【感想】謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―(新潮文庫)

高野秀行 / 新潮文庫
(28件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
16
8
2
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  • シルクロードならぬ納豆ロードを行く

    日本では米よりも早くから納豆が食べられていたのかもしれない。東アジア原産の大豆を煮るか蒸して柔らかくする。麹菌で発行させれば豆豉や味噌や醤油になり、納豆菌で発行させれば納豆だ。

    味噌が中国からやって来たのはほぼ間違い無いのだが納豆はよくわからない。中国では一般的には食べられていないからだが、日本でも普通は東の食べ物とされている。アジア納豆の分布を調べていくと日本から朝鮮半島一体と貴州、雲南からタイ北部、ミャンマー北部の山岳地帯からブータンやネパールまでの分布が見えてくる。なんというか山の食べ物なのだ。

    普通は納豆は干した藁についた枯草菌の1種である納豆菌による発酵と思うだろう。しかし実は納豆菌自体はそこらにいる。金沢上空3000mので取れた黄砂に付着した納豆菌で作られたそらなっとうもある。茹でた大豆を葉っぱにくるんで保温しておいておけば条件が合えば勝手に納豆ができてしまうというわけだ。アジア納豆ではシダやバナナなど使いやすい葉っぱが使われている。藁包の場合は包む手間は大変だけど通気性がよく保温性に優れできた納豆が傷みにくい。仕込みの時期は元々は冬なので比較的涼しく、使える葉っぱがあると同時に優先されるタンパク源(魚など)があまり取れないところで食べられて来たのだろう。稲作の伝播とはどうも一致しないのだ。

    探偵ナイトスクープ発の日本全国アホバカ考では新しい言葉は京都を中心に同心円状に広がっていく様子が丁寧に調べられている。言葉はだいたいこれに当たるが納豆はどうも当たらない。日本の納豆の発祥の地は秋田ということになっている。

    大豆は優秀なタンパク源としてだけではなく味噌や醤油など調味料として使われて来た。そしてアジア納豆も同じく調味料になっている。乾燥した納豆を焼いた納豆せんべいを割って砕いたり、汁物にペーストを入れたりという使い方だ。日本では味噌が好まれたため調味料としての存在感はない。この本の素晴らしいところはアジア納豆が日本でもできるかを再現したところだろう。さらっと読めるが十分論文が書ける調査だ。続きはアフリカ納豆が待っているらしい。
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    投稿日:2020.12.29

ブクログレビュー

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  • さささ

    さささ

    まさか納豆からここまで驚きと発見に溢れた一冊になるとは。500ページ近い長さでも最後までワクワクしながら読めた。そしてとにかく納豆が食べたくなる。

    納豆文化圏の民族が強く生きてきた歴史を知ることができたとともに、納豆を介して旅先で高野さんが出会った人々の日々の団欒が垣間見えた気がした。私もいつか現地へアジア納豆を食べに行きたい!続きを読む

    投稿日:2024.02.08

  • sk

    sk

    2023年に読んだ本ランキングの暫定1位!
    気になることがあればとにかく現地に向かい、実物を見て食べ、作り方を教わり、自分でも作るという質の高い大人の自由研究本。
    納豆に興味がない私のような人間でも驚きの連続でページを捲る手が止まらない。
    現地の写真も沢山掲載されており、写真を通じて現地の雰囲気がよく分かるのもいい。
    本の内容そのものも勿論素晴らしいが、納豆及び納豆生産者に対する作者のリスペクトに感銘を受けた。
    続きを読む

    投稿日:2023.06.11

  • かおり

    かおり

    高野さんの納豆愛・辺境愛が炸裂した一冊。
    そして、最強の飯テロ本。
    これを読んでいる間、何パックの納豆を食べてしまったことか。
    そして、私の故郷である東北が紛れもなく辺境で、納豆文化の中心地であることを実感した。
    納豆汁で育てられ、夕ご飯に何を食べたいかと聞かれたら常に「納豆!」と答え、盆にも正月にも納豆餅をしこたま食べる。さらに、土曜日には「ひとりあげ」に納豆をぶちこんで食べていたことをありありと思い出しながら読んだ。
    あと、西和賀(夫の実家のすぐ近く)が「何でこんなとこにわざわざ住むのか」って言われたりしてて、ちょっと笑っちゃった。さすが、元無医村。高野さんをもってしてもびっくりの辺境なのね。地吹雪すごいし、道が崩れればすぐ陸の孤島化するしね。でも、それだけに食に関しては個性とエネルギーが凄くて、観光地としては優秀だと思う。まさか、納豆でも有名なところだとは思わなかった。地元民だけど(だから)、蒙を啓かれた思い。

    発酵文化は、本当に面白い。
    人間が生き延びるための知恵と勇気の結晶だと思う。
    それが場所を変え、文化を超えて各地で納豆という最高の食品に結実していることがとても面白いと思わされた。
    さて、この勢いのまま『アフリカ納豆』に突入!
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    投稿日:2022.09.13

  • 1692747番目の読書家

    1692747番目の読書家

    この本は納豆好きじゃなくても楽しめると思う。
    納豆を追い求めてアジア中を巡った作者の文章を読んでいると、自分も一緒に旅をしたような気分になれる。

    投稿日:2022.04.20

  • (元)中3受験生

    (元)中3受験生

    まず、日本以外のアジアに納豆ってあるんだ!と思った。納豆はおかずのようなものとして現在はあるけれど、保存食や調味料として使われていることに驚いた。食べ物のことについて調べていくと、最終的には世界史にたどりつくということも不思議だと感じた。ところどころジョークもかかれており、ユーモアのある著者が好きになった。他の本も読んでみたい。続きを読む

    投稿日:2022.03.27

  • 本ぶら

    本ぶら

    このレビューはネタバレを含みます

    納豆というと、よく、「なんで豆腐が“豆が腐った”で、納豆は“納豆”なんだろう?」と言われるが。
    それは、「納豆は、豆を藁苞に納めるから“納豆”」。
    「豆腐は“腐”が中国で四角く固めるという意味があるから“豆腐”」って聞いて、ずっとそれを信じてたんだけど……、
    そんな話、これっぽっちも出てこない。
    もはや何が何やら…!?(^^;

    東南アジアの山間部で、納豆やコンニャクが食べられていることは知っていた。
    あ―、それって、つまり「照葉樹林文化圏」ってことだよねって、ずっと信じてきたんだけど……、
    この本によれば、それはそれでまた微妙に違うらしい。

    ていうか、現在、日本で食べられている納豆というのは、
    ご飯に絡めて食べるというニ―ズに沿って作られた工業生産品(品質や衛生が管理されたといういい意味で)というのも目からウロコ(^^;
    納豆=糸を引くだけど、本来はあんなに糸を引くものじゃないなんて!w
    (そういえば、「甘納豆」は何で“納豆”っていうの?)

    ていうか、読んでいて出てくる納豆料理が旨そうで旨そうで(^^)/
    おかげで、つい料理に納豆を使っちゃうもんだから、最近はやたら納豆を買う(爆)
    ちなみに、冷蔵庫には今現在、例の3個パックのやつが4つ入ってる。今晩は納豆回鍋肉にするつもりだw
    納豆は大好きだけど、例えば納豆を食べた箸でマヨネ―ズがかかったサラダなんか食べると、マヨネ―ズが糸を引くのがイヤなんだよね。
    だから、納豆を調理に使うと旨いのはわかってたけど(だって納豆スパゲティは絶品!)、イマイチ使いたくなかったのだ。
    この本の終わりの方で納豆協会の人だかが「これからは糸ひきが弱い納豆など、いろんな納豆を作らなければならない」って言っていたけど、それは本当にそう思う。
    著者も、ラタトゥイユに納豆を使ったら旨くなかったけど、糸引きが弱い納豆で作ったらすごく旨かったと書いている。
    もはや、ご飯かけ用納豆、調理用糸引き弱納豆、旨味調味料用納豆等々、あらゆるニーズに応えた商品構成にしない納豆会社の社長は職務怠慢!と言われても仕方ない(爆)
    というか、それは納豆会社よりも流通の仕事かなぁ―。
    自社で工場は持たずに、様々なニ―ズに沿った納豆を他社に製造をお願いする、納豆業界のアップルはどこだ?w
    (そういえば、以前ス―パ―で「テンペ」が売ってたけど、今でも売ってるんだろうか?)


    そんな様々な目からウロコのこの本だけど、「醤」と「納豆」を区別したい著者のこだわりはイマイチわからないw
    自分は、調理や旨味調味料として使ってるというのを読んだ時点で、ああこれはもはや「醤(味噌)」なんだな―と思ったけど。
    個人的には、ご飯にかけて食べるのは、いわゆる「納豆」。調理に使ったら、それはいわゆる「納豆」ではないという風に考えちゃうけどな(^^ゞ

    そういえば、今の中国人はカレ―ル―を調味料として(つまり「醤」として)使うらしいけど、それはどっちも「カレ―ル―」だと思うのだ。
    確かに、カ―ル―でいわゆるカレ―を作ったら「カレ―」という料理だけど、カレ―ル―をチンジャオロ―ス―の味付けに使ったら、それはチンジャオロ―ス―だ。
    でも、味付けに使ったのはどっちも「カレ―ル―」だって思うのだ。
    確かに、著者が言う、漢民族に追われた人たちが住む地域(=漢民族の住む周り)では納豆が食され、漢民族の住むエリアでは醤が食されるという区分けは明確だ。
    でも、一方でタイやミャンマ―の海に近い方で納豆は食されず魚醤が使われるのは、海が近いからその材料が手に入りやすいという単純な理由のわけだ。
    なら、漢民族が醤や豆鼓を使うのも(or周辺部で納豆を使うのも)、海が近いから魚醤を使うみたいに単純な理由なんじゃないのかな―。
    だって、毎日のメシのことでしょ?
    普通に考えれば、旨いからとか手に入りやすいみたいな単純な理由のはずだよね。
    なんらかの単純な理由で、一方では納豆、一方では醤や豆鼓を使うようになった。
    それらをまとめて「納豆文化(or醤文化)」とするでいいような気がするんだけどな―(^^ゞ。
    ただ、ま―、それは、“納豆=ご飯にかけて食べるもの”という意識が強い自分と、“納豆=旨味調味料”の現場を沢山見てしまった著者の納豆に対する認識の差なのかなもしれないw

    ていうか、納豆を料理に使っていて思ったんだけど、納豆って他の食材に隠れちゃうんだよね。
    あんなにクセがあるのに、料理に使うとそのクセが消えちゃって。そのクセが料理の味に生かされない。
    でも、「醤(味噌)」は違う。使えば、料理の味が決まっちゃう。
    つまり、平地や沿岸部は塩が手に入りやすいので、塩を加える「醤」の方が味が決まって便利ということで広まったけど。
    山間部は塩が手に入りにくいので、塩を加えない「納豆」を旨味調味料として使った。
    個人的には、そういうことなんじゃない?なんて思った。


    この本には、アジア納豆のことと日本の納豆のル―ツをさぐる話が書かれている。
    どっちも面白いのだが、日本の納豆について書かれている章の方がちょっとだけ面白い。
    それは、たぶんアジア納豆については見たことを淡々と書いているのに対して、日本の方はそのルーツについて謎っぽく描かれているからだろう。
    本を読む上で、謎で読者の興味を引くは読むエンジンとしてやっぱり大事だと思うのだ。
    最後の章で、照葉樹林文化と東亜半月弧なんて出てくるが、むしろそれは最初に出した方がよかったんじゃないのかなぁーw
    とはいえ、すごく興味深い話で面白かったのは確かだ。
    サピエンス納豆の方もぜひ読んでみたい(ただし文庫になったらw)。
    ていうか―、ぜひレシピ本も出して欲しいぞ(^^)/

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    投稿日:2022.02.23

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