【感想】医療短編小説集

W.C.ウィリアムズ, F.S.フィッツジェラルド, 石塚久郎 / 平凡社ライブラリー
(1件のレビュー)

総合評価:

平均 3.0
0
0
1
0
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • 深川夏眠

    深川夏眠

    文学及びその他エンターテインメントは、
    どうして《医療》を取り込むことが多いのか、
    それは現代社会の様々な現象が、
    宗教や共同体に代わって医学の知によって
    再定義されたからではないか――
    との前提に立って編纂された
    《医療行為》を巡るアンソロジー、全14編。
    先に出た『病短編小説集』の姉妹編。
    https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582768466

    監訳者の解説によれば、
    英語圏では20世紀後半から文学と医学の関係を分析する
    文学と医学(Literature and Medicine)なる研究分野が
    あるという。
    また、医療従事者への、
    患者への共感などの質を高めるための感情教育に
    文学の精読が有効とされている由。
    何故なら、医療行為は他の客観的な自然科学と異なり、
    人間を相手にした主観的な科学であり、
    問診において患者が語った《自伝》に
    医師が解釈を織り込んだテクストを提示することが
    治療の第一歩となるが故に
    「医療は文学である」と言い得るからだ――とのこと。

    収録作は以下のとおり。

    ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ
     「オールド・ドクター・リヴァーズ」
     ("Old Doc Rivers" 1932)
     「力ずく」("The Use of Force" 1938)

    サミュエル・ベケット
     「千にひとつの症例」("A Case in a Thousand" 1934)

    ジャック・ロンドン
     「センパー・イデム」("Semper Idem" 1900)

    リチャード・セルツァー
     「人でなし」("Brute" 1982)
     「ある寓話」("A Parable" 2004)

    ジョージ・ギッシング
     「貧者の看護婦」("The Beggar's Nurse" 1898)

    F・スコット・フィッツジェラルド
     「アルコール依存症の患者」("An Alcoholic Case" 1937)
     「家族は風のなか」("Family in the Wind" 1932)

    T・K・ブラウン三世
     「一口の水」("A Drink of Water" 1956)

    ナサニエル・ホーソーン
     「利己主義、あるいは胸中の蛇」
     ("Egoism: or the Bosom-Serpent" 1843)

    イーディス・ウォートン
     「診断」("Diagnosis" 1930)

    E・B・ホワイト
     「端から二番目の樹」
     ("The Second Tree from the Corner" 1947)

    アーサー・コナン・ドイル
     「ホイランドの医者たち」
     ("The Doctors of Hoyland" 1894)

    興味深い一冊だが、
    『病短編小説集』に比べて一読しての衝撃は弱く、
    薄味な印象。
    面白かったのはT・K・ブラウン三世「一口の水」と
    ドイル「ホイランドの医者たち」。

    「一口の水」:
     体格も稼ぎもよく、女にモテ、
     性的関係も含めて様々な愉しみを味わっていた
     フレッド・マッキャンは、
     出征中のアクシデントで重傷を負い、病院へ。
     視力を失い身体も不自由になった彼を
     担当看護師のアリスが献身的に世話してくれて、
     いつしか二人の間に特別な感情が芽生えたが……。
     *
     アリスの本心を知ったフレッドが絶望し、
     苦労して病室を出て行く――という、
     江戸川乱歩「芋虫」を想起させるストーリー。
     もっとも、「芋虫」の須永中尉と違って
     フレッドはアリスを許したわけではなかったが。
     作者についてはトマス・K・ブラウンという本名と、
     『プレイボーイ』『エスクァイア』等に
     作品を発表していたことくらいしか
     データが残っていない、とか。
     ジェームズ・バーナード・ハリスによる
     江戸川乱歩英訳作品集
     "Japanese Tales of Mystery and Imagination"に
     「芋虫」="The Caterpillar"が収録されているが、
     刊行は"A Drink of Water"が
     『エスクァイア』に掲載された同年(1956年)
     なので、内容の類似は偶然と思われる。

    「ホイランドの医者たち」:
     田舎町の開業医、
     患者となる住民を独占した気になっていた
     ジェイムズ・リプリーの前にライバルが現れた。
     ヴェリンダー・スミス医師は機智に富み、
     優しくチャーミングで、しかも腕のいい女医だった。
     まだ「女に医者が務まるはずがない」という
     人々の思い込みが強かった時代に颯爽と看板を掲げ、
     あっという間に患者たちの心を掴んだヴェリンダーに
     嫉妬し、自らの《常識》との齟齬に
     煩悶するジェイムズは……。
     *
     コナン・ドイルは優秀な女性医師を魅力的に描き、
     彼女の能力に無根拠な疑義を呈す主人公の愚かさを
     炙り出した。
     オチも痛快!
    続きを読む

    投稿日:2020.09.27

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。