【感想】プロの小説家が教える 歴史作家のマル秘ネタ帳

木下昌輝 / 双葉社
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    木下昌輝氏の著書『プロの小説家が教える 歴史作家の秘ネタ帳』は、歴史小説家ならではの視点から、歴史上の興味深いエピソードや謎を解き明かし、歴史の「史実の隙間」にフィクションを挿入する面白さを学部生向けに紹介しています。一般的な歴史認識とは異なる、意外な側面が多数盛り込まれています。

    1. 伝説の裏側:妖刀や人造人間、そして動物たちの歴史
    本書では、歴史上の伝説がどのように形成され、史実と乖離していったかを探ります。例えば、「村正」が徳川家康に仇なす「妖刀」として語り継がれてきた伝説は、史料的な裏付けが薄く、江戸時代以降に肥大化し、幕末には倒幕のシンボルとなった可能性を指摘。また、平安時代の歌人・西行が人骨で人造人間を造ろうとしたり、陰陽師・安倍晴明が殺された後に復活したりと、当時の奇妙な死生観や人造人間への関心を垣間見せています。さらに、醍醐天皇から「正五位」の官位を与えられた**サギ(ゴイサギの由来)**や、一条天皇に可愛がられた猫「コマ」など、合戦で活躍した犬も含め、歴史に名を残し、中には官位をもらう動物たちの存在も紹介され、人間以外の視点から歴史を捉える面白さを提示しています。

    2. 富士山に魅せられた権力者たち
    霊峰富士山が、古代から人々を魅了し、多くの伝説や歴史的事件の舞台となってきたことに焦点を当てています。聖徳太子が富士山頂まで飛んだという逸話や、秦の始皇帝が不老不死の仙薬を求めて徐福を派遣したという壮大な物語を紹介。また、鎌倉幕府二代将軍・源頼家や織田信長が「人穴」という洞窟を訪れた直後に非業の死を遂げた逸話は、富士山の持つ不思議な力や祟りの伝説と結びつけられ、その影響が単なる自然現象に留まらないことを示唆しています。一方で、徳川家康が人穴に逃れて危機を脱した話も紹介され、富士山が運命を左右する舞台であったことを強調しています。

    3. 論破と戦略:言葉と心理の戦い
    現代の「論破王」ひろゆき氏になぞらえ、日本史における論戦の歴史が紐解かれています。織田信長が関わった「安土宗論」では、浄土宗が架空の概念で日蓮宗を論破し、処刑者まで出したという驚くべき結末が描かれ、言葉の持つ影響力と戦略的な思考の重要性を示しています。また、キリスト教布教初期における仏教とキリスト教の論戦では、朝山日乗が刀を抜いて「霊魂を見せよ」と迫る場面や、林羅山が地球儀の球形説を攻撃しハビアンを棄教に追い込むなど、苛烈な論戦の実態が描かれています。鎌倉時代の論客・存覚の「御与奪」という論破テクニックは、現代の論戦に通じる**「反論ではなく質問から入る」姿勢**に類似すると指摘し、言葉の裏に隠された心理戦の奥深さを伝えています。

    4. 戦国武将の意外な素顔:辞世の句と禅、そして茶の湯
    戦国武将たちの辞世の句は、彼らの死生観や人間性を映し出しています。豊臣秀吉の有名な辞世の句が実は死の間際のものではないという意外な事実や、荒木村重の妻だしの母としての苦悩、織田信孝の秀吉への恨みを込めた句など、様々な辞世の句が紹介されています。特に、織田信長には辞世の句が伝わっていないものの、彼が好んだ小歌がその死生観を如実に反映していると考察。また、戦国武将たちが殺伐とした時代に茶の湯に傾倒した理由を、単なる癒やしや政治利用だけでなく、禅の修行の延長として五感を研ぎ澄まし、戦場や政争の場で微細な変化に気づくための「鍛錬」であったという斬新な仮説を提示しています。さらに、北条早雲や今川義元、織田信長といった名だたる戦国武将を教育し、時にブレーンとして活躍した禅僧たちの存在も紹介され、禅が武将たちの精神的な強靭さや安定に寄与したことが示唆されています。

    5. 豊臣秀吉と徳川家康の人材活用術
    豊臣秀吉の天下人への成り上がりは、その低い出自と、「草履取り」という逸話に象徴されるように、才覚と運によって成し遂げられました。しかし、その「草履取り」の逸話は後の創作である可能性が高いと指摘しつつも、実際に草履取りから武将へと成り上がった例も紹介。秀吉の恩讐に律儀な性格や、その姉の一族の奇妙な運命についても触れられています。一方、徳川家康は、織田信長や豊臣秀吉と比較して、女性を人材として最も活用した人物であったと論じています。特に、阿茶局や於梶といった才能ある側室が、国家機密に関わる「御隠密の御用向き」や外交官としての役割を担った事例を挙げ、家康が女性の助言に耳を傾けるタイプであったことを示唆しています。また、徳川家康の腹心で「日本国の総代官」と呼ばれた大久保長安の功績(鉱山開発、交通インフラ整備など)とその後の悲劇的な運命も紹介し、彼が築き上げたハードウェアが、設計者である彼の一族が滅ぼされた後も生き続けた皮肉な運命を語っています。

    6. 江戸時代の奇妙な現象と幕末最強の男
    江戸時代に急速に大流行した**「殉死」の現象は、戦場を失った武士たちが勇気と忠誠を誇示する手段として激増したと分析されています。殉死者に同性愛関係が多かったことや、同調圧力によって多くの人々が命を絶った事例が具体的に紹介され、その背景にある社会の歪みが示唆されています。また、元禄時代の南天と梅干しの価格高騰騒動**は、現代のビットコインの価格乱高下と酷似しており、デマを利用した「知能犯」によるものだったと解説。さらに、幕末の京都における「最強の男」の考察では、新選組の剣客たちや岡田以蔵、佐々木只三郎の実力が検証され、京都の人々にとっての「強い」とは、剣の力だけでなく「悪評」という見えない力をも含むことを示唆し、その複雑な様相を浮き彫りにしています。

    7. 史実の隙間と小説家の視点
    本書は、歴史を単なる事実の羅列としてではなく、史実の「隙間」にこそ小説家の想像力が入り込む余地があることを示しています。例えば、聖徳太子の正体が実は女性であったという大胆な仮説を提示し、史料の断片から新たな解釈を導き出す面白さを伝えています。また、平安時代の最高学府である大学寮の実態や、明智光秀の「くじ運」にまつわる真意、そして形式主義に陥っていた室町時代の政策決定など、一般にはあまり知られていない歴史の細部を掘り下げ、そこに現代に通じるユーモラスな視点や教訓を見出しています。歴史上の人物たちの人間臭いエピソードや、彼らの抱えた葛藤を掘り下げていくことで、歴史がより身近で魅力的なものとして感じられるよう工夫されています。
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    投稿日:2025.05.23

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