【感想】ダリウスは今日も生きづらい

アディーブ・コラーム, 三辺律子 / 集英社文芸単行本
(17件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
5
6
2
0
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ブクログレビュー

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  • ナオ

    ナオ

    タイトルからどんな話だろうと興味を持った。
    高校二年生のダリウスは、米国人の父とイラン人の母、可愛い妹とポートランドに住んでいるが、日常生活に生きづらさを感じている。
    脳腫瘍の祖父を見舞うためイランのヤズドを初めて訪れる。

    最初は読みづらかったが、テヘラン空港に着いたあたりから俄然面白くなり、税関官その2とのやりとりでは思わず笑ってしまった。

    行ったことのないイランに旅した心地がする。
    ヤズドの街を歩き、遺跡や建造物を眺めアザーンを聞く。祝いの行事で出されたお茶とお菓子の甘い香り、マモーが作った美味しいペルシア料理と優しいハグの温もりが、ダリウスの頑なな心を解きほぐしたのだと思う。

    ヤズドで自分の名前の由来を知り、ソフラーブという親友もできた。やっと"居場所"を見つけたダリウスだが、親友からの思いがけない拒絶にあい落ち込んでしまう。息子の悲しみを受け止める父との和解のシーンが良かった。
    父さんはおれの背中をさすった。「大丈夫じゃなくて、大丈夫だ」

    著者の体験からこの物語が生まれたそうだが、うつ病が遺伝することを初めて知った。映画『スター・トレック』を観ていたらもっと楽しめたかな〜!
    うつ病の他にも宗教、いじめ、人種と異文化など考えさせられる問題が沢山ある。アメリカに戻ったダリウスのこれからが明るい方へ向かう終わり方でほっとした。
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    投稿日:2023.09.26

  • run

    run

    このレビューはネタバレを含みます

    アメリカのポートランドに住むダリウスはイラン人の母とアメリカ人の父を持つペルシャ系アメリカ人。高校2年生。小2の妹ラレーがいる。ペルシャ系とはいえ、ペルシャ語はあまり話せない。ラレーはその点、小さな頃から教えられていた為ペルシャ語で祖父母と会話できる。
    高校ではいじめを受けているが、親にはあまり話せずにいる。言えばガッカリさせてしまうから。
    ダリウスは13歳から鬱の薬を飲んでいる。父からの遺伝で、父も鬱病。建築事務所の共同経営者をしているが、ダリウスは数学が苦手で、跡継ぎにはなれないだろう。
    ダリウスは母や妹の事をとても大事にしている。しかし、父の事は素直に受け入れられない。父は跡継ぎにはなれそうもない、お茶が好きで、パッとしない自分の事を恥じているのではないか。ラレーがいれば自分はいなくてもいいのではないか、というマイナス思考に取り憑かれている。
    そんなある日、母方の祖父の病が判明し、母の故郷ヤズドに行く事になる。
    そこで、ソフラーブに出会う。初めての友達。サッカーを通して地元の子たちとも知り合う。傷つきやすいダリウスの心をソフラーブはわかってくれた。ソフラーブもまた、宗教の為、疎外されていたのだ。
    ヤズドでは、美しい地元の観光名所も巡り、祖母の作る美味しい料理を堪能する。自分とつながる祖父、祖母、おじさん、おばさん、いとこなどなどから可愛がられ、自分がイラン人である事を誇りに思う。無償の愛に涙がこぼれる。
    ダリウスは父とスタートレックシリーズを1話ずつ毎日観ていた。父を独り占めできる時間。それがヤズドで破られた。ラレーも一緒に観る事になった。その事がダリウスには裏切りに感じられた。

    繊細なダリウスの心模様が丹念に書き込まれ、なんでそうマイナスに考えてしまうのか、と読みながら何度も思ったが、でも、そういう時が自分にもあったし、今だって考えすぎればそうなるかも。ヒガミちゃんと自分を揶揄して、回避する努力はしていたけど、家族はさぞかし迷惑だっただろう。自己肯定感が低い若者が多い、というけれど、大人だって同じだと思う。
    ダリウスの親の気持ちもよくわかる。辛くて泣けた。
    ダリウスは周りをよく観察していて、とても優しい。気配りができる。自分を持っている。だけど、その良さに気づいていない。
    自分を肯定できず落ち込みやすい人には読んでほしい。
    それにしても、ダリウスのためにペルシャ語ではなく英語で話そうぜ、とのソフラーブの提案で、サラッと英語に切り替えられるとは、すごい。

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    投稿日:2023.09.26

  • ばななサンド

    ばななサンド

    イラン人の母と白人の父を持つ16歳の少年ダリウスは、いじめを受けているうえに鬱病も抱え、とにかく生きづらい。
    祖父の病気を見舞うため、数か月イランに行くことになり、そこで親友ができたことをきっかけに人生の感じ方が少しずつ変わっていく。
    ダリウスの心情が丁寧に綴られている。美しいイランに行ってみたくなった。
    ウィリアム・モリス賞等受賞作。
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    投稿日:2023.09.26

  • Kiki

    Kiki

    とても面白かった。間違いなく2022年読んで良かった本の上位!
    登場人物の名前や、行事や料理名が最初は全然頭に入らなかったけれど、もう途中からは色とりどりのイランに行ってみたくてたまらなくなっていた。彼の今後に希望を見出せる終わり方もとても好き。続編も絶対に読みたい。

    ダリウスの抱える閉塞感、祖父の悲しみ、母の後悔、父の恐れ、親友の喪失体験…
    どれも愛だと感じた。

    特に、ダリウスのお母さんの強さに心打たれた。異国の地で、うつを患う夫と息子を支えながら、どれほどの苦労があったのだろう。19年も祖国イランに帰らずに。私は、日本とそれほど離れていないアジア圏で、日本人の夫と子どもたちと暮らし、子どもたちは現地の日本人学校に通っている。見た目もそれほど変わらないから、明らかな差別を受けることもないし、文化的にも親しみやすい環境。それでも、別の国で暮らし、子どもを育てるのは大変だと思った。これからアメリカに移り住む予定だけれど、これから経験するであろう変化に、今から震えている。

    子ども達には、時に祖父母の無条件でありあまるような愛情が必要だとも思った。両親だけだと、息が詰まる。お互いに。

    うつを患う苦しさにも共感できたし、ソフラーブの「ダーリーウーシュには何も悪いことなんて起こってない。なのに文句ばっかり。人生で悲しいことなんて何もないじゃないか」と言う言葉が胸に突き刺さった。だって、自分でもそう思うのに、気分をコントロールできないことにこそ、自罰感情が芽生えるから。恵まれているとわかっている。なのにつらい。もっとつらい人がいるとわかっているのに、このつらさは和らがない。そんな自分がますます嫌になるから。

    ダリウスの淹れるお茶を飲んでみたい。FTGFOP1。
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    投稿日:2022.10.15

  • フォーリー

    フォーリー

    イランが舞台の話だか、出てくるのはゾロアスター教徒とバハーイー教徒。アザーンが響き渡る中で、街を眺める光景が、行ったことないけど目に浮かぶ。世界観に没入できた。

    ダリウスとお父さんとの関係。初めてできた親友ソフラーブとのやり取り。そして脳腫瘍を患い、死期の近い祖父との距離感。それらが全部、印象的だ。ソフラーブがとにかくいい奴なだけに、過酷な経験を強いられて、最後の方はかなり泣いてしまった。後半のお父さんの告白も。

    続編があるようなので、ソフラーブのその後が知りたいところ。
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    投稿日:2022.07.01

  • ありが亭めんべい

    ありが亭めんべい

    イラン人の母とアメリカ人の父を持つ高2のダリウスは顔つきの所為でちょっかいを出されたりするけどイランに行ったこともないしペルシャ語も喋れない。しかも遺伝で酷い鬱を持っている。しかしイランの祖父の体調不良で初めてのイラン旅に家族全員で向かうことになる。この旅が彼のアイデンティティを擽り、また無二の友達ができたり、かと思ったら酷い失意を味わったりとさまざまな体験をするのだが、読者はダリウスに共感したり共に失望したりしながらイラン旅を通して変わる彼に拍手したくなります♪
    たしかに生き辛いし息苦しい道のようですけど初めてのイラン旅が確実に少しだけダリウスを成長させ変えてくれました。
    作者も酷い鬱の体験者だったらしく、ダリウスと父親の鬱がとても上手く描かれていますね。良書です。
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    投稿日:2022.03.01

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