期的、戦術面では前線からの情報がリアルタイムで入るので、情報の劣化が少なく即フィードバックされ、有効に活用されていた 日本の意思決定が調整型のため、各部署の調整後に新たなインテリジェンスが出てきても、また1から調整し直さねばならず無視してしまう 天皇陛下「サラトガの撃沈は4度目ではないか」

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    投稿日: 2010.07.10
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    22,3,12 1、組織化されないインテリジェンス 2、情報部の地位の低さ 3、防諜の不徹底 4、目先の情報運用 5、情報集約機関の不在とセクショナリズム 6、戦略の欠如によるリクワイアメントの不在

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    投稿日: 2010.03.13
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    旧日本軍の情報活動がわかった。情報の取り方や扱い方など参考になった。 また、それを使う側にすべてが左右されることもわかった。 自分個人がイメージしていた旧日本軍とは少し違った、発見があった。

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    投稿日: 2010.02.17
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    情報の有益な使い方と重要性を正しく理解していなければ貴重な情報も宝の持ち腐れとなり、都合の良い情報のみを捉えて手前味噌に曲解するのが当たり前になる。日本軍は高い暗号解読能力や情報収集能力を持ちながら有効に利用することができなかったというのは意外だったが、教訓は今に活かされているんだろうか。

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    投稿日: 2009.12.22
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    一般に「低レヴェル」と言われる戦前期日本軍のインテリジェンスの実力を再考。対象は太平洋戦争に限られるが、豊富な史料に基づき様々な事例を紹介している。 日本軍のインテリジェンス入門書として最適のもの。 2007年度山本七平賞奨励賞受賞。

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    投稿日: 2008.02.12