【感想】地獄変・偸盗(新潮文庫)

芥川龍之介 / 新潮文庫
(124件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
32
50
28
2
0

ブクログレビュー

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  • きよきよ

    きよきよ

    このレビューはネタバレを含みます

    これこそまさに地獄。正真正銘の地獄。こんなエグい話をよくも書けたな、と驚くと共に溜め息が出た。ストーリーも秀逸だが、文章が凄くて、地獄変の屏風絵が私の脳内に生々しく浮かび、実際に見た事あるような気がしてきたからそら恐ろしい。そして、電車の中で読んでいた私は、ラスト数ページで涙が止まらなくなってしまった。猿の良秀にやられた。

    絵師の良秀は腕は良いが変わり者。人に嫌われていたが、唯一、娘だけは愛情たっぷりに男手ひとつで育てていた。その娘はというと心優しく、愛嬌もあり大殿様の所に奉公しており、皆んなに可愛がられていた。
    ある日、良秀は大殿様から地獄変の屏風を描くように仰せつかわされる。地獄を描くために弟子にあらゆる責苦を行い、その様子を書き写す毎日を過ごす中で、良秀は段々、狂気じみて来る。最後の仕上げとして、良秀は大殿様にお願いをする。炎の地獄を描きたいが、見たモノしか描けない。目の前で女性を乗せた牛車を焼いて欲しい、と…。

    だんだんトチ狂ってくる良秀の変容がさし迫ってくる。芸術を追求するためには、人間の心までも無くしてしまうのか。鬼畜の成せる技。
    ここまで狂ったら次はどうなる?
    クライマックスは想像を大きく越えた。
    火の中に飛び込んで消えた猿の良秀の方が、人の心を持っていたわけで、そこに救いがあった。
    大殿様と良秀の娘との関係も謎のままだが、語り手が否定すればする程、そういう事なんだろう。でなければ、あんな所業はできない。

    娘が焼かれる様子を見て、地獄の苦しみを受けていたが、一瞬、恍惚とした法悦の表情を浮かべた良秀。この場面が忘れられない。ここが芥川の非凡で天才な能力で、追求するあまりに精神の危うさを感じた。人間の心の闇を描き出した本作は、彼の最高傑作の一つだと思う。

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    投稿日:2025.06.21

  • パクチー推し

    パクチー推し

    このレビューはネタバレを含みます

    「王朝もの」と言われる6編を収録した短編集。
    どれも初めて読むものばかりでした。

    圧倒されたのは「地獄変」です。
    超有名作品なのでタイトルだけは知っていました。なぜもっと早く読んでいなかったのかと、自分を問い詰めたいです。

    「見たものでないと書けない」から、上﨟を乗せた車を用意して実際に火をかけて欲しいと、大殿に頼み込む良秀。それを快諾した時点で、哀れな上臈の正体は予想できました。
    車が燃え盛り、中で悶え苦しむ娘、それを見る良秀の狂気的な描写が凄まじく、圧巻でした。

    至高の芸術とは狂気と紙一重なのかと考えさせられます。
    最後に良秀は自死しますが、芥川の最期とも重なり、心に深く残りました。

    それにしても、大殿はなかなか悪いやつですね。
    大殿に「二十年来奉公する」者が語り手なので、絶妙に擁護を挟み込みます。ここがまた面白いなと感じました。なぜ、大殿が良秀の娘を焼き殺したのか。私は「恋の恨み」説を推します。

    「偸盗」は、始め、人物相関や人名が頭に入ってこず、読みにくいと感じました。しかし、それらが理解出来るようになると、愛憎渦巻くドロドロしたお話で印象的でした。沙金が報いを受けてヤレヤレです。

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    投稿日:2025.05.08

  • volkswagenman105

    volkswagenman105

    藪の中と地獄変は久々に読んだが、やはり藪の中は面白かった。地獄変はところどころ記憶と違うなと思うところがあったがまあ良かった。所々曖昧な描写は考察のしがいがある。
    他の短編も短いものが多くて気楽に読めた。
    往生絵巻とか短いしオチとしては好きかも。竜のオチは途中予想できてしまったが、面白かった。今昔物語のオチとは違うらしい。姫君の話はまあ普通くらい。偸盗はそんな好きじゃなかった。
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    投稿日:2025.05.03

  • ごま昆布(減塩)

    ごま昆布(減塩)

    『地獄変』は中学生くらいの頃に読んだんだけど今回読み直したら思ってたのと違った…多分『宇治拾遺』とごっちゃにしちゃってたんだな〜

    解説に

    『地獄変』の良秀は、他の思う通りの傑作を完成したが、しかしそのためには最愛の娘の生命を犠牲にするという残酷な所業をあえてした。絵を完成したのち、一たん道徳的な気もちに立ちかえると、くびれ死なざるを得なかったというところに、芥川の芸術家としての、また同時に人間としての、生き方なり、立脚地なりがあった。

    って書いてあって、宇治拾遺の方も『地獄変』も「芸術と道徳の相剋・矛盾」が語られるイメージがあるんだけど『地獄変』はちょっと違う気がする。

    確かに良秀は芸術第一の変人だろうけど、娘を愛していたのは確かなのにその娘を檳榔毛の車の中に鎖で繋いで火を放ったのは堀川の大殿で、しかも火にかけようと思いついたのは手篭めにしようとして失敗したからでしょう?

    良秀が見たものしか描けないって大殿に言った時の「悦しそうな御景色」「まるで良秀のもの狂いに御染みなすったのかと思う程、唯ならなかった」とかさ〜〜この時に自分の思い通りにならなかったことへの意趣返しとして娘を燃やすことを思いついて妙案得たりで顔に出ちゃったんでしょ?外道だよコイツ こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!って感じ。

    燃える娘と車を見ながら

    あのさつきまで地獄の責苦に悩んでいたような良秀は、今は云いようのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、だらけな満面に浮べながら、(…)両腕をしっかり胸に組んで、佇んでいるではございませんか。それがどうもあの男の眼の中には、娘の死ぬ有様が映っていないようなのでございます。唯美しい火焔の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく、心を悦ばせるーそう云う景色に見えました

    ってあるけどさ〜悦んでるんじゃなくて限界を越えて心が壊れちゃった様子としか思えない。辛い。

    八で語られる良秀の変人エピソードの中に

    「誰だと思ったらーーうん、貴様だな。己も貴様だろうと思っていた。なに、迎えに来たと?だから来い。奈落へ来い。奈落にはーー奈落には己の娘が待っている」

    っていうこの物語のオチを仄めかすような独り言を言ってる場面があったけど、これも語り手が直接見たことじゃなくて伝聞した話だし…この語り手って明らか大殿の肩を持っていて、乱れた服装で転び出てきた娘を見て「性徳愚かな私には、分りすぎている程分っている事の外は、生憎何一つ飲みこめません」とかどういうこと??って感じなんだけど語れないことを語ろうとするとこうなるのか…?

    生前の出来事を語ることは死者の鎮魂となり得るはずけど、大殿の従者であろう語り手が、お上に逆らえない状況で多少なりとも良秀に同情を寄せていたのかどうなのかが気になって、個人的には良秀と娘が可哀想すぎて同情していて欲しいと思ってたけど……八のエピソードとか作為を感じるし語り手の存在も含め作り物語なんだろうな、と思いつつも大殿のゲスさや娘を燃やされた良秀のすさまじさは作り物語というにはあまりにも生々しい。

    追記
    女が自分の思い通りにならなかったら殺すってノートルダムの鐘のフロロー判事じゃん>堀川の大殿

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    投稿日:2025.04.06

  • ユウ

    ユウ

    主に地獄変の感想となります。
    モデルとなる宇治拾遺物語は何となく知っている程度です。それを元に描かれた画師・良秀の芸術と狂気の紙一重の描写が重く思えました。

    作品を生み出すため自身の愛情を込めた人物が犠牲となった際の良秀の情景描写で、人としての良心と芸術家としてのエゴが相反し、複雑に混ざりながら葛藤している様子が痛いほど伝わります。
    その後、事象を経て描いている良秀の様子は忘我の状態と表現すべきか、神懸かり的な様子で描写されていました。その場面は読んでいて、ついに作品を生み出すために犠牲を厭わなく思ったのかと怖さを抱きました。その一方で、常人では到達できない所に辿り着いたのかとも思いました。

    読んでいて気になった所が、良秀については悪く(醜くというべきか)表現されているのに対し、作品を描かせるように仕向けた大殿は良く書かれており対比されるようになっていた所です。その対比は物語の最後まで続いていますが、果たしてこの視点は公平なのでしょうか?そして良秀が迎えた結末は本当に呵責に耐えられなくなったからなのでしょうか?違う視点を持って読み直すとまた、違う感想を抱くのではないかと思いました。


    偸盗に関しては作中の情景描写から平安時代、別作品の羅生門の頃の物語なのかと思いました。しかし羅生門とは違い登場する人物が多く、愛憎が交錯した描写や物語の視点が変わる事が多く今どちらの視点なのか?と混乱する感覚がありました。
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    投稿日:2025.03.23

  • たろ

    たろ

    この作品には以下の6編が収録されている

    「偸盗」、「地獄変」、「竜」、「往生絵巻」、「藪の中」、「六の宮の姫君」

    個人的に一番印象に残ったのは「偸盗」かなー。芥川が放つ独特の世界観と物語が折り重なっているような気がした。出てくる登場人物たちはどこか歪んでいる人が多いのだけれど、時折見せる人間味も垣間見えて全員を憎むことはできない。
    最後は、兄弟の絆かそれとも愛をとるのかという選択を読者に見せつけてくれた気がして、とても感慨深かった。
    続きを読む

    投稿日:2024.10.15

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