【感想】嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

鈴木忠平 / 文春e-book
(266件のレビュー)

総合評価:

平均 4.6
175
63
15
1
0
  • 昔ながらの野球ノンフィクション

    大リーグを題材にした海外のノンフィクションを読んでいて気づくのが、数値の記述の多さ。
    "数字のスポーツ"と言われるくらいだし、魅力の源泉もそこにあるのだから当然と言えば当然だが、日本人ライターはどういうわけか、数字や確率より汗と涙で、本書でも選手がぶっ倒れるほどのノックの嵐や、納得いくまで止むことのない素振りで紙面が埋められる。

    あとがきでは、無力感に苛まれ時代を呪うロスジェネ世代の著者が、駆け出しで上から命ぜられるままに中日番となり、伝書鳩のごとく落合邸を訪れるシーンから始まったとは思えないほどの大作家ぶりに変貌する。

    各章で落合から放たれる謎掛けのような一言の意味に煩悶し、答えを求めて自邸に押しかける。
    「自分の仕事にケリをつけるため」とかなんとか自分語りも多いし、「清冽な青」やら「内なる蹉跌」とか気取った表現も散見する。
    「真っ黒な空が泣き始めた」とか「夜が底に沈んでいく」といった文章を目にしたときには、さすがに絶望的な気分に。
    昔は新聞記者やライターというフィルターを通してしかプロ野球の内側を知るすべはなかったが、いまは選手自身がYoutubeなど別の媒体で情報発信を続けているため、それで良いかなという気がしてきた。

    海外のライターだったら、「『お前、腕を下げてみないか』森は縁の細い眼鏡の奥を光らせて言った」なんて書き方は絶対しないだろうな。
    どうみても漫画だよ。
    取材対象が、一切の感情を排し、ひたすら勝利の確率を高めるものや合理性を追い求めているのだから、あまりの落差に驚くしかない。

    フィルターは酷くても、落合という監督の振る舞いは面白い。
    新幹線のホームで出発を告げるベルが鳴っても「俺は走らねぇぞ」と嘯くふてぶてしさ。
    契約書第一主義で、選手やコーチとの間に境界線を引いて、馴れ合うことをしない。
    勝利の歓喜に浸ることもなければ、敗戦にも実に淡白だ。
    周りが「敗れれば胸をなで下ろし、勝てば白ける」という状態だったのも頷けるほど。

    「落合のもとでは、カタルシスは一瞬で通り過ぎていく」と言うように、どちらかと言うと大リーグの監督を見ているようにひたすらドライ。
    かといって選手の方は、大リーガーのようには個が育たず、落合の影に怯え、萎縮し続けた。
    スイングやボールの軌道、マウンドでのちょっとした仕草や表情など、定点観測のように遠くから俯瞰し続ける彼の眼は、選手からすれば得体が知れず、それだけ脅威に映った。
    中には福留のように、その眼をあらゆる変化を正確に映し出す確認用の鏡として、割り切って利用し、早々に海の向こうに旅立った選手もいるにはいたが...。
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    投稿日:2022.03.19

ブクログレビュー

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  • r

    r

    マジで面白い。落合博満という人物を軸に、筆者の記者としての成長や各選手の成長、球団のしがらみまでを見事に描いた傑作。

    投稿日:2024.04.05

  • makota2026

    makota2026

    落合は面白い。
    作者の成長物語になっている。
    やはり自分て考えなければならない。

    また監督をやることがあるのだろうか。

    投稿日:2024.03.03

  • 星野 邦夫

    星野 邦夫

    勝つということに徹底的に拘り、勝つことに不要な感情や従来の常識は捨て去り、勝つことだけを目指していたのがよく解る。ただし、そのやり方がゆえに周囲から理解をされず嫌われていく。半端な割り切り方ではなく結果も出し職業人として超一流でありながら、本を通しても寂しそうな雰囲気が伝わってきた。一流過ぎるがゆえに理解者がいなくなり嫌われていく様は第三者からは哀れにも見えるが、本人はどう思っているのだろうか。
    丹念に取材を重ねて出来上がった本だが、本人の腹の中までは読むことができないのがもどかしくもある。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.03

  • やっさん

    やっさん

    わし流⁡
    ⁡⁡
    ⁡ってな事で、鈴木忠平の『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』⁡
    ⁡⁡
    ⁡はい、今年No.1面白い本に決まりました
    ⁡⁡
    ⁡堪らんくらいシビれる内容。⁡
    ⁡⁡
    ⁡落合さんの独特な雰囲気、オーラと言うんですか、元々好きじゃったけど、これ読んで更に落合さん好きになりました
    ⁡⁡
    ⁡ペナントレース終盤に読んでたんで、よりヒシヒシと落合さんの凄さが伝わってくる
    ⁡⁡
    監督の気苦労、孤独感、プロの中のプロフェッショナル、兎に角凄いっ‼️⁡
    ⁡⁡
    ⁡嫌われ者って言われてたけど、それは違うんじゃないかと。⁡
    ⁡⁡
    落合さんのプロ過ぎる研ぎ澄まされた指導と采配を理解出来ないから嫌ってるんじゃないかと…
    ⁡⁡
    ⁡その指導と采配を理解した者は落合さんを絶対に嫌いになんか成れない。⁡
    ⁡⁡
    ⁡色んな意味でこの本は凄いよ。⁡
    ⁡⁡
    ⁡何が凄いかって❓⁡
    ⁡⁡⁡
    ⁡『ふっ、読まねぇ奴には解んねぇよ』⁡
    ⁡⁡

    ⁡⁡
    ⁡ケイゾー兄さん、とてつもなくええ本紹介してくれてありがとう
    ⁡⁡
    ⁡⁡りとるもんすたぁが試験中にも関わらずそんなに勉強してねぇ
    ⁡⁡
    ⁡勉強しろって言っても、言えば言う程しなくなるんで、最近は全然言ってなかったら、より勉強しなく成っとる
    ⁡⁡
    ⁡落合流の指導と采配を参考にりとるもんすたぁをメジャーへ送り込ませるぞ‼️
    ⁡⁡
    ⁡2022年51冊目
    続きを読む

    投稿日:2024.02.03

  • フルフル

    フルフル

    本人の手記ではないからとは思っていたけど、結構な記者目線で書かれていて今一つな感じだった。素晴らしい監督だったと思うが、選手は大変だったと思う。
    ちょっと脱線話になるが、今、中日が長らく低迷しているのは落合監督の頃の次世代育成が止まった影響を引きずり続けているからという側面もあるのかな?と思った。組織って、やはり新たな人を育てる気概がないと必ず廃れると自分は思ってる。続きを読む

    投稿日:2024.02.02

  • 穂苅太郎

    穂苅太郎

    野球評伝ものは結構好きで、監督だと野村克也をよく読んでいた。大抵は裏話的な戦略論とか軽い部類に入る読みものとして消化してきた。
    タイトルのインパクトとあまりにジャストなマスイメージとの一致に惹かれ、いつものように比較的ライトにページをめくっていったが、予想もちろん裏切られた。2つも3つもレベルが違う素晴らしい方向へだ。

    読後感は「かもめのジョナサン」にとてもよく似ている。個と組織、形骸化した常識と革新的な非常識、感情論と技術論。何よりも「自分自身のため」という言葉に代表される孤独な自己実現への道。芸術分野などでもそうなのだが、スポーツは特に、やれ国のためだのチームのためだの、家族や周りの人たちのためなのでモチベーションを表現しているが、これを落合は早くも否定していた。慧眼である。

    文章表現や構成も失礼かもしれないがスポーツ記者とはとても思えない巧みさがあってどのチャプターもダイナミックスがあって一気に読ませる。あまりにも早く読み終わってしまいそうだったので、最終章に行く手前でちょっと自分を焦らしたぐらいだ。

    何かノンフィクション大賞的なものはとったのだろうか。
    驚くほどの大傑作だった。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.01

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