【感想】幸福な監視国家・中国

梶谷懐, 高口康太 / NHK出版
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
3
15
9
0
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • mmcit

    mmcit

     伊藤計劃『ハーモニー』を読みながら思い出したので、改めて手に取る。中国におけるテクノロジーを用いた「監視社会化」の進展は、『1984』的な権威主義的全体性というよりは、ハックスリーの『すばらしき新世界』のイメージで捉える方が適切であり、主にデータを譲渡することと利便性の向上とのバーターが意識されているという意味で、データ資本主義とAI/ITを用いた統治をめぐる世界史的な同時性の文脈で理解すべき、という議論が展開されている。中国の事例を理解する上では、市民的公共性という問題意識の稀薄さという論点だけでなく、統治者に「徳」を求める儒教的な価値観の回帰という契機が重要だという記述も。続きを読む

    投稿日:2023.09.13

  • mm

    mm

    2019年刊だが、そこからの変化が大きいと思われるのでより新しい本を探したい。何が起こっているのか、はざっと知識を得られるが、その背景や深い考察は十分には書かれていない。読み口の軽さになんだか不安を覚えるので次は研究書を読みたい。続きを読む

    投稿日:2023.06.01

  • gakudaiprof

    gakudaiprof

    中国のインターネットによる監視の状態と生活を描いたものである。最後のウイグルについての記載はインターネットによる監視の説明が弱いような感じを受けた。
     ただ、中国のネット監視の現状を考えるにはいいのかもしれない。続きを読む

    投稿日:2023.01.05

  • kouhei1985

    kouhei1985

    このレビューはネタバレを含みます

    EC、ギグエコノミー、信用スコアといった、中国におけるIT技術の活用方法や検閲・監視体制、さらに西欧とアジアにおける「市民社会」のあり方の違い、そして監視社会化が行き過ぎるとどうなるか、といったことを論じた本。

    中国の監視社会を『一九八四年』的ディストピアと考えるのはミスリーディングである、というスタンスを本書は取っている。自由や個人情報を差し出すことで安全や利便性を得ていて、政府の電子化によって煩雑な手続きも省け、信用スコアを使えば銀行の融資を受けられるようになる人も増える。スコアを落とすと、高速鉄道のチケットが買えない、高級ホテルに泊まれないといった制限をされるが、法を守って普通に生活していればスコアが悪くなることはないとする。しかし、信用スコアを気にするがためにマナーが向上したり、政府による検閲・世論操作が巧妙に不可視化されたりと、やはりディストピア的印象はぬぐいきれない。

    むしろ、こうした監視体制は中国だけのものではないというのがポイント。アマゾンの「おすすめ」なども、大企業や国家によって設計された枠のなかで嗜好や行動パターン誘導されているという意味では、程度の差こそあれ西側諸国および日本も変わりはない。(アルゴリズムによる審査の基準がわからないのも同様。)

    西欧と中国(およびアジア)における監視社会に対するアプローチの違いは、「公」と「私」のあり方の違いがかかわってくる。

    市民社会発祥の西欧では、私的利益を基盤に公共性が成り立っているため(公と民が一体になれる)、テクノロジーによる管理・統治システムに規制をかけることができる。

    それに対して、中国を含むアジア的社会では、国家や政府が用意した公共性のもとで私的利益は外部におかれ否定される。公と民は一体になることはなく、統治システムの制御がはたせない。(国家主導で近代化をはたした日本も無縁ではない。)

    (徳のある人間が統治するという儒教思想も公共性を重視する一因になっている。「天理」を司る共産党の正しさの根拠に使われ、民衆が上部の政府に陳情するという習慣がいまだに続いている。)

    そして、制御のないテクノロジーの道具的合理性の行きついた先がウイグルにおける弾圧だ。監視テクノロジーを駆使した統治の「実験場」としての側面を持つ。

    「テクノロジーの進展による「監視社会」化の進行は止めようのない動きであることを認めた上で、大企業や政府によるビッグデータの管理あるいは「監視」のあり方を市民(社会)がどのようにチェックするのか」(p.111)

    「中国における「監視社会」化の進行を、欧米や日本におけるそれとはまったく異質な、おぞましいディストピアの到来として「他者化」してしまう短絡的な姿勢は厳に慎むべきでしょう。「監視社会」が現代社会において人々に受け入れられてきた背景が利便性・安全性と個人のプライバシーとのトレードオフにおいて、前者をより優先させる、功利主義的な姿勢にあるとしたら、中国におけるその受容と「西側先進諸国」におけるそれとの間に、明確に線を引くことはどう考えても困難だからです。」(p.167-168)

    「中国において進む「監視社会」化を語る際に、中国を自分たちとは完全に異質な他者として扱い、その影響力を切断してしまえば、「われわれ」の社会のおぞましいディストピア化は防ぐことができるという考え方は有効ではなく、むしろ危険だと私が考えるのも、いままで述べてきたような現状認識があるからです。
    それよりもむしろ、かの国で生じていることは、決して他人事ではなく、より大きな「近代的統治の揺らぎ」として、人類に共有されつつある今日的課題として捉えるべきなのではないでしょうか。」(p.207-208)

    レビューの続きを読む

    投稿日:2022.10.02

  • おはよっちゃん

    おはよっちゃん

    信用スコアの話が印象的だった。
    「信用スコアはちゃんとした人間かどうかしめすもの」というくだり、直感的に恐ろしいなと思ってしまったのだが、冷静に考えると自分は信用スコアはそんなにわるくならないだろうし、何が恐ろしいのか、という気もする。そうやって何も考えなくなり、政府の思うままに市民が動くようになる、それが恐ろしいことなのか。

    会社でやっている読書会の課題図書。
    続きを読む

    投稿日:2022.04.19

  • wordandheart

    wordandheart

    このレビューはネタバレを含みます

    今中国では、アリババ、テンセント、ファーウェイといったIT企業が目覚ましい発展を遂げる一方で、中国政府は監視カメラの設置やIT企業に対する統制によって監視国家を形成しているようにみえる。デジタル社会の到来は、非常に大きな利便性をもたらす一方で監視社会を作り出している。そして中国の人々は、それを忌避するのではなく、むしろ歓迎しているのではないか?それは決して民主化が遅れているといった中国固有の問題ではなく、人類共通の課題なのではないか。筆者の問題提起はここにある。
    香港への弾圧や台湾への強行姿勢、ウィグル族の強制収用などから、中国は権威主義的で民主化されていない国、というイメージが強い。そのため中国で行われている監視カメラによる監視やインターネットの統制について聞くと、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』の世界をダブらせてしまうことも多いようだ。しかし、むしろ“オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』が描く世界のほうによっぽど近い”と筆者は指摘する。
    『すばらしい新世界』で描かれた世界では、“人々は煩わしい家族関係や、子育て、介護などから解放され、やりがいのある仕事を持ち、不特定のパートナーとの性的関係を含む享楽的な生活を謳歌して”おり、“人々が己の欲望のままに振る舞ったとしても、決してそのことで社会秩序が崩壊すること”はない。「安全」で「便利」な社会なのだ。
    中国では、モバイル決済を運営するアリババやテンセントが提供する「信用スコア」が普及している。ネットショッピング、モバイル決済、ネットの人間関係、保有資産、学歴などのデータをもとにAIがスコアを算出する。このスコア基に融資の審査からその人の社会的信用までもが評価されている。一見不気味なようにも見えるが、このスコアを上げれば、学歴もなく大きな企業に勤めていない人でもお金を借りることができる。(日本では企業や役所などの組織に勤めていないフリーターはクレジット審査通過が難しくお金を借りることもできない。)行政の電子化も急速に進んでおり、かつては日本以上に数多の申請書が必要であったが、今では顔認証技術に基づいたスマホ・アプリだけで完結するようになり始めている。利便性は格段に向上している。監視カメラ網についても、犯罪の抑止、摘発に効果を示している。「安全」、「便利」さと「プライバシー」を天秤にかけ、「中国の消費者はプライバシーが保護されるという前提において、企業に個人データの利用を許し、それと引き換えに便利なサービスを得ることに積極的だ」と、検索サイト最大手百度の創業者であるロビン・リーは言う。“近年の中国社会、特に大都市は「お行儀がよくて予測可能な社会」になりつつある”。
    新しいデジタル・テクノロジーが発展していくに従って「監視社会化」が進行することは不可避のように思える。それは日本も例外ではない。それではこの監視社会にどう対峙していけばよいのだろうか。 “テクノロジーの導入による社会の変化の方向性が望ましいことなのかどうかを、絶えず問い続ける姿勢をいかに維持するかということに尽きる”。これが筆者の結論である。
    民族や宗教による紛争、気候温暖化などの環境問題、ますます加速するテクノロジーの進歩。多様な価値が鬩ぎ合い、答えが見つからない世の中で、むしろ人は誰かに決めてもらいたいと思っていることが多いのではないだろうか。議論によって正しい答えを導き出すよりも誰かにうまくコントロールしてほしいと願っているのではないだろうか。専門家ではないふつうの人々が、高度化するテクノロジーの中身と効果を確認し、その運用を決定していくには、相応の努力が必要であろう。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2022.03.14

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。