【感想】世界を知るための哲学的思考実験

岡本 裕一朗 / 朝日新聞出版
(11件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • rafmon

    rafmon

    面白いのだが、かなりの部分が著者の別著である『答えのない世界に立ち向かう哲学講座――AI・バイオサイエンス・資本主義の未来』と内容が重なっている。とりわけ、思考実験というキーワードに絞ったのが本著の特色だろうか。

    思考実験と言う言葉を初めて使ったのはオーストリアの物理学者エルンスト・マッハだと言われている。思考実験を行うことにより抽象的な議論をよりリアルに捉えることができる。

    紹介される思考実験は、トロッコ問題や女子学生がチンパンジーの子供を妊娠したいと言ってきた場合の対応とか、これらの例題が前著と同じなのである。ただ、それでも思考は深まるし、改めて考えされるという点で有益。

    しかし、思考実験の究極こそ、小説なのでは無いだろうか。思考実験においては、納得性、合理性、公平性などを前例や価値観、論理性で求めがちだが、実際には判断する当人の利害得失や判断対象との関係性、そしてその関係性には歴史認識が付随するはずだ。だから、本来の思考実験は、全方位的正しさとは別に、私的な事情による意思決定を想定すべきだ。つまり複雑系で考えねば、リアルではない。

    トロッコ問題だって、よく知らない小汚い5人よりも、イケメンや美女といった異性の1人ならば、列車で5人を轢かせるかも知れない。それを瞬時に判断するのは、理性や正しさではなく、直感だからだ。瞬間的な判断における直感は、熟議に勝る。哲学とは私的な熟議。しかし、動物的な直感こそリアルだ。トロッコ問題は、トロッコにどちらを轢かせるか考えている暇は無いという点を見落としていて、いつまでも哲学ができるという勘違いの上にある。
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    投稿日:2023.10.30

  • いちよう

    いちよう

    思考実験がどういったものかを理解するにはかなり良い本だと思った。親しみやすいテーマを集めて、「こんなふうに考える事ができるのか」という純粋な驚きを楽しめた。

    投稿日:2023.05.28

  • kernel

    kernel

    テーマは筆者の他の著作に被る部分が多い。
    トロッコ問題の深部については、外周だけをなんとなく触れるばかりであったため歴史的経緯など得るものも多かったが
    上記の議題が実験の優れた事例として喧伝されるべき科学的探究における秀逸さをもちえている稀有な例と考えるならば
    思考実験という枠組み自体に一端の取り組みやすさがあるのは間違いないにせよ、多様なテーマを語り通すには仰々しいフォーマットになっていないかとも感じた。
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    投稿日:2022.09.26

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    岡本さんは『いま世界の哲学者が考えていること』、『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』、『人工知能に哲学を教えたら』、『フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ』、『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』、『ポスト・ヒューマニズム: テクノロジー時代の哲学入門』と、本格的な哲学の博識と、それを活かす形でAIや遺伝子工学といった現代テクノロジーについて哲学的に考察するという芸風で最近世に出てきている印象が強い。しっかりとしたベースがあるため、こちらも安心して読むことができる。

    本書は、「哲学的思考実験」によって現代の哲学的課題について考えるというものである。最初に置かれたトロッコ問題は、それ自体がそもそも思考実験であるからこのテーマにぴったりとはまる。トロッコ問題自体が最初のに提議されたものとは微妙に違ったものが広まったことから議論が錯綜しているが、そこをまとめ上げる手法はさすがである。人口妊娠中絶の問題の議論のために提案されたというのは意外でもあるが、重要なことだと思う。

    その後は、バイオテクノロジーと遺伝子選択、自由意志と犯罪責任、スーパー管理社会、格差問題、フェイクニュース、民主主義とポピュリズム、人口減少と出産パターナリズムとAI、といったテーマが並ぶ。果たして哲学的思考実験と呼んでよいのか、少なくともトロッコ問題ほどキレがあるものは少なかった。ただ、議論されている内容は現代的かつ近未来的で楽しく読めるものである。
    個人的には、最初に挙げた他の本の方がよかったかなと。

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    『いま世界の哲学者が考えていること』(岡本裕一郎)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4478067023
    『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』(岡本裕一郎)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152098090
    『人工知能に哲学を教えたら』(岡本裕一郎)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4797392614
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    投稿日:2021.11.23

  • furu1972

    furu1972

    とてもいい本。思考実験を通して未来を考える。前半のトロッコ問題では、そもそもトロッコ問題が何を問題にしていたのかを説明していて、そこがまず認識がちかっていて面白い。また、チンパンジーの子供を妊娠することを考えたり、うーん。本当に考えさせられる問題が提示されていてとても興味深い。コアを取り出して思考実験化して提示するのは効果的だと感じた。
    後半はやや政治色が強くなったり、思考実験がシンプルでなくなっているような部分が気にはなったが、それでもいい本だと思う
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    投稿日:2021.11.11

  • Tomota

    Tomota

    自分が直面している状況を理解し、それにどう対処するかを考える。“自分のアタマ”をはたらかせ、複雑な世界の難題に挑む「思考実験」を紹介した書籍。

    哲学の議論で問題となるのは、基本的な概念や考え方。そのため、議論が抽象的になり、問題がリアルに感じられない。議論を具体的な形で捉えるには、頭の中で「もし~なら
    ば、どうだろうか」と考える思考実験が必要。

    私たちが直面する現代世界を理解するための思考実験として、例えば、次のようなものがある。
    ・バイオサイエンスが発展した今日、チンパンジーとの交配種を自分の子として望む女性がいたら、どう対応すべきか。
    ⇒1人1人の個性を尊重することが、民主主義社会の原則。ヒトとチンパンジーとの交配種も1つの個性であり、本人が望むのなら認めるべき、とも言えるだろう。

    ・日本の人口減少に危機感を抱いた政府が、人口増大計画を実行し、労働力人口が増え始めた。だが、AIやロボット技術の進化によって、それほどの労働力が必要ではなくなり、失業者が増え始めた。この状況に、政府はどうすればよいか。
    ⇒今後、人間の仕事を、AIやロボットが肩代わりするのは間違いない。この状況では、人口減少を阻止するのではなく、むしろ積極的に寄り添っていった方がいい。

    ・「人間超越主義(トランスヒューマニズム)」を提唱し、人間のポストヒューマン化を進める動きがある。受精卵にゲノム編集をして、能力の高い子をつくろうとする男女がおり、親はそれに反対している。2人はどうしたらよいか。
    ⇒遺伝子組み換えに対して「倫理に反する」と反対する人が多い。だが、人間の能力を向上させる技術を使うのがなぜ倫理に反するのか。新たな倫理が必要ではないか。
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    投稿日:2021.07.14

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