【感想】希望の未来への招待状 持続可能で公正な経済へ

マーヤ・ゲーペル, 三崎和志, 大倉茂, 府川純一郎, 守博紀 / ボイジャー
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  • 宮本 佳久

    宮本 佳久

    長いあいだ、人類はとても豊かな地球に少数で暮らしていましたが、今日、人類はますます多く、地球はますます乏しくなっています。人類が自身の破滅をまねきたくないのであれば、このたったひとつの星で、〈密な世界〉の限られた資源でやりくりしていくことを学ばねばなりません。これが〈新たな現実〉なのです。
    (引用)希望の未来への招待状ー持続可能で公正な経済へ、著者:マーヤ・ゲーペル、訳者:三崎和志・大倉茂・府川純一郎・守博紀、発行者:中川進、発行所:株式会社大月書店、2021年、38

    本書、「希望の未来への招待状」の冒頭は、枝廣淳子氏による「日本の読者への招待状」から始まっている。枝廣氏と言えば、「好循環のまちづくり!(岩波書店、2021年)」を著されたかたである。枝廣氏は、以前、私のブロクにも記させていただいたが、島根県海士(あま)町をはじめ、北海道下川町、熊本県南小国(みなみおぐに)町、徳島県上勝(かみかつ)町などのまちづくりに関わり、地域を活性化させてきた実績を持つ。まず、その枝廣氏がオススメする本とあって、私も本書に興味を惹かれた。

    枝廣氏と「希望の未来への招待状」著者であるマーヤ・ゲーぺル氏との接点は、サステナビリティやシステム思考の研究者と実践家のブローバルなネットワークである「バラトン・グループ」のメンバーということだ(本書、003)。
    私たちの住む地球が悲鳴をあげている。世界人口が急増し、環境と社会をめぐる世界規模の様々な危機が発生している。ここ数十年の間に、私たちが住む地球は、「持続可能な」取り組みが最優先課題となってしまった。
    なぜ、急激にこのような事態が生じてしまったのか。また、私たちの住む地球の未来について、再び、「持続可能」という希望を見出すことができるのか。そのようなことを頭に思い浮かべながら、「希望の未来への招待状」を拝読させていただくことにした。

    まず、本書の始まりから、マーヤ氏は、地球が危機に至った経緯について分かりやすく解説してくれる。アポロ8号が月へと旅立ったときは、地球上に36億の人間しかいなかった。しかし、2019年末、地球には77億以上の人間が住み、この50年の間に人口は2倍位以上に膨らんだと説明してくれる。そして、人々は経済的成功を収め、郊外にも進出し、より豊かな暮らしを求めるようになっていった。つまり、地球環境が急速に悪化した要因の一つとして、地球に住む人口の急増と経済的な豊かさが挙げられる。

    社会学者で、政治経済学を専門とされるマーヤ氏は、市場原理主義の成長モデルについても切り込む。それは、国が経済成長をすれば、トリクルダウンを起こせるかと検証していることだ。トリクルダウンとは、富が富裕層から低所得層に徐々に滴り落ちるとする理論のことである。つまり、経済成長をし、富裕層がさらに豊かになれば、低所得者も恩恵にあずかるといったことだ。しかし、マーヤ氏は、統計的データを根拠に、国が経済成長すればトリクルダウンを起こせるということについて、真っ向から否定する。いや、反対に、世界人口が増加する中で、さらに貧困層が拡大しているとマーヤ氏は指摘する。これは、中国を例として、エビデンスに基づいた説明が本書でなされており、大いに納得させられた。振り返ると、我が国も経済成長を追い求める政治的傾向が見受けられる。これからの時代は、「経済成長」は、格差を広げ、地球環境にも大きな課題をもたらす(これは、科学技術のみでは解決できない)ということを認識しなければならないと感じた。

    もう一つ、1987年、ノルウェーのグロー・ハーレム・ブルントラント元首相が発表した「ブルントラント報告書」についての記述については、感心させられた。この報告書では、その後のすべての環境に関する協定の基礎となった定義が記載されている。重要なのは、その補足項目である。貧しい人びとのニーズが優先されるべきである、という点と、社会や技術の発展 (開発) は、自然の再生サイクルを破壊しないよう、注意が払われるべきである、という点をマーヤ氏は紹介している(本書、49)。普段なら、補足項目は、飛ばして読みがちなのだが、私は、この報告書の定義である「持続可能な開発とは、将来世代が自分たちのニーズを満たせなくなるというリスクを冒さずに、現在のニーズを満たす開発」とする補足こそ、重要な意味を含んでいると感じた。持続可能性の社会を構築するためには、最大限に配慮すべき点であると思う。

    冒頭に記した〈密な世界〉とは、現在のコロナ禍において、どうしても嫌なイメージが付きまとう。事実、私たちの住む地球も、人口増加によって、またより豊かな暮らしを求めて、密な世界へと誘われた。しかし、経済成長が無限に可能だとする、また経済成長こそがすべての解決策とする〈古い現実〉と訣別すべきときがきた。人々は、〈新しい現実〉を認知し、地球上の限られた資源を有効に活用し、持続可能なものにしていかなければならない。

    マーヤ氏からの「希望の招待状」とは、私は、「公正」であることと理解した。公共財の確保、不平等是正のため、「公正」であるということが国家レベルで求められる。本書を読み、持続可能な社会を構築するためには、「公正」であることを鍵とし、地球規模で脱成長を図っていくことがマーヤ氏からの招待状だと認識するに至った。
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    投稿日:2021.08.21

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