【感想】岩盤規制―誰が成長を阻むのか―(新潮新書)

原英史 / 新潮新書
(5件のレビュー)

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  • riodejaneiro

    riodejaneiro

    このレビューはネタバレを含みます

    岩盤規制について。
    著者は元官僚で様々な規制改革に関わってきた、いわゆる中の人だ。著者の話を総合すると政治家は今まで風穴を開けようとしてはきたが、官僚や規制緩和を快しとしない政治家達に阻まれ、せっかく法案が通ったとしても骨抜きにされ、実質的に機能しなくなったりするというところか。

    規制緩和が遅れ、OECD諸国の中でも色々と出遅れたことを、将来的なリープフロッグの可能性についても言及しているが、残念ながらそれはポジティブすぎる気がする。変化が早く、大きい世の中にとって、とにかく変わりたく無い人が多い人が多いことと、そういった人々を基盤とする政治家が一定数以上いると、変わることができず、結局沈むんじゃ無いか・・・そんな気がしてならない。その辺り、コロナでも随分証明された気がする。

    加計学園問題というのも、確かに騒がれていたような問題があったとはいえ、そもそもは岩盤規制に風穴を開けようとしたものであったことというのも、メディアを巻き込んだ一大騒動に発展したおかげで見えにくくなったというのも興味深い。

    P.9
    医薬品のインターネット販売は長く禁止されてきた。2014年に一部解禁されたが、今も多くの品目や処方薬では禁止されたままだ。(中略)なぜ禁止するのか?規制を所管する厚生労働省に問うと、答えのキーワードは「対面」と「顔色」だ。(中略)顔色を一瞬みただけで副作用の危険性などを即座に察知できるスーパー薬剤師さんがどれだけ存在するのだろうか。(中略)ちょっと考えれば、厚生労働省の説明が屁理屈に過ぎないことは明らかだ。なぜそんな屁理屈をいっているかというと、昔からある薬局にとって、インターネット販売の出現は不都合だからだ。そして、薬局を支持基盤とする政治家はその利益を守る必要がある。厚生労働省は関係業界と関係議員に配慮することで、最大限権力を発揮できる。業界・議員・官僚の結託した利権構造が、こんな屁理屈を産んでいるのだ。

    P.47
    運輸、通信、金融などの分野では、90年代から2000年代はじめにかけて、「事前規制型から事後チェック型へ」の大方針に基づき、大きな改革が進められた。(中略)その一方で、転換から取り残され、昔ながらの行政のままになっている分野も存在する。(中略)「何がどのように供給されるかを、事前にすべて行政が適切に決定する」ことを前提とした規制だ。こうした事例はほかにも大量に存在し、だから、規制改革推進会議の答申では、数え方にもよるが毎年100以上の項目が取り上げられ続けている。(中略)ひとつひとつをみれば、金融や航空の産業規模とは桁がいくつも違うものが大半だ。しかし、こうした小さな積み残しの蓄積が、日本経済の足かせとなってきた。

    P.75
    「日本では、総理大臣より、役所の課長のほうが力があったから」(中略)
    「事前規制型」は、官僚機構にとって好ましいだけでない。業界団体や族議員にとっても都合がよく、「鉄のトライアングル」で協力に支えられている。
    だから総理大臣が「規制改革」(=「事前規制型から事後チェック型へ」)を唱えても、各論になれば、あちこちから異論・反発が噴出する。本来なら反対派を説得・調整するはずの「根回しの主力部隊」が実際には反対陣営にいるのだから、調整がうまくいくわけがない。
    総理大臣が「規制改革」を唱えてもなかなか進まずにきたのは、こういう基本構造ゆえだ。
    もちろん、省庁の幹部たちがみな、改革に反対する抵抗勢力なわけではない。また、総理大臣が大方方針を示している場合、一般には、表立って反対・抵抗することは稀だ。ただ、
    ・根回しがなかなか進まず(つまり「サボタージュ」)、実現に至らない、
    ・いちおう実現したが、政策の細部でいつの間にか「骨抜き」がなされる、
    ・いったんは実現したが、あとから「揺り戻し」が生じる、
    などといったことが起こりがちだ。
    これが官僚機構の「面従腹背」の正体だ。

    P.79「ルールはできる限り不明瞭に」
    「面従腹背」と密接に関連して、官僚機構では伝統的に「ルールはできる限り不明瞭に定める」との不文律がある。「事前規制型」行政では標準的だ。
    なぜそうなるかというと、ルールが不明瞭なことが、「鉄のトライアングル」の三者(官僚機構、業界団体、族議員)それぞれにとって都合がよいからだ。
    官僚機構にとっては、ルールが不明瞭であるほど、個別事案に応じた裁量、つまり匙加減の幅が大きくなり、自らの権力の源泉となる。
    業界団体を構築する有力企業にとっては、その権力の恩恵にあずかり、自らは匙加減で有利に扱ってもらい、アウトサイダーは排除してもらうことができる。
    族議員にとっては、恩恵を受ける業界団体から政治献金や選挙でのサポートを受けられる。さらに、ルール上の裁量の余地が大きいほど、行政に対する口利きの余地も広がるから、業界に貸しを作る機会も増える。(中略)もともとルールが不明瞭に定められているので、規制改革を求められる鏡面でも、細部で「骨抜き」、あとから「揺り戻し」など、「面従腹背」の細工が自在にできるのわけだ。

    P.82(遠隔診療について)
    ・もともと平成9年(1997年)通知で、「たとえば、離島、へき地」など「直接の対面診療を行うことが困難である場合」には、「遠隔診療によっても差し支えない」と書いてあって、
    ・平成27年(2015年)通知で、「離島、へき地」は「例示」に過ぎないと定め、これで「都市部も認める」と示した、という意味なのだ。
    これでは、一般の人はもちろん、規制の運用実務を担う自治体の担当者でさえ、意味合いがさっぱりわからない。現実には、2015年以降も、都市部の自治体で「遠隔診療は不可」との運用が続いた。

    「大事なルールほど通達などの下位規範で定める」との不文律もある。(中略)法令の体系では、最上位の「憲法」のもと、国会で決められる「法律」、その下に閣議決定で定める「政令」、個々の大臣が決定できる「省令」「告示」がある。さらにその下で、各省庁の局長や課長などが示す文書が「通達」だ。遠隔診療に関して引用した通知は、この「通達」にあたる。
    本当に大事なルールは、たいていは、下のほうの「通達」「告示」「省令」あたりで定められている。(中略)さらにおかしいのは、下位規範で上位規範を平気で書き換えてしまうことだ。(中略)こんなことをされたら、法律を制定する立場の国会議員は、与野党にかかわりなく、怒ってもよさそうなものだが、そう考えて、国会の参考人質疑での発言でもこの点を強調したのだが、残念ながら、儀仗であまり反応はなかった。日本の法令体系では、こうしたことが常態化しているからだろう。

    P.102(天下り規制に関して)
    法令に精通しているはずの官僚がなぜ法令違反をするのか、と不思議がられることもある。
    私からみれば、何も不思議ではない。伝統的に、官僚は遵法意識が低い。
    なぜなら、先にお話しした「大事なルールほど通達などの下位規範で」不文律でも明らかなように、官僚にとって、ルールは与えられるものではなく、自分たちが作るものだからだ。「事前規制型」に慣れ親しんだ官僚たちは、法律を通達・告示で書き換えることぐらい平気でやってきた。自分たちが納得のいかない「天下り規制」は、独自の解釈で勝手になかったことにしていたのだろう。

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    投稿日:2023.02.26

  • reso100

    reso100

    新しい動きを認めない我が国の岩盤規制.事前規制型行政と縦割り業法の実態を糾弾する内容だが、著者は行政側の人間だ.従って、新聞論調とはやや異なった行政ベースの意見が多いが、このような考え方も考慮することは必要だと感じた.この状態を何とか改革しようと、第三者機関が作られて活動してきてはいるが、成果が上がっていない.その間に日本以外のOECD諸国などでは、新しいビジネスを立ち上げてきている.勿論、失敗例もあるがとにかく進めてきている.日本ではそれができない.ただ、後追いの利点を活用して、飛躍できることは可能だと筆者は強調している.事前規制型から事後チェック型への転換だ.続きを読む

    投稿日:2019.09.29

  • shimu2

    shimu2

    【日本経済を低迷させてきた最大の要因は、政府がビジネスを妨げてきたことだ】(文中より引用)

    平成期に改革の必要性が唱えられながらも、その多くは今日に至るまで残り続けているとされる岩盤規制。日本経済の成長を阻害するとも指摘されるそのような規制がなぜ残り続けるのかを分析するとともに、真の改革のために必要な次の一手について考察した作品です。著者は、政府の規制改革推進会議の委員などを歴任する原英史。

    電波オークションや獣医学部の新設問題など、昨今のメディアを賑わせた問題の淵源(の一部)が那辺にあるかを考える上で大変参考になる一冊。改革という言葉自体にはずいぶんと垢がついてしまった気もしますが、それでもなお必要とされる改革が数多く残されているのかなと感じました。

    自分自身も公務員ですが☆5つ
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    投稿日:2019.08.12

  • amazonrevier

    amazonrevier

    第二次安倍一強政権によって、官僚の弱体化が進んできているような印象を持っていたが、著者の見解によるとまだまだ進んでいないとのこと。

    投稿日:2019.05.06

  • 木村貴

    木村貴

    獣医学部問題の真相

    2017〜18年にメディアをにぎわせた加計問題。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学園が、52年間どこの大学にも認められていなかった獣医学部を新設する国家戦略特区の事業者に選定され、特別の便宜を疑われた。文部科学次官を退任した前川喜平氏が「行政が歪められた」として会見を開き、一気に批判が高まった。

    だが国家戦略特区ワーキンググループの委員を務め、獣医学部をめぐるここ数年の政策決定プロセスに直接当事者として関わってきた著者によれば、「真相は全く異なる」。

    一般に大学や学部は、文部科学省の認可プロセスを経て、適正な計画ならば認められる。ところが獣医学部の場合、すでに存在する16学部しか認めず、新設は一切門前払いする規制があった。これほど露骨で極端な規制はあまり例がない。しかも国会で議決された法律ではなく、文科省が独自に定めた告示に基づく「異様な規制」である。

    獣医学部新設禁止の理由について、文科省は「獣医師の需給調整が必要なため」と説明する。獣医学部の数がこれ以上増えると、将来獣医師が余ってしまうという。けれども10年後、20年後にペットや家畜の数がどうなるかわかるはずもない。現実には獣医師不足が問題となっている。

    一方、既存の獣医学部の入試倍率はおおむね10倍以上。獣医師になりたい若者たちの職業選択の自由が合理的な理由もなく妨げられ、「憲法違反といってもよい状態」だと著者は指摘する。

    獣医師の需給調整が必要という文科省の説明は、表向きの建前にすぎない。実際には、新規参入を排除したい獣医師会が規制維持を求め、政治力を発揮し、行政もそれに従ってきたというのが真相である。

    加計学園に対する獣医学部の新設認可は行政の歪みではない。著者が述べるとおり、むしろ新設を許さなかった行政こそ、利権構造のために歪められていたのである。加計問題に関する洪水のような報道で、その本質を指摘するものはほとんどなかった。政府による規制を当然と考える、自由な社会にそぐわない固定観念がメディアに蔓延しているためだろう。

    新規参入に対する規制は、大学学部に限らず、運輸、宿泊、エネルギー、通信、放送、農林漁業、医療、介護などさまざまな分野に残る。これら「岩盤規制」を打破しない限り、世界的に低い日本の労働生産性は上がらず、貧しくなり続けるという著者の警告を重く受け止めなければならない。
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    投稿日:2019.04.15

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