【感想】スタァ・ミライプロジェクト 歌姫編

綾里けいし, 夏炉 / MF文庫J
(1件のレビュー)

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  • タカツテム

    タカツテム

    綾里けいし先生の作品を読むのも随分久しぶり…と思ったら、『B.A.D』シリーズ完結からもう10年も経ってるのか…。その後に読んだのも『ヴィランズテイル』くらいだし
    それだけに死体描写等は随分懐かしい気持ちに成りながら読んでしまいましたよ


    本作で扱われるスタァがヴァーチャル空間の歌姫というのは現代的だね
    今やテレビで活躍する者ではなく、インターネット空間でアバターを用いて活動する者がスタァとして扱われたって可怪しくない時代
    けれど、彼女らの姿はアバターだから視聴者に見えるその姿は仮初に過ぎず本当の肉体は別にある。現実には炎上等により引退に追い込まれる事は有っても、仮初の姿が危害に遭う事は基本的にない
    だからこそ、そんな歌姫候補達がアバターのままデスゲームに巻き込まれたら異常な事態と言えるし、アバターが受けた死が現実に反映されるなんて人智を超えている

    でも、別の考え方をしてみれば、アバターの姿を取った彼女らが歌姫としてスタァに登り詰める現代も実は人智を超えたものなのかも知れない。そこに超常的な神の手が関わっているとしたら?という前提は面白い
    エンターテインメントは誰かが操作しているのではないか?とは昔から邪推の対象となってきた部分では有るけれど、そこに本作はデスゲームを絡めたわけだ


    第一幕で描かれるのは純粋なファンとスタァ候補の遣り取りだね
    七音は歌姫に憧れつつもまだ何者にも成れていない。どちらかと言えば愛が強いファンに過ぎない
    七音が熱を上げる神薙も認知度は低い。あの活動を続けていても羽ばたける可能性は少ない
    でも、そこに有る二人の遣り取りはとても純粋。七音は歌を聞きたいと応援して、神薙は応援に向き合って歌って
    そこにスタァに通じる要素は微塵も無いけれど、それだけに人を好く、好かれた想いに応えるというエンターテインメントの原点的要素が詰まっている

    そう思えるだけにArielの死を契機として【少女サーカス】の募集が始まり、デスゲームへと至っていく流れは現実離れしているとしか言い様がない

    【少女サーカス】発表からのインターネット空間における反応は面白いものが有るね
    Arielの代役を死後すぐに求める発表には誰もが憤る。その光景は理解できる。けれど、センセーショナルな盛り上がりはセンセーショナルだからこそ一過性でありAriel自身は忘れ去られていく。彼女が残した動画は残ったとしても歌姫の死を悼む光景とは微妙に異なる要素を内包している

    だからこそ、異質に過ぎる【少女サーカス】に挑む者達が現れるのも自然の流れであり、そこで異質なデスゲームが行われても進行を遮る事はできないわけだ


    本作の面白さとなる要素の一つとして、リタイアした歌姫候補達の悔やみと追い込まれた心境が描かれている点だね
    既に退場しているのだから、その段階で彼女らの内面を描いても応援したくなるような親近感は沸かない。けれど、現実のヴァーチャル歌姫でも生じていそうな心の擦り切れ具合はエンターテインメントとして消費されるとはどのような意味かという点を余す所なく描いている
    言ってしまえば、このように追い詰められたのならばArielの死により空座となった歌姫になる為にデスゲームに挑む事もやぶさかでないと思ってしまうのも意外ではないと云うか

    あれらの描写からはヴァーチャルで活動していようと、アバターの殻を被っていようと、その内側には人間が居るのだと伝わってくるね


    デスゲームに登壇する事になった七音は意外な才覚を持つタイプだったようで
    歌姫に憧れつつもそれ以上の活動は殆ど出来ていない。その意味では歌姫レースにおいて最下位を走っていると言える。でも、得体の知れないコメントに歌えと強要された際に「一理、ある」と思考できるのは割りと普通ではない
    パニックによって思考を放棄しないなんてデスゲームに於いて最も秀でた才能と言っても良いかも知れない

    だからといって、死後に内面が描かれた歌姫候補達のように追い込まれていなかったわけではない。彼女もデスゲームに参加しても良いと思えるだけの自暴自棄が有った
    それでも彼女がある種の希望を持ったままに【少女サーカス】に挑めたのは偏に推しを守りたいという純粋な感情だけは捨てなかったからだね

    その点では七音はあのデスゲームにおいて、ジョーカーのような存在
    歌姫に成る事を第一目標と掲げて参加した訳では無い。他者を蹴落としたい訳でもない。純粋に神薙を守りたいだけ
    七音の心構えは他の者と違うから度重なるトラップや諸問題に対して的確な切り抜け方が出来る

    ただ、七音にとってどうしようもなかったのは他にジョーカーが二人も混ざっていた点か。皆が無事に脱出できるようにと七音が考えても、殺戮を望む者が混じっているなら抗いようがない
    七音がその時々で状況の最適解を選ぼうとも、他の者が状況を進めるなら歌姫候補は脱落していく

    それでも七音が確かに持つ強みであり、同時に神薙も持っていたのは推しに恵まれて欲しいという本当に単純なファン心理かな
    二人共追い詰められる形で参加した【少女サーカス】だけど、その果てに見定めたのは神薙が、または七音が生き残る結末
    ファンとしての在り様はデスゲームを切り抜けると同時に、最後のジョーカーであるArielへの対抗策と成るね
    Arielが渇望した純粋なファンを誰よりも体現した者達が眼の前に居るならばArielはファンが望む歌姫として自身を締め括る事ができる

    それは幾人もの死が生じてしまった後としては本当に今更な態度なのだけど、エンターテインメントを提供した者の死に様としては不充分だなどとは決して呼べないものだったよ


    まるで何事もなかったかのように舞台の幕は降ろされたのだけど、果たして本作の続きの物語は書かれたりするのだろうか?
    今巻を『歌姫編』と題してしまったなら次は別のジャンルを扱う事に成るのだろうけど、その場合七音や神薙はどう関わるのだろう?というか、七音と神薙のイチャイチャはもっと見たい気がしますよ?
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    投稿日:2024.09.07

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