【感想】わたしたちが光の速さで進めないなら

キム・チョヨプ, カン・バンファ, ユン・ジヨン / 早川書房
(67件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
18
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ブクログレビュー

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  • ヒヤマトモヒロ

    ヒヤマトモヒロ

    遠く離れた星に移住した家族を想うコールドスリープの研究者を描いた表題作ほか7編。若手韓国SF作家による短編集。

    韓国SFって若い女性の作家さんが多いのでしょうか。以前読んだ「千個の青」も若い女性だった気がします。「千個の青」のような雰囲気を想像して読み始めたのですが、意外にかっちりした固めのSFでした。内容は遠くの星を舞台に組み込んだものから近未来テクノロジーの話まで。どれもそこはかとない哀しさが漂っていて、中にはマイノリティや社会から居場所を奪われる人たち、つまり現代社会の問題も描き込まれていて、読んでいて胸が痛くなりました。特に、ストレージに人格をコピーする「館内紛失」や共生説と幼児期健忘を絡めた「共生仮説」が好き。「共生仮説」なんかは手塚治虫の短編「ドオベルマン」を思い起こさせたりして、手塚治虫のアイデアの先見性を改めて認識します。続きを読む

    投稿日:2024.03.19

  • shinjif

    shinjif

    韓国の女性作家によるSF短編集。
    設定はSFだが、その設定を借りた、なんだろう、韓国における女性の生きづらさとか、人と人との埋められない距離のようなものを書いている気がする。

    投稿日:2024.03.02

  • kemukemu

    kemukemu

    SFであろうとミステリーであろうと、人の心のありようが、読み手を惹きつける。

    地球外生命体とのコンタクトや宇宙航法技術、人体改造などを取り入れた七つの短編。
    もともと純文学に定評のある韓国だが、SFもまたなかなかの味わいがある。

    「感情の物性」などは道具にSFチックなものを取り入れているが、移ろう心の描写に現代にも通じる問題が現れる。
    「館内紛失」は“親子”という関係性に潜むもどかしさが、主人公の“母を探す旅”を通じて溶けていく。
    「私のスーパーヒーローについて」は、ミステリーを孕んでいく果てに、爽やかさを味わう。

    表題作そのほかの短編のいずれにも、この作者の良さがじわじわと伝わってくるものばかり。

    期待通りでした。
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    投稿日:2024.02.28

  • きりしき

    きりしき

    相互理解の話、と言うよりも少しでもその人の気持ちを理解しようともがいて苦しんでその結果やっぱり無理なんだけど少しだけ分かった気がするといった話が多い。SFでなくてもできるけど、SFでないとできない話だと思う。
    お気に入りは「スペクトラム」と「館内紛失」で、特に「スペクトラム」はすべての収録作が共通して内包しているテーマ性が一番如実に現れていると感じた。
    絵を言語としている異星人の話なんだけど、見える色の波長が人間と異なるため、どんなに頑張っても彼らの言語を読み取ることができない。そんな中で語り手が、赤い夕焼けを彼と一緒に見て「あの風景が語りかけてくるように映るんでしょうね」と話しかける。その言葉が彼に伝わるべくもないんだけど。そこには決して超えることの出来ない種族の壁、器質的な問題による、相互理解の限界が存在しているんだけど、語り手は彼が見ている世界をわずかながら想像することができた、と語る。気がした、ではなく、できた、と言う。そこには、人と「ひと」は分かり合えて欲しい、どんなにラディカルで絶望的な断絶があっても、それさえ超越する普遍性が私とあなたの間にあるはずだ、そうでないとおかしいよ、という祈りが込められていると感じた。私も読みながらそうであって欲しいと思って、少し泣いてしまった。
    ただ、この小説を読んだのが実は3年ぶり2回目で、初読のとき私はこの短編を好きになれなかった記憶がある。その理由も読み返してなんとなく想像がついた。つまりこの小説は、異星人を扱いながら、人間としての普遍性を彼らの中にも見出している。彼らに共感の余地を認めることで、感動が発生している。彼らも人間と同じように考え、感じるんだ、それこそが素晴らしいことなんだ、という物語の裏側に走るメッセージは、科学的な公平性の視点から捉えると、エゴイズムなものにも見えてくる。私は、この小説に、人間性至上主義的なものを見つけて乗れなかったんだと思う。
    しかし、ここでさらにひっくり返してみる。
    この物語を人間中心主義的だと断ずるとき、他者の視点に立ち理解しようとする能力(他者視点取得)は、人間固有のものであり他の惑星で生じることは確率的に不自然だ、という暗黙の前提に立っている。そこにはまた別の人間性至上主義があるのではないか?
    実際に、異星人が、人間と同様な思考や感情の仕方をしていない可能性はある(星新一のおしりと口が逆の宇宙人みたいにね)。しかし、「真に」どのような心理作用があるかを断定できないのは人間間でも同様だろう。異性人にも自分と同じように考えていて欲しい、と想像することに潜むエゴイズムは、人間同士であっても、いかなる他者に対しても生じる。
    「人間」に「心」が発生した瞬間から、必然的にそうなる。相互理解の不可能性の向こう側に可能性を見つけようとすることは、「心」が持ちうる「祈り」という普遍的な作用に他ならない。

    と言った感じで、心で心を追い求めることを追い求めている作家なのではないかと感じた。この作者の今後の作品を読んで、このテーマがどのように変化していくのか見てみたいと感じた。

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    投稿日:2024.01.25

  • サマ

    サマ

    まだ見ぬ科学技術が発達した未来の世界を描くSF短編集。弱者やマイノリティのような要素が盛り込まれているらしいのだけど、SF自体にもそういうテーマにもさほど興味がないせいかあんまり刺さらなかった。どの話も登場人物やその関係よりはとにかく設定が魅力という感じなので、そういうのが好きな人にはいいのかも。感情を物質として所有することができる未来の話「感情の物性」は面白いと思った。続きを読む

    投稿日:2023.12.24

  • 一条浩司(ダギナ)

    一条浩司(ダギナ)

    韓国の若手(93年生まれ)女性作家によるSF短編集。テッド・チャンやケン・リュウに通じる作風。7編を収録。

    「巡礼者たちはなぜ帰らない」「スペクトラム」「共生仮説」「わたしたちが光の速さで進めないなら」「感情の物性」「館内紛失」「わたしのスペースヒーローについて」を収録。

    登録数・レビュー数が多い本作。すでに的確な意見がたくさん書かれてあるので、自分が書くことは何もなさそう。一口にSFといっても多様な内容があるけれど、この一冊で大半がカバーされてしまうほど守備範囲が広い。古典的なSFから現代のリアルな課題になりつつある技術革新を新しい感覚で捉え直し、人肌が恋しくなるような叙情を残して物語に折りたたむ。皆さんがあげているように、「館内紛失」は良かったよね。意識とは何かという難しいテーマを問いつつ、最後は愛と理解という人間的な落とし所で締めくくる。これは人気が出るのも納得、最近新しい本も出たようだし、今後も要注目だろう。
    続きを読む

    投稿日:2023.12.17

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