【感想】腸と脳――体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか

エムラン・メイヤー, 高橋洋 / 紀伊國屋書店
(17件のレビュー)

総合評価:

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  • 脳・腸・微生物の相関関係についての革新的な見方

    脳・腸・微生物の相関関係について「革新的な見方を提示する」との言葉どおり、驚きの知見に溢れている。

    パーキンソン病はてっきり脳の領域の問題だと思っていたが、発症する以前から消化管でトラブルが進行しているなんて知らなかったし、下痢や腹痛の原因が食べ物ではなく、過去の出来事の想起にあったりするとか、なかなか思いつかない。
    人類の宿すマイクロバイオームを探究することで、私たち人間が実のところ「ヒトの構成要素と微生物の構成要素からなる超個体」なのだとわかるとし、地球上における人類の立ち位置の再考を迫る研究だと思った。

    「胃腸こそ情動のドラマが上演される劇場である」というように、例えが本当にうまい。
    なんでも腸内で上演される芝居が、ロマンチック・コメディではなくスリラーやホラーになってしまう人がいるらしい。
    いつでも怒ったり不安を感じたりしている人の腸細胞は、幼少期にまでさかのぼる物語の台本を利用して、来る日も来る日も陰惨な筋書きを繰り広げることがある。
    何とも痛ましい話だが、解決策はあるらしい。
    なんと台本を書き換えることで内蔵反応を変え、腸細胞の異変を逆転させるというのだ。

    私たちは、直感に導かれて日常生活のあらゆる場面で重要な決断を行なっているが、その直感とコインの裏表の関係にあるのが内臓感覚で、人は家族や友人に相談するよりも前に、実は自らの内臓に耳を傾けているのだ。
    ただし内蔵感覚に基づく瞬時の直感が、常に最善でもなければ正しいわけでもない。
    不安が先行してネガティブな刺激にばかりとらわれ、適切な状況の把握もできない状態で下された判断では、自身の健康状態も正確に読み取ることができない。
    うつ病や原因不明の謎の疼痛もこの影響が考えられる。

    とはいえ内蔵感覚に基づく一連の個人的な記憶が、直感的な判断に結びつくことは確かなので、内蔵感覚に耳を傾ける重要性が強調されている。
    では、内臓感覚に基づく直感を最善のものにするためにはどうしたらよいか?
    著者によれば、自分の見た夢を毎朝記録することで、情動的な記憶のデータベースへのアクセスを高め、直感基づく内面の知恵を日常の重要な判断に生かされるという。
    「夢の分析は、内蔵感覚に触れ、内蔵感覚に対する信頼を確立するための一つの方法なのである」

    これから毎日どれほどヨーグルトを食べようが、完全菜食主義者になろうが、都市生活者仕様のマイクロバイオータは、残念ながら変わらない。
    変わるのは、微生物が生成する代謝物質のみなので、現代人特有の疾患のリスクを減らしてくれはない。
    マイクロバイオータは、母親の妊娠から幼少期までにプログラミングされるため、この時期のプログラミングエラーは致命的だ。
    腸内微生物の多様性を失わせ、肥満や種々の健康障害を発症するリスクを高める。

    NHKスペシャルでも放送され話題となった奥アマゾンに住む最後の石器人ヤノマミ族を、著者も若い頃に密着している。
    そこでわかったのは、母乳で育てられた期間が長いほど、子供の脳は大きく育つし、情動や社会関係に関する能力も発達するということ。
    「母乳は、腸とマイクロバイオータと脳の会話を変え、脳の主要神経回路やシステムの健康な発達を促す」

    乳幼児期に形作られた腸内微生物の顔ぶれと、脳や腸内のプレーヤーとの間でかわされる会話は、成人後に何を食べ、どのようなストレス環境下に置かれるからよって影響を受け、その変化は具体的な疾患が現れるまで表面化しない。腸内微生物の多様性や回復力が低下していることに気づくのが遅れると、我々がどのように感じ、決断を下すかを左右するだけでなく、癌やアルツハイマーなどの重篤の症状を引き起こす。いま病気にかかっていないから健康なのではなく、突然の撹乱があった時に、どれだけ迅速に元の健康状態を取り戻すことができるかが重要。

    逆に長患いをして慢性疾患を引き起こすのは、必ずしもその人の年齢のせいばかりではなく、普段からどれだけ内臓感覚に耳を澄ませ、腸内の微生物と語り合ってきたかが問われる。配偶者の突然の死など、個人的な喪失から立ち直ったり、予期せぬ出来事に遭遇して身体や生活のバランスが乱れても、すぐに健康な状態に戻れる回復力こそ、健康のバロメーターなのだ。「いかなる生態系であれ、その健康は安定性と、撹乱からの回復力を通じて示される」というのは至言だと思った。
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    投稿日:2021.10.04

ブクログレビュー

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  • 正木 伸城

    正木 伸城

    メモ→ https://x.com/nobushiromasaki/status/1766276077364846913?s=46&t=z75bb9jRqQkzTbvnO6hSdw

    投稿日:2024.03.09

  • kawaakami

    kawaakami

    腸が性格を決める、とか、腸の中の菌のコロニーが人間にとって大事なのである。といったことをちょこちょこっといろいろと並べて書いてあって、大変興味深い。他の人も書いているけれど、冗長、同じことをなんども何度も言われている気がしてくる。まあ、でも、革新的なアイディアを様々な見地から網羅的にとやるとこういう書き方になるのかもしれない。新しい分野を網羅的にやるってのはまあ無理なのです。電気グルーブの卓球がメロン牧場で言ってた韓国には子供のうんこを溶かしたマッコリがあって、それは幼児の菌のコロニーを体に入れるので大変よいのだ、みたいな話は載ってなかったけど、その話はすごい説得力だったよね。勉強になりました。続きを読む

    投稿日:2020.10.01

  • poyori

    poyori

    体内セロトニンの95%は腸にある
    腸内微生物の低い多様性 神経症、障害
    味覚嗅覚、消化管全体に分布している
    アルバトロス症候群;消化管潰瘍で迷走神経を遮断後不快な内蔵刺激、腹痛、食欲減少
    セロトニン;腸管蠕動。全粒穀物、野菜に含まれる短鎖脂肪酸(酪酸など)で増加
    子供の頃のストレス良くない、胎児含めて
    IBS;遺伝よりも家族歴の方が予測因子として強力
    肝硬変で抗生物質;GABA生成微生物を減らし、脳内のGABAレベルを下げることで認知機能や活力改善
    内蔵感覚は無意識のうちに脳に届けられて行動を導く衝動が生じる、直感。感覚に気づけてる?
    母乳を与える期間が長ければ長いほど脳が大きくなる(遺伝要因あり)
    食生活を変えることで微生物の構成自体は変わらないが代謝物質が変わる
    短鎖脂肪酸に発行して帰ることができない人いる
    脂肪分の多い食べ物を常時摂取しているとまんぷくに対する反応鈍り、充分食べたという感覚が失われる;LPSがサイトカインを放出させて炎症を起こすから
    ストレス食い;コルチゾール低い人がなりやすい
    食事変えるだけでなくライフスタイルから帰るべき

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    投稿日:2020.05.28

  • 9999moda

    9999moda

    断腸の思い、はらわたが煮えくり返る、腹の虫が治まらない。そんな表現が使われてきたことに対し、近年の技術進展が違った視点で理由付けしつつあると感じた。
    生活レベルでは「内蔵感覚」や「消化管で感じる」ことに意識を持つべきかと感じた。胃腸の疲れが気になってくる、やはりストレスか、、
    原著は2016年に書かれたようだが、2020年1月に「うつ病と肥満の共通機序:腸内微生物叢と食事の役割 」と題された学術レビューが出されるなど、その後もいろいろな発見・動向があるのだろう。そちらも調べていきたい。
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    投稿日:2020.02.02

  • rock12

    rock12

    腸と脳は深くつながっている。
    腸は、これまで軽くみられることが多かった。しかし、この本を読むと、たくさんの微生物、消化酵素などが、複雑に作用しあい、脳にも影響を受けたり与えたりしていることがわかった。体の仕組みって、すごい。
    いくつかの症例があげられていて、腸の環境を整えることで、原因不明の症状が改善されていた。
    これを食べれば大丈夫!と単純なものではないことが、わかった。
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    投稿日:2019.09.03

  • pedarun

    pedarun

    このレビューはネタバレを含みます

    腸の微生物の生態系と日々の生活が相互に影響をしていることを科学的に説明している。
    動物性脂肪や砂糖があふれている今日、どうやって自制するか、その一つとして、それを口にしなければどんなよい効果があるかと言うことを具体的に知ることだと思うけれど、これで少しは自分も現代社会に流されない食事法を実践できるようにしたいと思った。
    適切に摂食できる脳を作る、肥満を防ぐ
    身体の作用を健全に保つ、特に重い病気になりにくい
    良い遺伝子を残せる、健康な子どもを生める
    それでたぶん、ストレスに強くなる、直感が研ぎ澄まされる、判断力も高まる、頭がよくなる、といいなー。
    とにかく、複雑なしくみがあって研究途中であるところもあって、すべてを解明することはできないだろうけれど、「フード・ルール」をもっと肝に銘じることにする。

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    投稿日:2019.07.22

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