人新世の「資本論」

斎藤幸平 / 集英社新書
(131件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
45
49
15
4
3

ブクログレビュー

"powered by"

  • HiroMat

    HiroMat

    このレビューはネタバレを含みます

    こういう本を待っていた。

    以前、「持続可能な資本主義」(新井和宏)を読んで感銘を受け、「父が娘に語る経済の話」(ヤニス・バルファキス)などにも語られるような「資本主義の限界」に強い興味を持っていた。
    地球環境の限界が資本主義の限界であるという論は、常に系全体のエネルギー保存を考える物理学の研究者(の卵)である自分には強い説得力を持って伝えられた。
    しかし、どうすればこの現状を打開できるのか?この問いに説得力のある解決案を伝えてくれる本は、僕の知る限りこれまでなかった。
    もちろん、「持続可能な資本主義」にあるような、鎌倉投信が投資先とするような「社会へいい影響を与える企業」が増えていくことも一つの答えだと思う。
    けれど、資本主義というシステムそのものが変わらない限り、どうしてもグローバル化、利潤至上主義の波にのまれる企業の方が大多数であり続けるはずだ。

    本書は、昨今ポピュラーになりつつあるSDGsやグリーンニューディールという概念が、実は資本主義の限界を打開するのに役に立たないとバッサリ切り捨てるところから始まる。
    これがいたく痛快だった。
    前々から、SDGsといった概念には違和感しか覚えなかったからだ。
    資本主義の新たな道具として登場した「流行」にすぎず、本当に地球環境のことを考えているようなものには見えなかった。
    (たとえば、本来そこまでエコではない電気自動車を「エコ」を売りにして日本の車を淘汰しようとする欧米の動きに対して、これは資本主義における競争の新たな形態でしかないと思っていた)

    そして、本書で提案される「脱成長コミュニズム」。
    日本人はともかく、欧米の人は「コミュニズム」という言葉に強い拒否反応を覚える人が多そうだ。
    しかし、マルクスを研究する著者に言わせれば、従来のコミュニズムは若かりしマルクスの提唱した不完全な理論を曲解し、権力者が富を独占するために都合よく利用されたに過ぎないのだ。
    いわば、資本主義において資本家がやっていることと大差なく、コミュニズムだから人民の共有財(=コモンズ)が潤沢に保証されるというわけではないということになる。
    晩年のマルクスが提唱した、脱成長コミュニズムによって、エッセンシャルワーカーの労働を重視し、不必要な仕事をなくし、財の共有化を進めて、成長から離脱する。
    欠乏は資本主義がうまく機能していないから生じるのではない。資本主義そのものが、欠乏によって肥大化していくシステムなのだ。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2021.04.25

  • snowdome1126

    snowdome1126

    所属しているオンラインのコミュニティで、ずいぶん話題になっているなあ、と思っていた本書。
    その矢先、母から
    「ねえ〇〇(私の本名)、斎藤幸平さんって人が、『SDGsは「大衆のアヘン」である』って言ってるそうだけど、あなた知ってる?!」
    というメールが唐突に届き(母からのメールはいつも唐突)、いよいよ読まねば!となって手にとりました。
    店頭で中身を見たとき、見出しがちょっと専門用語多め、ハードル高めに感じたので、同じタイミングで店頭にならんでいた『100分de名著 カール・マルクス『資本論』』(斎藤幸平)のテキストもあわせて購入。

    著者の斎藤幸平先生は、1987年生まれの経済思想、社会思想を専門とする研究者。
    耳慣れない「人新世(ひとしんせい)」という言葉は、地質学的な見地から、人類の経済活動の痕が地球を覆いつくした年代、のことを表すらしい。
    本書は、現在すすめられている新しい『マルクス・エンゲルス全集』の刊行プロジェクト(MEGA〔メガ〕)での成果に基づく『資本論』の新解釈の概略を示すとともに、地球規模で環境破壊が進む中での新しい社会システムのあり方を提言しています。

    とにかく、新書というよりは単行本と言ってもいいくらい、ぶ厚い読み応えがありました。
    とくに気候変動と経済をめぐる、学説や議論の変遷を解説している3章(資本主義システムでの脱成長を撃つ)、4章(「人新世」のマルクス)、5章(加速主義という現実逃避)が……ここだけの話……ざざっと流し読みしてしまおうかなという誘惑に途中かられるくらい……むずかしい、うわーん。
    『資本論』の骨子である労働、富、使用価値、価値といった概念については、『100分de名著』でわかりやすく解説されているので、私みたいにこのジャンルを読み慣れていない、という方は、少し遠回りですがそちらを読んでから本書を読むのがおすすめです。

    さて、ながながと泣き言を書きましたがね、私、読みましたよ。
    がっつり向き合いましたとも(謎のドヤ顔)。
    それは、新解釈を理解するためには、過去の議論を踏まえる必要性があるから、ということもありますが、それだけではなく。
    「人権、気候、ジェンダー、資本主義。すべての問題はつながっているのだ。」という本書の主張に、自分の体験として不思議とすんなり納得できたから。
    そして、本書で紹介されている、「コモン」(社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと)を取り戻そうとする、デトロイトでの都市農業のような試みを、自分が今暮らしている地域の中にも見つけることができるから、です。
    廃校を活用したカフェや、地元の生産者とつながって美味しい食材を紹介するパティスリーや、空き家をリノベーションしたゲストハウスなどなど。
    一つひとつの力は小さくても、いいなあと感じていた様々な活動が、地球規模で明日をよくしていくことにつながっているとしたら、すごく希望がもてると思います。

    本書では、最後に、3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるという研究成果が紹介されています。
    自分も、その3.5%に加わりたい、そのために何か具体的に行動してみたいし、自分自身の労働のあり方を変えていくことも諦めたくないなあ、と思わせてくれた1冊でした。
    続きを読む

    投稿日:2021.04.25

  • モイスチャー

    モイスチャー

    環境を制約条件として資本主義の限界が来たという視点はユニークだけど、それが社会を変えるイメージは持てなかった。環境はともかく「脱成長」というキーワードは全面的に支持したい。

    投稿日:2021.04.18

  • tetsuya44

    tetsuya44

    このレビューはネタバレを含みます

    「人新世」(ひとしんせい)とは、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンか名付けた、地質学的な地球の新たな年代のこと。人類の経済活動が地球に与えた影響、痕跡が地球の表面を覆いつくした年代という意味。気候危機の時代に、この危機の原因となった資本主義について著されたマルクスの「資本論」の新しい面を基にした提案を述べている。

    帝国的生活様式、大量生産・大量消費型の社会は、グローバルサウスの地域や者社会集団からの収奪、豊かな生活の代償を転嫁する構造で成立している。技術的に解決する手法も結局は自然に負担を掛け、生態系を撹乱する。そして、空間的、時間的転嫁も。こうして問題解決の先送りを繰り返し、矛盾が深まっていく。

    経済成長を続けながら、二酸化炭素排出量を削減するのは不可能だという主張も多くなっている。例えば電力需要は増大を続けており、先進国で導入される再生可能エネルギー発電は、せいぜい増加量と相殺されるに留まる。導入した国だけを見て、いくら環境に優しいと言っても、地球規模では意味がない。

    マルクスのビジョンは、当初は「生産力至上主義」、「資本論」第一巻の頃は、「エコ社会主義」による持続可能性に関する考察が加わった。そして、晩年は経済成長を求めない「脱成長コミュニズム」へと変貌したことが、近年の研究で判ってきたと著者は言う。

    結局、これだけ巨大化した資本主義経済を転換することは不可能に近く、それぞれが問題を認識して、小さなところから努力するしかない、というのが結論。

    地球規模でみると、再生可能エネルギーによる発電は、膨張する電力需要の増加分を埋めるのが精一杯で、環境問題改善には貢献できていない。

    SDGsはアリバイ作り、資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩を和らげる「大衆のアヘン」だと。

    価値と使用価値の対立、水にもペットボトルに詰められることで値段がついた。価値をつけ、希少価値を生み出すことで、市場を拡大するのが資本主義経済。資本主義は人工的希少性に依拠している、希少性を本質としている。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2021.04.18

  • ゆーたろー

    ゆーたろー

    読み応えしかねぇ!

    通じ時間の読書予定が崩れました。

    資本主義による希少性、またそれによる欠乏

    富と公富の相反

    投稿日:2021.04.12

  • マリノスケ

    マリノスケ

    経済思想の専門家による意欲的な「資本論」。最新のマルクス研究の成果を踏まえて、気候変動と資本主義の関係を分析していく中で、晩年のマルクスの到達点から現在の危機を乗り切るための方策を導き出している。資本主義が引き起こしている気候変動という問題を、資本主義という根本原因を温存したままで解決することなどできず、グリーンニューディール政策なども矛盾であると喝破している。キーワードになっている「脱成長」は、人口減少で成長が難しい日本では取り入れなければならない考えだと感じていたが、やはり一般には受け入れられない考え方だろう。この本にはいろいろなヒントがある。続きを読む

    投稿日:2021.04.12

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

本棚の開き方(スマートフォン表示の場合)

画面左上にある「三」ボタンをクリック

サイドメニューが開いたら「(本棚アイコンの絵)」ボタンをクリック

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。