【感想】天命は易ったか 清の太祖アイシンギョロ・ヌルハチ

森田雅幸 / 文芸社
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  • 多爾袞

    多爾袞

    中国最後の専制王朝であり、11世紀の遼に始まる北アジア系民族による最後の王朝でもある清朝。その太祖ヌルハチの若い頃を描いた小説。
    著者は特段、大学や大学院で歴史学を専攻していたわけではない。若い頃から北方民族に関心があり、調べるうちにヌルハチが日本人にあまり知られていないことから小説にしようと考えたそうである。

    確かにヌルハチはあまり日本人に知られていないと思う。康熙帝や乾隆帝、西太后なら知っている、聞いたことがある日本人は多いと思う。映画好きなら『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の冒頭のシーンで「ヌルハチの骨」というものが出てくることを知っているくらいか。
    では、概説書や歴史小説で扱われたことがないか、というとそうでもない。概説書(伝記)としては、1967年に若松寛氏によって、1995年には松浦茂氏によってそれぞれ刊行されている。
    また、ヌルハチの息子ドルゴンについても近年、井上祐美子さんによって小説化されている。
    あまり注目されていないのは、むしろ太宗ホンタイジではないかな、と感じる。

    章立ては以下の通り。
    第一章 最後の戦―寧遠の役
    第二章 賊盗、蜜蜂のように起こる
    第三章 恨みを含んで兵を起こす
    終章  天命は易らず

    物語そのものはありがちだけど面白いと思う。そもそも一頁の文字数が少ないので非常に読みやすい。また歴史小説だから、基本的にフィクションでいいと思う。
    だが、問題がないわけではない。
    著者はヌルハチが日本人にあまり知られていないから小説にしてみたいと考えたという。つまり、もっと世にヌルハチが知られるべきだと考えていたと理解できる。そうであれば、物語としてフィクションであっても、時代背景やそれに伴う制度の説明については事実を基に構成してもらいたいのである。

    そもそも「満州」と表記するのはいただけない。固有名詞(東京駅にある「八重洲」と同じ)であるから、「満洲」とすべきだろう。
    また、細かいことだが6頁にヌルハチは「太祖高皇帝」ともよばれる、とある。しかし、この表記は乾隆年間以降の話で、それ以前は「太祖武皇帝」であった。従って、36頁で挙げられている『清太祖高皇帝実録』も乾隆年間による三修本であり、初纂本と比べると内容に差異があることから、参考にすべきは『清太祖武皇帝実録』でなければならない。
    18頁には清朝特有の「八旗制度」の説明があるが、八旗蒙古と八旗漢軍が整備されたのは太宗ホンタイジの時代であったはず。
    52頁の「弁髪」の説明も、これでは誤解を受ける可能性がある。モンゴル族の頭髪も「弁髪」の一つであり、漢族は「束髪」なのだから、文章に工夫が必要だろう。
    満洲語表記についても、一昔前の表記が目立つ。

    したがって、著者はさまざまな関係資料を集めたと記しているが、一体どこからこのような説明になるのかがわからない。背景や制度の説明がしっかりしていれば、そこから物語に真実味が出てきて、フィクションであっても読者に関心を持たせることがよりできるだろう。このあたりは中国史や清の概説書を読むだけで十分補完できることであるから、非常にもったいないし、残念なことになっている。
    また、タイトルにもある「天命」について、著者は「天命思想」をテーマにしたかった旨を述べている(あとがき)。それ自体は興味深いのだが、物語の中で直接「天命思想」ついて触れられていないように思われたため、これもまた消化不良感が否めない。

    基本的な事項も含め、よく練りこんだ上での続編を望みたい。
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    投稿日:2013.08.15

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