【感想】いまは、空しか見えない(新潮文庫)

白尾悠 / 新潮文庫
(6件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
3
2
1
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ブクログレビュー

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  • ハルノ

    ハルノ

    ぜったいにつらいのに、どうして何度も闘う物語に手を伸ばしてしまうのだろう。それはきっと、いつかのじぶんを救いたいからだ。繰り返し立ち上ってくる恐怖と暴力に、なんどでも立ち向かわなければならないからだ。こんな理不尽なことはない、膝をついてもう立ち上がれないと涙も渇れるとき。それでもおもいだすため。ひとびとが繰り返し綴ってきた、絶望とのあまりに尊い闘いの記録と、意志の有り様を。息ができなくなるような苦しみのなか、息をするように求めている。闘い、闘い、疲れはてても。闘う限り「いつか」はくるかもしれないと信じて。続きを読む

    投稿日:2023.03.13

  • そ


    わーー。。
    はじめましての作家さんだった。
    よかった。とってもよかった。

    痛みや苦しみを力強く打ち砕く。何度でも立ち上がる彼女たちの力強さがまぶしい。

    どうにもならない壁にぶち当たった時に、ぜひ読み返したい。



    父親に抑圧されつづける智佳。大好きなホラー映画監督の講演を聴きに密かに向かう東京への道中で遭遇する、同級生のギャル、優亜。
    娘に手を上げる夫を止められない母親、雪子。

    父親から異常な抑圧を受けたり、レイプされた過去があったり、母親に愛されなかったり。まあまあハードな傷を抱える彼女たちが、閉塞を切り裂いていく。
    それも、独りで闘うのではなく、周りの“味方”の力を借りて。

    味方。“誰かが手放しで応援してくれる”ってこと。

    味方に支えられて飛び立つ。過去と決別する。踏み出す。切り拓く。



    「夜を跳びこえて」

    “あんたは悪くない”

    嫌なら逃げればよかった、とか、よく知らない男と二人きりになる方にも非がある、とか。いい加減見飽きた構文だけど、私たちは絶対に負けてはいけない。

    優亜がかわいくてつよくて、とっても好き。
    自分の弱いところを認めて、信頼した人にさらけ出せる人はとても魅力的だと思う。
    最後の書き下ろしショートの優亜が特にかわいくて。幸せになって欲しい。



    そして、山梨という絶妙な立地の閉塞感。県内の大学に進学して、地銀に就職するというエリートコース。

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    投稿日:2022.12.26

  • 兎

    このレビューはネタバレを含みます

    最後智佳が父親に電話するシーンかっこよかった
    無茶苦茶な人間に何を言ってもこちらの声なんて届くことはないけど、智佳の最後まで貫き通して冷静に話す言葉。父親は支配出来なかったことに絶望を覚える。最高の復讐。

    あと智佳の母の回が個人的に1番好きだった。
    望まれず産まれた 無関心な母親の元で育った雪子
    そんな雪子の母親の危篤を聞いて重い腰をあげて尋ねる。この人に以前は認められたかった。でもそれをやめて自分の家族を作れた時 息が吸えたような感覚。亡くなった母親に自分を見て欲しかったと最後ビンタするシーンに雪子の苦しみが溢れてた。
    そしていま自分の家族も危ういことを認めざるえなくて、でもそれが果たして最悪のことなのかと、娘を縛りつける夫に加担することは正しいことなのか?そうではないと認めたとき、また春がみえた気がした。
    かっこいい。

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    投稿日:2022.11.22

  • 四木

    四木

    このレビューはネタバレを含みます

    それでも、ということばが浮かびました。
    それでも、進むのですね。我々は。

    「暴力」の形は違えど、自分も親から、特に父から受ける苦しみや悲しみ……恐怖を抱えて生きてきました。それを思い出してしまうので、最初は読むことが苦痛でした。
    けれど、最初の物語を読み終えたら、止まらなくなりました。

    しあわせになって。しあわせになって。
    登場人物みんなに、そう思いました。


    (以下、読みながら綴った文章)


    2022/11/12 p.9-105


    「夜を跳びこえて」

    p.9
    “父の機嫌を推し量る──悪くなさそうだ。”
    これだけで、この家庭の息苦しさが伝わってきます……。
    「父」が絶対一番上でなければ我慢がならない人なのでしょう、きっと。自分のことが正しいと主張するタイプ……。

    p.10〜
    “勉強ができてもそれを鼻にかけるような人間、お父さんは嫌いだな。社会でもそういう女は嫌われるぞ”
    性別で判断する輩は嫌われますよ。

    p.23
    “もしこの中にホラー映画監督を目指している奇特な人がいたら、ぜひ自分の本能が剥(む)き出しになった時の感覚を、記憶に焼き付けておいて欲しいですね。”
    本能……。できることなら、距離を取りたいです。
    本能のせいで、しにたくてもしねなかったので、悔しいです。

    p.38
    “「チューしたいって思っ……から、二人きりになった……けど、あんな、」”
    かわいい、かわいい心をズタズタにした輩が許せません。地獄に堕ちろ。

    p.40
    “家族はみんな一緒に、穏やかに暮らすのが一番だよな。”
    穏やかだと思っているのは、あなただけです……。

    p.43
    “まずはお父さんに謝りなさい”
    まずは、娘さんの話を聴いてあげてください。

    p.43
    “お父さんも私もいつもあなたのためを思っているんだから。明日になったらきっといつもの智佳に戻れるよね?”
    嗚呼……だいっきらいです。「あなたのためを思って」とか言う輩は信用できません。
    ご自分の理想通りでなければ受け入れないくせに!

    「いつもの、親にとって都合の良い、娘に戻れるよね?」ってことですよね? 子どもは親の「物」ではないのに。
    人形じゃないのに! 心があるのに……。

    p.43
    “誰のお陰でちゃんとした生活がおくれるのか、部屋でよく考えて来い。”
    はい、アウトー。アウトです。
    子どもは親を頼ることでしか生きられないのに。弱い立場につけ込むのはずるいです!

    p.44
    “「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」”
    同じことばを繰り返している時は、よくないです。どうか、どうか、ご自分のことを責めないでください。
    あなたは傷つけられていい存在じゃないです。

    p.46
    “智佳は優亜に向けて、自分自身に向けて、世界中に向けて、咆哮(ほうこう)を上げた。”
    悪くない! 悪くなんか、なかったんです。自分を、責める必要なんて……。

    ひとつめの物語、「夜を跳びこえて」読了しました。
    作中の親の態度が、自分にとっての嫌な記憶の凝縮のようで、苦しかったです……。でも、最後の展開は、とても良かったです。
    どうか、彼女たちに幸多からんことを……。


    「かなしい春を埋めに」

    p.49
    “いくら言葉を転がして、その時々の自分の感情を想像してみても、心は凪(なぎ)のように静かだった。”
    ……嗚呼、わたしも。いま、家族が亡くなったとしても、何も感じません。きっと。

    この「お母さん」も、ご自分の親御さんと何かあった方なのですね。
    だからこそ、娘のことを正しく愛せないのでしょう。愛されなかったから。

    p.52
    “──母親がちゃんとしてないから、あいつがあんな風につけあがるんだ”
    何故、こういう父親ってみんな、同じようなことを言うのでしょう。何かそういう教科書でもあるのかって思ってしまいます……。
    同じ思考だから同じようなことをするのでしょうけれど。

    p.54
    “いつもの素直で親思いの娘だった。”
    そう思いたいだけでしょう。彼女のことを、何も理解していないくせに。

    p.54
    “かつてのように自分がどんどん薄まり、やがて誰からも見えなくなる気がした。”
    友人に似た思考をしていますね。
    あなたは、此処に、いるのに。ちゃんと見えていますよ。ちゃんと、あなたのことを見るから、こちらを、ちゃんと見てほしいです。

    p.55
    “瞼(まぶた)の痙攣(けいれん)が治まり、”
    ストレスを感じているじゃないですか……。まずは、ご自分のことを癒やしたほうがいいのでは?

    p.57
    “あらゆる出来事を他人事としてやり過ごし、諦(あきら)めという水に漂うだけの方が、ずっと息がし易(やす)かった。”
    そう……そうなんです。諦めたほうが、楽でした。心を動かさないほうが、良かったのです。

    p.58
    “少しずつ視界が開けていくような気がした。”
    生き方は、自分が見えていないものもあります。これしかない、と思っていても、もっと息がしやすいせかいがあります。
    そっちに逃げてもいいのです。

    p.61
    “無力だった雪子に結婚という形で手を差し伸べ、家庭という居場所をくれた夫は、雪子にとって確かに恩人だったのだ。”
    しぬしかないと思い込んでいたわたしに、「逃げていい」と言って背中を押し、別世界の居場所をくれた友人は、わたしにとって確かに恩人でした。
    心から、感謝しています。その気持ちに嘘偽りはありません。

    p.63
    “だがいざとなれば何もない。遠くを過ぎ去っていく無数の他人の死と変わらないと思う。”
    いまの心情のままなら、わたしもこうなります。もう、どうでもいいです……。関わりたくありません。

    p.69
    “愛されて当たり前、守られて当たり前。それがどんなに幸せなことかも知らず。”
    それを当たり前に受け取れる心を持っていることも、恵まれています。羨ましいです……。

    p.74
    “色々言う人もいるけど、あたしの人生だもの。”
    嗚呼、本当に、素晴らしいです! 最高です!
    そのまま、ご自分のことを第一に、過ごしてください。

    p.76
    “雪子さんが幸せで、本当によかった。”
    他者がしあわせそうに見えると、ほっとしますよね。自分に似ていると感じている人なら、なおさら。

    p.79
    “──う(、)みたくなかった。”
    うまれたく、なかった、です……。

    p.81
    “見て。私を見て。私の苦しみを見て。小さな雪子が、少女の雪子が、叫んでいる。”
    長年、向き合っていないと、かつての自分が泣き叫びますね……。
    ちゃんと、迎えに行かないと……抱きしめてあげないと……。ずっとずっと、過去の自分は孤独なままです。

    p.83
    “また見捨てられ独りになる恐怖をいつも抱えて、誰かに必要とされたいと願ってやまない。”
    いまそばにいる人も、いつか、離れていってしまうんじゃないかって……こわいです。もしその選択をされても、仕方ないって思ってしまいます。きっと。
    自分のことを肯定することが苦手だから、誰かに必要とされたいです。自分が役に立つなら、存在していてもいいって、思えるから。

    p.86
    “「……智佳は映画が好きなんだって。知ってた?」”
    ちゃんと、話したのですね。すてき。

    p.87
    “「まったく、いい歳(とし)してまともな会話もできないのかよお前は⁈」”
    まったく同じことばを、あなたにお渡しします。

    p.87
    “あの子の言い分をちゃんと聞いて”
    聴いて。ことばを、受け止めてください。

    p.88
    “かつて消えようと願い、自ら消えようとして叶(かな)わなかった”
    ……わたしも。
    わたしなんて、いなければいいのにって何度も思って何度も自分を殺そうとしていました。けれど、心を殺すことしかできなかったです。

    p.88
    “必要とされようがされまいが、雪子という人間はここにいた。”
    (中略)
    “他の誰でもない雪子がそう望む限り、雪子の生は雪子のものなのだ。”
    自分のために、生きられるように、なりたいです。

    「かなしい春を埋めに」読了しました。
    ひとつめの物語ですきになれなかったお母さん。彼女には彼女の苦しさがあって、それはわたしの心にも似ているものがあります。
    変わっていけます、きっと。彼女は、大丈夫。そう思うことができました。

    素晴らしい。良い物語でした。


    「空のあの子」

    p.97
    “あのふわりとした体に顔を埋(うず)めて、甘い匂(にお)いをずっと嗅(か)いでいたい。”
    このページでわかったのは、この男性は、女性の顔と身体しか見ていないということ。外面がよければそれでよかったのですか?
    もっとちゃんと、向き合えば良かったのに……。


    2022/11/13 p.105-296

    p.112
    “俺はこれからの地方創生に携わりたいし、東京に魅力を感じないし、いずれ家庭を持った時にはここの環境が子育てに理想的だと思ってるから、甲銀を選んだんだけどさ”
    わぁ、それっぽいですねえ。口が巧いです。

    p.134
    “同じ高校で、今は名古屋にいる”
    彼女? きちんとご縁が続いているのですね。

    p.145
    “頬を染めて、これまで見たことのない柔らかな表情をしている。”
    よかったです。穏やかに過ごせているのなら。
    この時間がずっと続けばいいのに……。

    p.147
    “三人三様の願い事を言いながら合わせたグラスの縁で、電灯の光がいくつも煌(きら)めいた。”
    きれいな描写……。とてもすてきなシーンです。
    このあと、不穏な展開になるのでは、とこわくなります。

    p.150
    “善良を絵に描いたような父母の優しく丁寧な空気が飲み込んでいく。”
    外面はいいのですか……。吐き気がします。

    p.151
    “成人した立派な大人で、鎖で繋がれてるわけでもないでしょ。これまでだって、家を出て行こうと思えばできたんだよ。”
    透明な、精神的な、鎖があるのです。どうせ逃げられないって、諦めてしまっているのです……。
    だから、誰かの力を借りないと、無理です。たすけて……。

    p.155
    “私、映画作っててよかった。”
    よかった、よかったです。本当に。

    p.156
    “行け、逃げろ。”
    こう言ってくれる人がそばにいるって、凄くすごく、心強いです。

    p.186
    “──あんたはぜんぜん悪くない”
    ふたりが出会えて良かったです。

    p.189
    “二つの盛り上がった脂肪と肉の穴だけの存在になる気がする。”
    そんな考え方をしたことはありませんでした。けれど、言いたいことは何となく、わかります。
    「自分」を見てくれないのは、つらいですね。

    p.199
    “「姉妹かなと思ったんだけど。だったらもっと仲良くしたいなぁって」”
    ……どうして?

    p.199
    “この女の頭がおかしい。”
    それは間違いないです。

    p.208
    “もう大きくなりたくない”
    いい子……。

    p.211
    “こんな男が普通に生きている、そのことが虚しい。”
    こんな輩、人間だと思いたくないです。

    p.223
    “「……なんでそんなこと、あたしに話すんですか」”
    心を開いてくれたってことですか。嫌悪感が強まってしまいますけれど……。

    p.227
    “奥にどんなにおぞましいものを抱えていても、このどうしようもなく優しい人がそうあろうとする姿を信じたい。”
    信じたいです……。わたしも。

    p.243
    “耐性ができてしまったのだと自分では思っている。”
    そんな耐性、いらないのに……。つらいです。

    p.262
    “母の声は確かに明るくなっていった。”
    良かったです。本当に。ほっとしました。

    p.262〜
    “あなたはお父さんと離れてた方がいいの”
    そこまで言ってくれるようになったのですね。

    p.269
    “死ぬなら早くしてほしいっていうのが正直なところなんで”
    本当に正直なお方ですね。びっくりしてしまいました。

    p.271
    ““父殺し”を作品に昇華しろと智佳に言った時、一体何を思っていたのか。”
    いろんな、親子がいますね。理解できないせかいもあります。

    p.273
    “「でも、憎しみや怒りが薄れても、許せるわけじゃない」”
    許さなくて、いいです。そのほうが、ご自分の心のためになります。きっと。

    p.276
    “俺にもおめでとう!”
    おめでとうございます! おしあわせに!

    p.291

     世界という言葉を思うとき、あなたはどのくらいの大きさの空間を思い浮かべるだろう。
     そしてその言葉に、私の、と付け足したとき、その空間はどのように変化するだろう。広がるだろうか、狭まるだろうか。

    ……凄いです。こんなに、ぐさっと、いい意味で刺される文章に出会えるなんて……。
    さすが、ことばを扱ってらっしゃる方。巧いです。鳥肌が立つほど。

    p.294
    “世界を狭める膜は、こんな風に、場でもっとも立場の強い人間の都合で作られる。”
    基準が、その人間だから、その人間の機嫌が悪いだけで、ほかのタイミングでは良しとされることもダメになります。幼いほど理解ができなくてこわくて、ただただ、おとなしく従っていれば……何もかも諦めたら……少しは楽になるかもしれないっておもってしまいます。

    p.295
    “中高年限定の劇団を舞台に、”
    え。気になります。劇団……! 演劇の、せかい。

    p.296
    “問題のすべてが解決するわけではない。閉塞を切り裂いた先の世界にも、新たな闘いが待っている。自分も他人も傷つけて、ずっと苦しさは続くかもしれない。”
    人生は、問題だらけですからね。視界が開けたと思っても、すぐにまた、別の問題が気になってしまいます。
    もしかしたら、問題は常にあるけれど、ほかの問題によって見えづらくなっているだけなのかもしれません。

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    投稿日:2022.11.13

  • ココロ

    ココロ

    何のために頑張っているのか、
    頑張った先に何が待っているのか。

    誰しも漠然とした将来への不安を抱えたことがあるのではないでしょうか

    人は生きている限り悩み、苦しむ運命にあるんだと生々しい現実が描写されるとともに、そっと背中を押してくれる、そんな応援メッセージのような小説です。

    個人的には解説の彩瀬まるさんの闘わずに誤魔化すのか、という言葉にも考えさせられました。
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    投稿日:2022.09.29

  • necogawa-necomi

    necogawa-necomi

    痛々しい。
    家族をコントロールしたがる父親。その娘、妻。
    一方で男に酷い仕打ちを受けトラウマと戦う女子。
    それぞれが現状から逃れ、新しい世界を切り拓けるかの物語。

    投稿日:2022.09.03

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