【感想】NEO HUMAN ネオ・ヒューマン―究極の自由を得る未来

ピーター・スコット・モーガン, 藤田美菜子 / 東洋経済新報社
(22件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
4
5
10
0
0
  • "ピーター2.0"か、"ヒューマン2.0"か?

    「時には亡霊に囚われることもあるでしょう。そんなときは亡霊を受け入れるのです。そうすれば、亡霊は私たちを脅し、怯えさせる力を失います。
    時には虹の姿を嵐の中で見失ってしまうこともあるでしょう。そんなときは灯台に光をともして大雨の中を照らし、自分たちの力で虹をつくりだすのです。
    そして何より心に留めておくべきは、私たちが心の最も奥深いところで絶望と恐怖を感じたときに、どう行動するかということです。あえて世の中のルールを壊し、運命に抵抗する - そうすれば、奇跡のように宇宙の理を変えることさえ可能になります」

    ロボット工学博士にして、有名な企業変革アドバイザーとして、長年にわたり世界各地で講演を行なってきた著者が、人生初のスタンディングオベーションを受けることになる、この「最後のスピーチ」は本当に感動的で、本書に進行中とある通り映画化されたら鳥肌物だろうな。

    自分にとっては深く考えさせられる本だったが、批判的なレビューも読んで、確かに頷ける部分も多いなと感じた。
    大きく3タイプの批判があり、まずロボット工学の専門家による最新の知見が学べると期待して本書を手に取ったのに、ホモセクシャルの恋愛話を含む単なる自伝じゃんこれ、という批判。

    ただ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)により"生ける屍"と化すことに抗して、自身のQOL向上のため、サイボーク化するために権利拡張を訴える主張と、差別に抗してゲイの権利を拡張しようと戦ってきたこれまでの半生は、密接につながっている。
    さらに、研究室の中で進みの遅いAIやロボット技術の進行を待ち、第三者的な観点から可能性としての未来を予測するのと、著者のように当事者として語られる切実な現実と望まれる未来とを比べたら、はるかに後者の方がリアリティが感じられる。

    根っからの”科学者ピーター"の、技術者らしいアプローチも魅力。
    運動ニューロン疾患の診断を受けたら、すぐさま医者に積極的な先を見越した治療を訴え、"食べる、飲む、排池する"は医療上の問題ではなく、メンテナンス上の問題なのだから、メンテナンス上の解決策があるはずだと、いまは問題ない臓器も差し出し、自身を作り替える。
    時に医師の反発を受けながらも、とことん科学的に考えるという姿勢は変わらず、何度も「呼吸をはじめとする身体機能の維持に関わるのは、医療というより機器の問題だ」と繰り返す。

    脳を除く全ての機能は失われ、自分の体に閉じ込められ、介護施設の天井をずっと見上げ続ける、これまでの暗黒の虚空に向かうだけのコースなんてまっぴら御免だ。
    脳の視点にたてば、肉体から開放された頭脳は、これから壮大な旅に出るんだ。
    「僕は、手に入る限りのハイテクなツールを虚空の中に持ち込もうと思う。ただ生き延びるなんてごめんだ。僕は人生を謳歌したいんだ!」と。
    ここから、もう一つの批判、その他のMND(運動ニューロン疾患)患者や家族から起きる気がしてならない。
    自分たちのこれまでの選択を否定されたように感じられないか?

    いったいこれまでの治療費にいくら費やしたのか、多くのメディアやスポンサーを巻き込み、本を書き、世界中の有名人とつながりのあるエスタブリッシュメントだから可能なのではという反発も予想される。
    著者はその点に決して無自覚ではなく、その他の患者を見捨てて起こす一人だけの反乱ではないと繰り返し主張する。
    ただ、本書でもフランクリンが、役所へ提出する障害に関する申請書類でさえ、自分のような凡人には大きな重荷なんだという指摘は、やっぱり重い指摘だなと感じた。

    「正直なところ、MNDを"生き延びる"のがフルタイムの労働になるとは思ってもみなかった。そうなってしまう主な原因は、病気そのものの過酷さではなく、病気に対する周囲の態度にあることが次第にわかってきた」
    「彼らは、MNDに対する思い込みのせいで死にかけている。生き延びるための方法が存在しないからではない。死ぬのは当たり前だ、あるいは死んだほうがましだという考え方が定着しているせいで、死に瀕しているのだ」という著者の訴えは、医療関係者はどう受け止めるだろう?
    「思い込みに殺される」という主張は過激だろうか?
    続きを読む

    投稿日:2021.12.13

ブクログレビュー

"powered by"

  • ganchan41

    ganchan41

    ネオヒューマンになった著者の自伝。ALSが発症しても、積極的に生きる著者の姿勢には感服。合成音声で会話、会話内容はAIが過去のデータから勝手に候補を決めるということが、2023年11月現在で どこまでできているのか知りたい。ALSの症状が進む前にチューブ生活を選択する人がいるんだ・・・・
    ゲイパートはいらないと思いつつ読んだが、この人のへこたれない人格はゲイとしての戦いで育まれたのかと読後は納得。ゲイのパートナーとの愛はすべてに勝つ。

    調べたら、著者は2022年に亡くなっていたのですね。残念
    続きを読む

    投稿日:2023.11.11

  • Konosuke Ogura

    Konosuke Ogura

    ピーターがもし2023年まで生きていたらアプローチが少し変わっただろうと思う。2023年現在の生成AIやGPT、LLM技術を使えば、永遠に人格を残すことができる。よって、これから若くして病気で死にゆく人はこの本を読み、希望を見出すことができると思う。また、僕も生きることに希望を見出せたと思うし、絶対に負けないでなんとかして世界を変え、生きるためにあがこうとすると思う。ピーターのチャレンジは僕たち(日本人に限らず)がいつもそんなことできないと諦めがちな精神を覆す、素晴らしいメッセージだ。続きを読む

    投稿日:2023.06.28

  • そよかぜ

    そよかぜ

    運命に抗い、人類の可能性を拡げようとするポジティブさに圧倒されました
    自分の半生で書き溜めた日記のダイジェスト版といった感じですかね
    そこまでさらけ出さなくてもとは個人的には感じましたが

    投稿日:2023.05.05

  • 大

    ALSになった作者は肉体の機能をテクノロジーとAIで補うサイボーグ、ホーキング博士の強化版のような、「ピーター2.0」として生きる決意をする。自力で動けなくなっても彼の行動力はすごい。ピーター1.0の時にはイギリスで初めての同性カップルになり、コンサル企業ADLでは企業における“暗黙のルール“をぶっ壊す先駆者になった。ピーター2.0ではALSの常識、世間や医療、そして患者の定説をぶっ壊していく。
    余命宣告期限から2年すぎ、2022年6月に彼の肉体は滅びた。ただもしかすると今後も“AIによる人格の継続”が成功し、いつかTwitterの更新も再開するかもしれない。本作の最終盤ではメタバース内での「ピーター3.0」とのやりとりが描かれる。肉体やサイボーグが滅びても、彼の人格のAIとメタバースでやりとりできれば、それは“生きている”という定義が変わることなのかもしれない。AIって何だろう?人の定義って何だろう?と考えさせられる。
    「攻殻機動隊」や花沢健吾の「ルサンチマン」とテーマは近い。あと「ブレードランナー」も。
    続きを読む

    投稿日:2023.04.25

  • bookaholic

    bookaholic

    第二章の途中で辛いことを思い出して読むのをやめた。23章まで読んだ。もう少し時間をおいて、落ち着いて読めるようになった時に再読することにする。

    投稿日:2023.03.26

  • 雨光粒 (れいんぼ) 

    雨光粒 (れいんぼ) 

    このレビューはネタバレを含みます

    多彩な才能をもつピーター博士は、超ポジティブ。
    このピーターの自伝小説。

    MND(日本ではALSが知られている。似た症状のよう?)と診断されて、人生をより良く生きていきたいと、QOLの向上のためにテクノロジーを活用しようと奮闘する。

    つまり、サイボーグになる、ということ。
    症状がでる前に、排泄の機器や栄養チューブを、自発呼吸できなくなる前に人工呼吸器をつけるのだ。
    人工呼吸器をつければ、声を失うことになる。
    そして最後まで正常でいられる脳とAI、音声をつなげて、他の人とのコミュニケーションがはかれるようにする。

    これはSFではない。自伝小説だ。
    実際にピーターはおこなっている。

    テクノロジーに疎い私には宇宙語のようで理解が追いつかない部分も多々あった。
    ネット記事で、
    NHK クローズアップ現代
    『ピーター2.0 サイボーグとして生きる』
    2021年11月24日 放送
    の内容で、この小説が現実のものだと認識された。


    そして、この小説は「愛」の話でもある。
    ピーターは若いころに最愛の人、フランシスに出会う。
    彼らのような同性愛者は当時は認められておらず、辛い偏見にあってきた。
    それに屈することなく、同性愛者たちの先陣をきってきた。
    彼らはお互いを誰よりも必要とし、20年以上も寄り添ってきた。

    本作の前半はピーターの学生時代と診断が下ったころが行き来する。また後半はテクノロジー、医療用語、経営など多岐にわたって難解。

    それでも未来の人間の在り方に一石を投じる作品になっている。

    2022年6月15日、ピーター・スコット・モーガン氏の肉体は永眠された。
    でもどこかであなたのアバターに出会えるように感じる。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.01.21

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。