【感想】アンダーランド 記憶、隠喩、禁忌の地下空間

ロバート マクファーレン, 岩崎 晋也 / 早川書房
(3件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • がと

    がと

    地下に広がるダークマターの研究施設。森を覆う粘菌のネットワーク。奥深い洞窟のなかを流れる川。氷河の裂け目、果ては放射性物質の廃棄処理場にまで赴き、人類が地下世界から何を掘り出し、何を埋め隠してきたのかに思いを巡らせる。ネイチャーライターによる警鐘の書。

    本屋でウィル・ハント『地下世界をめぐる冒険』(4/16読了)と並べられていることが多かった本書。ハントがルポライターらしい文章だとすると、マクファーソンはネイチャーライターだけあって完全に文芸寄り。文学作品や神話などからの引用も豊富で、菌糸類と木々の有機的な関係を語る語り口は魔術的ですらある。
    しかし『地下世界〜』が危険を冒してまで人を惹きつける〈地下のロマン〉にスポットを当てていたのに対し、本書の〈地下〉観はまったく異なる。人類の営みが地質や生態系に直接影響するようになった「人新世」の時代に、人がさまざまな問題を隠してきた場所として地下を見つめなおそうとしているのだ。
    たとえば第一部、第二部では人を惹きつけるものとして描かれる洞窟探検だが、そこで相次ぐ死亡事故についても詳細に語られる。救助隊ですら亡くなることのある場所に足を踏み入れることを、単なる〈ロマン〉で片付けさせない。
    20世紀にパルチザンの抗争に巻き込まれて虐殺され、洞窟のなかに隠され続けていた大勢の人びとの遺体について書かれた第二部「空虚な土地」から第三部のすべての章は、〈人新世〉が地下に与える被害の大きさに警鐘を鳴らす。放射性廃棄物を埋めた土地に未来の人びとが近づかないよう、将来伝わらなくなるかもしれない言語ではなく、建築や彫刻、岩絵や象形文字を使ったメッセージが考えられているというのが面白かった。危険を表すしるしは「そこに宝がある」とも受け止められかねない、という議論もあるという。人は人がつくりだした英雄譚に首を絞められて滅ぶのかもしれない。しかもここで最終的に提案されているのは「原子力教団による神話の伝承」。『エンジン・サマー』の世界である。
    離れた場所から故郷を懐かしむ気持ち=ノスタルジアに対し、故郷にとどまっているにも関わらず、環境が変化していくさまを嘆くことを「ソラノスタルジア」と言うらしい。そのうち地球全体がソラノスタルジアの対象になっていくのかもしれない。
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    投稿日:2021.07.17

  • izusaku

    izusaku

    このレビューはネタバレを含みます

     図書館の新着コーナーでなんとなく手に取った。原著はいくつかの賞を受賞するなど高い評価を受けたようだ。
     科学者のような目で自然を描き、さらにそこにあるまたはそこに遺されている人類の業をえぐり出している。その筆致は決して熱くなく淡々と語る。

     ネット検索しながら筆者の目の前の情景を共有するとよいだろう。

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    投稿日:2020.12.27

  • hokkaido

    hokkaido

    死体が埋められ、秘密が埋められ、隠したい不都合な何かが埋められる地下空間。そんな地図には決して表出しない世界の地下空間を巡るノンフィクション作品が本作である。

    選ばれたのは大自然が産んだ洞窟や鍾乳洞や氷穴、パリの地下墓地(カタコンベ)、ニュートリノの観測装置、そして核廃棄物の貯蔵施設。我々の日常生活では決して出会うことがない地下空間の謎とその豊穣さ。

    もともと山岳ルポを得意とするネイチャーライターらしく、相当な技術が必要とされる大自然の地下空間をここまで詳細に描けるのは著者の特質によるものだろう。我々が見知らぬ世界の豊穣さを教えてくれる稀有な一冊。
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    投稿日:2020.12.13

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