【感想】ヤマケイ文庫 増補改訂版 懐かしい未来―ラダックから学ぶ

ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ, 鎌田 陽司 / 山と溪谷社
(6件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • やまゆり

    やまゆり

    今から20年近く前、とある東北の市では市政の効果を図るのにb/c(benefit by cost)という指標を設けて、金銭に換算できない価値も何とか換算して効果を測るという無駄なことをしていた。
    今思えば、馬鹿なことだと思うけど、GDPを幸福の指標としていることも、同じくらい馬鹿なことだと思う。

    近代化以前の幸せなラダックの暮らしは、かつての日本にも見られたものだろう。
    私の大好きな本「逝きし世の面影」に描かれた、外国人の目から見たかつての日本人も生きる喜びに溢れていたと思う。

    今の私に何ができるのか、無力だなあと感じるけれど、受け身の姿勢で単なる消費者でいるのではなく、少しだけでも何かを作れる自分でありたいし、お金ばかりに頼らない暮らしを目指したい。

    それにしても、こんなにも地球から収奪して暮らしていて恐ろしい。
    人新生っていうけれど、道やダム、発電所や工場、果ては種まで、すべてを人工的な均質なものに置き換え、資本主義の網の目に組み込もうとする。
    いつのまにか、誰もがこのシステムに組み込まれ、知らないうちに地球から収奪している。
    記号にしか過ぎないお金を増やすことだけが目的になってしまっている。

    もっといい在り方があるはず。
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    投稿日:2023.05.19

  • きむら

    きむら

    2023-4

    自分の属している文化を見る目が「劇的に変化した」と書いてあったがまさに、私も目から鱗だった。毎日歩いている道や建物の見方が変わった。本当に突然山に行きたくなったりこの生活や仕事でいいんだろうかと疑問に思っている事の答えがここに書いてあるようだった。本当にいい本に出会えました。続きを読む

    投稿日:2023.01.26

  • 栞

    インドのラダックというところに行ったスウェーデンの人のお話。
    経済成長、科学の進歩が正義という神話はフィクションで、人間が作り出したもの。
    この神話が抱える自滅への道は、みんなうすうす分かってるんじゃないかな。
    人と人、人と自然との繋がりを取り戻すことが、持続可能な社会を作るためのカギ。
    そして、それが“人間らしく”生きるということなんだろうな。


    ・ラダックの人たちはそれぞれの仕事を成し遂げるのに、ほんの簡単な道具だけを使い、とても多くの時間をかける。
    緊密な関係の上に成り立っている共同体の一員であることが、深い安心感をもたらしている。
    ・どの農民も完全に近い自給自足をしているため、自律性が高く、共同体としての意思を決定する必要はほとんどない。
    ・いかなる裁判制度も完全ではありえないが、住民同士が話し合い、草の根レベルで問題解決を可能にするような、緊密な関係で結ばれた小規模の共同社会に基づくほど効果的なものはない。
    ・百戸を越えるような大きい村はまれなので、相互依存の関係を直接体験できる程度の規模の生活になっている。全体像がつかめ、自分自身がその一部である社会の構造やネットワークが理解でき、自分の行動がおよぼす影響が見えるので、責任を感じることができる。
    ・ラダックの人々は幸運にも、個人の善が共同体全体の善と矛盾しない社会を受け継いできた。ある人の利益はほかの人の損失を意味しない。
    ・日常的に関係が持てる規模が柔軟性を許容している。
    ・一妻多夫性が望ましい結婚の形態であるとはいえ、おもしろいことにそれだけが唯一の形ではない。こうした通常と違う形態は、おそらく少ない資源への慎重な適応の表れだろう。共同体の中の関係を柔軟に保つことによって、土地との関係を最適に維持することが可能になる。
    ・小さな赤ん坊から曾祖父母まで、あらゆる年齢層に囲まれて育つ。子どもは助けたり助けられたりという交換の連鎖の大きな関係の中で、ひとつの役割を担って大きくなる。
    ・ラダックの老人は、いくつになっても引きこもったり、用なし、ひとりっきりになることはない。死のその日まで、村の社会の重要な一員なのである。
    ・彼らは物事はこうでなければならないという考え方に固執するより、むしろ物事をあるがままに積極的に受け入れる能力が身についている。
    ・ラダックの人ほど落ち着いていて感情的に健康な人たちを、今まで私は見たことがなかった。そのいちばん大きな要因は、自分自身がより大きな何かの一部であり、自分はほかの人や周りの環境と分かちがたく結びついているという感覚である。
    ・意外にも、おそらく近代化は個性の喪失へと導いている。人びとが人目を気にし、自信を失うにつれ、理想化されたイメージに見合うように順応せざるをえないと感じる。
    ・古い文化は人間の基本的な欲求に応える一方で、自然の限界も尊重した。それは自然にとっても人間にとってもうまく機能していた。
    ・共同体や大地との親密な関係が、物質的な富や技術的な洗練などを超えて、人間の生活をとても豊かにすることができるのだということを知るようになった。
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    投稿日:2022.09.16

  • マサユキ

    マサユキ

    ☆☆☆2022年3月☆☆☆


    今後人類がこの地球上で生存していくには、これしか道がないと思われる、数ある「futures」の一つ。グローバル資本主義から抜け出し、ローカルなものを大切にする。
    『里山資本主義』や『人新世の資本論』で書かれていることと基本的には同じ。目の前にある人間関係やお金で換算できない価値を大切にしていかないといけない、という事だと思う。続きを読む

    投稿日:2022.03.16

  • 山田遼平

    山田遼平

    既視感、これまで何度も読んできたような錯覚。80年代以降のローカリゼーション論の源流はすべてここにあったのか。

    少し前に斎藤幸平さん(ほぼ同年代)の「人新生の資本論(https://www.amazon.co.jp/dp/B08L2XMQKX/ )」がベストセラーとなり、行き過ぎた資本主義社会から脱成長とコミュニズム回帰へ移行するという思想がひとつブームになっているが、このような考えは決して新しいものではなく、同じ類型の指摘は前駆的に無数の著述家によって唱えられてきた。

    本書は1970年代、チベット仏教の里ラダックの伝統的な農村社会が、資本主義経済の流入、開発の激流にさらされる中で文化への誇りを失い、それまで守ってきたいまでいう「サーキュラー・エコノミー」的な生活体系を徐々に失っていく様子が、経時的にていねいに描いていく。

    同時代、ローマクラブの有名なレポート「成長の限界(1972年)」の中で「環境破壊と資源の枯渇を止めるためには、私たちConsumer(消費者)はProsumer(生産消費者)となって、身の丈を知って暮らし方を再建する必要がある」と唱えられていたころ、まさにラダックでは資本の誘惑によって、伝統的なProsumer(生産消費者)社会がConsumer(消費者)社会へつくりかえられていたのであるから皮肉でしかない。

    社会の大きなシステムをどうするか、いわゆるイデオロギーの論争が社会を変えうるのかもしれないが、それよりも私たち一人ひとりが自分の暮らしのためのものづくりに携わることで、貨幣経済の中で私たちが身の丈以上の生活を当たり前に享受しているという事実を、きちんと受け止めるほうことがまず第一歩として必要だろう。

    社会を変えるのは口角泡飛ばしての論戦ではなく、ただ静かに自らの生活を自らの身体性をもって立ち上げることなのではないか。過去の農村生活がすべて正しく、あの頃に戻るべきだというつもりはないけれど、身の丈をわきまえてブレーキを持つことは必要だし、それが大人の分別というものではないか。そうでなければ私たちは餓鬼か、エコノミック・アニマルに成り下がる。

    ドッグイヤーしすぎてえらいボリュームになるので抜き書きは控える。それだけ本書の世界のとらえ方には、1986年生まれいわゆる[ゆとり世代][ミレニアル世代]にとっては当たり前に共感できる世界観。興味を持たれたらぜひ一読を勧めたい。
    あとはそれを、どのアプローチで実現するか。
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    投稿日:2021.05.15

  • harinezuminami

    harinezuminami

    聞きしに勝る名著。
    今、コロナウイルスに人間が翻弄されていることの大きな原因の一つは、ここで著者が言っているように、グローバル化しすぎた経済システムのせいだと思うし、人間と自然の関係が均衡を失ってしまっている結果だと思う。
    自分たちの手でつくりあげたものなのだから、自分たちの手で変えることができるのだ。
    続きを読む

    投稿日:2021.04.10

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