バグダードのフランケンシュタイン

アフマド・サアダーウィー, 柳谷あゆみ / 集英社文芸単行本
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
2
5
2
0
0
  • 「名無しさん」への名付けと、領域国民国家の宿痾と

    イラク戦争後の政治的武力的混沌が生んだ精神的実存的混沌が、ひょんな弾みで怪物を生み出してしまう。
    怪物に肉体・魂・名前を各々に与えた銘々が辿る数奇な物語のひとつひとつが凄まじい。翻訳もよかったです。

    投稿日:2021.03.05

ブクログレビュー

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  • kei1122

    kei1122

    このレビューはネタバレを含みます

    日本からは欧州よりは近いのに遠く感じるイラク。

    舞台はイラク戦争(2003年3月20日 – 2011年
    12月15日)のさなかの2005年、連日自爆テロが
    発生する首都バグダード。

    古物商のハーディーはテロが発生した後、
    拾ってきた複数の人間の遺体を縫い繋いで、
    一人の遺体を作り出す。するとその遺体に
    テロで亡くなった若者の魂が入ってしまう。

    様々な登場人物が出てくるけれど、誰一人
    善人がいない。善人だと生き残れない。
    みんな狡猾で寂しい。カフェの店主の
    アズィーズだけは少し優しい。

    中東×ディストピア×SFというより
    中東の現代ホラーかなぁ。
    この現代に占星術師まで出てくるのは
    なかなか面白い。

    イラク事情が読める小説なんてあまりない中で
    このレベルの小説が翻訳され読めるというのは
    ありがたいです!

    **************************************
    中東というなじみのない場所の小説を読むというのは
    最初は目隠しされた状態で両手を引っ張られて、
    おずおずと一歩ずつそろそろと歩き続け、
    徐々に周囲が見えてきてゆっくり気を配りつつ
    歩く感じ。

    著者はイラクの小説家、詩人、脚本家、
    ドキュメンタリー映画監督(多才な方ですね。)
    1973年生まれ。最近この年代の海外作家さんが
    目に留まるようになってきた。今後も楽しみ。

    ****************************************

    「怪物」が「名無しさん」なのは元のことばが
    そういったニュアンスのものなのかどうなのか…。
    少しかわいすぎる感じ。




    ちょっと下ネタですが…
    クライマックスに差し掛かってるあたりで
    大けがをしているハーディーが手洗いに行くシーンで
    「どうやってちんこを出そうかと考える前に」(P370)
    で吹き出してしまいました(;^ω^)
    うーん、他の単語がよかったかな…いちもつとか。

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    投稿日:2021.02.22

  • MASARU

    MASARU

    爆弾テロが横行する不穏なバグダードが舞台の群像劇。怪物ホラー小説というより、彼も含めた街の住人たちの話である。非日常の中の日常。
    本家のフランケンシュタインは怪物として恐れられたが、こちらのフランケンシュタインは「最初のイラク人だ」と崇める人たちも出てくる。この数々の人間の遺体で出来た怪物が、国としても不安定なイラクを象徴している。
    そして、終盤の怪物と猫の関係は哀愁が漂い、何とも言えない。
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    投稿日:2021.02.15

  • ぽんきち

    ぽんきち

    自爆テロの絶えないバグダード。
    一人の古物商が街に散乱する遺体を寄せ集めて縫い繋ぎ、1体分の「身体」を作り上げる。その「身体」に、突然テロの巻き添えで爆死した1つの魂が入り込む。
    「身体」を得た彼は、魂である自分、そして自分の「身体」各部をいわれなき死に追いやったものに復讐すべく、彼らを探し出し、殺し始める。街の人々は謎の殺人者を「名無しさん」と呼び、恐れるようになる。

    この「バグダードのフランケンシュタイン」たる存在を軸に、群像劇が繰り広げられる。
    イラン・イラク戦争で戦死した息子を待ち続ける老婆。
    編集長の愛人に横恋慕し、彼女に振り回されるジャーナリスト。
    政権が混乱する中、強力なコネを武器に伸してきたブローカー。
    かつてバアス党に所属し、多くの若者を戦場に送り込んでいた床屋。
    さまざまな人生が絡み合い、交錯する。
    その間にも街のあちこちで爆発が起き、人々が死んでいく。

    原典たるメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』では、1人の「科学者」が「怪物」を作り上げる。「科学者」を突き動かしたのは、いささか不遜な思いが混じった好奇心や探求心だったのかもしれない。一方、本作の「創造者」を動かしたのは恐怖や狂気ではなかったか。人が目の前でバラバラになって死ぬ。日々繰り広げられる怖ろしい光景に彼の心は壊れてしまい、いくぶんかでもそれを修復しようとしたのではなかったか。そういう意味では彼もまた、暴力行為の被害者であるともいえる。
    「創造物」たる「バグダードのフランケンシュタイン」=「名無しさん」は、復讐のための殺人に加えて、朽ちていく身体の部品を補充するためにも殺人を犯す。存在し続けるためには殺し続けなければならない。殺人者だがやはり「名無しさん」も被害者なのだ。

    耄碌しかけた心で息子を待ち続ける老婆は、「名無しさん」を息子と思い込む。もちろんそれは別人なのだが、しかし、理不尽に奪われた命という意味ではあながち間違いではない。街には幾人もの息子を奪われた老婆が嘆き悲しみ、老婆から奪われた息子の魂が浮遊している。

    ジャーナリストの物語はおそらく著者が一番書きたかった部分なのではないか。
    いくぶんか山っ気があり、いくぶんか有能ではあり、いくぶんかずるさもあるが、またいくぶんか自信のなさもある。この人物がこの物語の隠れた牽引役でもある。

    イスラム教では火葬は忌避されると聞いたことがあるが、本作で描かれる身体と魂の関係にもどこかそうした宗教観も影響しているようにも感じる。
    魂が蘇るには身体がいるのだ。たとえそれが寄せ集めの身体であったとしても。

    作中のエピソードには、キリスト教やユダヤ教も絡み、混沌としたバグダードの一面を映し出すようでもある。
    バグダードの街自体が、どこか寄せ集めの巨大なフランケンシュタインのようにも見えてくる。
    荒れ果てた街、混乱の果てに、最後を締める老猫と男のシーンがかすかに優しい。
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    投稿日:2021.02.05

  • hosinotuki

    hosinotuki

    イラク戦争の後2005年のバクダードを舞台に理不尽に殺されたものたちの声が形となって現れたような物語.死体が縫い合わされて動きだすという設定がフランケンシュタインを彷彿とさせるがこちらはもう少し論理的?な説明がなされている.登場する個性的な人物たちが自分のことだけを考えて行動することで名無しさんと呼ばれる物体に命と存在意義を与える.あちこちで爆破され崩れていくバクダード,立ち去る人々とそれでもたくましく生きていく人々の描写も素晴らしく,行ったこともない街だけれど壊されていくのは悲しかった.続きを読む

    投稿日:2021.02.04

  • ukihe3

    ukihe3

    面白い。そして興味深くもある。

    日常の中に自爆テロが存在するということ、そして神様が存在するということが、あぁ…こういうことなのか…とずっしりくる。
    もちろん、それが当たり前の世界で生きるその感覚は分かりえないのだけれど、なんだろうな…

    追体験とまでは言えないかもしれないが(おこがましい気がして)そのために文学が存在するっていうのもまた事実だよな…みたいな。
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    投稿日:2021.01.20

  • hayasick0103

    hayasick0103

    2005年、イラク戦争後の混乱したバグダード。自爆テロの犠牲者の遺体を繋ぎ合わせた古物屋ハーディ、20年前に戦死した息子の帰りを待ち続ける老婆イリーシュワー、家族を残しテロの犠牲となり魂だけが残ったホテル警備員。三者により怪物『名無しさん』が誕生し、次々と殺人事件が発生する。噂を聞きつけハーディと接触したジャーナリスト、怪物を追う軍人などが、名無しさんや、宗教・テロ、アメリカ軍により混乱が増すバグダードの情勢により運命を翻弄される。最初は復讐心(正義感?)に突き動かされていた名無しさんが、次第に存在意義を見失っていくのがヒヤリとした。
    日々、テロの恐怖に晒された一般市民の生活が随所に伺える。そういえば、昨年読んだ『チェリー』の舞台も2005年のイラクだったなぁ…
    続きを読む

    投稿日:2021.01.16

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